毒妻探偵〜サレ公爵夫人、夫の愛人を調べていたら殺人事件に巻き込まれました〜

地野千塩

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第三部

疑惑編-1

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 マリオンが何者かに暴行された。自害した可能性はゼロでは無いが、あの気の強い女が自分を傷つけるとは思えない。

 フローラは奥歯を噛み締めつつ、苦い表情を浮かべていた。ここは劇場の楽屋。現場から少し離れた所にある楽屋だが、ここから出られない。案の定、白警団の連中に疑われ、コンラッドが到着するまで待機しろと言われた。それでずっと待っているが、コンラッドが来る様子はない。気づくと、窓の外は夕暮れだ。雲も淡いオレンジ色に染まっていた。

 当然、祭りも中止だ。白警団が調べているらしいが、この騒ぎの中、マリオンを襲った犯人を見つけるのは難しいかもしれない。

 なぜか祭りに来ていた夫は大きなショックを受け倒れてしまった。病院に運ばれて手当てを受けているらしいが、今はどうでもいい事だ。

「ああ、マリオン。どうか助かって」

 フローラは一人祈っていた。マリオンは略奪宣言をした女だ。いわば敵みたいなものだが、死んでも良いわけがない。怪我もされても良いわけがない。

「でも犯人は誰?」

 祈り終えた時、ふと考えてみた。祭りにはマリオンの友達のモラーナ、ダリア、セシリーもいた。セシリーの夫のアドルフもいた。そう考えると、容疑者はこの中の誰かか。

 マリオンは仕事では優秀だと聞いた。仕事関係でのトラブルは無いだろう。逆恨みされている噂も聞いたことがない。

「フィリスの言う通りセシリーがモラーナに脅されていたとすれば? だとしたらマリオンも脅されていた可能性があるわね。だったら犯人はモラーナ?」

 脅しの件で揉め事件が起きたとなれば筋が通る。犯人はモラーナだ。もしかしたらダリアの可能性もあるが、動機は見えない。今のところモラーナが第一容疑者だ。それにセシリーの真似っこをし、夫を略奪しようとする極悪女だ。友達に暴行しようとしても不自然ではない。武器は灰皿を使っていたし、それを使えば女でも可能だ。

 計画性はなさそう。まさにカッとなり、突発的に及んだ犯行。脅しで揉めたたとたら、突発的な犯行も筋が通る。

 フローラは顎に手を添え、憶測を巡らせていた時。楽屋の扉が開いた。

「ひぇ! サレ公爵夫人、お前さんはなんていうメイクをしてるんだよ……」

 コンラッドが楽屋に入ってきた。フローラの顔を見て幽霊でも見たのようだ。無理もない。今のフローラは死んだマムそっくりのメイクをしていた。

「どうぞ、座ったら?」
「お、おお」

 いつもプライドが高そうなコンラッドだったが、さすがにマム顔のフローラには引いていりようだ。顔を引き攣らせ、椅子を出すと、フローラの目の前に座った。そんなコンラッドだったが、椅子には大股に座り、いつものように偉そうにし始めた。

「っていうか、またサレ公爵夫人かよ。もういい加減にしてくれよ。なんでお前がいる所ばかりに事件が起きるんだ? そてになんでまた第一発見者なんだよ」

 コンラッドは腐っても白警団の男だ。細く鋭い目をさらに光らせ、フローラを見つめていた。明らかに「疑ってるぞ」というサインだ。

 一方フローラは背筋を伸ばし、座り直した。その表情も毅然としたもので、一ミリも怖がっていない事を示していた。今はマム顔のフローラだったが、目は正気だった。

「マリオンは無事?」
「ああ、命には別状はないな。しかし精神的なショックも大きく、しばらく何も話せないらしいが」
「そう」
「被害者のマリオンを知ってるな? どういう関係なんだよ」

 コンラッドはさらに目を光らせる。ここで嘘は言えない。元よりフローラは嘘を言える性格でもない。夫の合コンから、モラーナ、マリオン、ダリアに略奪宣言され、調べていた事なども全部語った。モラーナがセシリーの真似っこをしている事やアドルフの事も一応言う。

 コンラッドは呆れるより引いていた。

「また愛人調査かよ。よくやるな、サレ公爵夫人」
「いいじゃないですか。無能な白警団と違って事件が解決する事もあるかもしれません?」

 この嫌味にはコンラッドも吠えた。

「無能じゃねぇよ。むしろお前達が邪魔してるんだろ! 悔しかったら事件を解決してみろー!」

 コンラッドは貧乏ゆすりもしていた。カタカナち靴音が楽屋に響くが、フローラは全く気にしない。いつも通りおっとりと貴族らしい笑顔を浮かべていた。

「きっと犯人はモラーナね。人の夫を奪おうとする極悪女ですもも。顔も芋臭いし、モラーナが犯人でしょう」
「単なる私怨だろー! 顔が芋臭いとか関係ねぇよ!」

 コンラッドはフローラの独特な推理にペースを乱され、さらに吠えてきた。唾は飛んでこなかったのは幸いだ。意外とその辺りは紳士的かもしれないが。

「私怨で推理なんてするなよ。これだからサレ公爵夫人は」
「あら、私は何度も夫に浮気されてるから勘だけはいいのよ」
「単なる勘だろ。証拠はあるのかよ。今、白警団が指紋などの情報を調べてるぞ。ど素人の公爵夫人が勝つわけがねぇ!」

 さらにコンラッドに煽られるが、フローラは無視し、おっとりと笑っていた。

「コンラッド、妻の勘はよく当たるのよ」
「単なる思いすごしだろ? 馬鹿じゃねぇ?」

 コンラッドに何を言われようと気にしない。夫の不貞と比べたら、全部ゴミみたいなものだ。こんな事件ももう三回目。慣れてきたところかもしれない。

「ふふふ、コンラッド。後でギャフンと言っても遅いわ」
「今時ギャフンなんて言うヤツはいないぞ、公爵夫人。あの田舎娘メイドに影響でもされたか?」
「ええ、そうかもね」
「まあ、マリオンが目を覚ましたらゆっくりと事情を聞けばいい。それはサレ公爵夫人にはできないだろう」

 コンラッドはドヤ顔をし、楽屋から去って行った。これからマリオンが入院している病院にも行くという。

 一人に残されたフローラは、うっすらと笑っていた。

「こんな事件だけど、調査してみますか。マリオンも助かったしね。犯人はあの極悪恋愛小説家のマリオンでしょう。そうに決まってるわ」

 フローラは自信たっぷりに呟き、公爵家に帰る事にした。
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