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第二部
面白い女編-1
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クロエのアトリエを後にしたフローラは、都の劇場へ向かい、蒸しケーキを配りながら聞き込みを続けた。
さすがにブリジッドとの接触は無理だったが、脚本家のアーロンにも再会し、あのスケッチを見せながらアリスについても聞いた。
「ああ、あのアリスちゃん……。親の七光で舞台に立って貰った事もあっったけど、とにかく無能。お母さんの操り人形……」
アーロンの評価はこうだった。他の黒子やエキストラにも聞いたが、アリスの評判は典型的な「つまんねー女」だった。
これは夫の好みにも外れる。一応夫にもアリスのことを聞き、ホテルに向かった。
相変わらず夫はホテルで過集中しながら仕事をしていたが、アリスのスケッチを見せると、何か思い出していた。
「知ってる、この子、ブリジッドの娘じゃん。アリスだ」
夫はブリジッドとの不貞中、アリスにも対面した事があるそうだが、とにかく間抜けで鈍臭く、母親の言いなりだったという。
「アリスはつまねー女だったよな。全くタイプじゃない。っていうか、俺も仕事で忙しいから、帰ってくれね?」
再び夫は原稿用紙に向き合い、フローラは話かける機会を失った。仕方がない。今日はこれで調査を終わらせて、公爵家に帰った。
ちょうど夕方だった。公爵家はフィリスも戻り、アンジェラと肉料理やスープを作っていたが、今日一日フローラも動きまわり、疲れていた。とりあえず二人にもアリスのスケッチを見せ、手がかりを共有。その後、仮眠した後は軽く夕食をとり、風呂に入ると、書斎に籠り、事件の手がかりをノートにまとめていた。
愛人ノートは相変わらず行方不明だ。二代目愛人ノートに事件の手がかりを書き込んでいく。
「結局、愛人ノートは今は誰が持っているのかしら?」
その事も疑問だった。パティが愛人ノートを盗み、アリスと結託し、元愛人達を脅していた事は間違いない。問題はそこからだ。
もし魔術師ルーナが犯人だとしたら、どこかで愛人ノートをパティ達から盗んだ事になる。
もしアリスが犯人なら、まだ彼女が持っている可能性もあるだろうが。
「正直あのノートが世間に公表されるのは困るのよね。まいったわ」
もう公爵家の地位や名誉は地へ落ちたようなものだが、あのノートが公になるのも大変だ。夫が書いた「愛人探偵」は、マムの事件をモデルにしたとはいえ、詳細はかなりマイルドに描いていた。
貴族社会は一枚岩ではない。今も夫を嫌ったり、逆に過剰に持ち上げて寄生してくる家もあったりする。その事を思うと、やっぱり胃が痛い。キリキリして眠れない。
そんな夜が更けている時だった。窓の外からは静かな鳥の鳴き声しか聞こえないと思っていたが、ガタン、ガタンと何かの物音が響き始めた。
「この音何?」
静かな公爵家では不釣り合いの音で、フローラは手燭を持つと、書斎から一階に降りた。薄暗い公爵家の廊下を歩きながら、また物音が響く。
パリン!
しかも客間の方から窓ガラスが割れる音も響き、フローラの肩が震える。そういえば、この公爵家はずっと主が不在だった。ずっと主は不倫の為、家に帰ってこなかったが、冷静に考えればおかしな状況だったと気づく。
「と、とにかくアンジェラやフィリスを起こしましょう」
本来なら夫に頼りたい所だが、向こうは仕事で缶詰め状況だ。今は使用人しか頼れない。フローラは足早に使用人の館の向かい、フィリスやアンジェラを起こした。
「奥さん、むにゃむにゃ……。クッキー食べたい~」
「ちょっとフィリス、起きて。変な音がするの!」
「奥さん、どうしたんです? とりあえず客間へ」
この中でアンジェラだけが冷静だった。防犯用の鉄バットを持つと、客間へ向かった。フローラはまだ夢の中にいるフィリスを起こしつつ、アンジェラに続いた。
「奥さん、客間の窓ガラスが割れてます!」
アンジェラは手燭を窓ガラスの方へ向けた。そこは本当にヒビが。石で割られたようで、室内にも小石が転がっていた。
「えー、マジですか!?」
これにはフィリスも目が覚め、田舎者らしく大騒ぎをしていた。
「何これ、泥棒!?」
「おちついて、フィリス。この状況だったら、多分犯人よ。事件がバレそうだと思って脅しに来たんだわ」
自分で言いながらもフローラの声が震える。確かに劇場での聞きこみは派手にやりすぎた。そろそろ犯人もアクションを起こす頃合いかもしれない。
そんな中、アンジェラだけが冷静だった。さすが長年公爵家でメイドをやっているだけある。
「こんなものも落ちてましたよ」
アンジェラは床から何か拾い上げてフローラに見せた。手紙だったが、書いてある事は酷かった。
「今すぐ事件から手を引けって何なの、この手紙は……」
フローラはそう言いながらも、これは手紙ではないと思う。脅迫状かもしれない。
「奥さん! これは事件ですよ!」
フィリスは大騒ぎだ。それでもこの事は白警団に言うつもりはない。パティを殺した犯人の脅迫だとしたら、受けてたつしか無い。
さすがにブリジッドとの接触は無理だったが、脚本家のアーロンにも再会し、あのスケッチを見せながらアリスについても聞いた。
「ああ、あのアリスちゃん……。親の七光で舞台に立って貰った事もあっったけど、とにかく無能。お母さんの操り人形……」
アーロンの評価はこうだった。他の黒子やエキストラにも聞いたが、アリスの評判は典型的な「つまんねー女」だった。
これは夫の好みにも外れる。一応夫にもアリスのことを聞き、ホテルに向かった。
相変わらず夫はホテルで過集中しながら仕事をしていたが、アリスのスケッチを見せると、何か思い出していた。
「知ってる、この子、ブリジッドの娘じゃん。アリスだ」
夫はブリジッドとの不貞中、アリスにも対面した事があるそうだが、とにかく間抜けで鈍臭く、母親の言いなりだったという。
「アリスはつまねー女だったよな。全くタイプじゃない。っていうか、俺も仕事で忙しいから、帰ってくれね?」
再び夫は原稿用紙に向き合い、フローラは話かける機会を失った。仕方がない。今日はこれで調査を終わらせて、公爵家に帰った。
ちょうど夕方だった。公爵家はフィリスも戻り、アンジェラと肉料理やスープを作っていたが、今日一日フローラも動きまわり、疲れていた。とりあえず二人にもアリスのスケッチを見せ、手がかりを共有。その後、仮眠した後は軽く夕食をとり、風呂に入ると、書斎に籠り、事件の手がかりをノートにまとめていた。
愛人ノートは相変わらず行方不明だ。二代目愛人ノートに事件の手がかりを書き込んでいく。
「結局、愛人ノートは今は誰が持っているのかしら?」
その事も疑問だった。パティが愛人ノートを盗み、アリスと結託し、元愛人達を脅していた事は間違いない。問題はそこからだ。
もし魔術師ルーナが犯人だとしたら、どこかで愛人ノートをパティ達から盗んだ事になる。
もしアリスが犯人なら、まだ彼女が持っている可能性もあるだろうが。
「正直あのノートが世間に公表されるのは困るのよね。まいったわ」
もう公爵家の地位や名誉は地へ落ちたようなものだが、あのノートが公になるのも大変だ。夫が書いた「愛人探偵」は、マムの事件をモデルにしたとはいえ、詳細はかなりマイルドに描いていた。
貴族社会は一枚岩ではない。今も夫を嫌ったり、逆に過剰に持ち上げて寄生してくる家もあったりする。その事を思うと、やっぱり胃が痛い。キリキリして眠れない。
そんな夜が更けている時だった。窓の外からは静かな鳥の鳴き声しか聞こえないと思っていたが、ガタン、ガタンと何かの物音が響き始めた。
「この音何?」
静かな公爵家では不釣り合いの音で、フローラは手燭を持つと、書斎から一階に降りた。薄暗い公爵家の廊下を歩きながら、また物音が響く。
パリン!
しかも客間の方から窓ガラスが割れる音も響き、フローラの肩が震える。そういえば、この公爵家はずっと主が不在だった。ずっと主は不倫の為、家に帰ってこなかったが、冷静に考えればおかしな状況だったと気づく。
「と、とにかくアンジェラやフィリスを起こしましょう」
本来なら夫に頼りたい所だが、向こうは仕事で缶詰め状況だ。今は使用人しか頼れない。フローラは足早に使用人の館の向かい、フィリスやアンジェラを起こした。
「奥さん、むにゃむにゃ……。クッキー食べたい~」
「ちょっとフィリス、起きて。変な音がするの!」
「奥さん、どうしたんです? とりあえず客間へ」
この中でアンジェラだけが冷静だった。防犯用の鉄バットを持つと、客間へ向かった。フローラはまだ夢の中にいるフィリスを起こしつつ、アンジェラに続いた。
「奥さん、客間の窓ガラスが割れてます!」
アンジェラは手燭を窓ガラスの方へ向けた。そこは本当にヒビが。石で割られたようで、室内にも小石が転がっていた。
「えー、マジですか!?」
これにはフィリスも目が覚め、田舎者らしく大騒ぎをしていた。
「何これ、泥棒!?」
「おちついて、フィリス。この状況だったら、多分犯人よ。事件がバレそうだと思って脅しに来たんだわ」
自分で言いながらもフローラの声が震える。確かに劇場での聞きこみは派手にやりすぎた。そろそろ犯人もアクションを起こす頃合いかもしれない。
そんな中、アンジェラだけが冷静だった。さすが長年公爵家でメイドをやっているだけある。
「こんなものも落ちてましたよ」
アンジェラは床から何か拾い上げてフローラに見せた。手紙だったが、書いてある事は酷かった。
「今すぐ事件から手を引けって何なの、この手紙は……」
フローラはそう言いながらも、これは手紙ではないと思う。脅迫状かもしれない。
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