カードゲームを持たされて異世界に送られた

お子様

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090 証書

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学者はアイザックさんの説得を諦め、こっちに戻ってきた。

「ふん。王太子殿下や姫様に縋っても無駄だというのに」
「え~と、ちょっと確認してました」
「確認だと?」
「ええ。貴方が偽物の可能性とか」
「失礼な! ……いや、そうだな、大事な事だ。
 お前の大事なカードを渡すのだからな」

おっと、意外にまともな所もあるみたいだ。
そうじゃなきゃ筆頭にはなれないか。

「それで納得出来たのかね?」
「はい。理解しました」
「それで、決心は付いたのかね?」
「……はい。お渡しします」
「うむ。よろしい」

周囲の人間全員が、目を見開いて驚いている。
俺が渡すと決めた事が意外過ぎたようだ。

「では渡せ」
「はい。ただし他人が持つ事が出来ないのです。それでも持っていきますか?」
「持てない?」
「はい。言っておきますが、私が決めた事ではなく、神様が決めた事です。
 なので『持てるようにしろ』とか言われても無理ですからね?
 『神と交渉しろ』というのも無理ですから。神様相手に交渉なんかしようとすれば、存在自体消されますよ。周囲の人間も含めてね……」
「むむ……では、布を敷くからその上に載せたまえ」
「どういう事ですか?」
「載せた布を持ち上げれば、持つ事なく受け取れるだろう?」

流石筆頭学者。考える事が違う。
よく瞬時にそんな事が思いつくなぁ。

学者は馬車の床に白い布を敷いた。
その上に俺がカードを置く……フリをして、止める。

「……何をしている。早く置かないか」
「置く前に。
 大事な物なので、取引した証書を作りたいのですが」
「証書だと? 私が信用出来ないと?」
「貴方を信用しても、貴方以外の人は会ってないので信用するのは難しいです。
 周囲の者が名声欲しさに盗むかもしれませんし、自然災害等で失う可能性も無いとは言えません」
「私が責任をもって管理する」
「ならばそれを証書にしても問題無いでしょう?
 ここには王太子殿下と姫様がいらっしゃいます。二人に証人になってもらい、署名してもらいましょう。
 ここまですれば、貴方が無理矢理持っていったという風評も流れませんよ?」
「……よかろう。書いてやろうじゃないか」

やっぱり風評が流れてたか。
これだけ強引なんだから、王様から何度か怒られているはずと予想したんだけど、ビンゴだったね。

アイザックさんに紙とペンを用意してもらう。
それを学者に渡す。

「私が書くよりも貴方に書いてもらった方が良いでしょう。
 無理矢理書かせたのでは?という疑いが無くなりますから」
「よかろう。書いてやろうじゃないか」
「文面は、そうですねぇ……
 『聖人様認定されているリョウスケよりソロモンカードを借り受けた。
  納得出来るまで研究後、返却する。
  万が一1枚でも紛失した場合、自身の責任において回収し返却する事を約束する。  
  どうしても発見・回収が出来なかった場合、責任を取り職を辞する。その場合もカードは返却する』
 これでどうでしょうか?」
「内容には問題無いな。無くす事など無いのだから」
「良かった。ではそのように書いてください」

学者は俺の言う通りに書いた。
そして最後に自身のサインを入れる。

俺はそれを受け取り、その下に俺の名前を書く。
それを王太子に渡しサインしてもらい、最後に姫様にもお願いする。

同じ物をもう一枚作成し、同じようにサインをする。
すると王太子がその2枚をズラして重ね、そこに簡易なサインをした。
なるほど、割り印か。こっちの世界にもあるんだな。

「完成したな」
「はい。1枚は貴方が、1枚は私が持っておきます。返却時に破棄しましょう。
 それで良い。では、カードを渡せ」
「了解しました」

俺は一枚一枚表裏を見せながら、布の上にカードを重ねて置いていく。
学者はどのカードも興味深そうに見ている。

最後のカードを乗せると、学者はカードを布で包む。
そして恐る恐る手に取るが、掴めた事に安堵し懐に収めた。

「ご苦労だった。調べた後に返却する。では邪魔したな」

それだけ言って、さっさと出ていった。自由だなぁ。

学者がベラム馬車に乗り込み走り去っていくのを見た後、すぐにアイザックさんにお願いする。

「馬車を出して! なるべく早く!」
「は、はい」

それを見てた王太子から詰問された。

「おい! あれで良かったのか?!」
「うん。しょうがないよ。あっ、ポーションのカードは1枚だけ残しておいたけどさ」
「そういう問題じゃない! 渡して良かったのか?!」
「あぁ、多分大丈夫じゃない?
 だって神様に『他人は使用不可、譲渡不可』って言われてたから。どうなるのかは知らないけど」
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