人嫌いの錬金術師と過保護な息子たち

壱、長男の野望

お父さまのために(モーリス視点)

 

…お父さまがヴィヴィアンと共に寝付いてから数十分。

私は、自室の一角に設営した秘密の研究室でとある研究を行っていた。


｢…アラネアの根、燃える水、そして…聖者の骨粉｣

小さな机に材料を並べ、その隣に設置した小型の釜を見つめる。

…これは昨年から私が『お父さまのため』に始めたこと。

年々衰えていくお父さまを救い、その存在を永遠とするための手立て…錬金術による不老不死の研究だ。

(お父さまの研究ノートと、家にあった錬金術の学術書から自分なりに構築してみましたが…まだ決め手が足りませんね)

不老不死の秘薬はまだ人間の錬金術師でも実現出来ていない幻の薬。

しかし…『生命の創造』を成し遂げたお父さまの息子(創造物)である私なら、きっと可能性はあるはずだ。

(お父さまも試行錯誤の末に私たちを生み出してくれた…だから、諦めなければきっと…)

ふと記憶の奥に大事に残されているお父さまの姿を思い出す。

それは私がこの世に生まれ落ちた時のこと…私が生まれてすぐに見た、大粒の涙を零していたお父さまの顔だ。

『…っ…！モーリス、私が…分かるか？』
『………？』

生まれたばかりの私は人の言葉を理解することが出来ずに目の前のお父さまをただ見つめるだけだった。

でも、今ならあの時の感情を理解出来る。

(あれは…嬉し泣きというものだ。お父さまは、私が生まれる前から名前まで付けてくれて…その誕生に、涙してくれた)

無論それは私個人の誕生と言うよりは『ホムンクルス製造の成功』を喜んでいたのだろうが…大切なのは、わたしホムンクルスの誕生を喜んでくれたという事実のみ。

(私を愛してくれるお父さまのために…私も、自分に出来ることを返そう)

…数々の書物を読んだが、『愛』というものは『見返りを求めずに相手に尽くすこと』『常に相手のことを想い続けること』など様々な解釈がとれるらしい。

つまり、人間ですら『愛』が何かハッキリと分かっていないのだ。

ホムンクルスである私が真なる愛を分からなくても当然のことだろう。

｢…だからこそ、私は『私の愛』でお父さまを繋ぎ止める｣

釜の中に少しずつ材料を入れ、未だ未完成の『愛』を錬成する。


(これが完成した時…私の愛は成就する)


兄弟たちはおろか、お父さまにも教えていない野望を抱きながら、私は黙々と研究を進めていった。