強欲御曹司の溺愛

水城ひさぎ

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強欲な甘い初夜

長野へ ※佑磨side

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 雪で覆われた北アルプスを眺めるのは何度目だろう。その風景を目にすると、長野へやってきたんだと実感が湧く。

 親父に同行して、初めて長野の地を訪れたのは、もう10年以上前になる。

 あれは、高校2年の夏だったか。シロツメクサとレンゲの花を組み合わせた花かんむりの記憶だけが、今でもやけに鮮明に残っている。

 あのときから俺はきっと、興味があったのだと思う。あの花かんむりを編んでいた少女に。

 あらかじめ手配しておいた社用車に乗り込み、和希の運転でホテルへ向かう。

「和希の言う通り、つばさの元気がなかった。心当たりはあるか?」

 和希と二人きりになる車内では、どうしても本音が漏れる。

「ない方がおかしいぐらいには」

 意外な答えが返ってきた。

 なんだ、あるのか。

 ルームミラー越しにこちらをちらりと見る和希は、楽しげに口もとをゆるめている。あいかわらず、俺の色恋には楽観的なやつだ。

「俺が何かしたか? いい感じに来てたはずなんだが」
「無自覚とは、これまた。しましたよ、いろいろと」
「たとえば?」

 組んでいた足をほどき、前のめりになって尋ねる。和希には笑い話かもしれないが、俺には結構深刻だ。

「そうですね。きっかけづくりからしてまずかったと思います」
「ブレスレットを届けさせに、ホテルへ呼び出したことか」
「商品を持ってこいとホテルに呼び出し、くどいたのですからね。つばささんはさぞ驚かれたでしょう」
「あれは、和希も賛成した」
「すぐにでも恋人にしたいと言うからですよ。それが最短ですね、と申し上げたまで」

 なんだって。今さら、それを言うのか。

 和希には落ち度がないとでも言いたげだ。

 じろりとにらみつけるが、正面を向いたままの和希は涼しい顔をしている。

「まあ、なんだ。それは百歩譲ろう。俺も反省してないわけでもない」
「あまり反省してないと聞こえますが」

 和希はくすりと笑い、続けた。

「あれも、まずかったと思いますよ。つばささんは慎重にお付き合いの可能性を探っていたのに、ご自宅に押しかけ、借金の肩代わりを条件に、ご両親に結婚を認めさせたのですからね」
「肩代わりを条件に結婚を提示したつもりはない。いわれのない助けはいらないと言うから、結婚したいぐらい好きな女の家族を助けるのは当然だと言ったまでだ」

 実際に、西川家は借金をつくることなく、無事に土地の売買を終えた。無論、海堂に利益はあるが、だまし取るような真似はしていない。

 つばさだって、俺が好きだから結婚に踏み切ってくれたのだ。

「しかし、父親の方はまだしも、母親は疑ってましたよ。金を出すから娘を差し出せ。そう聞こえたのでは? つばささんが交際に前向きでないから、弱身につけこんだと思われたんですよ」
「確かにな。母親は、怖い目つきで俺を非難していた」
「あのときは、つばささんに救われましたね。つばささんが結婚してもいいと言ってくださったから、丸く収まったのです。佑磨さんは言葉が足りないのですよ」

 俺がよかれと思ってした行動が、和希の目には違ったものに映っていたのか。聞くにつけて、不安が増す。

 和希でさえそうなのだから、つばさはどう感じていただろう。

「そういうおまえは言葉が悪い」

 反論できず、すねるように言ってしまう俺を笑う和希は、少しばかり神妙な声音で言う。

「つばささん、長野でどんな仕事をするのかと、やけに気にしておられましたよ。リゾート開発に反対なのかもしれません」
「あの土地を海堂が欲しがっていたことまでは言ってない。言えば、土地欲しさにつばさに近づいたと誤解するかもしれない。余計な負担をかける必要はないし、長野に思い入れのない西川家がリゾート開発を反対する理由はないからな」

 つばさがリゾート開発を反対するわけがない。自信を持って断言するが、和希はやはり神妙だった。

「それかもしれませんね」
「なんだ?」
「土地欲しさに、というところですよ。土地を手に入れた途端、佑磨さんはご多忙で、つばささんをほったらかしでしたからね」

 耳障りなことを言うものだ。

「土地が手に入れば、つばさはどうでもいいって思ったというのか。くだらない。だいたい、リゾート建設の話はいっさいしてない。あの土地が関わってる話もしてない」
「人の口に戸は立てられませんからねぇ。リトルグレイスの店長は、本宮さんとかなり深い付き合いのようですよ」

 本宮さんはあまり打算的ではない人だ。長野に新店舗を作る計画があると話した可能性は否定できない。

 全部、つばさに筒抜けだったと言うのか。

 あまりのもどかしさに、俺はギリっと唇をかんだ。

「ほかに、つばさが何か誤解してそうなことはないか。もしくは、これから先、誤解しそうなことは」

 やっと、つばさとの結婚にこぎつけたんだ。小さな誤解ですれ違うなんてありえない。

「一つ、気になっていることはあります。つばささんと関係はありませんが」

 つばさに関係ないなら言うな、と思ったが、和希が無意味な話をするとも思えず、耳を傾ける。

「どんなことだ?」
「西川家の方々は、花里家から面倒な土地を押し付けられたと思っているようでした」
「ああ、そうだな。土地が売れると知って、やけに喜んでいたな。あれほど、花里家が手放さない土地だったのに」

 俺がだまされてるんじゃないかと思うぐらい、彼らは簡単に土地を手放し、俺に感謝した。

「なぜ、花里は西川真由に相続させようとしたのでしょう。手放したくなければ、跡取りが相続すべきでした」
「確かにな。真由に相続させれば、リゾート開発が進む可能性は容易に想像がついただろう」
「花里はあの土地を手放したかったのでしょうか。そうだとすれば、なぜ。気になります」

 和希の疑問はもっともだ。

「花里家の当主は、真由の弟だったな?」

 俺は確かめるように尋ねる。

「はい。真由の一つ下の弟、成一せいいちです」
「訪ねてみるか、花里を。毎度、けんもほろろに追い返されるがな。代替わりしたなら、会える可能性があるかもしれない」
「そうですね。花里がリゾート開発賛成派に回ってくれれば、何かとやりやすくなるでしょうし」
「二泊で足りるかな」

 ため息をつく。花里家へ足を運ぶ時間は、スケジュールに入っていない。

「あまり、焦らずに。お戻りになったあかつきには、つばささんの笑顔を取り戻して差し上げればいいのですよ」

 和希はやはり楽観的に言って、不機嫌な俺を笑った。
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