佐藤くんは覗きたい

喜多朱里

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スカートを覗きたい(前編)

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 ――思えばあの日、僕の心に覗きたいという欲望は目覚めたのだ。

 校舎の隙間を縫うように突風が駆け抜ける。

「わわっ……!」

 前を歩く有村さんが、慌ててスカートを押さえ込んだ。
 しかし押さえたのは前側だけだったので、後ろ側はひらりと舞い上がった。

 僕の目に入ったのは、野暮ったいパンツだった。
 厚手の生地で臍辺りから太腿に掛かるようにすっぽりと覆っており、身体のラインがほとんど見えない。地味な紺色で色気の欠片もない。クラスのアイドルと呼んでも良い有村さんのパンチラを拝めた筈なのに、興奮するどころかすっかり萎えてしまった。

 僕は有村さんが振り返る気配を感じ取って、反射的にスマホを取り出す。まるでずっとスマホを見てましたよ、というポーズを取ってあたふたする有村さんの横を無言で通り過ぎていく。

 その日の夜、僕はあの野暮ったいパンツはなんだったのか調べて、それがサニタリーショーツと呼ばれるもので生理中に穿くものだと知って――赤い顔をした有村さんを思い出しながら夜の独り大運動会を開催した。


    *


 昇降口から生徒が溢れ出す。
 帰宅部であろう彼らは、校門を抜ければ一瞬で学生の本分を忘れ去ってアルバイトや遊びに精を出すのだろう。あるいは真逆でこれから塾に行って更なる勉学に励むのかもしれない。
 僕は下校の様子を教室棟二階のベランダから眺めて溜息をついた。

「さっむい、寒暖差がエグ過ぎるだろ」

 校舎の間を吹き抜ける冷たい風に身震いする。手すりの上で組んだ腕に首を埋めるように背中を丸めた。
 先週まで夏日が続いていたのが嘘のように今週は冷え込んでいる。十月からの衣替えに愚痴っていた連中も揃って口を閉じていた。

「すっかり秋だなー」

 昇降口前の大きな銀杏の木が綺麗に黄葉しており、風に誘われた落ち葉が排水溝に溜まっていた。遠くの山々に目を移せば鮮やかに色付いた秋模様が広がっている。
 帰宅部の僕が一人で学校に残っている理由は、四季の移り変わりを嗜む風流人であるから――なんてことはもちろん有り得ない。

「佐藤くん、教室の電気、消しちゃって大丈夫?」

 名前を呼ばれて振り返ると、クラスメイトの有村さんが教室の窓から上半身を乗り出して手を振っていた。

「ああー……うん、大丈夫」
「分かった! それじゃあ消しとくね!」
「ありがとう」

 話は終わったと思ったが、有村さんはまだ窓枠に寄り掛かったまま笑顔を向けてくる。
 そんなに眩しい笑顔で見詰め続けられていると、陰キャを極めた僕には耐えられない。無意識に目線を逸らしていた。

「佐藤くんって帰宅部だったよね、誰か待ってるの?」
「誰かというより、家の鍵を持ってくるのを忘れたから、家族が家に着くまで少し時間を潰してるんだ」
「あちゃー、それは災難だったねぇ。わたしも小学生の時に同じことしたことあるよ! あの頃はスマホも持ってなかったし、暗くて寒いし、ママが帰ってくるまで寂しかったなー」
「小さい時だと余計に怖いよね。あれ? そういえば有村さんも帰宅部じゃなかった?」
「うん、今日は美化委員で球根植えがあるの」
「大変だね」
「好きでやってるから!」
「好きかどうかと大変かどうかは別だから、有村さんはすごいと思うよ」
「すごい……?」

 きょとんとする有村さんに僕は首を傾げた。

「変なこと言ったかな? 好きだったら大変なことも楽しめるって僕にはできない考え方だからすごいなーと思ったんだけど」
「ううん、ありがと。……それじゃあ、わたしは委員会に行ってくるね!」

 有村さんは少し慌てたように教室を飛び出していった。
 僕は控え目に手を振り返した。

「うーん、まだまだ時間があるな」

 制服の胸ポケットからスマホを取り出して時刻を確認すると、家族が自宅に帰り着くまでにはまだ一時間以上あった。
 バッテリーを見れば残り8%。
 ソシャゲーかWEB小説で時間を潰そうと思ったのだが、これだとすぐに電池が切れてしまうだろう。

「いっそ、手伝うって言えばよかったかな?」

 銀杏の木の向こう、渡り廊下に有村さんの後ろ姿が見えた。ぱたぱたと小走りで遠ざかっていく。

「んーっ!?」

 風に煽られてスカートが舞い上がり白く引き締まった太腿が露わになる。
 もう少し屈み込めばスカートの中まで覗けそうだったが、有村さんは既に通り過ぎてしまっていた。
 僕は挙動不審になってきょろきょろと周囲を見回した。

「……まさかこんな場所があったなんて」

 教室棟は他の校舎よりも少しだけ低くなっており、二階のベランダからだと各校舎を繋ぐ渡り廊下はちょうど肩辺りの位置に来る。渡り廊下は壁がなく転落防止柵で囲まれているので、教室棟からだと渡り廊下を歩く人を柵の隙間から見上げられるのだ。
 渡り廊下側からだとちょうど銀杏の木の枝によって教室棟の今まさに僕が立っている辺りは死角になる。
 つまりこの場所は、絶好の覗きスポットになっていた。
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