不幸体質ですが、神様に溺愛されているので大丈夫です

紅茶緑茶ほうじ茶

文字の大きさ
51 / 55
白蛇は尊き陽を望む

27

しおりを挟む
「それで?どうでした?」
「何の話だ?」

届いた食料や日用品を確認していると眼鏡をくいっと上げた莫から投げかけられた話に意図を読みかね手を止めた。

「あっはっは。もちろん、あれですよ。白蛇様の愛しの君」

尋ね返した事を後悔して目録に戻る。

「いいでしょう?あんなに急な注文で用意したんだからちょっと位聞かせて下さいよ~。ラッピングだって一等力を入れたんですよ?どうでした?プロポーズは成功でしたか?」
「・・・好奇心は猫をも殺すって知ってるか?」
「いいえ。だってわたし鼠ですから」

人好きのする顔でに小さな耳を指して言った。鼠だから許されるわけではないぞ。

「最近の千雪様はどんな美女や神よりも美しく神気がみなぎっていると噂される位なのですよ!しかもそれがあの恋物語の人間だなんて。」
「恋物語?」
「あれ?知りませんか?てっきり身内から広めたから承知の上なのかと思いましたが、貴方が好意を寄せる者たちをバッサバッサと切り倒していて反感を買っていたから・・・白萩様が事情を話してそれを感動した有志が恋い慕う話を・・・」
「まっ・・・待て待て」

小さな体で大立ち回りを始める莫を止める。俺がなんだと?意味が分からない。俺に好意を寄せているものなどいたのか?その上白萩様は皆になんと言って黙らせたんだ・・・流石に嫌な汗が出てきた。

「えっ?まさか自分が大層おモテになっていた事も理解していらっしゃらない?」
「何をバカな事言ってるんだ?俺は悪神だったんだぞ・・・」
「本当に?噓でしょ?悪神だった話何年前の事ですか??わたし、貴方が可愛い女子に呼び出されたり、巨乳美女におっぱい押し当てられながら酌してもらってた事、すごい美男子にあご掴まれて囁かれてる所も嫌という程お見掛けしましたけど?」
「・・・・・・・・・・・・・・・覚えてない」
「鈍いレベルの騒ぎじゃないですよ・・・真実を口にしたら戦争でも起こるのでは?」

人違いだと思えたが莫がガタガタと震えだしここだけの話にしましょうと念を押された。

「まぁなにはともあれ。長年の恋が実り、恋仲になれたと・・・」

良かった良かったと頷く莫を横目に、これ以上つつかれるのを恐れて、手早く目録をチェックしてサインをした。「毎度!」と軽く返されそのまま出て行くと思ったがおまけと言われ手に何かを握らせられる。指を開くと現れたのは小瓶。中にはとろりとした液体が入っている。

「?」
「恋人になったら必要でしょ?」

飛んできたウィンクにまたいらぬ世話を焼かれた事を理解した俺は思わず名を呼んだが、彼は軽く笑いながら今度こそ出て行った。

俺はその小瓶の中身を苦々しく見つめながら天を思い浮かべずにはいられなかった。
中身の正体は潤滑油。

気が早過ぎではないだろうか。俺は彼の事を長年想ってきた。手放したくないし、誰かに手を出される事を考えただけで吐き気がするが、天は久々に再会してそういう気分になるのか?俺はいずれはそういう関係になりたいとは思うが、あの子は少し流されやすい所がある。無理強いはしたくかった。

どうしようと迷っていると人の気配がして咄嗟に袖に滑り込ませ忘れる事にした。

「ただいま・・・」
「白萩様?どうされたのですか・・・恵蘭様」

下駄をひっかけて扉を開けるとしおしおと萎えた白菜の様な白萩様が立っていた。そして少し身体をずらせば恵蘭様の姿が見え一瞬にして背筋を伸ばした。

「貴方にお礼をと思って伺ったのですが、何故かこの方私の姿が見えた途端逃げ出そうとしましたの」
「そんな訳なかろう・・・偶々じゃ・・・」
「私本日お邪魔すると先触れしましたよね?どこへ行こうとされていたのですか?」

恵蘭様・・・本当に白萩様には容赦がない。俺や他の物には穏やかなのだが長い付き合いだからか白萩様にはキツイ。白萩様もそれが分かってか触らぬ神に祟りなしと恵蘭様の対応を俺に任せる事が多い。・・・が、今日の来訪の知らせ受けてません。白萩様・・・逃げるなら逃げるでせめてフォローお願いします。

「申し訳ありません。客間へご案内しますが、先程業者が来た所で荷物が広がっています。すぐ片づけますので、もうしばしお待ちください」
「良いのです。千雪さんは私が来る事が分かっていればこういう事はなさらないわ。大方この方が伝え忘れていた所でしょう。乙幡おはた千雪さんを手伝っておあげなさい。それまで貴方は私を庭にでも案内してくださいな」
「・・・はい」

何でもお見通しの恵蘭様は自分の神使いに指示を与え、白萩様の腕を取ると出て行った。いつもながら鮮やかな手前だ。

「こちらの食料は御台所でよろしいですか?」
「あっ・・・あぁすまない。こちらだ」

恵蘭様の神使・乙幡は不機嫌そうな顔でこちらを睨んで言った。俺は昔からこの少女に嫌われいる。何かした覚えはなかったがさっきの莫との会話を思い出すと無意識に何かしたのかもしれない。高い位置に結い上げられた髪を見つめながら居心地の悪さを感じる。恵蘭様よりも小柄な子猫の様な少女は、見た目に合わず大量の物品を一気に持ち上げると俺の後ろに続いた。荷物は後で片付けようと端に置く様に頼む。用事が済めば主の元に戻るかと思っていたが腕を組みその場に留まっていた。

「俺は部屋の用意に行くが・・・」
「・・・」
「何か言いたい事があればはっきり言えば良い」

彼女の不機嫌に付き合う時間はない。しばしの沈黙の後彼女は小さな拳を突き出した。きつく握られた拳ではあったが俺を傷つけるモノではない様だ。今までにない行動にこれから噛みつかれるのではと訝しむと本日二回目、俺の手の中に何かがねじ込まれた。そして蚊の鳴くような声がした。

「・・・左近様に・・・」
「何だこれは」
「傷薬」
「左近兄さんに渡せばいいのか?」

まるで壊れたかの様に首を縦に振り続けたかと思うと一瞬で姿を消した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。 追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。 きっと追放されるのはオレだろう。 ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。 仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。 って、アレ? なんか雲行きが怪しいんですけど……? 短編BLラブコメ。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか? いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ? 2025年10月に全面改稿を行ないました。 2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。 2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。 2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。 2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。

処理中です...