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11話〜過去の罪
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「そんな事情で冒険者になったんですね、なんか誤解しちゃってすみません。 俺達で力になれる事があったらなんでも言ってください! バンさんは命の恩人ですから! 魔族だって関係ないです!」
ポールが涙ながらにバーンダーバに詰め寄る。
バーンダーバは冒険者になった経緯を灰色剣の面々に話した、グレイソードの内、3人はバーンダーバを受け入れてくれたが、1人だけはバーンダーバに向かって憎悪の眼差しを向けていた。
「私は、王都クライオウェンの生き残りです」
そう暗い瞳で口を開いたのはアニーだった。
その場の全員が凍りついた・・・
王都・クライオウェン。
魔王軍が現界に攻めてきて最初に侵攻した地。
数十万という住人を魔王軍が虐殺した、それは人類史上で最大の大惨劇と言われている。
アニーがゆっくりと立ち上がった。
「私の両親も兄弟もみんなその地で亡くなりました」
座っているバーンダーバを見下ろしながらアニーが呟く。
声は小さいが、一言一言がバーンダーバの胸に突き刺さるように響いた。
「すまなかった・・・ すまない、なんと言えばいいのか・・・ 私には分からない」
バーンダーバはアニーから目を逸らすことなく言った。
「アニー、戦争なんだ。 お互いが殺しあった、バンさんを責めるのはよそう」
「いや、攻め入ったのは魔族だ。 それに、あの王都の侵攻は一方的な虐殺だった。 しかも、私は四天王筆頭、魔王軍において最高幹部と言える立場だ。 弁解の余地はない」
庇ったポールをバーンダーバが止めた。
「でも」
なおもポールが庇おうとする。
「ありがとう、ポール。 だが、コレは避けては通れない道だ。 誤魔化すつもりは無い」
「では、どうしますか」
アニーが冷たく言い放つ。
「贖罪がしたい、あんな戦争が起こったのは、確かに魔族の気性のせいもあるが、飢餓のせいでもあるのだ。 私は魔界を豊かにしてあんな戦争が二度と起こらないようにしたい」
「それは魔界を豊かにするだけで私への贖罪には、あの惨劇の贖罪にはなっていません」
「うむ、そして、現界の人を1人でも多く救おう。 今日のお前達のように、救える命を救いたい。 奪った分、私が返せる分は精一杯返したい」
「あの」
フェイが立ち上がる。
「それなら、私もバンに命を救われました。 彼の言葉に嘘はありません、私はバンの話を聞いて手伝う事にしたんです。 アニーさん、バンを許す事は出来ないかも知れませんが、今話した事は信じてあげて欲しいです」
フェイがアニーに訴えかける。
・・・
・・・・・・
「納得は、出来ません」
アニーの目はなおも冷たくバーンダーバを見据えている。
「ですが、きっとそれしかないのかも知れませんね。 私も目の前で多くの命が失われ、自分にはどうする事も・・・ 何も出来ずに死んでいく人を沢山見て。 もし、今度目の前で傷ついた人がいたら少しでも救いたいと思い回復術者を志しました。 いみじくも、貴方と私は同じ事を考えたわけです」
アニーの目には涙が流れていた。
「助けて頂いたことには感謝しています、ですが、今は貴方と友好を深められるほど、私の心は穏やかではありません。 失礼します」
そう言ってアニーは暗い森の中へと歩いていった。
「アニー、待ちなよ」
メリナが後を追いかける。
「バンさん、こんな事になっちまってすまない」
ポールが立ち上がって頭を下げる。
「いや、私の方こそ安易にあんな話をすべきでなかった。 すまない、自分のした事を軽んじていた。 彼女に伝えてくれ、私は贖罪を死ぬまで続けると」
ポールとクラインは顔を見合わせてバーンダーバに頭を下げるとアニーとメリナを追って森へと走っていった。
足音が消えると、森はしんと静まり返り、焚き火のパチパチという音だけが響いた。
『お主はクソ真面目だな、戦争なんぞお互い様だ。 気に病む必要などない』
フェムノがつまらなそうに言う。
「フェムノ、私はお前のように戦争を楽しむことは無い。 私はな、王都クライオウェンを攻めた時に16人の人間をこの手で殺めた。 その全員の顔を覚えている」
暗い表情で焚き火を見つめながらバーンダーバが呟いた。
フェイが心配そうにバーンダーバを見る。
『数十万の人間が死んだにしてはその数字は少ないな』
「あぁ、私は卑怯者だからな。 殆ど直接手に掛けるのは部下に任せていた、私は向かってくる者だけと戦い、殺した。 向かってくるのだから仕方ないと言い訳してな」
『かはははははっ! よくもまぁそんな男が四天王筆頭になどなったものだ!』
「そうだな、自分でもそう思う」
バーンダーバは焚き火に枝を放り込みながら自嘲気に笑った。
『向かって来るものは殺すか、随分と乱暴な言い訳だな』
「フェムノ、もうバンを責めるような事を言うのはやめて下さい」
フェイがフェムノを諌める。
『フェイよ、責めてやるのが情けという物だ。 気に病んでいるのだから責めてやれ、それで少しは心の整理がつくものよ。 まぁ、私は別に戦争が悪いとは思わんがな』
フェムノがフェムノなりにバーンダーバを慰めようとしているようだ、フェイは少し嬉しくなった。
「バン、何もかも成し遂げましょう。 魔界を豊かにして沢山の人を救って、それで現界の人を助ける事にもなるんじゃないですか? 魔界の人達が現界に攻めてくることが無くなれば沢山の人が救われますよ!」
フェイが務めて明るい声を出す。
「それでも、沢山の人がきっとバンを責めてくると思います。 その時は私も一緒に謝ってあげますよ! だから、その、頑張りましょう」
フェイ言葉はどんどんと尻すぼみになっていった。
「フェイ」
バーンダーバがじっと見ていた焚き火の火からフェイに視線を移した。
「ありがとう、お前に会えてよかった。 もしも私が道を違えたらフェムノで貫いてくれ」
「えー、嫌ですよ」
『かはは、ならその時は我がやってやろう』
「フェムノ、お前があの荒野で話しかけてくれなかったら私はフェイの悲鳴を聞いても動けなかったかもしれない。 フェイに会えたのはお前のおかげだ、ありがとう」
・・・
・・・・・・
『お主はよくもまぁそんなセリフを・・・ 恥ずかしくはないのか?』
「あら、照れてるのフェムノ。 あははははっ」
フェイの笑い声が暗い森に響いた、それを聞いたバーンダーバは少しだけ笑うことが出来た。
===魔界===
鬨の声が魔界の荒野に響いている。
ぶつかり合う2つの軍勢、押しているのは八千の魔族を従えた魔将。
そして、その八千の軍勢が敵の軍を包囲し、今まさに勝鬨が上がろうとしていた。
八千の軍勢を率いるのは元ダーバシャッド魔王軍の五千魔将だった男、今は八千魔将・バドカーゴ。
包囲した三千の敵勢は今尚、戦意を失うこと無く憎々しげに武器を持ち戦っている。
上空に突然爆発が起こり敵味方全ての動きが止まった。
「三千魔将ドグラード! 最早勝敗は決した!! 無駄な血は流したくは無い! 一騎打ちでケリをつけようじゃないか!」
八千の軍勢が割れ、悠々とその間をバドカーゴが歩いてくる。
「さぁ! 前へ出てこい! どうしたっ、臆したかっ!」
バドカーゴの挑発を受けて現れたのは片眼から血を流し、隻眼となった如何にも武骨な壮年の男だった。
「ほう、片目を失っても戦意は一切損なっていないな! いい面だ!」
バドカーゴはそう言って笑った。
「一騎打ちを受けるか?」
「無論だ!」
ドグラードは槍を構えた。
「いい度胸だ!」
バドカーゴは腰から短剣を取り出して自分の片眼を切り裂いた!
それを見て三千魔将ドグラードは残った片眼を見開いた。
「何をしておる」
「一騎打ちだ! フェアな方がいいだろう! さぁ、かかって来な!」
バドカーゴが剣を構える。
「・・・ いや、その必要は無い」
ドグラードが構えていた槍を下ろした。
「どういう意味だ?」
「お主の下につこう、酔狂なバドカーゴ殿。 儂がお主の失った片眼を補わせて貰おう」
バドカーゴはドグラード言葉を聞いてニヤリと笑った。
「今日からお前は俺の副官だ、精々励め」
「御意に」
バドカーゴはドグラードを傘下に収めたことで一万を超える魔族の長となった。
「これで、現界への扉は開かれた・・・」
バドカーゴは呟くように言った。
積年の怨みを湛えるかのような瞳で虚空を睨む。
「待っていろ、現界の人間ども。 飢えに苦しむのは今度はお前達の番だ・・・」
ポールが涙ながらにバーンダーバに詰め寄る。
バーンダーバは冒険者になった経緯を灰色剣の面々に話した、グレイソードの内、3人はバーンダーバを受け入れてくれたが、1人だけはバーンダーバに向かって憎悪の眼差しを向けていた。
「私は、王都クライオウェンの生き残りです」
そう暗い瞳で口を開いたのはアニーだった。
その場の全員が凍りついた・・・
王都・クライオウェン。
魔王軍が現界に攻めてきて最初に侵攻した地。
数十万という住人を魔王軍が虐殺した、それは人類史上で最大の大惨劇と言われている。
アニーがゆっくりと立ち上がった。
「私の両親も兄弟もみんなその地で亡くなりました」
座っているバーンダーバを見下ろしながらアニーが呟く。
声は小さいが、一言一言がバーンダーバの胸に突き刺さるように響いた。
「すまなかった・・・ すまない、なんと言えばいいのか・・・ 私には分からない」
バーンダーバはアニーから目を逸らすことなく言った。
「アニー、戦争なんだ。 お互いが殺しあった、バンさんを責めるのはよそう」
「いや、攻め入ったのは魔族だ。 それに、あの王都の侵攻は一方的な虐殺だった。 しかも、私は四天王筆頭、魔王軍において最高幹部と言える立場だ。 弁解の余地はない」
庇ったポールをバーンダーバが止めた。
「でも」
なおもポールが庇おうとする。
「ありがとう、ポール。 だが、コレは避けては通れない道だ。 誤魔化すつもりは無い」
「では、どうしますか」
アニーが冷たく言い放つ。
「贖罪がしたい、あんな戦争が起こったのは、確かに魔族の気性のせいもあるが、飢餓のせいでもあるのだ。 私は魔界を豊かにしてあんな戦争が二度と起こらないようにしたい」
「それは魔界を豊かにするだけで私への贖罪には、あの惨劇の贖罪にはなっていません」
「うむ、そして、現界の人を1人でも多く救おう。 今日のお前達のように、救える命を救いたい。 奪った分、私が返せる分は精一杯返したい」
「あの」
フェイが立ち上がる。
「それなら、私もバンに命を救われました。 彼の言葉に嘘はありません、私はバンの話を聞いて手伝う事にしたんです。 アニーさん、バンを許す事は出来ないかも知れませんが、今話した事は信じてあげて欲しいです」
フェイがアニーに訴えかける。
・・・
・・・・・・
「納得は、出来ません」
アニーの目はなおも冷たくバーンダーバを見据えている。
「ですが、きっとそれしかないのかも知れませんね。 私も目の前で多くの命が失われ、自分にはどうする事も・・・ 何も出来ずに死んでいく人を沢山見て。 もし、今度目の前で傷ついた人がいたら少しでも救いたいと思い回復術者を志しました。 いみじくも、貴方と私は同じ事を考えたわけです」
アニーの目には涙が流れていた。
「助けて頂いたことには感謝しています、ですが、今は貴方と友好を深められるほど、私の心は穏やかではありません。 失礼します」
そう言ってアニーは暗い森の中へと歩いていった。
「アニー、待ちなよ」
メリナが後を追いかける。
「バンさん、こんな事になっちまってすまない」
ポールが立ち上がって頭を下げる。
「いや、私の方こそ安易にあんな話をすべきでなかった。 すまない、自分のした事を軽んじていた。 彼女に伝えてくれ、私は贖罪を死ぬまで続けると」
ポールとクラインは顔を見合わせてバーンダーバに頭を下げるとアニーとメリナを追って森へと走っていった。
足音が消えると、森はしんと静まり返り、焚き火のパチパチという音だけが響いた。
『お主はクソ真面目だな、戦争なんぞお互い様だ。 気に病む必要などない』
フェムノがつまらなそうに言う。
「フェムノ、私はお前のように戦争を楽しむことは無い。 私はな、王都クライオウェンを攻めた時に16人の人間をこの手で殺めた。 その全員の顔を覚えている」
暗い表情で焚き火を見つめながらバーンダーバが呟いた。
フェイが心配そうにバーンダーバを見る。
『数十万の人間が死んだにしてはその数字は少ないな』
「あぁ、私は卑怯者だからな。 殆ど直接手に掛けるのは部下に任せていた、私は向かってくる者だけと戦い、殺した。 向かってくるのだから仕方ないと言い訳してな」
『かはははははっ! よくもまぁそんな男が四天王筆頭になどなったものだ!』
「そうだな、自分でもそう思う」
バーンダーバは焚き火に枝を放り込みながら自嘲気に笑った。
『向かって来るものは殺すか、随分と乱暴な言い訳だな』
「フェムノ、もうバンを責めるような事を言うのはやめて下さい」
フェイがフェムノを諌める。
『フェイよ、責めてやるのが情けという物だ。 気に病んでいるのだから責めてやれ、それで少しは心の整理がつくものよ。 まぁ、私は別に戦争が悪いとは思わんがな』
フェムノがフェムノなりにバーンダーバを慰めようとしているようだ、フェイは少し嬉しくなった。
「バン、何もかも成し遂げましょう。 魔界を豊かにして沢山の人を救って、それで現界の人を助ける事にもなるんじゃないですか? 魔界の人達が現界に攻めてくることが無くなれば沢山の人が救われますよ!」
フェイが務めて明るい声を出す。
「それでも、沢山の人がきっとバンを責めてくると思います。 その時は私も一緒に謝ってあげますよ! だから、その、頑張りましょう」
フェイ言葉はどんどんと尻すぼみになっていった。
「フェイ」
バーンダーバがじっと見ていた焚き火の火からフェイに視線を移した。
「ありがとう、お前に会えてよかった。 もしも私が道を違えたらフェムノで貫いてくれ」
「えー、嫌ですよ」
『かはは、ならその時は我がやってやろう』
「フェムノ、お前があの荒野で話しかけてくれなかったら私はフェイの悲鳴を聞いても動けなかったかもしれない。 フェイに会えたのはお前のおかげだ、ありがとう」
・・・
・・・・・・
『お主はよくもまぁそんなセリフを・・・ 恥ずかしくはないのか?』
「あら、照れてるのフェムノ。 あははははっ」
フェイの笑い声が暗い森に響いた、それを聞いたバーンダーバは少しだけ笑うことが出来た。
===魔界===
鬨の声が魔界の荒野に響いている。
ぶつかり合う2つの軍勢、押しているのは八千の魔族を従えた魔将。
そして、その八千の軍勢が敵の軍を包囲し、今まさに勝鬨が上がろうとしていた。
八千の軍勢を率いるのは元ダーバシャッド魔王軍の五千魔将だった男、今は八千魔将・バドカーゴ。
包囲した三千の敵勢は今尚、戦意を失うこと無く憎々しげに武器を持ち戦っている。
上空に突然爆発が起こり敵味方全ての動きが止まった。
「三千魔将ドグラード! 最早勝敗は決した!! 無駄な血は流したくは無い! 一騎打ちでケリをつけようじゃないか!」
八千の軍勢が割れ、悠々とその間をバドカーゴが歩いてくる。
「さぁ! 前へ出てこい! どうしたっ、臆したかっ!」
バドカーゴの挑発を受けて現れたのは片眼から血を流し、隻眼となった如何にも武骨な壮年の男だった。
「ほう、片目を失っても戦意は一切損なっていないな! いい面だ!」
バドカーゴはそう言って笑った。
「一騎打ちを受けるか?」
「無論だ!」
ドグラードは槍を構えた。
「いい度胸だ!」
バドカーゴは腰から短剣を取り出して自分の片眼を切り裂いた!
それを見て三千魔将ドグラードは残った片眼を見開いた。
「何をしておる」
「一騎打ちだ! フェアな方がいいだろう! さぁ、かかって来な!」
バドカーゴが剣を構える。
「・・・ いや、その必要は無い」
ドグラードが構えていた槍を下ろした。
「どういう意味だ?」
「お主の下につこう、酔狂なバドカーゴ殿。 儂がお主の失った片眼を補わせて貰おう」
バドカーゴはドグラード言葉を聞いてニヤリと笑った。
「今日からお前は俺の副官だ、精々励め」
「御意に」
バドカーゴはドグラードを傘下に収めたことで一万を超える魔族の長となった。
「これで、現界への扉は開かれた・・・」
バドカーゴは呟くように言った。
積年の怨みを湛えるかのような瞳で虚空を睨む。
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