10 / 15
10 クリスマス
しおりを挟む
正直な話、私は今、困っていた。
彼とクリスマスイブを一緒に過ごす約束を出来た事自体は、私にとって好ましいことであり、嬉しい限りだった。
ただ、一つ問題が生じてしまう。
それはクリスマスに贈るプレゼント。
彼に渡すクリスマスプレゼントをどうすればいいのか、皆目見当がつかない。
残された日数は、あまりないので、近場のデパートに来てみた。
外はもうすっかり星が見える時間になっているというのに、デパートの中は未だ日中のような明るさと、大勢の客で賑わいをみせていた。
その人の多さは、もうすぐ行われるイベントに対する期待の表れかもしれない。
彼がどのような物を好むのか、残念ながら私には分からない。
だからといって、何が好きか聞くのは野暮というもの。
従って、頼りにするのは己の感とセンスになるのだけど……全く自信がない。
取り合えずデパートに来れば何か見つかるだろう、という甘い考えは見事に打ち砕かれる。
デパートの中はクリスマス商戦でどこもかしこもセールをしており、逆に選択肢が増えすぎて悩む事に。
とりあえず、行動を起こす。
デパートにある店舗を幾つか見て回るが、これといったものがない。
彼に贈るプレゼントという問題に対して、私が用意する答えには不安しかない。
悩めば悩むほど泥沼に嵌っていく感じが拭えない。
結局、空手のまま数件をはしごした時だった。一軒の店が目に留まる。
ふと、導かれるように私はその店に入った。
店内に入ると、そこではデパートの喧騒は薄れる。
中の客はただ静かに、彫刻のようにその場に立ち尽くし、数限りない本と向き合っていた。
デパートの騒々しさに辟易していたのか、妙に心が落ち着く。
ふらふら、と並べてある本を流し目で見ていると、一つの雑誌に視点が定まる。
『特集・クリスマスに贈るプレゼント』と銘打った雑誌。
思わず手に取り、中を見た。
食い入るように、その記事を熟読して閉じた。
この雑誌に行きついたのは、神様からの思し召しだったのだろう。おかげであらかたプレゼントの方向性が見えてきた。
直ぐにでもプレゼントの購入に戻ろうとした時、違う雑誌に目がいく。
それはクリスマスのデートを特集した雑誌。
自然と、その雑誌に手が伸びて中を拝見する。
中身はデートプラン、おススメの飲食店。絶景スポットなどを紹介するもの。
読み進めていくと、告白の二文字が記載されていた。
「……告白、か」
私は柳君と仲が良いと思っている。そして、彼の事が好きだ。
――けど、彼の方から好きだ、と、言ってもらった事が無い。
厳密に言えば、一度だけある。
ただそれは、私の勘違いだったかもしれないものだ。
仲が良くても、相手が好意を持ってくれたとしても、ハッキリと聞きたい。
その言葉を。
♦♦ ♦♦
約束の日が訪れる。
学校を終えた後、家に戻って私服へと着替える。
今日の夜は雪が降るとニュースでも言っていたので、厚手のコートを羽織る。
手提げの鞄に、彼のプレゼントを入れた後、直ぐに街へと向かった。
彼との待ち合わせ場所は駅前にある広場。そこには犬の銅像があるので、そこを目印に後で会う事になっている。
広場に辿り着いた時、約束の時間よりも早くついてしまった。
まだ、彼の姿は見当たらない。
空を見上げる。一筋の光すら通さぬ厚い雲で覆われていた。
今は、うっとおしく思われる天気でも、夜になれば掌を返すように人気者になるだろう。
コートのポケットに忍ばせていた手鏡で自分を見る。
お洒落とは無縁だったけど、それでもこの日の為に、前日、彼と会わず美容室で髪を切ってもらった。
彼の反応が良ければ嬉しい。
待っている間、周囲には私と同じような立場の人が見受けられる。
皆、執拗に周辺を窺っている。
その中にいる一人の男性が、こちらに歩み寄ってくる女性を見て、そちらに駆け寄る。
女性は男性の腕に自分の腕を絡ませ、身を寄せて歩いていく。
その光景が、私の目をとらえて離さない。
「小宮さん?」
背後からの声に、思わず驚き振り返る。
そこには柳君が立っていた。
落ち着いた色合いのロングコートを羽織り、ショルダーバッグを掛けていた。
制服姿でない彼を見たのは初めてで、新鮮だった。
少し、驚いた風な顔をしていた。
私が頷くと、彼はホッとしたのか表情が和らぐ。
「小宮さんが髪切ってるなんて知らなかったから、驚いたよ」
「あ、ごめん……その、どうかな? やっぱり似合わない?」
彼は首を横に振る。
「似合ってるよ。綺麗になっててびっくりした」
率直な感想と共に、喜んでくれる彼の顔を見れば、それが本心だという事が直ぐに分かる。その顔を見れただけで、私の心は幾分か軽くなった。
「これからどうするの? 柳君」
クリスマスの予定に関しては全て柳君に一任してある。
だから、私はこの後の予定は一切知らない。
本音を言えば、私は何処でもよかった。それが例え何時もの図書室であっても。
彼と一緒に過ごせる事に意義があったから。
「実は、近くに良いお店があるんだ。小宮さんはアレルギーとか無い?」
彼の問いかけに、大丈夫、と返事をする。
じゃあ、と彼が歩き出そうとした時。
「あ……」
咄嗟に呼び止めてしまう。
その理由はすごく単純で、とても浅ましく思えるものだった。
原因は先程の光景。
自分を恥じた。あたかも彼と恋人関係になった気持ちでいた自分に。
「どうしたの小宮さん?」
「ううん……何でもない」
笑顔を振りまく。彼はそれを見て安心する。
そして再び止めていた足を前に進めようとした時に。
「じゃあ、行きましょうか」
スッと手を差し出してくれた。
差し出された手を、そっと私は握った。
掌の温もり以上に、心が温かくなったのを私は感じた。
彼とクリスマスイブを一緒に過ごす約束を出来た事自体は、私にとって好ましいことであり、嬉しい限りだった。
ただ、一つ問題が生じてしまう。
それはクリスマスに贈るプレゼント。
彼に渡すクリスマスプレゼントをどうすればいいのか、皆目見当がつかない。
残された日数は、あまりないので、近場のデパートに来てみた。
外はもうすっかり星が見える時間になっているというのに、デパートの中は未だ日中のような明るさと、大勢の客で賑わいをみせていた。
その人の多さは、もうすぐ行われるイベントに対する期待の表れかもしれない。
彼がどのような物を好むのか、残念ながら私には分からない。
だからといって、何が好きか聞くのは野暮というもの。
従って、頼りにするのは己の感とセンスになるのだけど……全く自信がない。
取り合えずデパートに来れば何か見つかるだろう、という甘い考えは見事に打ち砕かれる。
デパートの中はクリスマス商戦でどこもかしこもセールをしており、逆に選択肢が増えすぎて悩む事に。
とりあえず、行動を起こす。
デパートにある店舗を幾つか見て回るが、これといったものがない。
彼に贈るプレゼントという問題に対して、私が用意する答えには不安しかない。
悩めば悩むほど泥沼に嵌っていく感じが拭えない。
結局、空手のまま数件をはしごした時だった。一軒の店が目に留まる。
ふと、導かれるように私はその店に入った。
店内に入ると、そこではデパートの喧騒は薄れる。
中の客はただ静かに、彫刻のようにその場に立ち尽くし、数限りない本と向き合っていた。
デパートの騒々しさに辟易していたのか、妙に心が落ち着く。
ふらふら、と並べてある本を流し目で見ていると、一つの雑誌に視点が定まる。
『特集・クリスマスに贈るプレゼント』と銘打った雑誌。
思わず手に取り、中を見た。
食い入るように、その記事を熟読して閉じた。
この雑誌に行きついたのは、神様からの思し召しだったのだろう。おかげであらかたプレゼントの方向性が見えてきた。
直ぐにでもプレゼントの購入に戻ろうとした時、違う雑誌に目がいく。
それはクリスマスのデートを特集した雑誌。
自然と、その雑誌に手が伸びて中を拝見する。
中身はデートプラン、おススメの飲食店。絶景スポットなどを紹介するもの。
読み進めていくと、告白の二文字が記載されていた。
「……告白、か」
私は柳君と仲が良いと思っている。そして、彼の事が好きだ。
――けど、彼の方から好きだ、と、言ってもらった事が無い。
厳密に言えば、一度だけある。
ただそれは、私の勘違いだったかもしれないものだ。
仲が良くても、相手が好意を持ってくれたとしても、ハッキリと聞きたい。
その言葉を。
♦♦ ♦♦
約束の日が訪れる。
学校を終えた後、家に戻って私服へと着替える。
今日の夜は雪が降るとニュースでも言っていたので、厚手のコートを羽織る。
手提げの鞄に、彼のプレゼントを入れた後、直ぐに街へと向かった。
彼との待ち合わせ場所は駅前にある広場。そこには犬の銅像があるので、そこを目印に後で会う事になっている。
広場に辿り着いた時、約束の時間よりも早くついてしまった。
まだ、彼の姿は見当たらない。
空を見上げる。一筋の光すら通さぬ厚い雲で覆われていた。
今は、うっとおしく思われる天気でも、夜になれば掌を返すように人気者になるだろう。
コートのポケットに忍ばせていた手鏡で自分を見る。
お洒落とは無縁だったけど、それでもこの日の為に、前日、彼と会わず美容室で髪を切ってもらった。
彼の反応が良ければ嬉しい。
待っている間、周囲には私と同じような立場の人が見受けられる。
皆、執拗に周辺を窺っている。
その中にいる一人の男性が、こちらに歩み寄ってくる女性を見て、そちらに駆け寄る。
女性は男性の腕に自分の腕を絡ませ、身を寄せて歩いていく。
その光景が、私の目をとらえて離さない。
「小宮さん?」
背後からの声に、思わず驚き振り返る。
そこには柳君が立っていた。
落ち着いた色合いのロングコートを羽織り、ショルダーバッグを掛けていた。
制服姿でない彼を見たのは初めてで、新鮮だった。
少し、驚いた風な顔をしていた。
私が頷くと、彼はホッとしたのか表情が和らぐ。
「小宮さんが髪切ってるなんて知らなかったから、驚いたよ」
「あ、ごめん……その、どうかな? やっぱり似合わない?」
彼は首を横に振る。
「似合ってるよ。綺麗になっててびっくりした」
率直な感想と共に、喜んでくれる彼の顔を見れば、それが本心だという事が直ぐに分かる。その顔を見れただけで、私の心は幾分か軽くなった。
「これからどうするの? 柳君」
クリスマスの予定に関しては全て柳君に一任してある。
だから、私はこの後の予定は一切知らない。
本音を言えば、私は何処でもよかった。それが例え何時もの図書室であっても。
彼と一緒に過ごせる事に意義があったから。
「実は、近くに良いお店があるんだ。小宮さんはアレルギーとか無い?」
彼の問いかけに、大丈夫、と返事をする。
じゃあ、と彼が歩き出そうとした時。
「あ……」
咄嗟に呼び止めてしまう。
その理由はすごく単純で、とても浅ましく思えるものだった。
原因は先程の光景。
自分を恥じた。あたかも彼と恋人関係になった気持ちでいた自分に。
「どうしたの小宮さん?」
「ううん……何でもない」
笑顔を振りまく。彼はそれを見て安心する。
そして再び止めていた足を前に進めようとした時に。
「じゃあ、行きましょうか」
スッと手を差し出してくれた。
差し出された手を、そっと私は握った。
掌の温もり以上に、心が温かくなったのを私は感じた。
0
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる