アリスと魔王の心臓

金城sora

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穢れた者

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「どういう事なの?」

私はノウマに聞いた。

「魔族に取り憑かれた者は心現術を使えなくなる!
心現術は神が人間に与えた力だ!
ソイツはっ」

「私はノウマに聴いてンのよ!
次に勝手に喋ったら叩っ斬るわよ!!」

一喝して黙らせる。

「グド、少し黙っておれ。
話がややこしくなるわ。
アリスさんは王都の出身ではないから詳しく知らんのだ」

グドと呼ばれた男はグレンさんに言われて私を睨みながらも口を閉じた。

今度ナニか言ったらマジで叩っ斬ってやろうか?

私もグドを睨み付ける。

「今、彼方の方も仰ったように一度魔族に取り憑かれた者は心現術が使えなくなります。
なので人間か魔族かを判断するのが非常に困難になり、王都で一緒に住むものも元魔族が一緒にいるのは嫌なのです。
それに私に襲われて死んだ者も、その家族もいるでしょう。
ですから元魔族は処刑されるのです。
王都は狭い世界です、その世界を護るためには仕方ありません。
私も覚悟して王都へ戻りました」

「なによそれ?  殺さなくても王都から出て行けば良いんじゃないの?
出る分には魔物に襲われないんだから」

納得出来ない。

「魔族がそれを許さんのだ。
魔族はしたたかだ。
それこそ、我々人間よりも遥かにな。
こういうケースは今までにもあった。
中位魔族を滅ぼし、配下の下位魔族が正気に戻り皆喜んだ。
そして解放された者を王都に招き入れた。
それが魔族の罠だったのだ。
討ったと思っていた中位魔族は死んでいなかった。
王都の中に入りこんだ魔族は住人を7人殺した。
分かっているだけでな。
それと分からないようの事故や病気を装って殺していたのだ。
王都では事故も病気も滅多にない、魔法陣の加護があるからな。
不審に思った者が元魔族の者達を捕らえて拘束したところ、不審死が無くなったのだ。
他にもいろいろあるがつまりそういう事があり元魔族は処刑する決まりになったのだ」

グレンが諭すような口調で話した。

「ノウマに取り憑いていた魔族の親がアリスさんの倒した魔族と言う保証もないのだ。
理解してほしい」

今度はアネイラが言う。

根深い物がありそうだ。

だけど、気に入らない。

「なんで魔族は元魔族を樹海の外に出さないの?
魔族に元魔族が分かる理由は?」

「魔族の判別法は分からんが、魔族には元魔族が分かる。
元魔族が樹海から外へ出ようとすると殺されて無惨な死体が王都に向けてさらされる。
他にも、恐怖に負けて魔族に寝返った者もいる。
理解してほしい、元魔族はずっと監禁するか処刑するしかないのだ」

最後は落胆したようにグレンさんは締めくくった。

「なら、彼女の身柄を預かっておいて貰えるかしら。
ウェインを助けたあと、私と二人で王都を出ていく。
それなら文句はないはずよ!
あと、彼女に綺麗な服を渡して。
散々魔族に体を使われて解放されたと思ったらこれじゃああんまりにも酷すぎるわ!
それぐらいなら出来るでしょう?
出来ないと言ってもやってもらうわよ!!
大体ね!  誰も好き好んで魔族になった訳じゃないのになんで穢れた者だなんて言われなきゃなんないのよ?
今まで色々あったからなんて言い訳は聞かないわよ!
一緒に戦った仲間だったり家族だったりするんでしょ?
なら、隔離するにしても酷い扱いする理由にはなんないでしょ?
ハッキリ言って気に入らないわ!
王都なんて言って期待してきたのに樹海に負けず劣らずクソね!!
がっかりしたわ!!!」

そこまで言い切ったところで

「黙って聴いていれば言いたいこっ!!」

グドが立ち上がってナニか言いかけたところでテーブルを飛び越えて蹴り飛ばしてやった!

後ろの壁に激突して気を失った。

「次勝手に喋ったら叩っ斬るって言ったでしょ?
斬らなかっただけありがたいと思いなさい」

余りの速さにアネイラもグレンも動けなかった。

「誰か居ないか?」

アネイラが声をあげた。

「はい!  どうされっ」

入ってきた執事が状況を見て固まった。

「そこの彼を医務室に運んでやってくれ」

アネイラが言うと執事はヒョイとグドを抱えて部屋を出ていった。

「さて、アリスさん。
グドを蹴り飛ばしたことは何も言わない。
ノウマも王都の外へ連れていくことは問題ない、むしろそうしてもらえたら有難い程だ。
ノウマも、それで構わないな?」

「もちろんです」

ノウマの返事にアネイラはひとつ頷いた。

「だが、ウェイン救出に関しては・・・
確かにアリス、貴女は強い。
恐らく我々、紋章を持った貴族当主を凌駕するだろう。
それでも上位魔族に勝てるかどうか・・・
それも向こうは此方の戦力を確実に削る為に上位魔族が2体以上は集まっているはずだ。
その上、中位魔族も無視は出来ない。
いくら貴女でも勝ち目はない」

アネイラは両手で頭を抱えるように項垂れた。

やはりアネイラもウェインを助けに行きたいのだろう。

「そんな事を聞かされても行かない訳にはいかないわ。
アイツを見捨てたんじゃ寝覚めが悪くなるじゃない。
行って死ぬなら仕方ない。
でも、行かずに死ぬまで後悔するくらいなら行って死んだ方がマシね。
ま、死ぬ気なんてさらさら無いけどね」

アネイラは私の答えを聴いてフフッと笑った。

「そうか、なら何も言うまい。
せめて行く前にロザリンド様に会ってもらえないか?」

「ウェイン助けて戻ったら会うわ、交換条件ね。
私がいない間、しっかりノウマを待遇してあげて」

「その事ですが、宜しいでしょうか?」

ノウマが話を遮った。

「なんだ?」

アネイラが促す。

「私もアリス様に着いていっても宜しいでしょうか?
道案内出来ますし、命の恩人を一人行かせる訳にはいきません」

「ちょっと待って!」

今度は私がノウマの話を遮った。

「気持ちは有難いけど、樹海で魔族に会ったとき。
ウェインやミシェルでもハッキリ言って足手まといだったわ。
悪いけど、ノウマ。
道だけ教えて貰える?」

上位魔族ともなればワゼルよりも手強いだろう。

さすがに勝てる保証もない。

足手まといはいない方がいい。

「大丈夫です。
魔族に取り憑かれた者は心現術が使えなくなりますが、替わりに魔法に関しては凄まじく習熟するようです」

そう言ってノウマは手が発光するほど魔力を集めて見せた!

魔法石も使わずに。

「足手まといにはなりません!
お願いします!  連れていって下さい!!」

「では私も連れていって下さい!」

ミシェルまで言い出した!

「連れていってやるといい。
いや、厄介払いとかじゃない。
気持ち汲んでやって欲しいだけだ」

アネイラもノウマに後押しする。

「分かったわ、でもミシェルは駄目よ。
あんたはお留守番してなさい」

「では、せめてロザリンド様に会っていかれませんか?」

「しつこいわね、帰ったら会ったげるって。
私も会いたいしね」

「そうですか、分かりました」

ミシェルは納得とはいかない顔で承諾した。

「さあ、仕度してさっさと行きましょう!
アネイラ、ノウマの装備を整えてあげて!」

アネイラはふっと鼻で笑った。

「分かった、ノウマ来なさい」

アネイラとノウマは連れだって部屋を出ていった。

「ミシェル、お腹空いたわ。
なんか食べさしてくんない?」

ミシェルは笑いながら案内してくれた。
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