セイギの魔法使い

喜多朱里

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ミンナニハナイショダヨ

 鬱蒼とした森の中をアルベルトは全力疾走していた。
 足は重く、呼吸するのも苦しい。それでも足を止めるわけにはいかなかった。少しでも速度を緩めれば、耳障りな翅音が近付いてくる。

「ちっくしょー! なんで街から近い森にこんなキラーワスプが大量発生してるんだよ!」

 冒険者成り立ての『初心』等級御用達である薬草採取依頼を受けただけなのに、中級冒険者の死亡例すらある危険な魔物――キラーワスプと遭遇してしまった。

 冒険に危険は付き物だが、初心の冒険者が向かう場所は定期的に安全確認が行われている。危険な魔物が居れば討伐されるし、地図は細かく書き込まれたものを支給される。ある程度の経験を積んだ冒険者の死は自己責任で冷たく切り捨てられるが、将来の可能性を残したニュービーにはとことん優しいのが冒険者ギルドという組織だ。

 アルベルトは疲労の溜まった足がもつれて木の根で転んでしまう。
 立ち上がろうしたが、頭を強く押さえ付けられて前のめりに突っ伏した。

「魔法使いのようだが、よくぞここまで我が子らより逃げおおせたものよ」

 口の中に入った土と草を吐き出して顔を上げれば、妖艶に微笑む女の顔が見えた。

「……クイーンワスプ」

 女の背には一対の翅。片足をアルベルトの頭に乗せながら空中で足を組んでいる。キラーワスプ達の女王であり高い知性を持つ危険な魔物だ。
 クイーンワスプの足がアルベルトのフードを取り払う。

「あら、綺麗な顔をしているじゃない。ただ餌として消費するのは勿体ないわね」

 まるで舌で舐め回すように足先で額や頬を撫でてきた。
 キラーワスプの生態はよく知られている。彼らは人間を餌にする以外にも、長期的な栄養源として利用するために生きたまま巣へと持ち帰ることがある。クイーンワスプの性奴隷として扱われたり、次世代の苗床として幼虫に内側からゆっくりと貪り食われる未来が待っているのだ。

 四方八方から羽音が聞こえてくる。追手のキラーワスプの群れに囲まれていた。
 アルベルトは完全に逃げ場を失い絶望の未来が待つ中でニヤリと笑った。

「人間、もう壊れてしまったの?」
「俺は前世から守備範囲が広くてね、モン娘とかもいける口なのさ。蜂の擬人化ジャンルも履修済みだぜ。あんたみたいな人間に近い顔に触覚が生えてて女体なら必要条件を満たしてるね」
「何が言いたいか分からないわね。でも可愛がるのはやめることにするわ。気狂いを#愛__め__"でる趣味はないの」
「つれないことを言うなよ、俺はお前で抜けるぜ!」

 手の平をクイーンワスプに向けてかざす。

「最高で最期の絶頂をくれてやる――【三千倍世界】!」
「なにを――ひゃぁぁぁぁんんんッッ!!!!」

 ただ身振りをして風に当てられただけで嬌声を上げる。
 一瞬にしてクイーンワスプの全身を性感帯へと変えた上で感度を3000倍にする。偉大なるエロゲのご都合展開より授けられた能力の一つだ。
 アルベルトは快楽に悶えるクイーンワスプの足を振り払い立ち上がった。その接触だけで全身をビクンビクンと震え上がらせる。

 女王蜂の危機にキラーワスプが動き出すが既に手遅れだ。
 地面に両手をつけて無数の触手を召喚した。この触手はアルベルトの性的対象には紳士的に愛撫やズッコンバッコンを決めるが、それ以外の邪魔者には容赦なく凶器と化す。

「俺がターゲットに決めた相手との行為に何人たりとも介入できない」

 エロシーン突入を妨害するモブなんて死んで当たり前――そんなお約束を概念付与された触手の戦闘能力は恐るべきものである。
 瞬く間にキラーワスプは薙ぎ払われて、森に静けさが戻った……なんてことはなく、女王蜂は触手に弄ばれてアンアン元気に喘いでいる。どうやら意識が飛ばないギリギリのラインを責め続けられているようだ。

 アルベルトの思念を受け取った触手が責めの手を止める。
 【三千倍世界】の出力を弱めると、女王蜂の強張っていた身体から力が抜けて広がりっ放しの翅が閉じた。呼吸を整える息遣いすらも艶めかしく、口元からは涎が垂れ流しになっていた。

「はぁはぁはぁ……こんなっ、ああっ、人間如きにこの私が……っ!」

 クイーンワスプはかろうじて正気を保っていた。アルベルトを睨み付ける
瞳には女王としてのプライドが宿っている。
 笑い指をパチンと弾いた。
 それを合図に触手が女王蜂の四肢を絡め取る。両手を高く掲げるように持ち上げて手首に巻き付いた。両足は大きく開脚させて人間と同じ位置にある陰部がアルベルトの前に晒される。

 何匹ものキラーワスプを産み落とした女王の熟した身体は、蠱惑的な魅力を纏っていた。目の前に突き出された女性器からは、むせ返りそうになるほどのメスの匂いを漂わせている。

「絶景だな」
「くぅっ……なんという屈辱っ!」

 アルベルトは不敵に笑う。
 既に立場は逆転しているが女王の心はまだ折れていない。強がる相手を屈服させるのも嫌いではなかった。

「いただきます」

 アルベルトは本日のオカズとなる憐れな生贄に感謝を捧げた。
 それと一緒に内心で神様に中指を立てた。


    ***


 アルベルト・ハルフォードは転生者である。
 前世は日本人で社畜を極めた結果、誰も看取る者がないまま過労死を迎えた。
 彼を憐れんだ神様は、奴隷にはならない立場――ハルフォード伯爵家の次男という有力な貴族の来世を用意した。暴力による理不尽に屈することのないように、強力で特別な力転生チートを授けた。力の使い方が分からないで苦労しないように、彼自身が最も情熱と時間を捧げたものに関する力を選んだ。

 最も情熱と時間を捧げていたものとは、仕事でくたびれた彼が毎日のように漁った数々のオカズ、そして夜の独り大運動会であった。
 神様の授けた力の名を“性技魔法”という。
 AV、成年漫画、エロゲ――成人向け創作物に登場する物や能力を再現できるR18指定能力である。

 アルベルトは思う。
(便利でとても強力だよ? でもね人前で使うには困る能力ばっかりなんですけど?)
 そして唯一にして最大のデメリットがあった。
 性技魔法は性的欲求を満たすことを目的あるいは付随しなければまともに発動できないのである。
 発動すれば乱痴気騒ぎの始まりだ。そんなヤバい能力を使う奴の仲間になりたい人なんて……割とたくさん居る気もするが、まともな神経をしている人は無理だろう。

 この世界の魔法は一人につき一つ固有魔法だけ。
 アルベルトはそれが性技魔法だった。
 魔法使いなのに固有魔法は人前で使えず、はたから見れば魔法の基本である魔力制御をまとめた基礎魔法しか使えない落ちこぼれとして扱われるのだ。

 恵まれた貴族の立場も様々な不幸が重なったからとはいえ、性技魔法への傾倒が決定打となり追放されることになった。
 そして現在、アルベルトは故郷であるクレスト王国の王都ホルンを旅立ち――放浪の末に辿り着いた境界都市ロマエルカでその日暮らしの冒険者をやっていた。
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