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終焉・旅立ち
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「私に魔族になれってこと?」
私も小声で答える、と言うよりも意識が薄らいできて声を出す力も無くなってきている。
「そうだ、詳しく説明している暇はない」
フェムノの声は切羽詰まっている。
焦ってんのかな?
信用していいのか?
頭がボンヤリする、考えてる暇も、考える頭もない。
なら
確認することは一つだけ。
「魔王は絶対に倒してくれる?」
「あぁ、約束しよう」
私の問いにフェムノは力強く答えた。
この際だ、コイツを信じてみよう。
「いいわ、私の体をあんたにあげる」
フェムノは顔を少し上げて私と目を合わせる、私の心臓の位置に手を乗せる。 そしてゆっくりと顔を近づけてきて私と口づけを交わした。
フェムノの体が眩い銀色の閃光にカッと包まれる、その光に私は眼を閉じた。
胸が熱くなった、冷たくなっていた体が熱を帯びてゆく。
感じていた疲労感が嘘のように消えていく。
なんだか魔族になるのも悪くない。
意識は薄れていくのかと思っていたら段々とハッキリしてきた。
体が重い、何かにのし掛かられているように。
薄らいでいた意識がゆっくりと戻ってくると体の重さが余計に感じられる。
息もしずらい・・・
なんだ?
意識がハッキリして眼を開けるとフェムノが私の上にのし掛かって口づけをしたままの格好で気を失っている。
手も胸を鷲掴みに掴んだままだ。
「んむっ、どかんかいっ!」
フェムノを乱暴にどけるとごろりと床の上を転がった。
「まったくもう! ん?」
フェムノは気を失ったままだ。
だけど、私の意識はハッキリしている。
体も自分の意思で動く。
どーなってんの?
「お前は誰だ?」
視線を上げると魔王が少し離れた位置でこちらを興味深そうに見ている。
「私は私よ」
そう言って私も思う、フェムノは私の体に入ったんじゃなかったのか?
自分の体を見下ろすと傷が綺麗に治っている。
(我はここだ)
不意にフェムノの声が聴こえてきた。
「何処?」
(ここだ)
頭に響く声なのに不思議と私は自分の手元に視線を向けた。
まるでそっちから声が聴こえてきたような気がしたのだ。
「まさか・・・」
私は手に握りしめたルシールを見る。
(あぁ、どうやら剣の魔法石に絡め取られたようだ)
ルシールは美しい紅い刀身だったのに今では柄から切っ先まで輝かんばかりの白銀色に変わっている。
柄尻と刀身の根元に填まっていた二つの魔法石はさっきまでよりもかなり大きく歪な形になっている。
「どうなってんの?」
剣に向かって呟くと
(我も驚いている、だが説明は後だ。 ガーシャル様がそう待ってはくれまい)
視線を上げると魔王が剣を構えてゆっくりと間合いを積めている。
「面白い事になった、フェムノ。 まさかそこまでその女に入れ込んでいるとはな」
魔王は可笑しそうに笑っている。
(私に魔力を込めろ)
フェムノは魔王の言葉を無視して私に語りかける。
言われた通りに魔力を込めると凄まじい勢いで魔力が吸い上げられる!
それと同時に身体中に力がみなぎってくる!
「なにこれ!?」
(魔力による身体強化だ、剣圧の強化もこちらでやる。 お前は心現術にだけ集中しろ)
体を紅と銀の二色の魔力光が包む。
「素晴らしい! さぁ、楽しませろ!」
魔王が高らか言う。
「えぇ、第2ラウンドよ!」
魔王と私、2人同時に地面を蹴った!
ドゴオォン!!
白銀の剣と赤黒の剣がぶつかり合う!
その衝撃波で封魔宮殿が揺れる!
剣を合わせて勝機が見える!
これなら闘える!!
脚を止めて剣を撃ち合う!
魔王の撃ち下ろしを弾き飛ばして脇腹を薙ぐ!
魔王の体が吹き飛んで壁にぶち当たり壁が崩れ堕ちた。
「ふはははははっ!! 素晴らしい!! 」
瓦礫を吹き飛ばして起き上がり、高笑いを上げる。
脇腹は服こそ破れているが血の流れている気配はない。
「化け物ね」
(焦るな、確実に効いている。 それよりももっと魔力を寄越せ)
私の呟きをフェムノが一蹴する。
言われて剣に魔力を込める、ルシールの魔法石が大きくなったからか、フェムノが乗り移ったからか分からないが。 魔力のコントロールが格段に良くなっている。
魔王を包む赤黒い光が濃度を増していく、動くたびに光の残像が残る。
まるで長いドレスが尾を引いているかのようだ。
「かあぁぁぁっっ!」
ドカンッ!
魔王の踏み込みがさながら爆発音のようだ。
「はあぁぁぁっっ!」
ドンッ!
負けじと踏み込む、お互いがドームの中空でぶつかり合い、剣と剣が火花を散らす!
鍔迫り合いのまま着地し足が着いた途端に一歩放し剣の応酬が始まる!
その激しさに剣が一合ぶつかり合う度に封魔宮殿に亀裂が走り、崩れていく。
「うおぉぉぉっっっ!!」
更に速く!
更に強く!!
更に鋭く!!!
もっともっともっと!!!!
「はぁっ!!」
「ぬおぉっ!」
私の放った斬撃がとうとう魔王を弾き飛ばした!!
魔王が壁にぶつかった衝撃で封魔宮殿が端から崩れていく!
まずい!
視線を走らせる、天井に飛閃を放ち、穴を開けてアネイラとロザリンドさんを脇に抱えて飛び上がる!
轟音と共に封魔宮殿が崩れ落ちていく。
「フェムノ!」
(任せろ)
フェムノの魔法で中空に浮いたまま封魔宮殿だ崩れていくのを見守る。
「魔王は?」
(この程度で死ぬような方ではない、気を抜くな)
私の問にフェムノが答える。
封魔宮殿を囲む水路の廻りに人だかりが出来ている、その中に見知った顔を見つけた。
「フェムノ、あそこに下ろして」
(あぁ)
「グレンさん」
大柄な老兵に声をかける。
「アリス殿! これはまさか!?」
「説明してる暇は無いわ、二人をお願い。 魔王が復活したからここから皆を避難させて!」
「承知した!」
なにも言わずにグレンさんはアネイラとロザリンドさんを引き取って避難指示にはいる。
瓦礫の山に向かおうとした瞬間、爆発音と共に瓦礫の山が飛散した!
遠目にその中心に佇む人影が見える。
「血を流したのはノイマンと闘って以来だ・・・」
「そう」
近付きながら返事をする。
「お前はノイマンよりも強い、そして、僅かだが、私よりもな・・・」
魔王の手に剣はない。
「敗けを認めたってことかしら? ならミシェルを返してちょうだい」
「馬鹿め、途中で止めるわけがなかろう」
魔王がにんまりとイカれた笑みを浮かべる。
そして構えを取るとその手に赤黒い光が集まり大剣の形に変わる。
無言のままだ。
私も無言で剣のありったけの魔力を込める、私の、いや、ノイマンの心臓からは、無限に魔力が溢れ出てくる。
それをルシールの中にいるフェムノが私の力に変えていく。
凄まじい熱量がルシールを纏う。
白銀色だった刀身は紅く変色し、風が当たるとボボゥッと空気の焼き斬られる音がする。
ゆっくりと間合いを詰める。
そして歩は徐々に速くなっていく。
「かあぁぁっっ!」
「はあぁぁっっ!」
お互いの裂帛の気合いが木霊する!
魔王の造り出した魔力剣をルシールが中程から両断する!
そしてルシールが魔王の胸に突き立てる!
そして魔王の心臓を焼いた。
「見事だ、アリス・ヴァンデルフ・・・」
ルシールを引き抜くと魔王は私にその身を預けてくる。
「約束守んなさいよ」
私の言葉に魔王がククッと笑う。
「あぁ、この体を持ち主に返そう。 ではな、良い闘いだった」
そう言った瞬間、魔王の体が赤黒い閃光にパッと包まれた。
眼を瞑って開くと綺麗に傷の治ったミシェルが憑き物の堕ちたような顔で気を失っている。
東の空がボンヤリ明るくなり始めている。
(まさか・・・ 本当に勝つとはな・・・)
フェムノが信じられないとばかりに呟いた。
「そうね」
疲れた
剣を持つ手がダルい。
ルシールがこんなに重いと思ったのは初めてだ。
「おーい! アリース!!」
声の方を見るとウェインが剣を手に括り着けて走ってきている。
ウェインの後ろにはノウマやサース達、元魔族達の姿も見える。
「皆お揃いでなにしに来たのよ?」
「なにしにって、魔王が復活したんじゃないのか!?」
私の問いにウェインが声を上げる。
マジか、コイツ。
「相変わらず遅いわねウェイン君、もう片付いたわよ」
「んなっ、マジかっ・・・」
「「「「えぇっ!?」」」」
驚愕の表情で固まるウェイン。
周りの皆も固まっている。
「今まで何してたの?」
「なにって、封魔宮殿で衝撃音がずっと聴こえてきていたが中に入ろうにも入れなかったんだ、あそこの封印はロザリンド様にしか解けない。 そうこうしてる間に王都を魔族と魔物が取り囲んで襲い始めたんだ、そいつらと夜を徹して戦ってる間に魔族達が急に意識を失って倒れていった。 魔族が倒れると魔物も散り散りに走り去っていったよ、それでまた封魔宮殿に来たんだ」
ウェインは一息に喋った、見ればなるほど、服もあちこち汚れているし剣にも血が付いている。
ノウマ達も似たり寄ったりだ。
そっちはそっちで大変だったらしい。
「そっか、ご苦労様」
私は瓦礫に腰を下ろしてミシェルを寝かせた。
ん?
ウェインの話しに一つだけ引っ掛かりがある。
私はルシールを目線まで持ち上げる。
「あんた、なんで消えてないのよ?」
魔族の大元の魔王が滅んだんだからフェムノも消えるはずだ。
でもコイツは元気?に剣の中に今だ存在している。
(そう言われればそうだな・・・)
えっ!?
「自分でもわかんないの?」
剣に喋りかける私をウェインやノウマ達が訝しげに見つめる。
(何せ、ガーシャル様が滅ぼされるのも初めてなら、剣に入るのも初めてな物でな・・・)
「そーなの?」
(あぁ)
そりゃそーか、剣に入った魔族なんて聞いたことがない。
・・・
・・・・・・
「ぷっ」
(ふっ)
「あーはっはははははっ!」
(かぁーはっはははははっ!)
私とフェムノはなんだか笑いだしてしまった。
それを見てウェインが今度は心配そうな顔をしている。
「なんだ、どうしたアリス?」
「まっ、一件落着って事ね。 ノウマ達も、魔王が滅んだんだからこれからは元魔族なんて迫害も消えていくはずよ。 魔族はいなくなったんだからね」
「そう・・・ ですね、アリス様はこれからどうするんですか?」
状況に思考がついていっていないのか、ノウマはなんだかボンヤリとしている。
「はぁ、そうねぇ・・・ やっぱり、あっちこっち旅したいわね。 あぁ、それにミシェルが起きたら今度こそ美味しい珈琲店に連れていって貰わなくちゃ、あっ! それにあんた私に護衛料払いなさいよ!」
思い出してウェインに言う。
「んなっ、今はそれどころじゃないだろう!」
「魔族に捕まったのを助けてあげたんだからその分割り増しよ!」
「えぇ、マジか」
「とりあえずお腹空いたし、美味しいご飯でもご馳走してもらいましょうか」
立ち上がってミシェルを抱え上げる。
「行くわよウェイン君!」
心現術で加速してウェインを置き去りにする、目指すはとりあえず、アネイラのお屋敷だ。
「ちょっ! なんでそんなに元気なんだよっ!!」
「置いてくわよっ!」
「んなっ! マジかっ!!」
私の背中をウェインが懸命に追いかける・・・
私も小声で答える、と言うよりも意識が薄らいできて声を出す力も無くなってきている。
「そうだ、詳しく説明している暇はない」
フェムノの声は切羽詰まっている。
焦ってんのかな?
信用していいのか?
頭がボンヤリする、考えてる暇も、考える頭もない。
なら
確認することは一つだけ。
「魔王は絶対に倒してくれる?」
「あぁ、約束しよう」
私の問いにフェムノは力強く答えた。
この際だ、コイツを信じてみよう。
「いいわ、私の体をあんたにあげる」
フェムノは顔を少し上げて私と目を合わせる、私の心臓の位置に手を乗せる。 そしてゆっくりと顔を近づけてきて私と口づけを交わした。
フェムノの体が眩い銀色の閃光にカッと包まれる、その光に私は眼を閉じた。
胸が熱くなった、冷たくなっていた体が熱を帯びてゆく。
感じていた疲労感が嘘のように消えていく。
なんだか魔族になるのも悪くない。
意識は薄れていくのかと思っていたら段々とハッキリしてきた。
体が重い、何かにのし掛かられているように。
薄らいでいた意識がゆっくりと戻ってくると体の重さが余計に感じられる。
息もしずらい・・・
なんだ?
意識がハッキリして眼を開けるとフェムノが私の上にのし掛かって口づけをしたままの格好で気を失っている。
手も胸を鷲掴みに掴んだままだ。
「んむっ、どかんかいっ!」
フェムノを乱暴にどけるとごろりと床の上を転がった。
「まったくもう! ん?」
フェムノは気を失ったままだ。
だけど、私の意識はハッキリしている。
体も自分の意思で動く。
どーなってんの?
「お前は誰だ?」
視線を上げると魔王が少し離れた位置でこちらを興味深そうに見ている。
「私は私よ」
そう言って私も思う、フェムノは私の体に入ったんじゃなかったのか?
自分の体を見下ろすと傷が綺麗に治っている。
(我はここだ)
不意にフェムノの声が聴こえてきた。
「何処?」
(ここだ)
頭に響く声なのに不思議と私は自分の手元に視線を向けた。
まるでそっちから声が聴こえてきたような気がしたのだ。
「まさか・・・」
私は手に握りしめたルシールを見る。
(あぁ、どうやら剣の魔法石に絡め取られたようだ)
ルシールは美しい紅い刀身だったのに今では柄から切っ先まで輝かんばかりの白銀色に変わっている。
柄尻と刀身の根元に填まっていた二つの魔法石はさっきまでよりもかなり大きく歪な形になっている。
「どうなってんの?」
剣に向かって呟くと
(我も驚いている、だが説明は後だ。 ガーシャル様がそう待ってはくれまい)
視線を上げると魔王が剣を構えてゆっくりと間合いを積めている。
「面白い事になった、フェムノ。 まさかそこまでその女に入れ込んでいるとはな」
魔王は可笑しそうに笑っている。
(私に魔力を込めろ)
フェムノは魔王の言葉を無視して私に語りかける。
言われた通りに魔力を込めると凄まじい勢いで魔力が吸い上げられる!
それと同時に身体中に力がみなぎってくる!
「なにこれ!?」
(魔力による身体強化だ、剣圧の強化もこちらでやる。 お前は心現術にだけ集中しろ)
体を紅と銀の二色の魔力光が包む。
「素晴らしい! さぁ、楽しませろ!」
魔王が高らか言う。
「えぇ、第2ラウンドよ!」
魔王と私、2人同時に地面を蹴った!
ドゴオォン!!
白銀の剣と赤黒の剣がぶつかり合う!
その衝撃波で封魔宮殿が揺れる!
剣を合わせて勝機が見える!
これなら闘える!!
脚を止めて剣を撃ち合う!
魔王の撃ち下ろしを弾き飛ばして脇腹を薙ぐ!
魔王の体が吹き飛んで壁にぶち当たり壁が崩れ堕ちた。
「ふはははははっ!! 素晴らしい!! 」
瓦礫を吹き飛ばして起き上がり、高笑いを上げる。
脇腹は服こそ破れているが血の流れている気配はない。
「化け物ね」
(焦るな、確実に効いている。 それよりももっと魔力を寄越せ)
私の呟きをフェムノが一蹴する。
言われて剣に魔力を込める、ルシールの魔法石が大きくなったからか、フェムノが乗り移ったからか分からないが。 魔力のコントロールが格段に良くなっている。
魔王を包む赤黒い光が濃度を増していく、動くたびに光の残像が残る。
まるで長いドレスが尾を引いているかのようだ。
「かあぁぁぁっっ!」
ドカンッ!
魔王の踏み込みがさながら爆発音のようだ。
「はあぁぁぁっっ!」
ドンッ!
負けじと踏み込む、お互いがドームの中空でぶつかり合い、剣と剣が火花を散らす!
鍔迫り合いのまま着地し足が着いた途端に一歩放し剣の応酬が始まる!
その激しさに剣が一合ぶつかり合う度に封魔宮殿に亀裂が走り、崩れていく。
「うおぉぉぉっっっ!!」
更に速く!
更に強く!!
更に鋭く!!!
もっともっともっと!!!!
「はぁっ!!」
「ぬおぉっ!」
私の放った斬撃がとうとう魔王を弾き飛ばした!!
魔王が壁にぶつかった衝撃で封魔宮殿が端から崩れていく!
まずい!
視線を走らせる、天井に飛閃を放ち、穴を開けてアネイラとロザリンドさんを脇に抱えて飛び上がる!
轟音と共に封魔宮殿が崩れ落ちていく。
「フェムノ!」
(任せろ)
フェムノの魔法で中空に浮いたまま封魔宮殿だ崩れていくのを見守る。
「魔王は?」
(この程度で死ぬような方ではない、気を抜くな)
私の問にフェムノが答える。
封魔宮殿を囲む水路の廻りに人だかりが出来ている、その中に見知った顔を見つけた。
「フェムノ、あそこに下ろして」
(あぁ)
「グレンさん」
大柄な老兵に声をかける。
「アリス殿! これはまさか!?」
「説明してる暇は無いわ、二人をお願い。 魔王が復活したからここから皆を避難させて!」
「承知した!」
なにも言わずにグレンさんはアネイラとロザリンドさんを引き取って避難指示にはいる。
瓦礫の山に向かおうとした瞬間、爆発音と共に瓦礫の山が飛散した!
遠目にその中心に佇む人影が見える。
「血を流したのはノイマンと闘って以来だ・・・」
「そう」
近付きながら返事をする。
「お前はノイマンよりも強い、そして、僅かだが、私よりもな・・・」
魔王の手に剣はない。
「敗けを認めたってことかしら? ならミシェルを返してちょうだい」
「馬鹿め、途中で止めるわけがなかろう」
魔王がにんまりとイカれた笑みを浮かべる。
そして構えを取るとその手に赤黒い光が集まり大剣の形に変わる。
無言のままだ。
私も無言で剣のありったけの魔力を込める、私の、いや、ノイマンの心臓からは、無限に魔力が溢れ出てくる。
それをルシールの中にいるフェムノが私の力に変えていく。
凄まじい熱量がルシールを纏う。
白銀色だった刀身は紅く変色し、風が当たるとボボゥッと空気の焼き斬られる音がする。
ゆっくりと間合いを詰める。
そして歩は徐々に速くなっていく。
「かあぁぁっっ!」
「はあぁぁっっ!」
お互いの裂帛の気合いが木霊する!
魔王の造り出した魔力剣をルシールが中程から両断する!
そしてルシールが魔王の胸に突き立てる!
そして魔王の心臓を焼いた。
「見事だ、アリス・ヴァンデルフ・・・」
ルシールを引き抜くと魔王は私にその身を預けてくる。
「約束守んなさいよ」
私の言葉に魔王がククッと笑う。
「あぁ、この体を持ち主に返そう。 ではな、良い闘いだった」
そう言った瞬間、魔王の体が赤黒い閃光にパッと包まれた。
眼を瞑って開くと綺麗に傷の治ったミシェルが憑き物の堕ちたような顔で気を失っている。
東の空がボンヤリ明るくなり始めている。
(まさか・・・ 本当に勝つとはな・・・)
フェムノが信じられないとばかりに呟いた。
「そうね」
疲れた
剣を持つ手がダルい。
ルシールがこんなに重いと思ったのは初めてだ。
「おーい! アリース!!」
声の方を見るとウェインが剣を手に括り着けて走ってきている。
ウェインの後ろにはノウマやサース達、元魔族達の姿も見える。
「皆お揃いでなにしに来たのよ?」
「なにしにって、魔王が復活したんじゃないのか!?」
私の問いにウェインが声を上げる。
マジか、コイツ。
「相変わらず遅いわねウェイン君、もう片付いたわよ」
「んなっ、マジかっ・・・」
「「「「えぇっ!?」」」」
驚愕の表情で固まるウェイン。
周りの皆も固まっている。
「今まで何してたの?」
「なにって、封魔宮殿で衝撃音がずっと聴こえてきていたが中に入ろうにも入れなかったんだ、あそこの封印はロザリンド様にしか解けない。 そうこうしてる間に王都を魔族と魔物が取り囲んで襲い始めたんだ、そいつらと夜を徹して戦ってる間に魔族達が急に意識を失って倒れていった。 魔族が倒れると魔物も散り散りに走り去っていったよ、それでまた封魔宮殿に来たんだ」
ウェインは一息に喋った、見ればなるほど、服もあちこち汚れているし剣にも血が付いている。
ノウマ達も似たり寄ったりだ。
そっちはそっちで大変だったらしい。
「そっか、ご苦労様」
私は瓦礫に腰を下ろしてミシェルを寝かせた。
ん?
ウェインの話しに一つだけ引っ掛かりがある。
私はルシールを目線まで持ち上げる。
「あんた、なんで消えてないのよ?」
魔族の大元の魔王が滅んだんだからフェムノも消えるはずだ。
でもコイツは元気?に剣の中に今だ存在している。
(そう言われればそうだな・・・)
えっ!?
「自分でもわかんないの?」
剣に喋りかける私をウェインやノウマ達が訝しげに見つめる。
(何せ、ガーシャル様が滅ぼされるのも初めてなら、剣に入るのも初めてな物でな・・・)
「そーなの?」
(あぁ)
そりゃそーか、剣に入った魔族なんて聞いたことがない。
・・・
・・・・・・
「ぷっ」
(ふっ)
「あーはっはははははっ!」
(かぁーはっはははははっ!)
私とフェムノはなんだか笑いだしてしまった。
それを見てウェインが今度は心配そうな顔をしている。
「なんだ、どうしたアリス?」
「まっ、一件落着って事ね。 ノウマ達も、魔王が滅んだんだからこれからは元魔族なんて迫害も消えていくはずよ。 魔族はいなくなったんだからね」
「そう・・・ ですね、アリス様はこれからどうするんですか?」
状況に思考がついていっていないのか、ノウマはなんだかボンヤリとしている。
「はぁ、そうねぇ・・・ やっぱり、あっちこっち旅したいわね。 あぁ、それにミシェルが起きたら今度こそ美味しい珈琲店に連れていって貰わなくちゃ、あっ! それにあんた私に護衛料払いなさいよ!」
思い出してウェインに言う。
「んなっ、今はそれどころじゃないだろう!」
「魔族に捕まったのを助けてあげたんだからその分割り増しよ!」
「えぇ、マジか」
「とりあえずお腹空いたし、美味しいご飯でもご馳走してもらいましょうか」
立ち上がってミシェルを抱え上げる。
「行くわよウェイン君!」
心現術で加速してウェインを置き去りにする、目指すはとりあえず、アネイラのお屋敷だ。
「ちょっ! なんでそんなに元気なんだよっ!!」
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