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しおりを挟む食事している間、祐介はそのタイミングを見計らうように、いつもより言葉少なだった。
恵子さんはもともとあまり話さない。私も彼女の前では失言を恐れて、熟考してからでないと口をきいてこなかった。
なんとなくずっと、気まずい空気が流れている。
恵子さんがゆっくり箸を下ろす。より緊張が部屋の中に走る。そして彼女は、さらにゆっくりと祐介を見やった。
「今日は何の報告?」
そう言われた祐介は、一気に肩の力を抜いて、深い息を吐き出した。
「まいったな。恵子さんにはかなわないや」
「なんのこと?」
「気づいてますよね、きっと。みーちゃんが重たいお盆を持たないように動いてたから。でも俺の口から聞きたいから言わないでくれてる」
祐介は私のお腹へちらりと視線を動かす。それに気づいた恵子さんの口もとに、気づくか気づかないぐらいの、わずかな笑みが浮かぶ。
恵子さんの配慮も、それに祐介が気づいたことにも、私はまったく気付かずにいて驚く。
祐介は正座し直すと、背筋を伸ばした。
「みーちゃんと俺、新しい命を授かりました。恵子さんには一番に知ってほしくて、都合も聞かずに来てすみませんでした」
頭をさげる祐介の肩にそっと手を乗せた恵子さんは、彼が頭をあげると言う。
「おめでとう」
そして私に、やんわりと言う。
「美里ちゃん、よかったわね」
「お母さん……」
思わず涙ぐむ私を見て、恵子さんは首を横にふる。
「お母さんじゃなくて、もう、おばあちゃんね」
ありがとう、って恵子さんはもう一度言った。
「私ね、結婚もできなかったし、子どもは諦めてたの。まして、孫の顔が見れるなんて考えたこともなかったわ。美里ちゃんが娘になってくれて、ほんとうに嬉しかった」
「だから私を育ててくれたの?」
娘がほしかったから私を?
「あのときは後先考えずにいたの。なんとかしなきゃって、それだけ」
恵子さんは口もとに手をあてて、ああ嬉しい、いやだわ、なんて目もとをぬぐって、部屋を出ていく。気の強い恵子さんだから、泣き顔は見られたくないのだろう。
スッと横から伸びてきた大きな手が、ひざの上の私の手に重なる。そして強く握られる。
「みーちゃん、よかったな」
「祐ちゃんのおかげ」
目を合わせて、微笑み合う。
祐ちゃんと結婚できてよかったって思う。
「祐ちゃん、おみそ汁、おかわりする?」
すっかりおわんは、からになっている。
「ううん、もういいよ。やっぱりみーちゃんの作るおみそ汁が一番好きだから、はやく家に帰って飲みたいな」
【完】
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