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第09章 勇者召喚

05 テレスフィリア公開パレード

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 コルマベイント王国と正式に国交を樹立してから早1週間が経過した。俺はというと変わらず日々議会に出席している。国が興ってからそれなりに時間がたったがいまだに決めなければならないことが山積みだ。おかげで日々疲れてしょうがない。まぁ、そんな疲れもサーナを見ると吹き飛んでしまう気がする。まさか俺が世のお父さんのようなことになるとは思いもしなかった。

「スニルはお疲れみたいね」
「まぁな。座っているだけなんだけど、精神的にな。ああいうのは何というかお互いの思惑が多くてな。1つのとすら進みやしない」
「ははは、お偉いさんってそういうものだからな。俺が騎士だったころに世話になった教育係の爺さんが言ってたぜ」

 ダンクスが騎士をしていたタウシップノリス辺境伯家騎士団は腐敗があり、そのあおりを受けてダンクスははめられたが、何も昔からそうだったわけではなくダンクスが新人のころまではまだまともだった。その時の教育係だった人は特にまっとうな騎士だったという、ひとえにその人がいたからこそ今のダンクスがあるといってもいいらしい。尤もその人やほかのまっとうな人が引退したことで腐敗が進んだらしいけどね。

「前世の世界でもよくある話だからな。政治家がお互いの落しあいが激しくて話が全然進まないとか、よくある話だよな」
「へぇ、そうなんだ。あたしにはよくわからないけど」

 俺やダンクスはともかく冒険者であったシュンナにはそうした上の面倒さは知らないようだ。

「まっ、それよりそっちはどうだ」

 こんなところで議会の愚痴を言っても仕方ないので、2人の現状を聞いてみた。2人は現在この国にいた兵士たちや新たな応募者を募り騎士団と軍の編成と彼らを鍛えるという仕事をしてもらっている。また、そのために2人には軍務をつかさどる役職と俺の身内として第一位公爵という爵位を与えてある。その意味だが、まず公爵は王の身内を意味する爵位で俺に次ぐ権力を有している。そして第一位というのは建国王の身内ということで、世襲制を取り入れてある。その一方で俺の子孫が王位を継いだ時、その兄弟が名乗る爵位は第二位公爵という身分となる。これになると世襲制はなく一代限りとなる。そうしないと王の兄弟の分だけ公爵が増えるというおかしなことになってしまうからだ。

「一応騎士になるやつと兵士になるやつは分けて、それぞれ俺たちで鍛えてっけど」
「ものになるにはしばらくかかりそう。ほらあたしたちは魔法戦はあまり得意じゃないでしょ。一応中には剣の方がうまい子とかもいるけどこれまで持ったことがない子がほとんどだからね」

 魔族とは魔法に長けた種族ということもあり、彼らも例にもれず魔法使い、まさに魔法部隊であるが、当然軍としてはそれだけでは足りない。そこで2人には剣が使える者たちを探して鍛えてもらっているというわけだ。

「なるほどなぁ。でも魔族はともかく獣人とかエルフは問題ないだろ」

 先ほどから魔族の話ばかりしているが我が国の国民は魔族だけではなく獣人族とエルフ、ドワーフがいる彼らの中からも兵士を集めている。

「まぁね。獣人族はやっぱりハンターと戦っていただけあって強いわよ。おかげであたしたちだけでの教育じゃないから助かっているんだけど」
「だな、エルフも精霊魔法と弓でバランスがいいしな」

 2人の評価としては問題なのは魔族ばかりということらしい。ちなみに、この中にドワーフの名が上がらないのは、軍にドワーフが属していないからだ。尤も軍で使用している装備はすべてドワーフ製だけどな。

「みんな大変なんだね。ここでもお仕事の話をしているなんて」

 俺たちの会話を聞いていたポリーがそういった。

「おおう、悪い」

 今は家族団らんの時、そんなところで仕事の話をするのは無粋というものだったな。おかしいな俺は前世でこんなことしなかったはずなんだけどな。仕事は仕事場で終え、家では完全に仕事のことなど考えないって感じでな。

「それより、みんなお風呂入ってきたら、もうすぐご飯だよ」
「ああ、そうだなそうすっか」
「うん、あたしもゆっくりしたい」
「だな」

 この世界には風呂に入るという習慣がないということは以前説明したことがある気がするが、ここアベイルでもそうだった。だからここ魔王城内にもなかったんだが、俺が主になったからには必要ということでドワーフたちに説明して追加で作ってもらった。おかげで男女で分けてあるがかなりでかい風呂ができた。また、その話が広がり今ではテレスフィリア中で風呂に入る習慣が生まれている。


 そんな日常を送った翌日、いつものように議会に出席し議員たちの話し合いを聞いていると不意に声をかけられた。

「失礼いたします。陛下コルマベイントからお手紙が届いております」
「コルマベイントから? なんだろ」

 そう思い手紙を受け取りそれを開けて中を呼んでみた。

「へぇ、思ったより早かったな。さて、ジマリートちょっといいか?」

 手紙の内容を見たところで俺は立ち上がり議会をいったん止めた。

「いかがなさいました陛下」

 ちょっと白熱していた会議であったが俺が止めたことですぐに止まりみんなが俺に注目している。

「今、コルマベイントから準備が整ったとの知らせが入った」
「準備ですか、まさか!」
「ああ、まずは最初の返還だ。といっても今回は獣人族が22名、エルフが3名だけだけどな。アレウ、こちらの準備はどうだ?」

 アレウは以前コルマベイント王から娘のレニアを返してもらったエルフ議員で、最初の返還者家族ということもあり俺が拉致被害大臣に任命している。名前が安直な気がするがこの方が分かりやすくていいから問題ない。ほら下手にかっこつけたような名前にしたところでそれが一体何の部署かわからないからな。

「リストはいまだ作成中ですが、東側であれば問題ありません。また受け入れはすでに準備が整っております」

 アレウの言うリストというのはもちろん拉致被害者たちのリストだ、だれがどこの集落に住んでおり、いついなくなったのか、またその人物の特徴などが記されている。それと受け入れというのは当然被害者たちのケアや健康チェックなどを行う医療班の確保となる。

「よし、それじゃジマリート緊急議題だ」
「かしこまりました。では皆さま、これより緊急の議題としまして……」

 それより議会での話し合いは拉致被害者に関するものと移った。

 そうした話し合いの末、本日中に準備を整えて明日、コルマベイントへ被害者たちを迎えに行こうとなったのであった。もちろんこのことは議会中にコルマベイントへ連絡を入れていたので、日程もすぐに決まったわけだ。


 そうして、さらに翌日、本日ついにコルマベイントへ拉致被害者たちの保護に向かうことになったのだった。

「それじゃ、準備はいいか」
「はっ」
「それではこれより、コルマベイントへ”転移”する」

 そうして”転移”を発動させて、コルマベイント王都近郊へと飛んだわけだが、今回の同行者は、当然拉致被害大臣であるアレウと、その副大臣に任命している獣人族議員のエンリック、それとダンクスとシュンナが鍛え上げている騎士20名と兵士20名である。また、移動のためにととんでもなく豪華な馬車が用意されている。
 どうして今回はこんな派手なことになっているのかというと、これはコルマベイント側からの要請で、今回の訪問によりテレスフィリア魔王国を国民へ周知させるのが目的た。本来なら国境からゆっくりと馬車で進みたい隊ところなんだが、あいにくとテレスフィリアとコルマベイントの間には聖教国とブリザリア王国があり、その2か国とはテレスフィリアを知らないし当然国交も結んでいないために、通り抜けることができない。またカリブリンからのんびり来ても仕方ないということもあり、今回はここまでショートカットしてきたというわけだ。

「それでは陛下お乗りください」
「ああ」

 というわけで俺はその豪華な馬車に乗り込んだ。といっても豪華なのは外部だけで中身は俺の意向で質素なものにしてもらっている。ちなみにこの馬車はもちろんドワーフ製で、実は普通の馬車とは大きく異なる作りとなっている。まず言いたいのは何といっても足回りだろう、というのもこの世界の足回り、つまりタイヤとなるとやはり木製の車輪に金属で補強しているだけのもので、それが直接車軸につながっている。そのため乗っているとめちゃくちゃ揺れるし、道すらちゃんと整備されていないから弾んでしまう。だから俺はこれまで移動はすべて歩きだったわけだが、今回は歩きというわけにはいかない。そこでドワーフに地球式のタイヤとサスペンションを発注した。そのため、この馬車タイヤが金属の車輪に空気を入れたゴムチューブを巻いて、その上から強度を上げたゴムをかぶせた。そう、まさしくタイヤをつけた。ちなみにゴムに関してはテレスフィリアが大陸南部であることからもしかしたらと森の中を探してみたら、アベイルから西にしばらく行ったところにゴムの木が生えていた。その樹液をとり、何となく俺の中にあった知識をもとにゴムの作成をしてみたというわけだ。また、サスペンションに関しては、最初金属製の板ばねを使ったものにしようかと思ったが、思ったよりも衝撃を吸収してくれなかった。そこで、思い切って今現代で使われているサスペンションを使うことにした。しかし、俺はもちろんそんなものの構造なんて知らない。一応見たことがあるから何となくはわかる。確か油圧かなんかのダンパー? だっけそんなものの周りにスプリングが付いているイメージだ。そんなふわっとしたものをドワーフたちに説明したところ、なんと1か月ほどで見事なサスペンションを再現してしまった。もちろんそれが現代地球で使われているものと同じであるという保証はないが、見た目的には全く同じような気がする。いやまあ、それはともかくこれによりどんな悪路でも衝撃がほとんどない現代の自動車のような馬車が出来上がった。いや、下手するとより一層振動がないかもしれない。おかげで今こうして馬車に乗っているわけだが快適だ。


「王都の中に入ったら、これ開くんだよね」

 俺の隣でそういうポリー、今回ポリーも俺の未来の妻という立場で参加している。そうしないと魔族の王という立場を無視すれば俺に嫁をと考える輩が出るかもしれないからその面倒を避ける必要がある。まぁ、俺としてはないとは思うけど、ほかの連中がその可能性があるといってきた。また、ポリーが言う開くというのは、今俺たちが座る馬車の座席の上、つまり天井のことだ。王都に入ったら、衆人観衆の前で俺の存在をアピールする必要があるからと、天井が開く仕様になっている。だったら最初から開けておけばいいのではないかと思うが、その仕組みすらテレスフィリアの技術力アピールに使えるからだそうだ。それに王都に入る前の街道で何が楽しくオープンカーみたいにしなければならないのかということもある。

 そんな風に進んでいると、王都の門にたどり着いてしまった。

「開門!」

 そんな声が聞こえると、門が大きく開いた。本来街への門というのは、開いておらず出入りする者たちはそのわきに開いている扉を使っている。俺も以前王都にやってきたときはここを通ったし、伯母さんとやってきたときもこの扉を通った。この説明でわかる通り、扉もまた結構でかく馬車なら軽く通れる。俺の乗っている馬車も当然通れる大きさなんだが、なんというか馬車の周りには騎士が左右に騎乗して並んでいるために幅が足りなくなってしまっている。
 というか、そももそもこの門というのは他国の王などを迎え入れるためのものだから、一応他国の王である俺を招き入れるためにはこの門を開けてもらい通る必要があるわけだ。

「陛下、そろそろよろしいですか?」
「お、おう、頼む」

 門を抜けたところで御者が天井を開けてもいいかと聞いてきたので、許可を出した。しかし俺としてはできることならこの天井はこのままであってほしいが、姿を見せなければならないので仕方ない。

 ざわざわざわ

「おい、見ろよ。子供じゃねぇか」
「あら、かわいい」
「ほんとにあれが、魔王なのかよ」
「うそでしょ」
「そういえば、魔王ってこの国の出身なんでしょ」
「ああ、言ってた言ってた。でも、ほんとかなぁ」
「さぁ、でも王様がそういったんでしょ」

 俺の姿を見た王都の住人が騒ぎながらこっちを見ている。それに対して俺もポリーも苦笑いしながら手を振るしかない。彼らの言葉を聞いてわかるように住人たちはすでに俺が魔王であることは知っている。数日前にコルマベイント王がテレスフィリア魔王国と国交を結んだことなどを公表したからだ。その際に俺がこの国の出身であることも伝えてあるためのこうした反応だ。

「うわぁぁぁぁ」
「怖いよー。怖いよ」
「くそっ!」

 尤も、俺の周りにいる騎士や兵士の中には魔族がおり、その姿は昔から言われている姿であるために、恐怖している者も多い。中には剣を抜き放っている者もいる。ていうかあいつ今にも切りかかってきそうだな。

 といってもま、実際に切りかかってくることはない。
 それというのも、俺たちが進んでいるのは当然王都大通り、いつもなら多くの人がひしめく場所なんだが、今回はここを規制しその中央を俺たちが通り、王都住人と俺たちの間にはコルマベイント騎士団がずらっと並んでいる。住人はその隙間から除くように俺たちを見ているというわけだ。そうしないと本当に切りかかってくる奴が現れるからだ。まぁ、さっきの奴もかなり不利得ていたから実際に来たところで全く問題ないんだけどね。

「やっぱりみんな魔族って怖いんだね」
「みたいだな。というかポリーだって慣れたの最近だろ」
「うっ、そうだけど」

 俺たちは周囲にに手を振りながらもそうした会話を続けている。

「お、おい、あれ見たか?」
「あ、ああ、見た。あれって、あれだよな」
「間違いないって、あんなでかくて足が6本って……」
「ほんとに居たんだ……」

 進んでいくと今度はそんな会話が聞こえてきた。

「気が付いたみたいだな」
「うん、ぱっと見わかんないもんね」

 さて、今度は何かというと、彼らが見ているのは俺が乗っている馬車をひいている馬だ。この世界の馬というのは地球とさほど変わらない。大きさも騎乗用であれば大体サラブレッドぐらいだし、荷馬車でもあまり変わらない。しかしこの馬はただの馬ではなく、というか馬ではなく馬型の魔物だ。その名はスレイプニルといい、そう、あの足が8本あるという伝説上の馬。といってもこの世界のは飛ばないし足は6本だけど、それでも普通の馬より一回りでかい体躯と強い力、本気で走るとかなり早い。そして何よりこの世界においても伝説上のおとぎ話に出てくる馬でもある。
 なぜ、そんなすごい馬が俺たちの馬車をひいているのかというと、単純にテレスフィリアに存在していたからだ。アベイルから西南西に進んだ海沿いに生息しており、その近くに住む馬人族という獣人族が世話をしていた。この馬人族というのは読んで字のごとく馬の特徴を持つ獣人族で、なんとスレイプニルと意思疎通ができる。まぁ、獣人族自体それぞれ元となった動物と意思疎通ができるんだけど、それでも魔物であるスレイプニルとの意思疎通はすごいことらしい。それで、そんな話を聞いた俺たちはその場へ向かい馬人族と交渉した。その結果俺の馬車をひくスレイプニルを2体貸してくれたわけだ。せっかくのパレードだし目玉は必要だろう。いや、何もスレイプニルを使って俺を目立たなくするためではないぞ。決して……

 とまぁ、それはともかく俺たちは予想通り注目を浴びながら王城へと罷ったのだった。
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