アリスと魔王の心臓

金城sora

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魔王・ガーシャル

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「ミシェルの体から出なさいよ、殴りにくいじゃない」

拳を握って魔王に吐き捨てる。

「ふふっ」

私を見て魔王が笑う。

「なにが可笑しいのよ?」

「120年振りに復活したと思ったら殴りにくいと言われたんでな、そんな事を言われたのは初めてだ。   魔族の権威も地に落ちたものだ」

くそ、勘に触る声だ。

「あんた達そうやって人に寄生するしか出来ないの?」

「そういうふうに創られたものでな」

私の皮肉なんてどこ吹く風だ。

「創った奴の顔が見たいわ、顔があればだけどね。   どうせソイツも寄生しないとなんにも出来ないんでしょ?」

「よほどこの娘と殴りたくないらしいな、減らず口はその為だろう?」

魔王が胸に手をあてる、私の考えは見透かされている。

「私を殺せればこの娘の体は返してやろう、まぁ、娘も死ぬがな」

くそっ!

ムカつくっ!!

ミシェルなのにめちゃくちゃムカつくっ!!

どうする?

どうすれば、ミシェルを助けられる?

「考えても無駄だ、娘を助ける方法などない」

私の逡巡を嘲笑う。

「さぁ、お前の心臓を貰おうか」

「じゃあ、私の心臓あげるからミシェルを返しなさいよ」

私の言葉に歩きだそうとしていた魔王の動きが止まる。

「ほぅ、そんなにこの娘の事が大事か?」

言われて私も考える、自分の心臓と交換というのは口をついて出た物だ、そんなに考えて言ったんじゃない。

命をかけるに値する相手か?

ミシェルは大事だ、短い間だけど一緒に旅をしたし。

彼女がいなかったら死んでいたかもしれない場面もあった。

性格は随分違うし、短い間だったけど、大事な仲間だ。

ミシェルは、

私にとってミシェルは、

命をかけるに値する相手だ。

「大事よ!」

魔王は私の言葉を聞いて満足そうな顔をする。

「いいだろう、お前の強さはこの娘の記憶で知っている。   折角だ、遊んでもらおうじゃないか」

「どういう意味よ?」

「私は闘争の神の落とし子だ、強い相手と闘うのは本能。   お前が私に勝てばこの娘の体を返してやろう、生きた姿でな」

さっきと言ってることが違うな・・・

「そう怪訝な顔をするな、気が変わっただけだ。   戦わずに心臓だけを貰ってもつまらんからな、お互い賭けようじゃないか。   私は勝てばお前の心臓を、お前が勝てばこの体を元の持ち主に返そう」

魔王ミシェルの体が赤黒く光始める。

「さぁ、楽しませてくれ」

魔王ミシェルの体がぶれる、私は咄嗟に体を捻る。

一瞬で間合いを詰めた魔王が下から切り上げるように剣を薙ぐ!

反す刀で刀身が赤黒く煌めきながら襲いかかる!!

その剣閃をギリギリでかわし続ける、少しずつ速くなっていく!

かわし続けながらもだんだんと剣閃は速くなり続け、次第に浅い傷口が増えていく。

くっ!

コイツッ!

下段からの切り上げを避けて上体が仰け反った瞬間、魔王ミシェルが体を反転させて廻し蹴りを放つ!!

私は鳩尾に諸に食らって吹っ飛び、壁に叩きつけられる!

「かはっ!」

肺が空気を失って悲鳴をあげる!

くそっ、コイツ。

「どうした?   そんなものか?」

ゆっくりと近付きながら、私を見下ろして薄ら笑いを浮かべる。

「かっ、はっ、、遊んでくれるじゃない」

コイツは私が避けれるギリギリで剣を振っている。

「ほぅ、遊ばれている事は分かるか。   上位魔族フェムノには勝ったのだろう?   もう少し楽しませてもらおう」

今度は手の平を此方に向ける、手が赤黒く光始める。

「ちっ」

私の舌打ちと同時に魔王ミシェルの魔法弾が飛んでくる!

避けた傍から際限なく魔法弾は飛び続ける!

くっ!

心現術で加速して室内を縦横無尽に走って避ける!

「どうしたっ!!   避けてばかりでは勝てんぞっ!!」

魔王ミシェルが罵声を浴びせてくる、くそっ。

ムカつく奴だ、せめて剣があれば反撃出来るのに!

飛閃も撃てない!   これじゃどうしようも・・・

いや、いつかノイマンが言っていたな。

走る方向を魔王ミシェルに変える!

「玉砕覚悟の突撃かっ!?」

正面から向かってくる私に向かって魔王ミシェルが嘲る。

「おおぉっ!!」

魔王ミシェルが放った魔法弾に向かって裂帛の気合と共に手刀を振り下ろす!!

放たれた飛閃が魔法弾を両断して魔王ミシェルに襲いかかる!

「なにっ!」

咄嗟に顔を防いで隙が出来たところに突込み、さっきの御返しとばかりに鳩尾に前蹴りをぶちかます!

今度は魔王ミシェルが壁に叩きつけられる!

「ふはははははっ!   やるじゃないか!!」

諸に入ったはずなのに起き上がって笑っている。

「嘗めんじゃないわよ!!」

一発返してスッキリした。

「ガーシャル様っ!!」

声のした方を見ると私のルシールを持ったフェムノが立っていた。

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