副団長にはどうやら秘密が沢山あるようです

無一物

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副団長にはどうやら秘密が沢山あるようです

10 傷


『——後を追わなくていいのか? 今ならまだ間にあうぞ?』

 執務室に帰ってからも、ルカは先ほどのバルナバーシュの言葉が頭をグルグルと回って、仕事が手につかなかった。

『どうか一緒に来てくれ。俺はお前じゃないと駄目なんだ』

(……そう言って俺をこの国に連れて来た男の言うセリフか?)


 帰って来てからも、バルナバーシュとルカは喋ることなく、執務室の中は静かだ。
 そんな中、開いた窓から騒々しい音が聞こえてくる。

「早く開けてっ!」
 
 よく知った声が聞こえてきたので、執務室の二人は咄嗟に窓から外を見た。

 レネが馬に乗って、門を早く開けるように門番へ催促している。
 門が開くのも待ちきれないくらい急いでいるようだ。

「レネのやつ、なにしてるんだっ!」
 
 バルナバーシュが窓から身を乗り出してその様子を見ている。
 
「見送りにも来てなかったから、あいつが濃墨に弟子入りしたことも知らなかったんでしょう」
 
 あの様子を見る限り、自分の予測した通りで間違いないだろう。
 
「追うつもりかっ!? まずいなっ……ルカ、後は頼んだっ!!」 

「えっ……」
 
 ルカが返事をする前に、バルナバーシュは執務室を飛び出して行っていた。

 濃墨に弟子入りした団員は、レネに惚れていた。
 心を決めて想い人から離れることを決心したのに、本人が追いかけていったら、きっと心が揺らいでしまう。
 昨日の濃墨と同じだ。
 バルナバーシュはそれをさせないために、レネを止めに行った。

 理屈はわかる。
 だが、ルカは納得できなかった。

 自分の時には止めるどころか、一緒に行かなくていいのかと促したのに、どうしてレネの時は自ら動いて止めようとする?


 今まで我慢していた糸がプツンと音を立てて切れた瞬間だ。
 


 ルカは、どうやって仕事を終わらせて、どうやって自分がここまで来たのか覚えていない。
 気が付けば……メストの歓楽街の中でも男娼街と呼ばれる通りにある店で酒を飲んでいた。
 ここはルカが、足を踏み入れてはいけない場所だった。

『団の中では不純性行為は一切禁止だ。団員たちには絶対手を出すなよ。どうかここでは目立たないでくれ』

 そう言われて以来、男を漁る時は団員と遭遇するかもしれないメストを避けていた。

(——でも、もうそんなことどうでもいい……)

 名前を変え
 顔を変え
 言語を変え
 この異国の地で暮らす自分に、これ以上なにを我慢しろというのか?

 ルカには地味な男を演じさせておきながら、美しい養子にはありのままでいさせている。
 そしてレネの綺麗な身体には、傷一つ残すこともよしとしない。
 消えない醜い傷を抱えているルカにとっては「お前は駄目だ」と言われているようなものだった。

 ルカという人間そのものが全否定されている。

 バルナバーシュは地獄からルカを引き上げてくれたが、また違う地獄に堕としていく。
 遠の昔に治っているはずの背中の傷が、ぐずぐずと熱を持って疼きだした。


「ねえ、お兄さん、隣いい?」
 
「!?」
 
 どこかで聞き覚えのある声が頭上からかかる。
 顔を上げると、予想通りリーパの団員だった。
 まさかこんな店で顔を合わせるとは思っていなかったので、ルカは内心驚いていた。

「どうぞ」
 
 そんなことをおくびにも出さず、花のような笑みを浮かべ、思わせぶりな視線を送る。

(もう……どうにでもなれ)

「うわ……期待以上に美人で吃驚!?」
 
 まったくルカが自分の所属先の副団長であるということに気付いていない。
 何度も話したことがあるというのに。
 
 ルカはこの偶然に、漏れてくる笑いを止められなくなってきた。
 
「ふっ……」
 
「なに笑ってんだよ」
 
 そう言いながら男は腰に手を回して来る。

「ん……秘密」
 
 答えながらもまだ、クスクス笑うのを止められない。

(こいつは手慣れてやがる……)
 
 間違いなく男を抱くのも初めてではない。
 なにもかもが都合がよかった。
 
「俺はバル。名前は?」
 
「ルカ」
 
 そう……この男の愛称も『バル』なのだ。
 だからよけいにルカは愉快でたまらない。

「ルカか……いい名前だね。ところでルカ、なんで君みたいな美人が一人で飲んでるの?」
 
「——男に捨てられた……俺より若くて綺麗な男を選びやがって……」
 
 半分嘘で半分本当だ。

「奇遇だ。俺も今日、好きだった子が違う男の後を追って行きやがった。まあ怖い親父から連れ戻されてたけどね」
 
(レネだ……やっぱりこいつもレネをそういう目で見てたのか……)

 手慣れているのはいつも代用品の男を引っかけに来ているからだろう。
 だが、レネの代用品になる美青年なんてこんな所にはいない。
 それだったら、女を抱いた方がまだマシだろうに……とお節介にも思ってしまう。

「へえ偶然だな……」
 
「ねえ、俺たち捨てられた者同士で慰め合わない?」
 
 腰に回っていた手が尻に移動していく。

「でも俺……今夜は酷く抱かれたいんだ……バルはそんな趣味ある?」
 
 たまたまこの団員が声をかけて来たけど、本当は一人ではなく複数相手に滅茶苦茶に抱かれたかった。

「——こんな美人を虐げていいなんて……ご褒美でしかないよ。本当にいいの?」


「駄目に決まってんだろ——人のもんに手ぇ出すんじゃねえよ」


 『バル』は団員たちの中でも五本の指に入るほどの強さだ。
 それだけならまだしも、ルカまでもが不覚にも後ろの気配に全く気付かなかった。

 それは、後ろに立っている男が相当の手練れであることを意味する。
 


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