毒妻探偵〜サレ公爵夫人、夫の愛人を調べていたら殺人事件に巻き込まれました〜

地野千塩

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第三部

殺人事件編-4

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 寮長室から出たフローラは、まだ目が吊り上がっていた。やはり、夫の周りにいる女は変なのばかりだ。ブーメランになるのでこれ以上考えたくなかったが。

「奥さん!」
「フィリスお疲れさま」

 フィリスも聞き込みが終わったようで、校門のあたりで合流し、情報を共有した。ダリアの事を話すと、気の毒そうにされた。

「何で夫の周りにいる女は変のばっかりなのかしら……」
「お、奥さん! それはブーメランですよ!」

 フィリスは余計に気の毒そうにしていた。やはりこれ以上自虐はやめた。

 校門の辺りから歩道を歩き、商業地区を目指して歩きながらフィリスの聞き込みの結果も聞く事にした。

 昼過ぎという中途半端な時間で、歩道もさほど人はいなかった。

「ダリアは寮長先生としてかなり怖がられているみたい。何人も生徒を顎で使っていりという噂も掃除のおばちゃんから聞きましたよ。って言うか掃除のおばあちゃんや食堂のおばあちゃんともすっかり仲良くなっちゃった」
「そんな事はどうでもいいから。ダリアが顎で使ってるって本当?」

 それは少しイメージが違う。優等生タイプで中身は変な女のダリアだが、生徒を顎で使うだろうか。どうも違和感を覚えた。

「まあ、仕事はちゃんとしているんじゃないですか?」
「そうね……。他には?」
「掃除のおばあちゃん達、ダンスユニットを結成しているんだって! 例のあの秋の収穫フェスにも出るって!」

 フィリスはチラシを見せてきた。劇場で見たチラシとは違うデザインのものだったが、「最強BBAダンス軍団!」というグループ名に赤丸がついていた。

「これがその?」
「そうみたい。わあ、めっちゃ収穫フェス楽しみだわ」

 フィリスは呑気そうに語っていたが、これ以上聞き込みの成果もなかったらしい。また清掃も食堂も人手不足で大変らしく、常に求人を出しているから来て欲しいとも頼まれたという。

「奥さん、もし何かあったらこの学園に潜入調査しましょうよ」
「何かって何よ」
「事件ですよ! 探偵といえば潜入調査じゃないですか。うちの父もシェフや執事になって潜入調査やった事ありますよ」
「そんな事件なんて、起きないでしょ」
「いや、マムやパティの件もありますし。二度ある事は三度ありますって」
「縁起でもない事言わないでよ」

 そんな会話をしつつ、マムやパティの事件も思い出す。確かに前例にならうと、事件が起きてもおかしくはないが。

 フローラはブンブンと首をふる。

「そんな事件なんて起きませんよ」

 ちょうどそう言った時だった。目の前に白警団のコンラッドが歩いているのが見えた。偶然、ばったりと出会してしまった。

「げ、サレ公爵夫人とうっかりメイドじゃねぇか」

 コンラッドは明らかに嫌そうな顔を見せた。

 事件の話などしていたせいだろうか。あまり会いたく無い人物だ。そういえばこの辺りに白警団の本部もあった。偶然この辺りで出くわすのは、おかしいな事でもない。

「また夫の愛人調査でもしてるんだろ。懲りないな」

 コンラッドは鋭い目をさらに細くした。小馬鹿にしたような嫌な表情だったが、彼の勘は当たっているので否定はできない。

「すごい、コンラッド。コネで入った割にはよく分かりましたね!」

 フィリスは無邪気に笑っていたが、「コネ」という言葉はコンラッドにとって地雷ワードらしい。舌打ちし、顔を真っ赤にしていた。

「コネじゃなねぇよ! 確かに俺の血筋は騎士を輩出している所だが! 全くこっちは忙しいんだよ。麻薬の顧客リストが犯人のやつが紛失しやがって……」
「麻薬?」

 ここで黙っていたフローラも反応した。コンラッドも勘が鋭いと思われるが、フローラも夫の不倫で女の勘が鍛えられた。麻薬と聞いて何かピンとくるものがあったが、コンラッドは答えるはずもない。

「うるさいな! ド素人のサレ公爵夫人は黙ってろー!」

 コンラッドはそう吠えると、白警団の本部の方へ消えて行った。

「まったくいけすかない。奥さん、うちらで麻薬の件も調査してコンラッドをギャフンと言わせましょうよ」
「馬鹿言っているんじゃないわ。愛人調査はともかく麻薬はプロに任せましょう。それに今時ギャフンなんて言う人いませんって」

 フローラは呆れつつ、商業地区にある肉バルへ向かった。店主に聞くと、相変わらず夫はここで合コン三昧だという。

「まあ、奥さん。肉でも食べて忘れな」

 店主には深く同情され、分厚いステーキを奢ってもらった。これをフィリスと分け合って食べていると、少しは気が紛れてきた。

 今、夫の周りにいる女は三人。三人とも略奪宣言された。変な女ばかりで思い出すだけで不快だったが、肉を食べていると、この瞬間だけは忘れられた。さっき会ったコンラッドの事もすっかり忘れ、麻薬の事も思い出せなくなった。

「奥さん、美味しくないですか?」
「ええ、美味しいわね」

 フィリスの間抜けな笑顔を眺めながら、今は悪い事も全部忘れていた。
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