[R18]不定形の恋人

空き缶太郎

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魔物と人の関係性

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アッシュが見つけた露店は自作のアクセサリーを売る店だった。

食べ物でないことに若干しょんぼりしたアッシュだが、見たことの無い装飾品に興味深そうな視線を向ける。

「いらっしゃい。お兄さん、アクセサリーはどうだい?」
「あくせ…?」
「装飾品の類だな。ただの飾りってだけじゃなく、物によっては何かしらの加護を受けられたりするんだ」
「へぇ…」

後から追ってきたレイブンに説明を受けつつ、露店に並べられた装飾品を見つめる。

「こいつはファイアウルフの牙で作ったネックレス、そしてこっちはインプの羽で作ったイヤリング、そんで…」
「…えと…魔物の素材ばかりなんだね…」

スライムであるアッシュからすれば、同じ魔物の体から作られた装飾品はあまり気分のいいものでは無い。
しかしそれを悟られないように必死に笑顔を作っていた。

「ははっ、随分箱入りだな。装飾品なんて、8割がた魔物の素材使ってるだろ」
「そ、そんなに…?」
「…………」

店主の言葉に驚き、複雑そうな顔をするアッシュを無言で見つめるレイブン。

「一応、魔石や金属だけの装飾品もあるが、到底庶民には届かない価格になっちまうからな。…まぁ、狩りをすれば魔物も減って素材も増える。一石二鳥ってやつさ」
「…そう、なんだ…」

あくまでも人間にとって魔物は『狩るもの』。

それはアッシュのような人を襲わないスライム相手でも変わらない。
何故なら危険はなくとも『狩れば金になる』からだ。

(やっぱり、人間は…怖い…)

俯き、唇を噛み締めるアッシュ。
その苦しそうな表情に、レイブンはそっと肩を抱く。

「アッシュ。どうした?気分悪いか?」
「い、いや…大丈夫…」
「兄さん、顔色悪いぞ。…水でも飲むか?」

露店の店主も心配そうにアッシュの顔を覗き込む。
しかし…

(…ん?あれ…)

アッシュの視線は露店の隅に置かれた装飾品に向かう。

それは綺麗なペイントを施されたガラス玉を首飾りにしたもの。

だがその素材は…


「……スライムの…核…?」


薄い水色がかった半透明の珠。

ガラス玉などではない。
僅かな魔力を纏ったそれは、文字通りスライムの『心臓部』で…

「っー!!」
「アッシュ!?」
「お、おい!どうした?」

それを理解した瞬間、アッシュはその場に崩れ落ちた。

顔色は真っ青になり、変化を維持するのもギリギリの状態だ。

(だめ…こんなところで、変化解けたら…!)

スライムの成れの果て…装飾品に加工された核を視界の端に捉えながら、アッシュは恐怖に怯える。

「い、医者を…!」
「…いや、俺が連れていく」
「う、わっ…!」

困惑する店主を制し、レイブンはアッシュの体を抱き上げる。
腰と膝裏を支えるその体勢は明らかな『お姫様抱っこ』だ。

そして医者のいる診療所の方角を向くと、レイブンは鎧を纏ったまま走り出す。

(いしゃ…聞いたことがある…怪我とかを治す人間だ…)

「レイブン、さん…」
「無理に喋らない方がいい」
「…でも…いしゃ、は…嫌だ…体…みられ、たく…ない」

医者に診察されれば、スライムであることが暴かれてしまう。
しかしそんな理由を正直に言えるはずもなく、ただ『医者は嫌だ』と呟き続ける。

弱々しく首を横に振るアッシュにレイブンは小さくため息をつくと、一旦足を止めて別の方向へ走り出す。

しばらくしてレイブンが駆け込んだのは、1軒の民家だった。

(ここは…?)
「あんまり綺麗にしてなくて悪いな。…ほら、下ろすぞ」

どうやらレイブンの自宅らしく、アッシュは寝室の大きなベッドに横たえられる。

「顔色は…まだ少し悪いな。待ってろ、水持ってくるから」
「あっ…」

アッシュの返事も聞かず、レイブンはキッチンの方へ早足で行ってしまった。

(…行っちゃった…)

行き場のない手を下ろし、ベッドに横になったまま辺りを見回す。

(…これが人間の暮らす家、なのかな…日光や雨風も気にしなくていいのは羨ましいな…)

基本的にスライムは野ざらしの環境で暮らしている。
泉のほとりで暮らしてはいるものの、夏になると日光による乾燥で、嵐の日には風で吹き飛ばされて毎年数匹が犠牲になっていた。

(……そろそろ帰らないと…みんな、不安にさせちゃうな…)

ふと窓を見れば太陽が西に傾き、日暮れまであと数時間ほどと推察された。

コンコン

「…アッシュ。水持ってきたぞ」
「!あ、う、うん…」

油断していたアッシュはドアをノックする音に慌てて体を起こし、返事を返す。
その声を聞いたレイブンはゆっくりとドアを開け、水差しとコップをサイドテーブルに置いた。

「少しはいいか?」
「ごめんなさい…迷惑、かけて…」
「気にするな。困った時はお互い様って言うしな」

レイブンは優しく声をかけ、アッシュの頭を撫でるとまた寝室のドアに手をかけた。

「しばらく休むといい。俺は…着替えてちょっと買い物に行ってくるから」
「うん…」

アッシュが頷くと、レイブンは柔らかな笑みを見せてから寝室を後にする。

部屋に誰もいなくなると、アッシュは小さなため息をついて水の入ったコップを手にした。

(こんなに長い時間変化したのは初めて…体もカラカラだ…)

コップに入った水をひっくり返し、頭にかける。
すると髪や衣服、顔から水を吸収し、全身の潤いを取り戻した。

「はふぅ…生き返る…」

スライムにとって乾燥は大敵。
アッシュも水分が枯渇すれば変化を維持できなくなる。

(レイブンさんは…外に行ったのかな?なら、少しだけ変化を解いておこう)

体を休めるため、アッシュは変化を解いて元のスライムに戻る。
そしてさらに水を吸収するべく、器用に水差しの中に潜り込んだ。

「うーん、やっぱり水の中は格別」

住処である泉の水ほど綺麗ではないが、城下町の井戸水もアッシュの体を潤すには充分だった。

(…体を潤して、少し休んだら泉に帰ろう。優しくしてくれたレイブンさんには悪いけど、やっぱり人間は怖いってこともよく分かったし)

しばらく水を堪能すると水差しから脱出し、スライム姿のままベッドに戻ってふにゃりと脱力する。


「………レイブンさん…」

そしてアッシュは体を休めるため、少しだけ意識を手放した。


 
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