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第3章

なんやかんやあって... 2

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 恐怖感が少し和らぎ、若干呆れてきている加山。

「誰か助けてよ....いろんな意味で....」

*

 加山が呆れ気味で助けを欲している頃、雄介は里奈とともに加山を捜索していたが、いまだに手がかりがつかめずにいた。

「いましたか?」

「いないわ、ユウ君の方は?」

「こっちもダメです....一体どこに....。」

「他を捜しましょう。」

 雄介たちは他のところを探すために、移動しようとしたところ、雄介は何かにぶつかってしまった。

「....いた。」

「あ!すいません!!」

「いえいえ...」

 ぶつかったのは雄介と同じくらいの男性だった。髪は少し長めの黒髪でフレームの無いメガネをかけていた。インテリ系のカッコよさがあった。

「....じゃ、俺はこれで....」

「あ、すいません。ここらへんで、女の子と古いタイプのヤンキーを見ませんでしたか?」

「.....」

 メガネの男は固まってしまった。雄介はそれもそのはずだと気が付いた、いきなりこんな事を聞いてもわかるわけがない。

「あの...すいません。変な事聞いて。」

「知ってますよ....」

「ですよね....知りませんよね....ってえぇ!!」

「どうかしたんですか?....」

「知ってるんですか!?」

「知ってますって....」

 無表情のままでさらりと言うメガネの男。雄介はやっと手がかりがつかめたと、期待でいっぱいだった。

「ど....どこで見かけたんですか?!」

「この先を真っ直ぐ行ったところに、今は使われていない廃工場の倉庫がある....。そこに入っていくのを確認した。」

 メガネの男は自分がやってきた方向を指さし、場所を雄介と里奈に教えた。

「ありがとうございます!」

 お礼を言うと、雄介は言われた方向に走り出した。

「ユウ君待って!」

 あとを追うように里奈も同じ方角へと走っていく。

「....誰にも言わないとは言ったが、警察ではないから良いだろう....。」

メガネの男はポツリとつぶやくと、二人を見送り歩いて行った。
 雄介と里奈は男が言っていた倉庫へと急いだ。

「ここね」

「なんか、随分と雰囲気があるところですね....」

「いきましょうか。」

「そうですね、開けますよ....」

 雄介はスライド式の戸をゆっくりと右にスライドさせていく、ところどころサビていてなかなかスムーズには開かなかった。

「固い...ですね....」

「ユウ君頑張って!!」

「う...くぅ...重い....」

「男の子でしょ!?」

「なんで....疑問形が....入ったんすか....」

 雄介は里奈にツッコミを入れつつドアを開けよと奮闘する。しかし、レールの溝の方もサビているようでなかなか動かない。

「もう、仕方ないな~。」

 見かねた里奈が、雄介をドアの前からどかせて、代わりにドアの前に立った。

「里奈さんでも無理ですよ。」

「いいからちょっと見てて。ハァー」

 深く息を吐く里奈、そのまま目をつむってドアの前で腰を落として構える。

「....セイ!」

 掛け声と共に里奈の蹴りが先ほどまでビクともしなかったドアを吹き飛ばした。

「フーー。案外もろかったわね。」

「マジかよ....」

 雄介は驚き、その場で固まってしまった。それと同時に、絶対に里奈だけは敵にしてはいけないと悟った。

「な....何だ?」

「ドアが....」

 中から声が聞こえる、おそらく加山を捜していた連中だろうと雄介は思い、中に入っていく。
 中には、縛られた加山と商店街で見かけた不良がいた。

「雄介!」

「加山!」

 加山は驚いた、雄介が助けに来るなんてありえないと思っていた。来ても沙月が異変を察知して警察と一緒に来るかと思っていた。前に神山から拉致されそうになった時もそうだったからだ。

「なんなんだお前ら!!」

「ドアを蹴破ったぞ!」

「化け物か!!」

 最後の一人がそう言った瞬間、その男の数センチ側を何かが横ぎった。

「女の子に化け物は酷くない~」

「ひっ!!」

 どうやら里奈が、化け物と言われた瞬間に落ちていた石を男に向かって投げつけた様子だった。

「俺っていらないんじゃ....」

「なに言ってるの、行くって言ったのはユウ君でしょ。」

 腰に手を当て、むすっとした顔で言う里奈。雄介は内心、里奈が一人いればどうにかなったのではないか。そう思い始めてきてしまっていた。

「お前ら!いったい何もんだ!!」

「兄弟よ!!」

「里奈さん、あってるけど違います....」

 ドヤ顔でいう里奈の隣で、雄介は肩を落とす。不良たちはその様子を呆れた顔で見ている。

「だから何なんだお前ら!!」

「今村家の長女と長男よ!」

「だから意味が違いますって!!」

「......」

 呆れていた不良が再度聞き直すが、またしても的外れの答えをだす里奈。そんな里奈と雄介に不良は言葉を失っていた。

「いい加減にしろ!お前ら!!」

「話が進まねぇーだろが!」

「あ、はい。すんません。」

「なんで雄介が謝ってんのよ!」

 思わず謝る雄介に、怒鳴る加山。一向に話は進まないまま、無駄話で十分ほど時間がたってしまった。

「俺たちは加山の知り合いだ。なんで加山は縛られてんだ?」

「お前たちには関係ない。痛い目にあいたくなかったら、さっさと帰れ。」

「知り合いが縛られてんだ、黙って帰れないだろ。」

 雄介の質問にイライラした様子で答える神山。返答に不満を抱き始めた雄介は、苛立ちを覚えながら神山に返答する。

「大体お前は優子とどんな関係なんだ?随分と親しいようだが?」

「....ただの友達だよ。」

 加山を振った事に対して、まだ負い目を感じている雄介は少し間をあけて答える。

「ただの友達がさぁ~、こんなところまで助けに来る?」

「来ないでしょ?恋人かなんかじゃないの?」

 他の不良たちもひそひそと話し始める。

「神山君さぁ~もう諦めようよ~。」

「なに言ってやがる!ここまで来たんだぞ!」

「どこにも行きついてないから....」

 神山と他の不良たちが言い争いを始める。今度は雄介たちが、ほったらかしにされてしまい、雄介たちは黙ってその様子を見ていた。

「大体、俺たちはここに観光気分で来たのに、なんで神山君の手伝いしなきゃいけないわけ?」

「明日には帰んねーとやばいしな。」

「偶然ぶらぶらしてた時に、その子見つけたからノリで捕まえたけど....。神山君の主旨変わってるし....」

 口々に言う不良たち、神山は眉間にしわを寄せながら肩を震わせ、怒りをあらわにしている。

「お前たちの言いたいことはわかった。俺も身勝手だったな....」

[だったらもう帰ろうぜ、飽きちゃったよ。」

「あぁ、そうだな。でもお前らもこのままじゃぁ終われないだろう?」

「まぁね。」

「せっかっくこんな遠くまで来たんだ、女も居る事だし少し楽しんでから帰ろうぜ。」

 目つきが変わる神山と不良たち、嫌な予感がしてしまい、加山はまたしても恐怖感が出てきてしまった。

「お楽しみ?そう言うことは恋人しなさい!」

 神山達を睨みつけながら、里奈は神山達を怒鳴りつける。

「ここには俺を含めて6人いるんだぞ、お前ら2人くらいならどうにでもなる。」

「残念ね、あなたたちみたいな小物程度なら何とかなるわ。」

「言ってくれるじゃん、お姉さん。」

「こっちには男が6人、そっちはもやしみたいな男と女が一人。勝てると思ってんの?」

「もやし....」

 不良の言葉に落ち込む雄介。
 そんな雄介をよそに、里奈はなぜかノリノリで、不良に言い放った。

「言っとくけど、私は何もしないわ!やるのはユウ君よ!」

「えっ!!あんなに張り切ってたのに、俺に丸投げですか!?」

「大丈夫だって、こいつらそこまで強くないし、RPGで言うスライム的な立ち位置だから!」

「何を根拠に?!」

「姉の勘よ!!」

「もうヤダ....この人....」

 笑顔で不良すべての相手を丸投げにしてくる里奈。そんな里奈のむちゃくちゃぶりに肩を落としながらも、雄介は不良の前に立った。

「おいおい、俺たちもなめられたもんだな~」

「こんなもやし一人なんて、一分もかかんねーでぼっこぼこだろ。」

 余裕の笑みを浮かべながら、雄介を茶化し始める不良たち。

「雄介ダメ!こいつら、本当に強いのよ!雄介一人じゃ無理よ!」

 諭介の身を心配して、大声で加山は叫んだ。

「多分大丈夫だ。もう時間も遅いし、さっさと終わらせて帰ろう。明日も早い。」

「おーかっこいいね~、王子様はさ~。」

「なんでもいいけど、もう9時だしさっさと帰りたいんだ。」

「安心しろ、目が覚めたらここで朝を迎えてるよッ!!」

 神山が雄介に向かって拳を振るう。しかしその拳は雄介にあたることはなかった。
 とっさに体制を低くして神山の拳をかわし、そのままの体制で神山の懐に入り、神山の顎に力いっぱい拳をぶつけた。

「グぁッ!!」

「神山君!」

「お前!!」

 神山は雄介の一撃に意識を失い、地面に倒れた。それを見た他の不良たちが、雄介を睨みつける。

「やっちまうぞお前ら!!」

「「おう!!」」

 一人の掛け声と共に一斉に5人の不良たちは、雄介に向かってきた。雄介は落ち着いた様子で、一人、また一人と不良を気絶させていく。

「グェ!」

「おぁ!!」

「ヒデブッ!!」

 男たちは次々と地面に倒れていく。残りはあと一人になった。

「な....なんなんだ!お前は!!」

 雄介は聞かれた質問にゆっくり答えた。

「ただの高校生だ。草食系のな...」

「ユウ君がカッコつけてるぅ~」

「巻き舌風にからかわないでください....」

 一人だけ立っている不良をよそに兄弟で漫才をする里奈と雄介。

「そんな事より、加山さん助けなきゃでしょ?」

「里奈さんが余計な事を言うからですよ....」

 雄介は、一人突っ立ている不良の脇を通って、縛られている加山の元に向かう。

「加山、大丈夫か?」

「え...えぇ....」

 加山は困惑していた。いつも教室で一緒に授業を受けていた、いたって普通の男子生徒だと思っていた思い人が自分を助けにきて、一瞬のうちに不良を倒して、自分の縄を解いてくれている。
 そんな状況に困惑しながらも、加山は嬉しかった。

「どうして....ここがわかったの?」

「あー。ここに来る前に、聞いたんだ。古いタイプのヤンキーと女の子が、倉庫に入っていくのを見たって。」

「そうだったんだ....いたっ!」

「おい、大丈夫か?」

「うん、長い時間座らせられてたから、ちょっと足が....」

「肩につかまってくれ、少しはバランスが取れるだろ?」

「うん....ありが....」

「そうねー、それは私がやるから大丈夫よ。」

 加山が雄介の肩を借りようとした瞬間に、里奈が二人の間に入って、雄介の代わりに、加山に肩を貸した。

「あ!む~!!」

「甘いわね。ユウ君とくっつこうなんて百年早いのよ。」

「助けに来てくれたのには、お礼を言いますけど....。ブラコンも大概にしないと、雄介の方から離れていきますよ?お姉さん。」

 里奈と加山の間で、見えない火花が散る。
 雄介がため息をつきながらその様子を見ていると、残った一人の不良が声をあげてきた。

「お前!!なんなんだお前は!格闘技でもやってたのか!?」

「まぁ...ボチボチと....」

「ふざけるな!こんな...こんな...」

 うつむく不良は、肩を震わせながら怒りをあらわにしている。

「なんだ、まだやるのか?やめようぜ、俺もつかれた。」

「そんな事じゃねぇ!!」

「じゃぁ何なんだよ....」

 雄介はいい加減にして欲しいという感じで、不良に尋ねると、不良は答えた。

「なんで、お前だけそんな良い思いしてんだ!!うらやましいんだよ!!」

「そっちか!!」

 ほどなくして、俺たちは警察を呼び事情を話して神山達を引き渡した。二回目という事もあり、加山はすっかり怖がってしまい一人にするのは危険と言う事で、雄介たちの今村家に泊まることになった。

「加山が一人暮らしなんて聞いてなかったな。」

「うん。あいつらが怖くて、家族に相談したらこっちで一人暮らしって事になったの。」

 家に帰る道すがら、何があったのかを加山から聞いていた。雄介の後ろからはなぜかすごくドス黒いオーラが漂ってきていた。

「....里奈さん。どうしたんですか、さっきから拗ねてますけど....」

「....だって....だって。二人の愛の巣に異物が....」

「異物って....失礼ですね。お・ね・い・さ・ん。」

「異物でしょ?聖なる私たち兄弟の愛の巣に入ってきた泥棒猫。」

「里奈さん、我が家はそんな場所ではありません....」

 加山と里奈がいつもの通り喧嘩を始める。雄介はそれを無視して一人家に向かう。

 自宅に到着し、加山をリビングに通す。

「とりあえず、風呂入って来いよ。汚れてるだろ?」

「うん、じゃあお言葉に甘えて....」

 申し訳ない様子で答える加山。雄介は風呂の場所を教え、案内する。

「タオルはこれで、着替えは....」

「雄介のYシャツでも貸してくれるの?」

「里奈さんのを貸すよ....てか、なんでYシャツ?」

 からかうように言う加山を軽くあしらいながら、脱衣所を後にする雄介。加山の着替えを取りに里奈の部屋に向かった。

「里奈さん、入ってもいいですか?」

「ユウ君?いいわよ。」

 雄介が里奈の部屋をノックして尋ねると、中から里奈の返事が聞こえてきた。中に入ると里奈が、クローゼットを物色していた。

「すいません、加山に着替えを貸してやってほしいんですが。」

「あ、その事だったら私が今持って行こうとしてたから、心配ないわよ。」

「そうだったんですか。でも、その右手に持ったメイド服以外でお願いします....」

 里奈がクローゼットを物色しながら取り出していたのは、フリフリのフリルが付いた白と黒のメイド服だった。

「大丈夫よ、これは私が着るの。」

「やめてください。てか、いつ買ったんですか....」

 自分の体にメイド服を合わせて見せてくる里奈。雄介はため息を吐きながら里奈の部屋のドアを閉めた。

「ちょっと~、ユウ君酷い~。」

 ドアを開けて雄介に泣き目で迫る里奈。

「なにそのがっかり感!似合うとか言ってくれてもいいじゃない~。」

「似合う似合わないじゃなくて、お客さんがいるときにそんな恰好しないでください。」

「着るのは私じゃないよ、あの子だよ。」

「着せるのもやめてください!色々と誤解を受けます!!」

 雄介がそう言うと、里奈は渋々メイド服をしまって、別な服を出し始めた。

「じゃあこれは?」

「チャイナ服もやめてください!」

 里奈が次に出したのは、真っ赤なチャイナ服であり、更にはスカート部分が異様に短かった。

「もー、ユウ君はわがままだな~。」

「俺はただ普通の服を貸してやってほしいだけなんですが....」

「それじゃあ、つまらないでしょ?」

「別に俺は何も求めてはいません。」

 里奈は膨れながら、自分の普段の寝巻を持って脱衣所に向かった。

 しばらくして、加山が風呂からあがってきた。リビングには今現在、雄介と里奈、そして加山が向かい合う形で座っていた。

「....今日はあり がとう。」

「いや、俺たちが勝手にやったことだから。」

「....嬉しかった。雄介が来てくれた時。」

 うつむきながら、加山は暗い声で話し始めた。

「私、あのまま誰も来なかったらって思ったら....不安で....」

 今頃になって怖くなってきたのであろう。加山は泣き始めてしまった。

「大丈夫だ、もうあいつらもいない。ここは安全だ。」

「うん....ありがとう。」

 泣きながら、加山は雄介と里奈にお礼を言う。雄介と里奈は、どんな顔をしていたらいいかわからず、ソワソワしていた。

「まぁ、今日はうちに泊まって気持ちの整理をつければいいさ。部屋も一個余ってるし。」

「うん....ありがt....」

「ちょっと待ってあそこの部屋って、ユウ君の部屋の隣じゃない!」

 今まで黙っていた里奈が、勢いよく立ち上がって話し始める。

「まぁ....そうですけど、それが何か?」

「危ないわよ!ユウ君の貞操が!!」

「....里奈さん、少し黙ってください。」

 
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