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第一部
プロローグ
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この世で最も憎い女が目の前に転がっていた。死体として。
頭を殴られ、血を流して死んでいたが、どう見ても事故や自殺じゃない。
「どういう事?」
現場の状況から見て事故死でも病死でもなさそう。苦しんだ形跡もあり、殴られてから息絶えるまで時間があったのに違いないが。
公爵夫人のフローラ・アガター。気の強そうな見た目から、「毒妻」や「悪妻」という不名誉な二つ名もついていたが、こんな他殺体を見るのは初めてだった。
それでも全く動揺はしていなかった。夫の不倫を知った時の衝撃と比べればマシ。不倫は心の殺人だ。アレと比べれば幾らか良い方だ。
その証拠にフローラの顔は一ミリも動かない。無表情に固まっている。整った顔立ちなので、怖いぐらいの無表情だった。
肩にかかった黒髪を払う。この動作もいちいち品があり、さすが公爵夫人らしい。
フローラはこの他殺体について、色々と事情を調べられる事になるだろう。夫に執着し、愛人達を調べられた過去も、公になるだろう。フローラを犯人扱いする者もいるかもしれない。動機もある。アリバイはない。運の悪い事に夫の愛人調査をするために身体も鍛えていた。女の力でも鈍器を使えば、人を殺せるかもしれない。
それにしても、ここは公爵家の別邸だが、夫は愛人との逢瀬でよく使った場所。夫の不貞シーンが脳裏によぎり、一瞬心が折れそうになるが。
「いいえ。これから白警団に通報しましょう」
頭は冷静だった。死体現場から離れ、白警団に通報。間も無く大勢の人がやって来て事情を聞かれた。
「公爵夫人、一体どうしてこの家に?」
「夫の愛人を調べていたんです。殺された女、マムは夫の不倫相手でしたね」
全く表情を変えずに事実を述べる。
「調べてたって何で……?」
若い白警団の男は明らかに動揺していたが、もうどうでもいい。夫も犯人として疑われるかもしれないが、どうでも良い。見た目は美男子だが、猜疑心が強く、いつも保身に走る夫が人を殺せるわけがない。
「フローラ! これは一体なんだ?」
夫も登場。最悪な登場だ。一目散に死体に駆け寄り、号泣までした上、フローラを責め始めた。
張り詰めていた糸が切れた。ブツっと激しい音で。
「奥さん、どう言う事です? 事情を話してくださいよ」
白警団の若い男は、フローラへの疑いの眼差し。さっきよりもその疑惑が濃い。そもそも公爵家の不倫が公になり、貴族社会での評判も地に落ちるだろう。その事を思うと、再び切れそう。ブチ、ブチと切れる音が聞こえそう。
「せいせいしたわ」
思わずそう言っていた。
「夫の愛人が死んでくれてせいせいした。本当に良かったわ」
失言だったが、もう止められなかった。公爵夫人としての評判も回復不可能に違いない。
「ちょっ、フローラ! なんて事を言うんだよ! 答えろ! 何やってたか答えろ!」
夫は絶叫していたが無視。
おそらく自分が死んでも夫はあんな風に泣かないだろう。その事を思うとバカ笑いしたくなる。虚しすぎて。サレ妻の立場は、こんなにも惨め。
再び死体を見つめる。もう二度と動かない不倫相手は、天国にいるのか地獄にいるかは不明だが。フローラに不貞の罪を認め、謝罪する機会は永遠に失われてしまった。そう思うと、素直にこの状況も喜べない。別に犯人にも同意できない。
夫の愛人が殺された事なんて心底どうでもいいが、厄介事に巻き込まれた事は間違いないらしい。
頭を殴られ、血を流して死んでいたが、どう見ても事故や自殺じゃない。
「どういう事?」
現場の状況から見て事故死でも病死でもなさそう。苦しんだ形跡もあり、殴られてから息絶えるまで時間があったのに違いないが。
公爵夫人のフローラ・アガター。気の強そうな見た目から、「毒妻」や「悪妻」という不名誉な二つ名もついていたが、こんな他殺体を見るのは初めてだった。
それでも全く動揺はしていなかった。夫の不倫を知った時の衝撃と比べればマシ。不倫は心の殺人だ。アレと比べれば幾らか良い方だ。
その証拠にフローラの顔は一ミリも動かない。無表情に固まっている。整った顔立ちなので、怖いぐらいの無表情だった。
肩にかかった黒髪を払う。この動作もいちいち品があり、さすが公爵夫人らしい。
フローラはこの他殺体について、色々と事情を調べられる事になるだろう。夫に執着し、愛人達を調べられた過去も、公になるだろう。フローラを犯人扱いする者もいるかもしれない。動機もある。アリバイはない。運の悪い事に夫の愛人調査をするために身体も鍛えていた。女の力でも鈍器を使えば、人を殺せるかもしれない。
それにしても、ここは公爵家の別邸だが、夫は愛人との逢瀬でよく使った場所。夫の不貞シーンが脳裏によぎり、一瞬心が折れそうになるが。
「いいえ。これから白警団に通報しましょう」
頭は冷静だった。死体現場から離れ、白警団に通報。間も無く大勢の人がやって来て事情を聞かれた。
「公爵夫人、一体どうしてこの家に?」
「夫の愛人を調べていたんです。殺された女、マムは夫の不倫相手でしたね」
全く表情を変えずに事実を述べる。
「調べてたって何で……?」
若い白警団の男は明らかに動揺していたが、もうどうでもいい。夫も犯人として疑われるかもしれないが、どうでも良い。見た目は美男子だが、猜疑心が強く、いつも保身に走る夫が人を殺せるわけがない。
「フローラ! これは一体なんだ?」
夫も登場。最悪な登場だ。一目散に死体に駆け寄り、号泣までした上、フローラを責め始めた。
張り詰めていた糸が切れた。ブツっと激しい音で。
「奥さん、どう言う事です? 事情を話してくださいよ」
白警団の若い男は、フローラへの疑いの眼差し。さっきよりもその疑惑が濃い。そもそも公爵家の不倫が公になり、貴族社会での評判も地に落ちるだろう。その事を思うと、再び切れそう。ブチ、ブチと切れる音が聞こえそう。
「せいせいしたわ」
思わずそう言っていた。
「夫の愛人が死んでくれてせいせいした。本当に良かったわ」
失言だったが、もう止められなかった。公爵夫人としての評判も回復不可能に違いない。
「ちょっ、フローラ! なんて事を言うんだよ! 答えろ! 何やってたか答えろ!」
夫は絶叫していたが無視。
おそらく自分が死んでも夫はあんな風に泣かないだろう。その事を思うとバカ笑いしたくなる。虚しすぎて。サレ妻の立場は、こんなにも惨め。
再び死体を見つめる。もう二度と動かない不倫相手は、天国にいるのか地獄にいるかは不明だが。フローラに不貞の罪を認め、謝罪する機会は永遠に失われてしまった。そう思うと、素直にこの状況も喜べない。別に犯人にも同意できない。
夫の愛人が殺された事なんて心底どうでもいいが、厄介事に巻き込まれた事は間違いないらしい。
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