アリスと魔王の心臓

金城sora

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交渉・交渉

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「ところで、魔力と心現術の両方を使える秘密を教えてくれ」

螺旋階段を降りながらフェムノが呑気に聞いてくる。

「役にたって信用出来たらね」

辛辣に返す。

「おい、約束と違うじゃないか」

不平を洩らす。

「人間に仇なす存在って明言した奴が下僕になりますって言って、すぐ信用出来るもんですか。
下僕になったって証明しなさい」

適当にそれっぽいことを言って誤魔化す。

「ふむ、一理あるな」

コイツ・・・  バカなのかもしれない。

「「・・・」」

アネイラとウェインは口を挟まずに私とフェムノの会話を聞いている。

「ウェインの指一本治せないんじゃ、まだまだ下僕とは言えないわね」

2階フロアの扉を押し開ける。

「アリス様っ!!   ご無事でなによりです!」

ノウマが走ってきた。

「良かった!  このフロアに来た魔物はきっちり仕留めました。
アリス様も上位魔族を無事にたおっ!!」

フェムノを見てサースが硬直した。

「お前はっ!」

ノウマも気付いて杖を構える!

「大丈夫よ、なんか知んないけど下僕になるとか言って着いてきたのよ」

「なんか知んないけどとは、お前が言ったんじゃないか!」

フェムノが抗議する。

「どういう事ですか?」

構えながらノウマが聞く。

「うーん、成行としか言いようが無いわね」

どうにも端切れの悪い答えしか返せない。
私もコイツの考えが分からないのだ。

「大丈夫なのですか?」

「王都に入れば大丈夫でしょ」

かなりいい加減な楽観論だ。

「ここからそう簡単に王都には行けないだろう」

フェムノが口を挟む。

「どういうこと?」

「パルギェとワフスがこの塔を包囲している筈だ。   パルギェの配下は全てアリスが始末したがワフスの配下は健在だ。
その上に魔物も使って包囲はかなり厚いだろう。   簡単には抜けられん」

フェムノが当然のことのように言う。

「うんざりするわね」

(私でも上位魔族一人相手にするのがやっと・・・   向こうは上位魔族2人に中位魔族5人と下位魔族が25人。
おまけの魔物いっぱい。)

「ノウマ、サース、こっちの戦力は?」

「元魔族が11名、そこにアネイラ、ウェイン、アリス様の計14名です。
我々は皆、元々王都の部隊所属ですから戦闘は全員問題ありません。
ですが、相手が中位魔族であれば我々では足止めになるかどうかといった程度です。」

(ウェインはまだ動けない、戦力は13人か)

「アネイラ、どう思う?」

「まともにやっても勝ちの目は無いな。
犠牲覚悟の一点突破か・・・
どうしたものか・・・」

「お前達、この人数で乗り込んできたのか?」

フェムノが驚いた顔で聞く。

「来たのは3人、後はここにいた人達よ」

「なるほどな、いくら探しても部隊を見つけられない訳だ。
部隊など無かったと言うわけか!」

フェムノが笑いだした。

「ふむ、私が話をつけてこよう。
それで全員が無事に王都に帰りつけばアリスの秘密を聞く。
それでどうだ?」

(交換条件か、結局コイツ仲間になる気は無いんだな。   そりゃそうか)

「いいわ、交渉には私も着いていくわよ」

「かまわんよ」

「お待ちを、私もお供します!」

ノウマが進み出る。

「戦闘になったら不味いからここにいて、もしもの時は私が魔族を抑えとくからその間に皆で王都まで走りなさい。」

「ですがっ!」

「ダメよ、私一人なら絶体に切り抜けられるから大丈夫」

ノウマの話を遮って断言する。

「分かりました、仰る通りに」

「アネイラも宜しくね」

「すまない、アリス一人に頼りっぱなしだな」

「アリス、その・・・  助けに来てくれてありがとう」

「いーのよ、その分報酬はずんで貰うわ」

「はは、分かった。   姉さんにも相談しとくよ」

ウェインがようやっと笑った。

「行くわよフェムノ!」

「あぁ、安心しろ。  まず戦闘にはならん」

「そう願うわ」

「お気をつけて」

サースが声をかける。

「えぇ、ノウマのサポートを宜しくねサース」

「はっ、お任せ下さい!」

「じゃっ、行ってくるわ」

フェムノと1階へ続く螺旋階段を降りていく。

「交渉にはなんか材料があるの?」

「我々魔族が欲しいのは混沌だ。
今、この世界はバランスが取れている。
天秤の大賢者とお前達が呼んでいるフォン・ヴァンデルフが我らの王を封印し、我々をこの地に釘付けにした上に魔王様の力を人間に流して王都でも人間は平穏に暮らしている。
樹海の外も殆ど魔物のいない平和な世になっているはずだ。
我々は人間に仇なし、この世界に混乱をきたすために生まれた。
それなのにこの様だ。
アイツらには私が王都に潜り込んで魔王を復活させるために私が動く。
その為に元魔族を大量に王都に潜入させるとでも言えば確実に食らいつく」

「私がいてその話し出来るの?」

「問題ない、口ではお前を欺く様に喋り、念話でパルギェとワフスに話をつける」

「器用ね、でもあんたも魔王を復活させたいんじゃないの?」

「勿論だ、こんな所でいつまでも小競合いを続けるのにはうんざりしている。
だから、いっそのこと俺はこの王都圏から移った方が面白いと踏んでいる。
魔王が復活するならその方が良いが、それが無理ならお前と一緒にこの樹海から出たいんだ。
お前の強さなら上位魔族にも対抗出来る。
俺が魔王の復活を諦めて他所へ行くと言えば他の上位魔族が許さないだろう、お前と一緒なら強硬突破出来ると踏んだわけだ」

(コイツ、そんな事考えてたのか。
とは言え、何処まで今言ったことを信用出来るのか?)

「分かったわ、あんたに任せる」

「お前とはいいコンビになれそうだ」

「冗談でしょ?」


私達は塔の扉を押し開けて外に出た。


そこには魔物が群れを為して待っていた。
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