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白蛇は尊き陽を望む
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白萩様に事情を説明し一度自室に戻った所で俺はいつの間にか膝を付いていた。
「またやってしまった」
ぼんやりした頭を起こすべく軽く首を振った。身体が軋む音を上げる。
これは俺の身体が小さな時からの癖だ。活動限界が近づくと糸の切れたおもちゃの様に座りこんで寝てしまう事があった。兄二人にはよく笑われたものだ。
白萩様の社は寝食をとても大事にする。食べ物は旬の物を食し、睡眠の時間もたっぷりと取る。そもそも神や神使いの原動力は寝食にはないが人と同じようにするのがあの方のモットーなのだ。神によっては眠る事はしても食事はしないものはいるし、逆もまた然り。それならば俺のこの症状は何なのかと考えるとやはり心的状況によるものだと思った。天と触れ合い少し落ち着いたと思ったがどうやらそうでもないらしい。
この黒い靄は俺と非常に相性が良い。
顔でも洗って目を覚まそう。立ち上がろうと力を込めた右足からズブズブと靄が広がった。
そして、唄が聞こえてくる。
「!」
相性が良過ぎるにも程がある。呼ばれているが正解なのか。俺は抵抗も虚しく闇の中に引きずり込まれた。
一歩足を踏み出すと跳ねた水が俺を濡らした。気持ちが悪い。夜目が利く俺でも暗くてはっきりとは見えないが粘着質で時折ドロっとしている。何より悪臭が鼻につく。似ている。いや、知っているとしか言えない。
「ここは・・・壺の中なのか」
反響するこの闇の中で唄はまだ続いていた。
男とも女とも言えないような無数の声がする。耳を塞いでも聞こえる音は最初確かに唄だったはずだがいつの間にかそれは壺の中で効いた悲しい、虚しい話の様に聞こえてくる。
あそこには二度と戻りたくないと思っていたのに俺は易々と同調してしまった。気分が悪い。しかも頭も痛い。しかしこの痛みは俺の痛みではない。天の痛みだ。
俺は天に危険が及ぶ時自分にもそれが分かる様にサイレンを付けた。
「天・・・天が危ないのか」
天はどこにいるのだろう。自分の事など二の次だ。天の居場所を探そう。例え彼から拒まれようと天を守る事だけは嫌われようとやり遂げなければいけない。天の声に意識を集中させる。沢山の声が邪魔をする。手繰り寄せては邪魔をされどれだけそれを繰り返しても諦めなかった。
「これか」
天の声は唄の一つと共にあった。
唄は俺を呼ぶ声だった。意味は簡単だった。不幸を、憎む全てに不幸をばら撒け。
クソみたいな唄だ。こんなもので神を呼べる訳ない。訳ないが今回はそれがいち早く天の元に行ける方法なら乗ってやろう。
「馬鹿げた唄だが侮れない」
唄は契約に等しかった。術者が強ければ俺は飲み込まれるかもしれない。気を強く持つよりも厳しい拘束力に打ち勝てるか。一か八か。俺は歩み出した。
それは深い海を歩くようだった。
唄に煽られて俺の感情は揺さぶられる。随分と歩いているのに近づいては押し戻されを繰り返している。気が遠くなるし身体も鉛の様に重かった。それでも天の元に行きたい。あの子が俺の事を友として愛してくれても彼は俺の大切な者に愛すべきものに変わらないから。
俺は前を向き声を辿る。すると周囲が不意に明るくなった。青紫の光が浮かび、方々から聞こえた声は今男の物だけになっている。
「どうせ死ぬなら千雪に迎えに来て欲しい」
聞こえてきた声を否定する。死なせるものか。死なせる為に会うんじゃない。
声の方角へ走り抜けた。
「またやってしまった」
ぼんやりした頭を起こすべく軽く首を振った。身体が軋む音を上げる。
これは俺の身体が小さな時からの癖だ。活動限界が近づくと糸の切れたおもちゃの様に座りこんで寝てしまう事があった。兄二人にはよく笑われたものだ。
白萩様の社は寝食をとても大事にする。食べ物は旬の物を食し、睡眠の時間もたっぷりと取る。そもそも神や神使いの原動力は寝食にはないが人と同じようにするのがあの方のモットーなのだ。神によっては眠る事はしても食事はしないものはいるし、逆もまた然り。それならば俺のこの症状は何なのかと考えるとやはり心的状況によるものだと思った。天と触れ合い少し落ち着いたと思ったがどうやらそうでもないらしい。
この黒い靄は俺と非常に相性が良い。
顔でも洗って目を覚まそう。立ち上がろうと力を込めた右足からズブズブと靄が広がった。
そして、唄が聞こえてくる。
「!」
相性が良過ぎるにも程がある。呼ばれているが正解なのか。俺は抵抗も虚しく闇の中に引きずり込まれた。
一歩足を踏み出すと跳ねた水が俺を濡らした。気持ちが悪い。夜目が利く俺でも暗くてはっきりとは見えないが粘着質で時折ドロっとしている。何より悪臭が鼻につく。似ている。いや、知っているとしか言えない。
「ここは・・・壺の中なのか」
反響するこの闇の中で唄はまだ続いていた。
男とも女とも言えないような無数の声がする。耳を塞いでも聞こえる音は最初確かに唄だったはずだがいつの間にかそれは壺の中で効いた悲しい、虚しい話の様に聞こえてくる。
あそこには二度と戻りたくないと思っていたのに俺は易々と同調してしまった。気分が悪い。しかも頭も痛い。しかしこの痛みは俺の痛みではない。天の痛みだ。
俺は天に危険が及ぶ時自分にもそれが分かる様にサイレンを付けた。
「天・・・天が危ないのか」
天はどこにいるのだろう。自分の事など二の次だ。天の居場所を探そう。例え彼から拒まれようと天を守る事だけは嫌われようとやり遂げなければいけない。天の声に意識を集中させる。沢山の声が邪魔をする。手繰り寄せては邪魔をされどれだけそれを繰り返しても諦めなかった。
「これか」
天の声は唄の一つと共にあった。
唄は俺を呼ぶ声だった。意味は簡単だった。不幸を、憎む全てに不幸をばら撒け。
クソみたいな唄だ。こんなもので神を呼べる訳ない。訳ないが今回はそれがいち早く天の元に行ける方法なら乗ってやろう。
「馬鹿げた唄だが侮れない」
唄は契約に等しかった。術者が強ければ俺は飲み込まれるかもしれない。気を強く持つよりも厳しい拘束力に打ち勝てるか。一か八か。俺は歩み出した。
それは深い海を歩くようだった。
唄に煽られて俺の感情は揺さぶられる。随分と歩いているのに近づいては押し戻されを繰り返している。気が遠くなるし身体も鉛の様に重かった。それでも天の元に行きたい。あの子が俺の事を友として愛してくれても彼は俺の大切な者に愛すべきものに変わらないから。
俺は前を向き声を辿る。すると周囲が不意に明るくなった。青紫の光が浮かび、方々から聞こえた声は今男の物だけになっている。
「どうせ死ぬなら千雪に迎えに来て欲しい」
聞こえてきた声を否定する。死なせるものか。死なせる為に会うんじゃない。
声の方角へ走り抜けた。
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