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23話〜旅支度
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「セルカ、これはなんだ?」
「バンさん、悪いんだがちょっと黙ってて貰えないか?」
何度目か分からないバーンダーバの質問にとうとうセルカが降参した。
最初は
「よく知っているな」
「詳しいな、ではこっちは?」
「ほー、なるほどな。 説明が分かりやすくて助かる」
など、煽てられているようで気持ち良く話していたが質問は既に10数回に及び段々とうんざりしてきて今に至る。
「すまない、邪魔になっていたか」
「いや、邪魔って程じゃないんだが」
「お主が聞けばなんでも答えてくれるのが楽しくてついな、すまなかった」
少ししゅんとなるバーンダーバに何故か罪悪感を覚えるセルカ。
「そんな顔すんなよ! てゆーか、なんで【夜光石】も知らないんだ? 冒険者じゃなくても知ってるだろう?」
夜光石、光を溜め込み暗闇で光る石で、砂粒程の大きさの物を迷宮に入ってから少しずつ落とす事で帰りの目印にする。
現界ではそれほど珍しい物では無い。
「あー、うむ、その辺はおいおい話すとしよう」
濁すバーンダーバに微妙な顔をするセルカ。
「ま、いいけどな。 食料はこんなモンだろう、大体必要な物は揃ったな」
セルカの背負っているかなり大きな籠がほとんどいっぱいになっていた。
「凄い量だな」
「迷宮探索中、食事は一人当たり1日に約400グラム摂取する、乾燥させた物ばっかりでな、4人で1日で1600グラム。 それを日数でかけると11200グラム、食料だけで約11キロ。 その他に塩コショウやら香草、今回は優秀な回復術士がいるからポーションは少なめでいいけど。 それでも無しって訳にはいかないからな」
大きな荷物を背負い直しながらセルカが話す、最初に「半分持とう」とバーンダーバが言ったが「俺はポーターだから」とすげなく断られている。
「セルカがいれば迷宮でも困ることは無さそうだな」
「煽てんなよ、迷宮は初めてなんだろ? あの中じゃ一瞬の油断が命取りだ。 ま、口で言っても伝わんないだろうな。 それに、ギルドマスターに推されるような冒険者だから腕にも自信があるんだろ? 自信があるのはいいけど、あんまり迷宮を舐めてかからない方がいい」
「うむ、肝に銘じておこう」
バーンダーバが真面目な顔で頷く、それをまた意外そうな顔でセルカが見ていた。
「おぉ、また誰かの金魚の糞でもすんのかよ! セルカちゃん」
後ろからデカい声で呼ばれ、バーンダーバとセルカが振り返る。
そこには冒険者と思しき男4人がたっていた。
その中の腰に2本の剣を差した男が嫌味な笑みを浮かべてセルカの名を呼んだ。
セルカはあからさまでは無いが表情が歪む。
「グルマの分際で冒険者の真似事なんかしてんじゃねーよ! 目障りなヤローだな」
「グルマとはなんだ?」
すかさずバーンダーバが聞いた。
「バンさん、こんな時まで質問かよ」
セルカが呆れた顔になる。
「おい、なにシカトこいてんだよ」
男がセルカの胸ぐらを掴む、その手をバーンダーバが掴んだ。
「なんだてめぇ」
男がバーンダーバを睨む。
「バンさん、この人達はBランクでもかなり腕の立つ冒険者だ。 やめといた方がいい」
セルカがバーンダーバを止める。
「そういうこった、痛い目見たくなきゃ手を離せ」
「手を離すのはお主の方だ、大方、依頼でもしくじったのだろう? 前にそれでこんな風に絡まれた事がある」
バーンダーバは凄むでもなく淡々と話している。
「いい度胸してんな、やろうってのか?」
腕を掴まれた男がバーンダーバを睨みつける。
「ふむ、向かってくるなら相手になろう」
バーンダーバのその言葉を聞いた途端に後ろにいた別の男が殴りかかってきた!
バーンダーバは腕を掴んでいた男を放り投げてぶつける、ぶつかった方と投げられた男はそのまま凄い勢いで5~6メートルは吹っ飛んだ。
残りの2人も殴りかかろうとしていたがそれを見て動きが止まる。
「ゲホッゲホ、っくそ、やりやがったな!」
投げられた男が立ち上がる。
腰の剣を引き抜いた。
「おい! 剣まで抜くなよ!」
セルカが叫ぶ。
「うるせぇ!」
男がいきり立って剣を構えて突っ込んでくる、バーンダーバはそれを構えもせずに迎える。
「あぶなっ!」
セルカの悲鳴よりも速くバーンダーバの矢が男の剣を根元から射抜いて折っていた。
その場の誰もがバーンダーバが弓を具現化し、構え、撃つまでの動作が全く見えなかった。
「な、に・・・」
一瞬で剣を折られた男はその場で固まっている。
折れた剣を見てすぐにもう一本に手をかけたが既にそちらも折れていた。
それを見てゆっくりと視線を上げてバーンダーバを見る。
「まだやるのか?」
やはり、凄むでもなくバーンダーバは言う。
「い、いや、悪かったな」
「謝る相手が違うな、私ではなくセルカに謝って貰おう」
さっきまで凄みの無かった声がやや低くなる。
「すまなかったセルカ、謝るよ」
男は顔に大量の汗をかいていた。
「他の者も謝るべきではないのか?」
「いや、いいよバンさん。 もうよそう」
たまらずセルカが言う。
「ふむ、セルカがそう言うならよいが」
「アンタ、一体何者だ?」
「私は冒険者だ、まだなりたてだがな」
「ルーキーか、パーティは組んでるのか?」
「あぁ、勇者のケツを蹴れだ」
「ははっ、面白い名前だな、覚えとくぜ」
その言葉を最後に4人組は去っていった。
「あー、ありがとう。 助かったよ」
バーンダーバのあまりに圧倒的な強さにセルカは顔がこわばっている。
「いいんだ、それより、グルマというのはなんだ?」
「あぁ、グルマってのは」
「兄ちゃん強いねー、見ててスカッとしたよ!」
不意に乾き物の露天をしていたおっちゃんがバーンダーバに話しかけた。
「ははは、騒いですまなかった」
笑顔でバーンダーバが答える。
「冒険者ってのはあんな威張った奴が多いんだが、兄ちゃんはなんか雰囲気が全然違うね。 ほれ、サービスだ。 持ってきな」
おっちゃんはバーンダーバに干し肉を1束投げた。
「おぉ、美味そうだな! いいのか?」
「兄ちゃん、これも持っておいき」
後ろから果物の露天のおばちゃんがリンゴを2つバーンダーバとセルカに手渡す。
「ありがとう、綺麗な色の実だな」
バーンダーバが赤いリンゴをしげしげと眺めて嬉しそうな顔をする。
「アタシも見ててスカッとしたよ、ちょっと強いからってグルマを馬鹿にするなんてね。 気に入らないったらありゃしない」
おばちゃんはプンプン怒っている。
「そのグルマというのっ」
「後で教えてやるよ、おばちゃん、おじちゃん、いっつもありがとう。 また来るよ」
「あぁ、セルカ。 あんまり無茶するなよ」
「うん、それじゃ」
バーンダーバを半ば引っ張るようにセルカが市場を後にする。
「グルマってのはな」
ひとしきり離れてからセルカが話し出した。
「闘気を纏えない、魔力も操れない人間の事だ。 だから俺はポーターなんてやってんだよ」
「なるほど、それをあの4人は馬鹿にしていたのか」
バーンダーバが合点がいったという顔になる。
「ふん、アンタも馬鹿にする口か?」
セルカの目が鋭くなる。
「私は馬鹿にはしない、そんな事になんの意味も無い。 力無い者を馬鹿にする者はどこにでもいる、そうだな、理解は出来る。 優越感を得られるからな」
バーンダーバは言葉をきり考えるポーズになる。
「だが、愚かな事だ。 下を見て優越感を得ても敵を作るだけだ、私は敵など作りたくは無い。 セルカ、お主からは学ぶことが多い。 是非、私はお主と友になりたいとは思っても敵にはなりたくは無いな」
セルカはバーンダーバの話を暫く頭の中で反芻するとバーンダーバの方を向いてニッと笑った。
「悪くない考えだ」
それだけ言うと前を向いてバーンダーバに「アレは知っているか?」「コレは知っているか?」とあちこち指をさしてセルカは楽しそうに説明を始めた。
「バンさん、悪いんだがちょっと黙ってて貰えないか?」
何度目か分からないバーンダーバの質問にとうとうセルカが降参した。
最初は
「よく知っているな」
「詳しいな、ではこっちは?」
「ほー、なるほどな。 説明が分かりやすくて助かる」
など、煽てられているようで気持ち良く話していたが質問は既に10数回に及び段々とうんざりしてきて今に至る。
「すまない、邪魔になっていたか」
「いや、邪魔って程じゃないんだが」
「お主が聞けばなんでも答えてくれるのが楽しくてついな、すまなかった」
少ししゅんとなるバーンダーバに何故か罪悪感を覚えるセルカ。
「そんな顔すんなよ! てゆーか、なんで【夜光石】も知らないんだ? 冒険者じゃなくても知ってるだろう?」
夜光石、光を溜め込み暗闇で光る石で、砂粒程の大きさの物を迷宮に入ってから少しずつ落とす事で帰りの目印にする。
現界ではそれほど珍しい物では無い。
「あー、うむ、その辺はおいおい話すとしよう」
濁すバーンダーバに微妙な顔をするセルカ。
「ま、いいけどな。 食料はこんなモンだろう、大体必要な物は揃ったな」
セルカの背負っているかなり大きな籠がほとんどいっぱいになっていた。
「凄い量だな」
「迷宮探索中、食事は一人当たり1日に約400グラム摂取する、乾燥させた物ばっかりでな、4人で1日で1600グラム。 それを日数でかけると11200グラム、食料だけで約11キロ。 その他に塩コショウやら香草、今回は優秀な回復術士がいるからポーションは少なめでいいけど。 それでも無しって訳にはいかないからな」
大きな荷物を背負い直しながらセルカが話す、最初に「半分持とう」とバーンダーバが言ったが「俺はポーターだから」とすげなく断られている。
「セルカがいれば迷宮でも困ることは無さそうだな」
「煽てんなよ、迷宮は初めてなんだろ? あの中じゃ一瞬の油断が命取りだ。 ま、口で言っても伝わんないだろうな。 それに、ギルドマスターに推されるような冒険者だから腕にも自信があるんだろ? 自信があるのはいいけど、あんまり迷宮を舐めてかからない方がいい」
「うむ、肝に銘じておこう」
バーンダーバが真面目な顔で頷く、それをまた意外そうな顔でセルカが見ていた。
「おぉ、また誰かの金魚の糞でもすんのかよ! セルカちゃん」
後ろからデカい声で呼ばれ、バーンダーバとセルカが振り返る。
そこには冒険者と思しき男4人がたっていた。
その中の腰に2本の剣を差した男が嫌味な笑みを浮かべてセルカの名を呼んだ。
セルカはあからさまでは無いが表情が歪む。
「グルマの分際で冒険者の真似事なんかしてんじゃねーよ! 目障りなヤローだな」
「グルマとはなんだ?」
すかさずバーンダーバが聞いた。
「バンさん、こんな時まで質問かよ」
セルカが呆れた顔になる。
「おい、なにシカトこいてんだよ」
男がセルカの胸ぐらを掴む、その手をバーンダーバが掴んだ。
「なんだてめぇ」
男がバーンダーバを睨む。
「バンさん、この人達はBランクでもかなり腕の立つ冒険者だ。 やめといた方がいい」
セルカがバーンダーバを止める。
「そういうこった、痛い目見たくなきゃ手を離せ」
「手を離すのはお主の方だ、大方、依頼でもしくじったのだろう? 前にそれでこんな風に絡まれた事がある」
バーンダーバは凄むでもなく淡々と話している。
「いい度胸してんな、やろうってのか?」
腕を掴まれた男がバーンダーバを睨みつける。
「ふむ、向かってくるなら相手になろう」
バーンダーバのその言葉を聞いた途端に後ろにいた別の男が殴りかかってきた!
バーンダーバは腕を掴んでいた男を放り投げてぶつける、ぶつかった方と投げられた男はそのまま凄い勢いで5~6メートルは吹っ飛んだ。
残りの2人も殴りかかろうとしていたがそれを見て動きが止まる。
「ゲホッゲホ、っくそ、やりやがったな!」
投げられた男が立ち上がる。
腰の剣を引き抜いた。
「おい! 剣まで抜くなよ!」
セルカが叫ぶ。
「うるせぇ!」
男がいきり立って剣を構えて突っ込んでくる、バーンダーバはそれを構えもせずに迎える。
「あぶなっ!」
セルカの悲鳴よりも速くバーンダーバの矢が男の剣を根元から射抜いて折っていた。
その場の誰もがバーンダーバが弓を具現化し、構え、撃つまでの動作が全く見えなかった。
「な、に・・・」
一瞬で剣を折られた男はその場で固まっている。
折れた剣を見てすぐにもう一本に手をかけたが既にそちらも折れていた。
それを見てゆっくりと視線を上げてバーンダーバを見る。
「まだやるのか?」
やはり、凄むでもなくバーンダーバは言う。
「い、いや、悪かったな」
「謝る相手が違うな、私ではなくセルカに謝って貰おう」
さっきまで凄みの無かった声がやや低くなる。
「すまなかったセルカ、謝るよ」
男は顔に大量の汗をかいていた。
「他の者も謝るべきではないのか?」
「いや、いいよバンさん。 もうよそう」
たまらずセルカが言う。
「ふむ、セルカがそう言うならよいが」
「アンタ、一体何者だ?」
「私は冒険者だ、まだなりたてだがな」
「ルーキーか、パーティは組んでるのか?」
「あぁ、勇者のケツを蹴れだ」
「ははっ、面白い名前だな、覚えとくぜ」
その言葉を最後に4人組は去っていった。
「あー、ありがとう。 助かったよ」
バーンダーバのあまりに圧倒的な強さにセルカは顔がこわばっている。
「いいんだ、それより、グルマというのはなんだ?」
「あぁ、グルマってのは」
「兄ちゃん強いねー、見ててスカッとしたよ!」
不意に乾き物の露天をしていたおっちゃんがバーンダーバに話しかけた。
「ははは、騒いですまなかった」
笑顔でバーンダーバが答える。
「冒険者ってのはあんな威張った奴が多いんだが、兄ちゃんはなんか雰囲気が全然違うね。 ほれ、サービスだ。 持ってきな」
おっちゃんはバーンダーバに干し肉を1束投げた。
「おぉ、美味そうだな! いいのか?」
「兄ちゃん、これも持っておいき」
後ろから果物の露天のおばちゃんがリンゴを2つバーンダーバとセルカに手渡す。
「ありがとう、綺麗な色の実だな」
バーンダーバが赤いリンゴをしげしげと眺めて嬉しそうな顔をする。
「アタシも見ててスカッとしたよ、ちょっと強いからってグルマを馬鹿にするなんてね。 気に入らないったらありゃしない」
おばちゃんはプンプン怒っている。
「そのグルマというのっ」
「後で教えてやるよ、おばちゃん、おじちゃん、いっつもありがとう。 また来るよ」
「あぁ、セルカ。 あんまり無茶するなよ」
「うん、それじゃ」
バーンダーバを半ば引っ張るようにセルカが市場を後にする。
「グルマってのはな」
ひとしきり離れてからセルカが話し出した。
「闘気を纏えない、魔力も操れない人間の事だ。 だから俺はポーターなんてやってんだよ」
「なるほど、それをあの4人は馬鹿にしていたのか」
バーンダーバが合点がいったという顔になる。
「ふん、アンタも馬鹿にする口か?」
セルカの目が鋭くなる。
「私は馬鹿にはしない、そんな事になんの意味も無い。 力無い者を馬鹿にする者はどこにでもいる、そうだな、理解は出来る。 優越感を得られるからな」
バーンダーバは言葉をきり考えるポーズになる。
「だが、愚かな事だ。 下を見て優越感を得ても敵を作るだけだ、私は敵など作りたくは無い。 セルカ、お主からは学ぶことが多い。 是非、私はお主と友になりたいとは思っても敵にはなりたくは無いな」
セルカはバーンダーバの話を暫く頭の中で反芻するとバーンダーバの方を向いてニッと笑った。
「悪くない考えだ」
それだけ言うと前を向いてバーンダーバに「アレは知っているか?」「コレは知っているか?」とあちこち指をさしてセルカは楽しそうに説明を始めた。
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