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奇妙なアルバイト
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アルバイトを終え、鳥居をくぐり出た私を石階段の下で待っていたのは、白夜くんただ一人だった。
一真はいないのだろうかと戸惑いながら白夜くんに近づいていく。それに合わせ、彼は無言で私に背を向けて歩き出す。
今日は夏日のように暑いのに、白夜くんはグレーのストールをしている。黒パンツに、グレーの七分袖シャツは品の良さを感じさせるもので、ストールもよく似合っている。しかし、気候には合っていないと不思議に思いながら彼についていく。
「一人?」
私がそう尋ねるのに対し、小さなため息を吐き出した彼は肩をすくめる。
「美鈴を家まで連れてくるように、一真に言われて迎えに来た」
その言葉には違和感を覚える。一真は白夜くんの代わりになんでも引き受ける人だ。彼に命令するなんてありえない。よほどのことが一真の身に起きているのだろうか。だとしたら、私が行って何ができるというのだろう。
「……家って、白夜くんの?」
ついていって大丈夫なのだろうかと、不安になる。私の持つ警戒心が伝わったのか、白夜くんは振り返って薄く笑う。
「御守り、買ったんだ?」
「え……、ああこれ? 彩斗美が御利益あるからって」
突然、そう問われて驚く。白のショルダーバッグにつけたピンクの御守りは、ついさっき彩斗美に勧められて購入したものだ。
「商売上手な巫女だな」
「彩斗美はしっかりしてるから。私は御利益があればいいなーって思って買うだけなんだけど、白夜くんは迷惑じゃなかった?」
「安哉の名前でも書く?」
質問に質問で返してくる。私の話など聞いてないみたいだ。
「書かないわ……」
「まあそうか。結婚するってわかってる相手の名前なんて書かないよな。こういうものは大抵、結ばれない相手の名前を書くものだ」
「持ってるだけで良縁に恵まれるらしいから。縁結びの神の御利益は恋愛成就だけじゃないと思ってるの」
むしろ御守りを開ける人の方が少ないだろう。一真に説明したようなことは、彩斗美もよほどの相手でなければ話さない。基本的には良縁に恵まれたい人が購入していく御守りだ。
白夜くんは坂道を登る。彼の自宅に向かっているのだとしたら、私の自宅とは真反対の方角にあるようだ。
「白夜くん、昨日のことなんだけど、言い過ぎたと思ってるの。ごめんね……」
「気にするな。俺も悪かった」
白夜くんが謝るなんて、と意外だと驚く。彼に持っていた印象が、もしかしたら間違っていたのかもしれないと思い始める自分がいる。
「……ポスターのことは、私が勝手にすごく恥ずかしく思ってるだけなの。だから、びっくりしてあんなこと言って、本当にごめんなさい。ちゃんと謝らなきゃって思ってたから」
「ポスターは捨てた?」
「まだ部屋に置いてあるけど……、でもやっぱり恥ずかしいから捨てる」
「残念だな」
「……」
どういう意味の残念だろう。尋ねるか迷ったが、やめておく。彼はまともに私の質問に答えてくれない人だ。
「一真が言ってたお願いが何か想像もつかないけど、私がお役に立てるとは思えないの」
話題を変えた。すると、白夜くんは私の全身をスッとほんの一瞬眺めた。
え、何?
彼の感情のない視線の意味がわからなくて、警戒心をあらわに胸元に手を当てる。
「一真は誰よりも紳士な男だから、そのワンピース姿を見たって動揺しないだろう」
「……どういう意味?」
「一真は話し相手が欲しいだけだ。アルバイト料は今の倍出すつもりらしい」
「お願いって、白夜くんの家で一真とおしゃべりするアルバイトだっていうの?」
「まあそんなところだろう。来ればわかる」
全く理解できない。余計に意味がわからなくなる私に、それ以上の説明は必要ないとばかりに、白夜くんは無言で歩き続けた。
アルバイトを終え、鳥居をくぐり出た私を石階段の下で待っていたのは、白夜くんただ一人だった。
一真はいないのだろうかと戸惑いながら白夜くんに近づいていく。それに合わせ、彼は無言で私に背を向けて歩き出す。
今日は夏日のように暑いのに、白夜くんはグレーのストールをしている。黒パンツに、グレーの七分袖シャツは品の良さを感じさせるもので、ストールもよく似合っている。しかし、気候には合っていないと不思議に思いながら彼についていく。
「一人?」
私がそう尋ねるのに対し、小さなため息を吐き出した彼は肩をすくめる。
「美鈴を家まで連れてくるように、一真に言われて迎えに来た」
その言葉には違和感を覚える。一真は白夜くんの代わりになんでも引き受ける人だ。彼に命令するなんてありえない。よほどのことが一真の身に起きているのだろうか。だとしたら、私が行って何ができるというのだろう。
「……家って、白夜くんの?」
ついていって大丈夫なのだろうかと、不安になる。私の持つ警戒心が伝わったのか、白夜くんは振り返って薄く笑う。
「御守り、買ったんだ?」
「え……、ああこれ? 彩斗美が御利益あるからって」
突然、そう問われて驚く。白のショルダーバッグにつけたピンクの御守りは、ついさっき彩斗美に勧められて購入したものだ。
「商売上手な巫女だな」
「彩斗美はしっかりしてるから。私は御利益があればいいなーって思って買うだけなんだけど、白夜くんは迷惑じゃなかった?」
「安哉の名前でも書く?」
質問に質問で返してくる。私の話など聞いてないみたいだ。
「書かないわ……」
「まあそうか。結婚するってわかってる相手の名前なんて書かないよな。こういうものは大抵、結ばれない相手の名前を書くものだ」
「持ってるだけで良縁に恵まれるらしいから。縁結びの神の御利益は恋愛成就だけじゃないと思ってるの」
むしろ御守りを開ける人の方が少ないだろう。一真に説明したようなことは、彩斗美もよほどの相手でなければ話さない。基本的には良縁に恵まれたい人が購入していく御守りだ。
白夜くんは坂道を登る。彼の自宅に向かっているのだとしたら、私の自宅とは真反対の方角にあるようだ。
「白夜くん、昨日のことなんだけど、言い過ぎたと思ってるの。ごめんね……」
「気にするな。俺も悪かった」
白夜くんが謝るなんて、と意外だと驚く。彼に持っていた印象が、もしかしたら間違っていたのかもしれないと思い始める自分がいる。
「……ポスターのことは、私が勝手にすごく恥ずかしく思ってるだけなの。だから、びっくりしてあんなこと言って、本当にごめんなさい。ちゃんと謝らなきゃって思ってたから」
「ポスターは捨てた?」
「まだ部屋に置いてあるけど……、でもやっぱり恥ずかしいから捨てる」
「残念だな」
「……」
どういう意味の残念だろう。尋ねるか迷ったが、やめておく。彼はまともに私の質問に答えてくれない人だ。
「一真が言ってたお願いが何か想像もつかないけど、私がお役に立てるとは思えないの」
話題を変えた。すると、白夜くんは私の全身をスッとほんの一瞬眺めた。
え、何?
彼の感情のない視線の意味がわからなくて、警戒心をあらわに胸元に手を当てる。
「一真は誰よりも紳士な男だから、そのワンピース姿を見たって動揺しないだろう」
「……どういう意味?」
「一真は話し相手が欲しいだけだ。アルバイト料は今の倍出すつもりらしい」
「お願いって、白夜くんの家で一真とおしゃべりするアルバイトだっていうの?」
「まあそんなところだろう。来ればわかる」
全く理解できない。余計に意味がわからなくなる私に、それ以上の説明は必要ないとばかりに、白夜くんは無言で歩き続けた。
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