9 / 30
副団長にはどうやら秘密が沢山あるようです
7 団長さんはご機嫌斜めです
リーパ護衛団の本部二階には会議室が二つある。
その内の一つは二人の事務員が常駐して、会議室とは名ばかりでほぼ事務室として使われていた。
百人規模の護衛集団を維持するには事務員が二人いてもぜんぜん足りない。
忙しい時は顔を出しルカが手伝っている。
「あ~~~副団長。お帰りなさい。お休みどうでした?」
執務室へ行く前に、事務室へ朝一番に顔を出すと、二人の事務員はまるで天の助けのような目でこちらを見つめる。
「お陰様でリフレッシュできました。私がいない間、団長さぼってたでしょ?」
あの脳筋男は書類作成が大の苦手だ。
ルカなど外国語のハンデを乗り越えて頑張っているというのに、目を離すといつも鍛練場で団員たちを鍛えると言いわけをして逃げている。
「いや……そんなことはなく真面目にお仕事されてましたよ……」
「ただ……」
それぞれが言い辛そうに目を見合わせる。
事務員の二人は暴力と無縁の青年たちだ。
屈強な男たちよりも、物腰も柔らかく非戦闘員寄りの外見を持つルカーシュにシンパシーを抱いている。
そんな二人が、あの団長様に口答えなどできるはずがない。
「ただ?」
ルカは答えやすいよう穏やかに訊き返す。
「ご機嫌がよろしくなかったようで、終始無言で……」
「私たち生きた心地がしませんでした」
「え……?」
予想外の答えにルカは驚く。
長年拗れていた養子との関係が修復できて機嫌がいいとばかり思っていた。
それに、口うるさい男がいなくなって清々していたのではないのか?
確かに朝食の時も言葉数が少なかったが、気のせいではなかったようだ。
「副団長がいらっしゃらない時はだいたいそうなのですが……」
「今回はいつにも増して……」
「は……?」
(俺がいない時はだいたいそう?)
意外な言葉に、ルカは思わず目を瞠る。
「団長、先ほど事務室に顔を出してきたのですが、あんまり彼らを怯えさせないで下さい。私がいない間、怖かったって震えてましたよ」
執務室に入るなり、真ん中の席にどんと座るバルナバーシュを睨んだ。
「お前がいない間に、ちゃんと仕事をこなしておいたんだからそんな怒るなよ。それよりもお前も休みの間楽しんできたんだろ? 若くていい男はいた——」
ダンッ——
目の前に飛んできたナイフを、バルナバーシュは机に置いてある厚い辞書を盾にし躱した。
「怒ったからって飛び道具投げるのは俺だけにしとけよ。普通の奴は死ぬからな」
盾に使われる辞書の表紙は、すでに飛び道具の穴でボコボコになっている。
「団長、仕事中に私のプライベートの話は止めて頂けますか」
きっとこの男が持っている穴だらけのあの辞書にはデリカシーという言葉が書かれていない。
割と本気でルカは思っていた。
休みのたびにルカが男漁りをすることを、この男はどこからか情報を得ている。
たぶん、アランが知らせているのだろう。
あの男の仕事は情報屋なのだから、情報を売っていてもおかしくない。
そして、行きずりの男と寝る自分を……バルナバーシュは軽蔑している。
ルカは、今でも忘れない。
『団の中では不純性行為は一切禁止だ。団員たちには絶対手を出すなよ。どうかここでは目立たないでくれ』
予想だにしていなかったその言葉に、ルカは崖から突き落とされたかのような衝撃を受けた。
バルナバーシュから口説かれてこっちへと来てから、男に抱かれるのは一切やめていた。
あんなに熱烈に口説いておきながら、指一本触れて来ないと不思議に思っていたのだが、どうやら全部自分の勘違いだったようだ。
バルナバーシュはルカをそういう目で見ていなかったのだ。
だからそれ以降、言われた通りに団員たちと鉢合わせになるメストではなく、別の場所で、男を漁りを再開した。
(勘違いした俺が馬鹿だったんだよ……)
「団長、話は元に戻りますが、事務員たちは普通の一般市民です。あまり虐めないでやって下さい」
「ふん……そんなつもりは一切なかった」
そう言うとこの中年男は、まるで機嫌を損ねた少女のようにプイっとそっぽを向いた。
「いい年したおっさんが拗ねたってぜんぜん可愛くないですから」
「お前は少し黙ってろっ!」
とうとう団長様は声を荒らげて怒りだず。
どうやら相当虫の居所が悪いようだ。
(——いったいどうしたんだよ……)
レネとの蟠りもなくなり上機嫌なものとばかり思っていたのに。
今晩はバルナバーシュは珍しく、飲み友達でもある親友と一緒に食事へ出かけて行ったので、きっと帰りも遅くなるだろう。
ルカは非番だったレネと珍しく二人きりで夕飯を食べていた。
「おい、俺がいない間になにかあったのか?」
「ん?」
好物を食べることに一生懸命だったレネは、間抜けな顔をしてこっちを見る。
レネは、魚料理に目がない。
それを知っている使用人夫婦は、釣り名人の知人から近くの川で釣った魚を生きたまま買い取って来る。
今夜のメニューは鱒のフライで、川辺の村で育ったルカも馴染みのある味だった。
祖国のようにサワークリームのソースではなく、レモンを添えるのがドロステア風だ。
「お前との関係が戻ってからバルのやつ上機嫌だったろ?」
「まあね」
鍛練と称した奇襲がヒートアップし、遂にはバルナバーシュの部屋へと乱入し飛び道具が飛び交う中でも、『暴れる元気が戻ってきたじゃないか』とレネを見てニコニコ上機嫌で酒を飲んでいたのに。
ルカは首を傾げる。
(なにがあったんだ……?)
「事務員たちが俺がいない間、ずっとバルの機嫌が悪かったって怯えてたみたいだからさ」
「ああ、あれか……」
もごもごと食べながら喋るので次の言葉が続かない。
レネは見かけによらず、一口が大きく豪快に物を食べる。
動物と同じで、腹を空かせているレネの食いっぷりはなかなか見応えがあっていい。
だが先の答えを知りたい今はそれさえももどかしい。
「ルカが団長代行の時に朝の鍛練やってただろ? だから副団長に直接稽古を付けてもらいたいって団員たちが団長へ頼み込みに行ったんだよ」
因みにレネは師匠になった時から本名を教えてあるので『ルカ』と本名で呼ぶ。
「は?」
なんだかよくわからない答えが返ってきたので、ルカもフライを口に入れもごもごと咀嚼しながら考えを整理する。
「団長が戻って来たのに……? あいつらは俺のことが認められないからって挑んできた奴らだぞ?」
「だから、けちょんけちょんにやられて、あんたのことを認めたんだろ。団長から断られたって頼みに行った奴らはがっかりしてたけどな」
「ふ~~~ん」
なんとなく話が見えてきた。
(——たぶん……自分がいない間に俺が団員たちの稽古をつけたのが気に食わなかったのだろう)
一人で考え込んでいたら、好物のメインを食べ終わり、付け合わせのポテトフライをフォークに刺しながらレネがこちらを覗き込んでいた。
「……なんだよ」
「あんたさ、なんでそんな老けた振りしてんの?」
弟子は、今年で三十五になる師匠が二十代にしか見えないことよりも、素顔を隠すことの方が不思議なようだ。
因みになんで年を取らないのかとは、今まで一度も訊かれたことがない。
レネは物事を理屈で考えるタイプではないから、そういう意味では楽だ。
「リーパ護衛団の副団長が若造だったら軽くみられるだろ」
「そんな理由?」
「そんな理由だ」
バルナバーシュは父親の先代からリーパ護衛団の団長の座を受け継いだ。
血は繋がっていないが、次の団長は養子のレネだ。
少し頭のネジが緩くて心配だが、脳筋男でも団長役をこなしているので、補佐役にしっかりした男を付ければなんとかなるはずだ。
レネには少しずつ、もっと色々なことを教え込んでいかないといけない。
ぷんぷんと香水の匂いをさせてバルナバーシュが帰って来たのは、夜も更けた遅い時間だった。
あなたにおすすめの小説
恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。
めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。
その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。
⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる
⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない
※全四話、予約投稿済み。
Rは書こうか悩み中です。本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
素っ気ない態度で擬態した溺愛系アルファが、運命の番を囲い込む方法
きたさわ暁
BL
「素っ気ない態度で擬態した溺愛系アルファが、運命の番を囲い込む方法」
乃花高嶺(17)
ヒートに不具合のあるオメガで、全てを諦めたように国の養護施設で管理されるような生活をしている。クラスメイトの朝日の言った「運命の番を待っている」に辛辣な返しをしてしまったことを後悔している。怜に助けられ、少しずつ不具合も解消している。
西田(西園寺)怜(25)
とある企業の第二総務部に勤務。本来は御曹司。カフェで高嶺と出会い、番だと認識し、本能から手に入れようとしたが、高嶺のことや、自分の生い立ちを考えて必死に素っ気ない態度を取ろうとして、失敗しているアルファ。
高嶺は国の養護施設のオメガだ。ヒートに不具合がある。ある日クラスメイトの朝日にカフェの新作を飲みに行こうと誘われ、訪れたカフェで怜に出会う。その途端ヒートが始まり怜に助けられる。体の不具合を治す為、養護施設を出て怜と暮らすようになった。穏やかで落ち着いた生活は徐々に高嶺を元気に自由にしていく。素っ気ない態度ながらも、優しいアルファの怜に心惹かれていくが、自分がどんな存在だったのか外の世界を知り、自覚していく。
そんな時、怜の婚約者だというオメガが現れ……?
切ない現代オメガバース、連載開始します!
全40話、毎日更新、完結しています。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!