草食系男子が肉食系女子に食べられるまで

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第12章 後編

第12章 後編 草食系とお嬢様1

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 雄介は自分の今の状況が理解出来ないでいた。
 家の前には黒塗りの長い車が止まっている。一般的に言うところのリムジンというやつだ。

「お迎えに上がりました、今村様。どうぞお車へ」

「は、はい……」

 リムジンから降りてきた、白髪の紳士な老人に、雄介は若干驚きながら車に乗り込んだ。
 紗子から話は聞いていたが、リムジンで迎えに来るなんて、雄介は思ってもみなかった。車の中は広々としており、足を延ばして座ってもまだ余裕があった。

「では、出発いたします。少々お時間がかかりますので、そちらのお飲み物をどうぞ」

「あ、ありがとうございます…」

 老人の紳士な対応と、高級車にビビッてしまう雄介。気分を落ち着かせようと、窓の外を見る。車からの振動が無かったので、本当に走っているのか分からなかったが、窓の景色が次々と変わっていくので、ちゃんと出発したことがわかった。

(なんなんだよ…この状況は……)

 ただ、母親の知り合いのお嬢さんに会うだけ、という話だったので、雄介はあまり深くは考えなかったが、相手の名前を知った今なら、あの時とは違う答えを出していたかもしれない、雄介はそう考えながら、全くリラックスできない状態でジッと目的地に着くのを待った。

(だいたい、紗子さんも紗子さんだ! なんであんな大事な事を今日の朝まで黙ってるんだよ!)

 雄介は今朝の事を思い返しながら、紗子に対しての不満を考えていた。
 事の発端は今朝の朝食だった、今日相手の方から迎えが来ると聞いていた雄介だったが、名前を知らない事に気が付き、朝食の時に紗子に尋ねたのだった。

「いま、なんて言いました?」

「だから、星宮さんよ。今日雄介が会うのは、星宮織姫(ホシミヤ オリヒメ)ちゃん」

「あの、まさかと思いますけど、その星宮って……」

 雄介はテレビの画面を指さした。

「そうよ、星宮財閥。今私が取引をしている会社」

 星宮財閥とは、日本で一番と言っても過言ではないほどの大企業であり、世界でも5本の指に入る超巨大企業だ。主に電化製品などが有名な会社なのだが、最近では食品やテーマパークの事業にも進出してきている会社で、中でもゲーム機のハードは世界で最も売れたゲーム機として有名だ。

「あぁ、そうなんですか……じゃなくて! なんで俺がそんな大企業の社長の一人娘に会わなきゃいけないんですか!!」

「雄介、引き受けてくれたじゃない?」

「こんな大企業の娘さんだなんて知りませんでしたよ!」

「いやー、なんかアパレル系方面にも事業を展開するらしくて、私のデザインした服を販売させて欲しいって社長さんから頼まれて、それから話の流れで?」

「肝心な部分が抜けてるんですけど……」

 へらへら笑いながら言う紗子。事の重大さに気づいてしまった雄介は、いったいどんな経緯でこんな事になってしまったのか、深く考えるのをやめにした。

(紗子さんだったら、大企業の社長さんでも容赦なくズバズバ言いそうだしな……)

「兎に角、今日はお願いね。大丈夫よ、あいつは良い奴だったから」

「あいつって、まさか社長の事ですか! 大企業の社長で、しかも取引相手をあいつ呼ばわりですか! あんた凄すぎだよ……」

 からこんな感じで、雄介は疲れてしまった。
 ちなみに里奈は、朝早くから生徒会の仕事で学校に出かけていなかった。最後の最後まで、雄介を行かせまいと、必死に抵抗し、今日は学校を休むとまで言ったのだが__

「里奈、早くいくよ!」

「いや~! ユウ君と一緒に居る~」

「あんた副会長でしょうが! さっさと行くよ!」

「ユ~ウく~ん!!」

 こんな感じで、同じ生徒会の友人に半ば強引に連れていかれてしまった。

 これが今朝の一連の出来事である。ちなみに紗子さんは、迎えが来る前に出掛けてしまった。
 車に乗って、窓の外を眺めてから、もう15分ほどが経った頃、雄介を乗せたリムジンは、大きなお屋敷の前に止まった。

「どうぞ、今村様。足元お気をつけください」

「でかい……」

 車を降りて、真っ先に出た言葉がそれだった。何もかもが大きかった。自宅もその周りを囲う塀も、そして庭も。

「では、こちらへどうぞ」

 家の中からメイド服姿の綺麗な女の人が出てきた。黒い髪をポニーテールにしており、柔らかい笑顔を雄介に向けてくる。

(これが、伝説のメイドというものなんだろうか?)

 そんな事を考えながら、メイドさんを凝視してしまう雄介。

「あの……」

「あ、す…すいません。メイド服って珍しくて……」

「フフ。いえ、構いませんよ。ご案内いたします」

 メイドさんは微笑み、雄介を屋敷の中に誘導する。雄介は相手が女性という事もあり、気持ち距離を空けてついて言った。

「今村様は、女性が苦手なんでしたよね?」

「あ、はい。なので失礼なのですが、あまり近づかれるのはちょっと……」

「存じております。ですが大変申し訳ありません。この屋敷はお嬢様の事と旦那さまの趣味で、メイドが大半を占めているのです。なので、今村様には苦痛かもしれませんが、なにとぞご理解ください」

「は、はぁ…」

 娘の体を気遣って、女性の多い環境にしているのは納得できるが、あとの理由が社長の趣味だと聞いて、雄介はこの会社大丈夫なのかと疑問に思ってしまった。

「こちらです。旦那様、今村様をお連れいたしました」

 雄介はメイドに案内されて、とある部屋の扉の前に連れてこられた。

「大丈夫だ、入ってきなさい」

 中から男性の声が返ってきた。すると、メイドさんは扉を開け、雄介に入るように指示し、雄介を部屋の中に入れ、自分は後から入った。
 部屋の中には背の高い、スーツ姿の男性がいた。歳は見た目だけ見れば、おそらく30代前半と言ったところだろうが、娘さんが居る事も考えると実年齢は40代後半くらいであろう。

「おぉ! 君が紗子君の息子さんか! 中々のイケメンではないか!」

「ど…どうも…」

 社長さんは、高いテンションで雄介の目の前まで駆け寄ると、雄介の手を握って挨拶をしてきた。雄介は大企業の社長という事で緊張していたのと、相手のテンションについていけないでいた。

「まぁ、座りたまえ! 今日はわざわざすまないね! 君、お茶を頼むよ」

「かしこまりました」

 社長さんは、メイドさんにお茶を頼むと、対面式のテーブルに座るように雄介を促し、席につかせた。

「君の話は若干だけ紗子に聞いているよ。色々苦労しているようだね……」

「まぁ、でも今は楽しいですから」

「そうかい! それは良い事だ! あまりこんな話をするのも失礼だね。早速本題に移ろう!」
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