10 / 30
副団長にはどうやら秘密が沢山あるようです
8 昔の仲間たち
十数年ぶりに、オゼロで出逢った仲間に再会した。
あの頃は、よく四人でつるんでいた。ゲルトはドロステアにいるのでちょくちょく顔を合わせる機会があるのだが、もう一人の濃墨は大戦の時以来だ。
私邸の一階で久しぶりに賑やかな夕食を済ませると、バルナバーシュの部屋に移動して、気の置けない仲間たちとの飲み会になった。
副団長の顔のまま飲むのもどうかと思ったので、ルカは一人風呂に入って素顔に戻ってから、バルナバーシュの部屋へと向かう。
久しぶりに会う濃墨は、十数年経ってもあまり年齢を重ねていないルカの姿を目の当たりにして驚きを隠せないでいる。
みな四十半ばのいいオヤジに年を重ねている中、ルカだけが……多く見積もっても二十代後半の青年の姿をしていた。
「みんなおっさんになったな……と執務室では思ってたんだけどな……」
濃墨がルカの方を見ながら含んだ物言いをする。
(面倒臭ぇな……)
「噂は本当だったってことさ」
濃墨が話を続ける前に一言発すると、ルカーシュは視線を合わすことなく髪を三編みに編み込んでいく。
「そんなことより、千歳の情勢はどうなんだよ」
ルカの態度を見て、この話題を続けたくはないと察したバルナバーシュが助け舟を出して話題を逸らした。
脳筋にぶちん男は、稀に抜群の察しの良さを発揮する。
年を追う毎に時の流れがゆっくりになってきているような気がする。
だが、周りに同じ境遇の者がいないので、これからさき自分がどのように変化していくのか全くわからなかった。
もうルカの外見は、年の割には若く見えるだけでは言いわけができなくなってきている。
バルナバーシュが団員たちに素顔を隠させたのは、正解だったかもしれない。
それぞれの近況を伝えあうと、十数年前に戻ったかのように、和やかな空気が包む。
十数年前、帝国軍と戦うオケアの最前線、バルナバーシュと他二人も傭兵としてこの戦いに参加していた。
ルカはそこで三人と最悪とも言っていいとんでもない出逢い方をする。
話すと長くなるので割愛するが、ルカは一緒に戦っていく内にその三人と切っても切れない仲になった。
命を救ってもらったと言っても過言ではない。
この三人、傭兵としての腕も一級品だが、アクの方も強かった。
バルナバーシュは言うまでもないが、他の二人もなかなかのものだ。
「ねえルカちゃん聞いてよ、うちの嫁がその髭の形は気持ち悪いからやめろって言うのよ!」
ゲルトは以前まで口髭と顎髭だけだったが、今はもみあげと顎髭を細いラインで繋げて整えている。
それがどうも嫁に不評のようだ。
「あんたの喋り方とその髭じゃ男色家にしか見えねえし、それが嫌なんじゃないのか?」
ルカは正直に感想を口にする。
「え……そんな……アタシは至ってノーマルよ!」
ゲルトはこの言葉遣いで誤解されがちだが、妻もいるし子供も二人いる。
「いやいや、そうにしか見えねえって。あんな怖いかみさんでも結婚してもらえただけでも幸せと思えよ」
バルナバーシュまでルカの加勢に入る。
「酷いわっ! みんなしてアタシを苛めて……でもこの中では唯一の既婚者なんだから、勝ち組よっ!」
そんな勝利宣言をされたら、他の三人は押し黙るしかない。
「ほら、土産だ」
どこか死神じみた顔の男が、ルカの座るテーブルの上に紐で束ねられた大量の手裏剣を置く。
「あっ……!?」
欲しかったものを目の前に出され、思わずルカは目を輝かせる。
「とりあえず持って来たのはこれだけだ。必要なら後で送ってやる」
千歳人の濃墨は十数年前、自国の密偵が使う武器の使い方を色々と教えてくれた。
両手剣だが、コジャーツ族の剣と形が似ている刀の扱いも教わった。
そんな千歳国の武器の中でも、ルカは使い勝手のよい手裏剣を気に入って、濃墨から譲ってもらっていたのだが、この数年でかなりの数が失われてしまった。
「嬉しいな! 最近数が減って来たからなるべく使わないでナイフで我慢してたんだ」
気の利いた土産に、ルカはすっかり上機嫌になっていた。
「おいおい、そんな物騒なものそいつに渡すなよ。見てみろ……そこの柱、穴ぼこだらけになってるだろ」
「そうよ、照れただけでナイフ投げて来るんだから」
よくルカの被害にあっているバルナバーシュとゲルトは、凶器の提供をする濃墨に苦言を呈する。
「毒でも塗ってない限り手裏剣じゃ人は殺せんだろ? それともお前たちは眉間を狙われるくらい身体が鈍ってるのか?」
至極まじめな顔をして濃墨はそんな二人の顔を見る。
「話が通じないのがここにも一人いたわ……」
ゲルトが呆れて濃墨を見返す。
「お前は昔からそういう奴だったよな……」
バルナバーシュが昔を思い出したかのように苦笑いした。
「そうだ、ルカちゃんアタシもお土産渡さなきゃ」
(——もしかして)
ルカがそう思った時はすでに遅く、ゲルトによって色とりどりのレースのショーツが机の上に並べられた。
「…………」
「…………」
バルナバーシュと濃墨は言葉を失いそれを凝視する。
「今回も力作ぞろいよ。中でもイチオシはこれ」
ゲルトは満面の笑顔で、その中の一つをぴらんと摘まみ上げる。
前方は心許ない逆三角形で、後ろは一輪のバラのモチーフが繊細なレースで編まれており、茎の部分が尻の谷間に消えていくデザインになっている。
布があるのは股間の部分だけで、尻とウエストの部分はほぼ紐と言っていい。
バルナバーシュは顎に手をあて「収まらんだろ」と、対面に座る濃墨にぼそぼそ話かけている。
ゲルトは趣味で、ルカの下着を作っている。
ルカが男漁りする悪い癖も知っているので、男を挑発するようなデザインの下着ばかりを作る。
「——これは……まさか……ルカ用なのか?」
今やっと気付いたかのように濃墨がルカの顔とショーツを交互に見比べている。
「なに寝ぼけたこと言ってんのよ。他に誰が穿くのよ? バルやあんたが穿いてるとこなんて見たら、アタシまた勃起不全になる自信があるわ」
誰も「またとは?」と聞き返す勇気のある猛者はいなかった。
おっさんになってくると、それはとてもとてもデリケートな問題だからだ。
「実際に穿いてるとこ見せてやろうか?」
ここまであけっぴろげに土産を渡されたら、ルカも開き直るしかない。
シャツの裾を捲り上げ、腰骨のすぐ下に顔を出している蝶結びに指を掛けくるりと捻る。
いま穿いているのは臙脂色の紐パンで、紐の先には孔雀石でできたビーズが付いている。
「おい、堅物を揶揄うんじゃねえっ!」
バルナバーシュからペシッと頭を叩かれ、ルカは頭を押さえて隣を睨む。さっきもよけいなことを言って頭を叩かれたばかりだ。
「いってぇな……このオヤジは冗談も通じねえのかよ……」
団員たちが聞いたら卒倒しそうな言葉を、ルカはバルナバーシュに平気で吐く。
だが確かに濃墨には少し刺激が強すぎたようだ。先ほどから顔を真っ赤にして固まっていた。
こんな所は昔から変わらない。
「おい! いつまで、こんなもんをテーブルに広げとくつもりだ、さっさと自分の部屋に持ってけっ! この物騒な土産もなっ! てめえら、土産を選ぶセンスの欠片もねえな……ったく!」
下着もそうだが、手裏剣もいつ飛んで来るかわからないので、バルナバーシュにとっては目障りだったのだろう。
「これだってルカちゃんの狩りの道具なのよ……乱暴者はこれだから……」
呆れた顔をしてゲルトがバルナバーシュを睨む。
「心の狭い所は昔から変わらんな……」
濃墨も眉を顰めている。
「ほら、さっさと仕舞って来い」
ルカはバルナバーシュから追いやられ、土産を抱えて一度部屋へと戻った。
三人になった部屋で濃墨が酒を一口飲むと、真剣な面持ちでバルナバーシュの方を見た。
「なんでルカはまだあんなことをやってるんだ?」
あんなこととは男漁りのことだろう。
「息抜きだろ。普段はお堅い副団長で通ってるからな」
バルナバーシュの言葉に濃墨は絶句する。
「……お堅い……副団長……?」
本来の姿を知っている濃墨は、現在のルカの様子が想像できないようだ。
「偉いのよあの子。仕事中はバル相手に敬語使って態度崩さないし、文句言いながらもちゃんとレネを弟子として育てて、バルなんかより何倍も忙しそうだわ」
「お前最後の一言がよけいなんだよ。でも俺はあいつがいないと団長なんて務まらないのは確かだな」
ガチャリと扉が開く音がすると、三人はもうそれ以上その話題を続けることはなかった。
あなたにおすすめの小説
恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。
めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。
その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。
⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる
⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない
※全四話、予約投稿済み。
Rは書こうか悩み中です。本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
素っ気ない態度で擬態した溺愛系アルファが、運命の番を囲い込む方法
きたさわ暁
BL
「素っ気ない態度で擬態した溺愛系アルファが、運命の番を囲い込む方法」
乃花高嶺(17)
ヒートに不具合のあるオメガで、全てを諦めたように国の養護施設で管理されるような生活をしている。クラスメイトの朝日の言った「運命の番を待っている」に辛辣な返しをしてしまったことを後悔している。怜に助けられ、少しずつ不具合も解消している。
西田(西園寺)怜(25)
とある企業の第二総務部に勤務。本来は御曹司。カフェで高嶺と出会い、番だと認識し、本能から手に入れようとしたが、高嶺のことや、自分の生い立ちを考えて必死に素っ気ない態度を取ろうとして、失敗しているアルファ。
高嶺は国の養護施設のオメガだ。ヒートに不具合がある。ある日クラスメイトの朝日にカフェの新作を飲みに行こうと誘われ、訪れたカフェで怜に出会う。その途端ヒートが始まり怜に助けられる。体の不具合を治す為、養護施設を出て怜と暮らすようになった。穏やかで落ち着いた生活は徐々に高嶺を元気に自由にしていく。素っ気ない態度ながらも、優しいアルファの怜に心惹かれていくが、自分がどんな存在だったのか外の世界を知り、自覚していく。
そんな時、怜の婚約者だというオメガが現れ……?
切ない現代オメガバース、連載開始します!
全40話、毎日更新、完結しています。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!