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第三部
極悪恋愛小説家編-1
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夫はよっぽど合コンに夢中らしい。ついに公爵家に帰って来なくなった。これは合コンの女達を本格的に調べないと。
フローラは一人、王都の出版社に向かっていた。夫の担当編集者のネイトに会う為だ。本当はフィリスとも行きたかったが、また公爵家の皿を割りまくり、再びシスター・マリーの元で教育を受けせる事になったので、今日は一人だった。
空は綺麗な秋晴れだ。雲も淡く、風も心地いが、フローラの顔は無表情。目も死んでいた。
出版社に入ると、ロビーや廊下には新刊のポスターも多く飾ってあり、一目で一般企業ではない事が分かる。
パティの事件の時が魔術師の新刊本のポスターもいっぱい貼ってあったが、今は全部撤去されていた。代わりに恋愛小説のポスターの数が多い。実際売れているのだろう。何万部も売れている事が宣伝文句になっていた。モラーナの本のポスターもあり、営業部も力を入れているのだろう。
「しかしどれも似たような恋愛小説ばかりね……」
ポスターを見る限り、タイトル、あらすじ、表紙の絵などどれもよく似てる。夫は恋愛小説界隈で先駆者的な存在だったが、そのフォロワーが大量にいるらしい。モラーナもその一人のようで、どこかで見た事がある様なテンプレっぽい恋愛小説が多かった。
夫の恋愛小説など好きでは無いが、新刊のポスターを見ていると、モヤモヤしてしまう。急いで受付に行き、二階の応接室に通されると、ネイトが来るのを待った。
受付けの女性に出されたお茶やコーヒーをいただく。少しは落ち着いて来たが、やはり夫が合コンにハマっている現状を思い出すと楽しくない。左手の薬指にある結婚指輪も視界に入るのが辛くなってきた。
「お、奥さん……」
ちょうどそこにネイトがやってきた。相変わらずのボサボサ頭、安っぽいスーツ姿だったが、フローラを見ると、顔を青くさせていた。自分がしている事への自覚はあったらしい。
「ネイト、こんにちは。座ったら?」
フローラがおっとりと微笑むが、ネイトはより怖がっていた。ブルっと震えつつ、フローラの目の前のソファに座った。
「どういう事かしらね?」
「何の事でしょう」
「しらばっくれないで。合コンの事よ」
フローラはあえてフィリスから教えてもらった庶民風の言葉を使ってみた。ネイトはさっきよりも露骨に身を震わせてる。
「話してちょうだい」
フローラが死んだ目で言うと、ネイトは降参したらしい。事実を話しはじめた。
夫の仕事は順調だったが、あまりのも退屈な日々だったらしい。実際、原稿の中身も単調になり、ネイトが「合コンでもしよう!」と提案した。
「そう」
内心腹立たしいが、軽く流す。かえってネイトは顔が青くなっていたが。
「それで、他部者の編集者に頼んで、恋愛小説家のモラーナやその友達とセッティングして貰い……」
「そう」
そんな事だろうと思った。もはや驚かないが、呆れてはくる。
「女について知ってる事がある?」
フローラが身を乗り出し、ネイトに圧をかけた。
「し、知りませんよ! メイクアップアーティストのマリオン、小説家のモラーナ、学校職員のダリアってだけです! 三人はお嬢様学校からの友達だって事は知ってますが!」
何度か圧をかけたが、ネイトは本当にそれしか知らないらしい。モラーナも担当した事なく、今の担当者はブルーノという男だという事は教えてくれたが。
「まあ、あれは遊びでしょ。先生は誰にも本気にはなってなかった」
「本当?」
それは吉報だが、迂闊に喜べない。不貞の種は確実にある。
「奥さんも猜疑心強い。もう少し信頼したらどうでしょう?」
「た、確かに……」
それを指摘されると、フローラも反論できない。確かに今は疑い過ぎた。まだ愛人がいる証拠も何も無いのに。
「まあ、ここだけの話。モラーナの恋愛小説は、ちょっと王道過ぎるというか、売れ線寄せ過ぎで、つまらないですけど」
「そうなの?」
それは意外だ。フローラもコーヒーを飲みつつ、冷静になってネイトの話を聞く。
「うん、先生の二番煎じみたいな作品も多いですから」
「でも、人気作の後追い推奨するのは、編集者もよくやっている事では?」
夫は新人の時は、売れているものとそっくりな作品を作るよう言われたらしいが。
「編集者も売り上げ重視ですけどね。まあ、本音と建前は違うって事です」
「モラーナは業界内ではさほど評判が良くないのね?」
「まあ、そんな所です。モラーナを絶賛する文芸評論家は少ないでしょう」
それを聞いてフローラも何とも複雑だった。夫にちょっかいをかける女など無能であって欲しいが、一方でそんな女と気が合う夫の妻という立場も決して嬉しくない。
この後、モラーナの担当編集者・ブルーノにも会おうと思ったが、出張中で無理だった。
「これはモラーナについてあんまり調べるなって事ね」
言葉とは裏腹に気になった。モラーナの新刊にポスターを見つめながら、それでも気になる。モラーナの事はもう少し詳しく調べてみたくなり、書店に向かい、既刊も全冊購入し、公爵家に郵送して貰う事にした。
フローラは一人、王都の出版社に向かっていた。夫の担当編集者のネイトに会う為だ。本当はフィリスとも行きたかったが、また公爵家の皿を割りまくり、再びシスター・マリーの元で教育を受けせる事になったので、今日は一人だった。
空は綺麗な秋晴れだ。雲も淡く、風も心地いが、フローラの顔は無表情。目も死んでいた。
出版社に入ると、ロビーや廊下には新刊のポスターも多く飾ってあり、一目で一般企業ではない事が分かる。
パティの事件の時が魔術師の新刊本のポスターもいっぱい貼ってあったが、今は全部撤去されていた。代わりに恋愛小説のポスターの数が多い。実際売れているのだろう。何万部も売れている事が宣伝文句になっていた。モラーナの本のポスターもあり、営業部も力を入れているのだろう。
「しかしどれも似たような恋愛小説ばかりね……」
ポスターを見る限り、タイトル、あらすじ、表紙の絵などどれもよく似てる。夫は恋愛小説界隈で先駆者的な存在だったが、そのフォロワーが大量にいるらしい。モラーナもその一人のようで、どこかで見た事がある様なテンプレっぽい恋愛小説が多かった。
夫の恋愛小説など好きでは無いが、新刊のポスターを見ていると、モヤモヤしてしまう。急いで受付に行き、二階の応接室に通されると、ネイトが来るのを待った。
受付けの女性に出されたお茶やコーヒーをいただく。少しは落ち着いて来たが、やはり夫が合コンにハマっている現状を思い出すと楽しくない。左手の薬指にある結婚指輪も視界に入るのが辛くなってきた。
「お、奥さん……」
ちょうどそこにネイトがやってきた。相変わらずのボサボサ頭、安っぽいスーツ姿だったが、フローラを見ると、顔を青くさせていた。自分がしている事への自覚はあったらしい。
「ネイト、こんにちは。座ったら?」
フローラがおっとりと微笑むが、ネイトはより怖がっていた。ブルっと震えつつ、フローラの目の前のソファに座った。
「どういう事かしらね?」
「何の事でしょう」
「しらばっくれないで。合コンの事よ」
フローラはあえてフィリスから教えてもらった庶民風の言葉を使ってみた。ネイトはさっきよりも露骨に身を震わせてる。
「話してちょうだい」
フローラが死んだ目で言うと、ネイトは降参したらしい。事実を話しはじめた。
夫の仕事は順調だったが、あまりのも退屈な日々だったらしい。実際、原稿の中身も単調になり、ネイトが「合コンでもしよう!」と提案した。
「そう」
内心腹立たしいが、軽く流す。かえってネイトは顔が青くなっていたが。
「それで、他部者の編集者に頼んで、恋愛小説家のモラーナやその友達とセッティングして貰い……」
「そう」
そんな事だろうと思った。もはや驚かないが、呆れてはくる。
「女について知ってる事がある?」
フローラが身を乗り出し、ネイトに圧をかけた。
「し、知りませんよ! メイクアップアーティストのマリオン、小説家のモラーナ、学校職員のダリアってだけです! 三人はお嬢様学校からの友達だって事は知ってますが!」
何度か圧をかけたが、ネイトは本当にそれしか知らないらしい。モラーナも担当した事なく、今の担当者はブルーノという男だという事は教えてくれたが。
「まあ、あれは遊びでしょ。先生は誰にも本気にはなってなかった」
「本当?」
それは吉報だが、迂闊に喜べない。不貞の種は確実にある。
「奥さんも猜疑心強い。もう少し信頼したらどうでしょう?」
「た、確かに……」
それを指摘されると、フローラも反論できない。確かに今は疑い過ぎた。まだ愛人がいる証拠も何も無いのに。
「まあ、ここだけの話。モラーナの恋愛小説は、ちょっと王道過ぎるというか、売れ線寄せ過ぎで、つまらないですけど」
「そうなの?」
それは意外だ。フローラもコーヒーを飲みつつ、冷静になってネイトの話を聞く。
「うん、先生の二番煎じみたいな作品も多いですから」
「でも、人気作の後追い推奨するのは、編集者もよくやっている事では?」
夫は新人の時は、売れているものとそっくりな作品を作るよう言われたらしいが。
「編集者も売り上げ重視ですけどね。まあ、本音と建前は違うって事です」
「モラーナは業界内ではさほど評判が良くないのね?」
「まあ、そんな所です。モラーナを絶賛する文芸評論家は少ないでしょう」
それを聞いてフローラも何とも複雑だった。夫にちょっかいをかける女など無能であって欲しいが、一方でそんな女と気が合う夫の妻という立場も決して嬉しくない。
この後、モラーナの担当編集者・ブルーノにも会おうと思ったが、出張中で無理だった。
「これはモラーナについてあんまり調べるなって事ね」
言葉とは裏腹に気になった。モラーナの新刊にポスターを見つめながら、それでも気になる。モラーナの事はもう少し詳しく調べてみたくなり、書店に向かい、既刊も全冊購入し、公爵家に郵送して貰う事にした。
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