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第三部
疑惑編-5
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鉄板の上の肉は、ジュウジュウという音をたてていた。
あの後、フローラは肉バルへ来ていた。フィリスやアンジェラに事情を話そうと思ったが、二人ともお腹が空いたと騒ぎ、ここに来て肉を焼いていた。
ガーリックソースの香ばしい匂い。テーブルの上は肉がいっぱ。フローラ達の表情は溶けかけていた。つい先程、夫が警団に捕まった事が嘘のようだ。
「というわけで、夫が白警団に捕まっていったわ。どうしようかしらね」
フローラはそう言うと肉にタレを絡めて食べる。口の中が溶けそうなぐらい柔らかい。シンプルな味付けだが、肉の味自体がよく、いくらでも食べられそう。
肉バルは客で混み合い、店主も忙しそうだ。誰もが肉に夢中でこの場でも夫の話をしても大丈夫そうだ。肉バルの壁には夫のサイン色紙も飾ってあったが、誰も注目などしていない。
「えー、公爵さま捕まったんですか!」
フィリスは田舎者らしく目を丸くし、驚いてはいたが、肉を焼き続けていた。
「そうかい。マリオンは一体何を考えているんかね。いや、しかしこの肉はうまい。フィリスも奥さんのどんどん食べてしまおうじゃないか」
アンジェラも汗をかきつつ必死に肉を焼いていた。この様子だと夫について全く心配していないだろう。ふくよかな体型のアンジェラだがこまな食べるとさらに太りそうだが、フローラは放っておいた。フローラ自身の肉の味に癒され、止められなかった。
三人で夢中に肉を食べていると、夫が捕まった事など忘れそうになる。
「店長さん! もっと肉を持ってきて!」
フィリスももぐもぐと食べ続け、皿は空になり、若干興奮気味に注文をしているぐらいだった。
「まあ、次の肉が来るまで事情を全部話すわ。怪我しらマリオンは夫にやられたと証言しているらしい」
肉の美味しさに癒されながらも、そう言っているとフローラの表情は曇る。
「正直、マリオンがこんな証言した事が全く分からない。頭でもおかしくなった? 頭は実際殴られたわけだけど」
フローラは先程から「頭がおかしい」という言葉が気になっていたが、答えが出ない。二人に聞いてみれば何かわかるかもしれない。
「頭がおかしいか……。マリオンのやつ、薬でもやってたりして? あの痩せ方は異常じゃないですか?」
フィリスはさらっと推理していたが、その可能性は高そうだ。フローラはグラスの水を飲み、少々冷静になりつつ考える。マリオンは学生時代に激痩せしたという。その頃から薬をやっていた可能性はあるだろうか。
「そういえばコンラッドのやつ、麻薬の売人を見つけたけど、顧客リストは無いって言ってませんでした? その顧客がマリオンだったりして?」
「だったらフィリス。犯人は麻薬関係の売人じゃないか。マリオンと金銭的トラブルがあって殴ったんだ」
アンジェラの推理は一理あったが、どうも引っかかる。やはりあのモラーナ、ダリア、セシリーが気になる。アドルフだって怪しい。彼は元マフィアだ。
「もしかしたらマリオンもモラーナに脅されていた可能性ない? 薬の事がバレて」
フローラはふと思いついた事を口にした。セシリーもモラーナに脅されていた疑惑があった。マリオンがモラーナに薬の件で脅されていたとしてもおかしくない。
「大方マリオンもセシリーも薬をやってたんだろう。たぶん売人が元マフィアのアドルフだよ」
アンジェラは肉に夢中かと思ったが、その推理は筋が達る。
「私もアンジェラと同意見ね。たぶん、セシリーとモラーナは同じ理由で脅されていた。で、そんな事が世間にバレたくなくて、夫に濡れ衣を着せた」
フローラは深く頷くが、フィリスは苦い顔を露骨に見せた。
「奥さん、ダリアはどうです? 私はダリアだって怪しいと思いますよ。だって彼女だってフェスにいたの私も見ました」
フィリスはなぜかダリアにこだわっていた。
「私もダリアも見たわ。あんまり似合っていない妖精のコスプレしてたけど」
「そういえば私もダリアを見たね!」
アンジェラは何かを思い出したように、少し大きな声を出した。
「なんか一生懸命メモをとっているのを見た。なんでお祭りでメモ?」
アンジェラの証言は確かに謎だ。何のメモをとっているかは不明だが、怪しい行動だ。
「わー、セシリーもアドルフも全員怪しいよ!」
フィリスはきゃーきゃー大騒ぎしていたが、これまでの三人の推理は全て物的証拠がない。推理とは言えない憶測、想像、妄想と言われても反論できない。実際、コンラッドには「私怨だろ」と吠えられていた。
「ほいよ、お肉持ってきましたよ」
そこへ肉バルの店主が新しい皿を持ってきた。
「ねえ、ここに合コンに来てた女達ってどんな感じだった? 改めて何か気づいた事ない?」
フローラは身を乗り出し、店主に聞く。その右手にはチップも握らせた。店主はチップを見て「わー!」と驚いている。マムやパティの事件の時は菓子を配りながら聞き込みしたものだが、金も威力があるらしい。
「あいつら、表面的にはニコニコしてたけど、絶対仲良くはないよな。みんなタイプがバラバラだし、絶対何かあるよ。事件の鍵はあいつらが卒業した学園にあるんじゃないか? なんつってな! じゃあな」
店主はチップを見ながら笑顔。上機嫌で鼻歌まで響かせながら厨房の方へ去っていく。
三人は顔を見合わせた。
「鍵は学園?」
フローラは顎を触りながら考え込む。
「奥さん、これは潜入調査するべきでは?」
フィリスの声も上機嫌だ。好奇心いっぱいのキラキラした目を見せてくる。
「そうですよ、奥さん。私も学園に潜入調査したいぐらいだ!」
普段冷静なアンジェラもフィリスち同じような目を見せていた。
「奥さん、私達と一緒に潜入調査しましょう!」
フィリスの明るい声が響き、フローラも無意識に頷いていた。
今は夫に濡れ衣が着せられ辛い時期だ。それでも潜入調査と聞き、フローラの胸は跳ねていた。
マンネリな日常が懐かしいぐらいだ。今は危険な日常へ飛び込もうとしていた。
あの後、フローラは肉バルへ来ていた。フィリスやアンジェラに事情を話そうと思ったが、二人ともお腹が空いたと騒ぎ、ここに来て肉を焼いていた。
ガーリックソースの香ばしい匂い。テーブルの上は肉がいっぱ。フローラ達の表情は溶けかけていた。つい先程、夫が警団に捕まった事が嘘のようだ。
「というわけで、夫が白警団に捕まっていったわ。どうしようかしらね」
フローラはそう言うと肉にタレを絡めて食べる。口の中が溶けそうなぐらい柔らかい。シンプルな味付けだが、肉の味自体がよく、いくらでも食べられそう。
肉バルは客で混み合い、店主も忙しそうだ。誰もが肉に夢中でこの場でも夫の話をしても大丈夫そうだ。肉バルの壁には夫のサイン色紙も飾ってあったが、誰も注目などしていない。
「えー、公爵さま捕まったんですか!」
フィリスは田舎者らしく目を丸くし、驚いてはいたが、肉を焼き続けていた。
「そうかい。マリオンは一体何を考えているんかね。いや、しかしこの肉はうまい。フィリスも奥さんのどんどん食べてしまおうじゃないか」
アンジェラも汗をかきつつ必死に肉を焼いていた。この様子だと夫について全く心配していないだろう。ふくよかな体型のアンジェラだがこまな食べるとさらに太りそうだが、フローラは放っておいた。フローラ自身の肉の味に癒され、止められなかった。
三人で夢中に肉を食べていると、夫が捕まった事など忘れそうになる。
「店長さん! もっと肉を持ってきて!」
フィリスももぐもぐと食べ続け、皿は空になり、若干興奮気味に注文をしているぐらいだった。
「まあ、次の肉が来るまで事情を全部話すわ。怪我しらマリオンは夫にやられたと証言しているらしい」
肉の美味しさに癒されながらも、そう言っているとフローラの表情は曇る。
「正直、マリオンがこんな証言した事が全く分からない。頭でもおかしくなった? 頭は実際殴られたわけだけど」
フローラは先程から「頭がおかしい」という言葉が気になっていたが、答えが出ない。二人に聞いてみれば何かわかるかもしれない。
「頭がおかしいか……。マリオンのやつ、薬でもやってたりして? あの痩せ方は異常じゃないですか?」
フィリスはさらっと推理していたが、その可能性は高そうだ。フローラはグラスの水を飲み、少々冷静になりつつ考える。マリオンは学生時代に激痩せしたという。その頃から薬をやっていた可能性はあるだろうか。
「そういえばコンラッドのやつ、麻薬の売人を見つけたけど、顧客リストは無いって言ってませんでした? その顧客がマリオンだったりして?」
「だったらフィリス。犯人は麻薬関係の売人じゃないか。マリオンと金銭的トラブルがあって殴ったんだ」
アンジェラの推理は一理あったが、どうも引っかかる。やはりあのモラーナ、ダリア、セシリーが気になる。アドルフだって怪しい。彼は元マフィアだ。
「もしかしたらマリオンもモラーナに脅されていた可能性ない? 薬の事がバレて」
フローラはふと思いついた事を口にした。セシリーもモラーナに脅されていた疑惑があった。マリオンがモラーナに薬の件で脅されていたとしてもおかしくない。
「大方マリオンもセシリーも薬をやってたんだろう。たぶん売人が元マフィアのアドルフだよ」
アンジェラは肉に夢中かと思ったが、その推理は筋が達る。
「私もアンジェラと同意見ね。たぶん、セシリーとモラーナは同じ理由で脅されていた。で、そんな事が世間にバレたくなくて、夫に濡れ衣を着せた」
フローラは深く頷くが、フィリスは苦い顔を露骨に見せた。
「奥さん、ダリアはどうです? 私はダリアだって怪しいと思いますよ。だって彼女だってフェスにいたの私も見ました」
フィリスはなぜかダリアにこだわっていた。
「私もダリアも見たわ。あんまり似合っていない妖精のコスプレしてたけど」
「そういえば私もダリアを見たね!」
アンジェラは何かを思い出したように、少し大きな声を出した。
「なんか一生懸命メモをとっているのを見た。なんでお祭りでメモ?」
アンジェラの証言は確かに謎だ。何のメモをとっているかは不明だが、怪しい行動だ。
「わー、セシリーもアドルフも全員怪しいよ!」
フィリスはきゃーきゃー大騒ぎしていたが、これまでの三人の推理は全て物的証拠がない。推理とは言えない憶測、想像、妄想と言われても反論できない。実際、コンラッドには「私怨だろ」と吠えられていた。
「ほいよ、お肉持ってきましたよ」
そこへ肉バルの店主が新しい皿を持ってきた。
「ねえ、ここに合コンに来てた女達ってどんな感じだった? 改めて何か気づいた事ない?」
フローラは身を乗り出し、店主に聞く。その右手にはチップも握らせた。店主はチップを見て「わー!」と驚いている。マムやパティの事件の時は菓子を配りながら聞き込みしたものだが、金も威力があるらしい。
「あいつら、表面的にはニコニコしてたけど、絶対仲良くはないよな。みんなタイプがバラバラだし、絶対何かあるよ。事件の鍵はあいつらが卒業した学園にあるんじゃないか? なんつってな! じゃあな」
店主はチップを見ながら笑顔。上機嫌で鼻歌まで響かせながら厨房の方へ去っていく。
三人は顔を見合わせた。
「鍵は学園?」
フローラは顎を触りながら考え込む。
「奥さん、これは潜入調査するべきでは?」
フィリスの声も上機嫌だ。好奇心いっぱいのキラキラした目を見せてくる。
「そうですよ、奥さん。私も学園に潜入調査したいぐらいだ!」
普段冷静なアンジェラもフィリスち同じような目を見せていた。
「奥さん、私達と一緒に潜入調査しましょう!」
フィリスの明るい声が響き、フローラも無意識に頷いていた。
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