強欲御曹司の溺愛

水城ひさぎ

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強欲な甘い初夜

花里家にて(2)

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「もともと、西川さんは東京の人ですから。こちらの大学へ進学し、確か、農学部でしたか、花里の所有する森林や畑で研究していましたよ。それで姉と出会ったのです。いえ、私も交流がありました。とても博学な青年でしたが、性格は素朴そのもので、良い人でした」

 良い人か……。

 その評価が一番しっくり来るだろう。警戒心が薄く、性善説を信じていそうな男。つばさの性格は母親譲りだろう。よほど、彼女の方がしっかりしていると感じるような父親だった。

「では、大学卒業と同時に長野を出られた?」
「ええ、お察しの通りです。東京での就職が決まり、西川さんが東京へ戻る日、姉も一緒に。それが最後です。……ああ、このような身内の恥を聞かせて申し訳ないですね」
「いえ。つばささんも知りたいでしょうから」
「知りたいですかね? まあ、では、あとでゆっくりお話しましょう。お昼はこちらで食べていってください。それで、何かほかに聞きたいことがあるのではないですか? 海堂さんが、よもや、姉の恋物語を聞きにわざわざいらしたわけではないでしょう。あの土地に何かありましたか?」

 昔話に花を咲かせてもかまわないが、それでは俺が退屈だろうと、成一は気を遣ってか、そううながしてきた。

「こういってはなんですが、なぜ、あの土地を海堂に売却する気になったのか、気になりまして」
「おや、いりませんでしたか?」

 冗談まじりに、くすりと笑った成一は、穏やかに言う。

「回りくどい方法で売却して、申し訳ありませんでしたね。しかし、それが祖母の遺言でしたので」
「遺言……? 花里菊さんの?」

 意外な話に驚いた。

「ええ。祖父は、ご存知の通り、リゾート開発に反対していましたが、その昔は、あの土地の売却を考えていたのですよ。この何もない村が活性化するなら、それでいいと思っていたのです」
「それなのに、なぜ?」
「聞いた話では、ひどく安く買い叩こうとした不動産屋ともめたとか。ささいなきっかけだったと思いますよ。先ほども言いましたが、祖父は一度決めたら曲げないがんこ者ですので。物別れになってからは、あの土地には産業廃棄物が埋まってるだなんだのと嘘を吹聴して、売却する気はないとの一辺倒でした」
「そのようないきさつがあったのですね」

 あの土地になぜ、埋没物があるなどといううわさが立ったのか気になっていたが、そういうわけだったか。

「ええ。祖母も当然、表立って賛成するわけにはいきませんので、祖父亡きあとも、リゾート開発には反対の姿勢を取っていました。しかし、それ以上に、祖母は姉が心配だったのですよ」
「心配……でしょうね」

 愛娘が駆け落ちして、心配しない親などいないだろう。

「祖母は結婚を反対して申し訳なかったと、ずっと悔いていました。せめて、自身が亡くなった際には、あの土地を姉に相続させ、売却してほしいと望んでいました。そうすれば、この先、姉は何不自由なく暮らしていけますから。私たち弟妹も承知のことです」
「承知のこと、でしたか」
「本音を話したら、姉は土地を受け取らないでしょうから、相続放棄は許さないと意地悪なことを言いました。姉を困らせた私を、姪はうとましく思っているかもしれませんね?」

 目の奥をさぐるように見つめられたが、俺はすんなりと首を横にふった。

「そのようなことは……」
「いいんですよ。姉が逃げるようにこの地を去ったとき、恨まれるのは覚悟していましたから。しかし、今回の件は、私たちの目論見通りになりました。海堂リゾートがあの土地をあきらめていないことは知っていましたので、すぐにでも売却できるだろうと見込んでおりました。海堂さんを利用しましたが、お互いに利があったと思いますので、お許しいただきたい」

 成一は深く頭を下げた。

「では、成一さんはリゾート開発に賛成してくださると?」
「いいえ」

 顔をあげた彼は、きっぱりと否定した。

「いいえ?」
「私は……、いえ、私たち弟妹は全員、リゾート開発には中立の立場でおります。この村の穏やかで静かなところも気に入っているのですよ。しかし、開発が進み、村が変わっていくのなら、それもまた時代ですね。受け入れていく気持ちはあります」
「では、賛成も反対もしない立場を貫き通されるのですね」
「祖父譲りのがんこ者ですので。海堂さんにお会いするのも、今日が最後かと」

 くすりと笑った成一は、組んだ指に目を落とし、ぽつりとつぶやく。

「私たちは姉が幸せに暮らしているなら、それでいいのですよ」
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