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副団長にはどうやら秘密が沢山あるようです
6 吟遊詩人の夜 ※
歓楽街の片隅にある酒場で、吟遊詩人がバンドゥーラをつま弾いて唄っていた。
それは物悲しいメロディーで、ドロステアの公用語であるアッパド語ではなく、東国の言語ツィホニー語だ。
少し掠れた悩ましい声は、決して美声ではないが聴く者の心をグッと掴む。
薄茶色の緩い三つ編みを肩に垂らしぼんやりとオレンジ色の灯りに照らし出されるその姿は、見る者によって違った。
近くでうっとり聴き入る中年の女には、どこか陰のある美青年に見え、カウンターで頬杖を突いて横目で眺める若い男は、実は男装の麗人なんじゃないかと一縷の望みをかけている。
そして……リーパの団員たちが、この妖艶な吟遊詩人を見ても……誰一人として副団長の『ルカーシュ』だとは気付かないだろう。
曲の合間に、斜め後ろのテーブルに置かれた酒を一気に呷ると、茶色い紙煙草に火を点け紫煙を燻らせた。
クローブの甘い香りがするその煙草は、ルカのお気に入りだ。この国に来てから、特に手放せない状態になっている。
二歳の時に自分を置いて出て行った母は、置き土産にこのバンドゥーラを残して行った。
誰に習うでもなく、ルカは母の形見のバンドゥーラを胸に抱き歌を唄い始めた。
歌というものは残酷で、心が深く傷付いた時に唄うほど、聴く人の心を動かす。
今日はまさにそんな時だった。
心を無にして、ルカの中に溜まっていたすべてをさらけ出す。
唄っている間だけなにもかもを忘れられ、解き放たれた。
聴覚に雑音が戻って来ると、いつの間にかルカの周りには多くの人々が集まっていた。
中には目元をハンカチで拭っている人もいる。
バンドゥーラのケースの中に沢山の金が投げ込まれているのをぼんやりと眺めながら残った酒を飲むと、さっさと身支度を整え店を出た。
「あんたたまんねえな」
まだ若い男はそういい、耳の後ろに鼻を寄せ匂いを嗅ぐとベロリとそこを舐めた。
その間にもシャツの胸元から右手を入れて、片方の肩をさらけ出すと今度はそこに歯を立てる。
「……あっ……」
微かにオレンジ色のソバカスが浮く肩に、赤い半円形の歯形が付いた。
「なんだよ、乱暴にされるのが好きなのか。だったら遠慮なくいかせてもらうぜ」
ドロステアはこの数十年、東の大戦に男たちを送り込んできたが、十数年前に戦が終わり、男たちが国へと戻って来た。
そう——ドロステアは今、男余りの状態だ。
元々男色行為が禁忌ではないこともあってか、男同士で身体を慰め合う者たちも出てきた。
とうぜん結婚もできないし、子も成せないので、それは傷を舐めあう行為でしかない。
ルカは女もいけるが、こういう外見のせいか、声をかけてくるのは男が多い。
だから人肌が恋しい時は、適当に酒場で男を捕まえる。
特に今夜は、屈強な男がよかった。
ぐちゃぐちゃになるまで抱かれたかった。
「なんだよこれ……すげぇエロいのはいてんじゃん」
獲物をベッドの上にうつ伏せに身体を倒すと、男はズボンをずり下げ露わになった尻を見て驚嘆し、黒い下着の形状に思わず舌なめずりする。
その下着はウエストの部分が細かなレースでできており、後ろの中央部分は細く尻の割れ目に食い込んでいた。
「それに……細い割にはいい尻してんな」
乗馬と剣で鍛えられたルカの尻は、男にしてはむっちりとしており、細い腰とは対照的に肉感的だ。
男に免疫のない奴は大抵、骨っぽい貧弱な尻か、四角い筋張った男らしい尻を見て萎える。
ルカの尻はそのどちらにも属しない。
男は両手でそれぞれの尻タブを掴むと、弛緩した上質の筋肉の柔らかな感触を楽しむ。
そして肉をかき分けると、細い紐状になった下着が朱鷺色の蕾の上に食い込んでいるのが見えた。
「おいおい、どこまで俺を煽る気だよっ」
邪魔な下着の紐をよけ左右の親指を使い蕾を横に綻ばせると、男は思わず舌なめずりする。
「ここも上の口と同じ色してんだな」
珊瑚色の肉を覗かせたそこは、呼吸と連動するようにヒクヒクと動いている。
「……はっ……」
男が躊躇することもなくそこへむしゃぶりつくと、ルカは思わず息を漏らす。
ルカに高く腰だけを上げさせ足を開かせると、今度は前への刺激を男が加えてきた。
「あっ……ダメっ……」
「もうビンビンじゃねえか、先っぽが出てるぜ?」
面積の小さな下着は勃起すると収まりきれなくなった性器がすぐにはみ出してしまう。
「あっ……やぁっ……」
舌が後ろの蕾を割り開き侵入して来たので思わず前へ腰を逃がすと、今度は前へ回った手に性器を擦りつけてしまう形になり、甘い声を上げる。
いつの間にか舌と一緒に指も侵入し、自然と腰を前後に揺すって、ルカは自ら快感を拾いにいっていた。
もっと腰の括れを露わにしたくてシャツを腰から上に捲り上げていた男の手が止まる。
「はっ……なんだよこれ……!?」
白い背中に走る、醜い鞭打ちの痕を見て、男が驚愕の声を上げる。
しかし、決して興を削がれたわけではないのは、ルカの太ももに当たる雄が一段と大きくなったことで確認できた。
とうの昔に完治しているが、ケロイド状になったその傷跡は今もルカの背中を痛々しく飾っていた。
「——お前やっぱりとんだあばずれだな」
背中の傷を見て被虐趣味があるとでも勘違いしたのか、これ以上慣らす必要もないだろうと、無理矢理ルカの中へと押し入ってきた。
「まだ無理……あっ……うぁぁぁっッ!」
急な男の暴挙に背中にびっしりと冷たい汗が浮き、上手に息を吸うことができずパクパクと口だけが動く。
「ちっ……中を緩めろっ……これじゃあ動けねえじゃねえか」
自分で押し進めておきながら、男はあまりのキツさに顔を顰めた。
男はルカの身体を緩めるために、少し萎えかけていた前を握り込み、敏感な先端を親指で円を描くように擦る。
少しずつ力の抜けてきた身体に、少し男も余裕を取り戻し、気になっていた背中の傷に舌を這わせだす。
「なあ……これは誰が付けたんだ? やっぱり酷くされた方が好きなのか?」
そう言って胸に手を回すと、左側の胸の飾りをギュッと力強く摘まんだ。
「ひっ……——好きに…すれば……」
勝手に勘違いしてくれた方が、都合がいい。
醜い背中の傷は、戦地で捕まり拷問された痕だ。
あの日から、ルカの世界は変わってしまった。
初めて男に犯されたのもその時だ。
ルカの自尊心はズタズタに踏みにじられ——たぶん……未だその傷は癒えていない。
男に犯されてからというもの、ルカは自ら進んで何度も男に抱かれた。
慣れてしまえば忘れられると思った。
気持ちよくなってしまえばあのことは綺麗に忘れてしまえると。
そうすることでルカは、男に抱かれ快感を覚えるようになっていった。
「あっ……ぁっ……っ……」
後ろから激しく男に突かれ、目の前が霞む。
太ももにはどちらともつかない、幾筋もの精液が流れ、終わらないその行為の長さを物語っていた。
「ほら、弛んできたぜ……ねんねするにはまだ早えよ」
「……ぐっ……離せっ……うぁぁっ……」
後ろから左右の胸を乳暈ごと強く引っ張られ、あまりの痛さに悲鳴を上げるが、それさえも身体は快感ととらえていた。
「くっ……女みたいに胸だけでイったな。キュンキュン締め付けやがって。すげえ尻だぜ」
もう朱鷺色の性器は力なく垂れたままで、ルカは射精せずとも中で極めてしまう。
「あっ……」
パシッと尻を強く叩かれて、また中で男を締め付けた。
ほらこんな風に、きっとあの時も気持ちよかったんだ。
それにもう……あいつらは全員死んだ。
ルカは枕の下に手を入れて、中に隠しているナイフに手をやる。
この男だって、殺そうと思えば一刺しだ。
(俺は、弱い男に抱かれてやっただけだ……)
ダカラ……コワクナンカナイ……
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