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幸せな結婚編-6
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ミイのアンチのオフ会で会ったタッチーも付き合いは続いていた。
秋子の家で行われる料理教室にはたまに会う間柄だったが、カフェに行こうと誘われた。しかも文花の近所のあのカフェに行きたいと言う。文花が十羽を疑うきっかけになったあのカフェだ。
「この道曲がるの? すごい細い道、これじゃ土地勘ないと無理だわ」
タッチーはしみじみとつぶやいた。
駅で落ちあい、タッチーと一緒にカフェに向かうが、複雑な田舎の細い道を歩きながらお互い顔を顰めた。
文花は相変わらず近所の連中からは白い目を向けられていたが、雑誌記者や警察、そして犯人もいなくなり、文花が犯人を捕まえたという報道もあり、以前よりは若干居心地は良くなった。もっとも近所でママ友などを作れる雰囲気はないが。
カフェに入り、パンケーキやサンドイッチ、フレンチトーストを注文した。
今日はタッチーも色々食べたい気分だといいたくさん注文した。文花もなんとなくそんな気分になった。
「サンドイッチ美味しい」
「場所は分かりにくいけど、味は最高じゃない」
タッチーは店員に笑いかけていた。
雑用係とは新しく仕事を始めた文花も気が張っていたらしい。久々にカフェにいて文花もリラックスしていたが。
「文花さん、ごめんなさい」
「え?」
紅茶を飲み、タッチーの不可解な謝罪に首を傾げる。
「作家さんの奥さんだったのね」
「そうよ。田辺哀夜って言う。別に隠してたわけじゃないんだけど」
あの事件が記事に載ってしまい、タッチーや華、ナオコにも文花が作家の妻である事が明るみになった。そういえば、華やナオコには、あの遊び人で有名でゲス不倫作家の妻ということで深く同情されたが、何故かタッチーは複雑な顔をしていた。
「私昔、昼出版でパートやってたの。もちろん作家さんに会う事なんて滅多になかったんだけど、打ち合わせに来た彼と…」
「もしかしてタッチー、夫と不倫を?」
突然頭をぶん殴られたかのようだった。殺人犯の十羽と対面した時よりショックを受けていた。
あれほど愛人について調べていたのにタッチーのついて全く気づかなかった事もショックだった。パンケーキなどはほとんど食べ尽くしてしまったが、すっかり食欲は失せてしまった。
「一度きりよ。こっちも相手も遊びだったと思う」
タッチーは深く罪悪感を持っているようだった。声は震えて今にも泣きそうな顔をしている。これ以上責める気分にはなれなかった。
「なるほど。遊びについては私も目を瞑ってたから、タッチーの事は気づかなかった」
遊びとはいえ許せない気持ちもある。しかし、わざわざこうして謝罪しに来たのだ。
「ごめんなさい。本当に。今日はどうしても謝罪がしたかったの」
「そう」
だんだんと文花も冷静になっていき、ゆっくりと紅茶を啜った。
愛人達で妻に謝罪しに来たものは一人もいない。タッチーはまだ、良心があるようだ。許せない気持ちも芽生えかけたが、水に流す以外の判断ができそうになかった。
「わかった。わざわざ謝りに来た女はあなただけよ」
「ごめんなさい」
「もう謝らなくていいから。私、夫の愛人について その後どうなったか、たまに調べたりするんだけど」
タッチーはハッとして顔を上げた。
「病気になったり、家庭崩壊したり、散々な目にあってるのよ。夫も実際こんな事件に巻き込まれちゃったしね…。私は、もういいのよ」
あとは神様に裁きを任せるまでだ。
「実は、占いの副業辞めようと思ってるの。ミイの死を見てしまって、ある日からずっと胸の奥が痛いの。それに占いでも結局殺人犯も見つけられなかったし」
タッチーの目は涙が溜まっていた。
「そうね。占いで犯人がわかったら警察は要らないわよね。むしろそんな能力があるなら、世の中の未解決事件も全部占いで解決して欲しいものね」
あの事件が解決後、ミイについては特に炎上しなかった。不倫された奥さんを追い詰めたのが動機の一端であり、犯人に同情の声も目立っていた。もちろん文花は十羽に同情しないが、ミイの極悪さに憤る気持ちだけはわかった。
死人を悪く言ってはいけない日本の文化もあり、事件解決後に発売されたミイが書いた電子書籍は特に話題にならず、熱心なファンらしい人のレビューが数件電子書籍販売サイトに載っているだけだった。
一方、占い師の桜村糖子は激しいバッシングを受けていた。事件の全貌が明らかになると、呪いで人殺しなどできない事が証明されたわけだ。
十羽と桜村糖子は何の面識もなかった。「念なんて感じなかった」と十羽は警察に語ってると言う。殺到していた桜村糖子の個人鑑定も全てキャンセルされ、テレビのレギュラー番組も降板になった。再び過去の顧客との金銭トラブルが明るみに出て週刊誌を賑わせていた。法では問えないかもしれないが、このバッシングで桜村糖子の社会的地位は滅茶苦茶になったようだ。
ミイの事も売名行為で利用していたのだったようだ。週刊誌によると桜村糖子は多額の借金を抱え困窮し、炎上ビジネスに手を出したのではないかと書かれていた。ネットでも桜村糖子の炎上はしばらく続きそうだった。同業者の醜聞を見てタッチーも何か思うところがあるのかもしれない。
「占いなんてみんなインチキね。タッチー、わざわざ謝りに来た事については、礼を言う。ありがとう」
「許してくれるの?」
文花はゆっくりと首を振った。
許すといえば、それは嘘になる。許したい気持ちをどこかへ預けるような感覚がした。
「でも、タッチーの事は嫌いじゃないし、よかったらまた秋子さんのところ来てよ。みんなでワイワイ料理するの楽しいし。タッチーも居たらみんな喜ぶよ」
タッチーはようやくホッとしたように表情を緩めた。
「文花さん、ありがとう。あなた、いい女ね。田辺さんがあなたを選んだ理由がわかる気がするわ」
タッチーの頬に涙が一筋溢れた。
秋子の家で行われる料理教室にはたまに会う間柄だったが、カフェに行こうと誘われた。しかも文花の近所のあのカフェに行きたいと言う。文花が十羽を疑うきっかけになったあのカフェだ。
「この道曲がるの? すごい細い道、これじゃ土地勘ないと無理だわ」
タッチーはしみじみとつぶやいた。
駅で落ちあい、タッチーと一緒にカフェに向かうが、複雑な田舎の細い道を歩きながらお互い顔を顰めた。
文花は相変わらず近所の連中からは白い目を向けられていたが、雑誌記者や警察、そして犯人もいなくなり、文花が犯人を捕まえたという報道もあり、以前よりは若干居心地は良くなった。もっとも近所でママ友などを作れる雰囲気はないが。
カフェに入り、パンケーキやサンドイッチ、フレンチトーストを注文した。
今日はタッチーも色々食べたい気分だといいたくさん注文した。文花もなんとなくそんな気分になった。
「サンドイッチ美味しい」
「場所は分かりにくいけど、味は最高じゃない」
タッチーは店員に笑いかけていた。
雑用係とは新しく仕事を始めた文花も気が張っていたらしい。久々にカフェにいて文花もリラックスしていたが。
「文花さん、ごめんなさい」
「え?」
紅茶を飲み、タッチーの不可解な謝罪に首を傾げる。
「作家さんの奥さんだったのね」
「そうよ。田辺哀夜って言う。別に隠してたわけじゃないんだけど」
あの事件が記事に載ってしまい、タッチーや華、ナオコにも文花が作家の妻である事が明るみになった。そういえば、華やナオコには、あの遊び人で有名でゲス不倫作家の妻ということで深く同情されたが、何故かタッチーは複雑な顔をしていた。
「私昔、昼出版でパートやってたの。もちろん作家さんに会う事なんて滅多になかったんだけど、打ち合わせに来た彼と…」
「もしかしてタッチー、夫と不倫を?」
突然頭をぶん殴られたかのようだった。殺人犯の十羽と対面した時よりショックを受けていた。
あれほど愛人について調べていたのにタッチーのついて全く気づかなかった事もショックだった。パンケーキなどはほとんど食べ尽くしてしまったが、すっかり食欲は失せてしまった。
「一度きりよ。こっちも相手も遊びだったと思う」
タッチーは深く罪悪感を持っているようだった。声は震えて今にも泣きそうな顔をしている。これ以上責める気分にはなれなかった。
「なるほど。遊びについては私も目を瞑ってたから、タッチーの事は気づかなかった」
遊びとはいえ許せない気持ちもある。しかし、わざわざこうして謝罪しに来たのだ。
「ごめんなさい。本当に。今日はどうしても謝罪がしたかったの」
「そう」
だんだんと文花も冷静になっていき、ゆっくりと紅茶を啜った。
愛人達で妻に謝罪しに来たものは一人もいない。タッチーはまだ、良心があるようだ。許せない気持ちも芽生えかけたが、水に流す以外の判断ができそうになかった。
「わかった。わざわざ謝りに来た女はあなただけよ」
「ごめんなさい」
「もう謝らなくていいから。私、夫の愛人について その後どうなったか、たまに調べたりするんだけど」
タッチーはハッとして顔を上げた。
「病気になったり、家庭崩壊したり、散々な目にあってるのよ。夫も実際こんな事件に巻き込まれちゃったしね…。私は、もういいのよ」
あとは神様に裁きを任せるまでだ。
「実は、占いの副業辞めようと思ってるの。ミイの死を見てしまって、ある日からずっと胸の奥が痛いの。それに占いでも結局殺人犯も見つけられなかったし」
タッチーの目は涙が溜まっていた。
「そうね。占いで犯人がわかったら警察は要らないわよね。むしろそんな能力があるなら、世の中の未解決事件も全部占いで解決して欲しいものね」
あの事件が解決後、ミイについては特に炎上しなかった。不倫された奥さんを追い詰めたのが動機の一端であり、犯人に同情の声も目立っていた。もちろん文花は十羽に同情しないが、ミイの極悪さに憤る気持ちだけはわかった。
死人を悪く言ってはいけない日本の文化もあり、事件解決後に発売されたミイが書いた電子書籍は特に話題にならず、熱心なファンらしい人のレビューが数件電子書籍販売サイトに載っているだけだった。
一方、占い師の桜村糖子は激しいバッシングを受けていた。事件の全貌が明らかになると、呪いで人殺しなどできない事が証明されたわけだ。
十羽と桜村糖子は何の面識もなかった。「念なんて感じなかった」と十羽は警察に語ってると言う。殺到していた桜村糖子の個人鑑定も全てキャンセルされ、テレビのレギュラー番組も降板になった。再び過去の顧客との金銭トラブルが明るみに出て週刊誌を賑わせていた。法では問えないかもしれないが、このバッシングで桜村糖子の社会的地位は滅茶苦茶になったようだ。
ミイの事も売名行為で利用していたのだったようだ。週刊誌によると桜村糖子は多額の借金を抱え困窮し、炎上ビジネスに手を出したのではないかと書かれていた。ネットでも桜村糖子の炎上はしばらく続きそうだった。同業者の醜聞を見てタッチーも何か思うところがあるのかもしれない。
「占いなんてみんなインチキね。タッチー、わざわざ謝りに来た事については、礼を言う。ありがとう」
「許してくれるの?」
文花はゆっくりと首を振った。
許すといえば、それは嘘になる。許したい気持ちをどこかへ預けるような感覚がした。
「でも、タッチーの事は嫌いじゃないし、よかったらまた秋子さんのところ来てよ。みんなでワイワイ料理するの楽しいし。タッチーも居たらみんな喜ぶよ」
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