136 / 157
第三部
面白い女編-1
しおりを挟む
マリオンが自殺した。
その事実が頭の中をぐるぐるとし、なかなか眠れずに朝になってしまった。もはや夫の濡れ衣が晴れた事はどうでも良くなってしまう。
フローラは一人、書斎で朝刊を読む。窓の外からは朝日が差し込み、呑気な小鳥の鳴き声も聞こえてくるが、フローラの表情は険しい。眉間に皺を寄せつつ、朝刊を捲ると、マリオンの自殺について報道されていた。
マリオンは尿検査の結果、薬物を使用していた事が判明。白警団のコンラッドは薬物事件も調査していた為、マリオンが入院していた病院に向かうが一方遅かった。ナイフで喉を刺したマリオンと遺書が残されているだけだったそう。
遺書には薬物を学生時代が常用していた事も書かれていた。友達のセシリーと容姿を比較される事が多く、痩せると噂の薬物に手を出したという。以来、マリオンはメイクアップアーティストの仕事をしつつも薬物が辞められなかったそう。マリオンなりにカウンリング等にも行ったそうだが、効果はなかった。依存症だったらしい。
事件についても書かれていた。マリオンは自分で自分を自殺する為に殴った。公爵のブラッドリー・アガターの名前を出したのも薬で頭がおかしくなっていたからというが。
「納得できない。いくら薬をやっていたからって、自分で自分を殴ったり、誰かへ罪をなすりつける?」
それにマリオンが倒れた現場を見ていた。あの状況は自分で自分を殴りつけた感じは全くしない。マリオンは遺書でも嘘をついている。まるで誰かを庇っているみたい。
「マリオンの薬物中毒をネタに誰かが脅していた方が納得できる」
フローラは書斎の本棚から愛人ノートを取り出して開く。愛人ノートはパティの事件の時に押収されたまなかえってこないので、このノートは厳密には二代目だが。そこにモラーナ、マリオン、ダリアの名前も書いてある。この三人はまだ愛人ではないが、要注意人物として記録していた。
残念ながらマリオンは自殺した。フローラは愛人ノートのマリオンのところに自殺と書く。そう書くが、「?」も追記した。マリオンが自殺したのは本当だが、もし背景に脅しがあったのなら、これも一種の殺人かもしれない。
「マリオンの薬をネタにモラーナが脅していた事も十分に考えられるわね。それでマリオンと揉め、モラーナがカッとなって殴った」
筋は通るが証拠はない。
「長年、モラーナに脅されていたマリオンは、咄嗟に夫の名前を出して庇った。でも尿検査をして薬物依存もバレて自殺した……」
フローラが頭の中でこねくり出した推理だ。何の証拠もない。モラーナの脅しが強烈だった事は、略奪宣言をしてきた様子から想像がつく。セシリーもマフィアのアドルフとの関係で脅されていたかもしれない。ダリアも万引きで脅されていた可能性があるが。
「ダメだ、証拠がない。全部私の憶測じゃない」
白警団はマリオンの遺書の内容を優先するだろう。もうこの事件を捜査しない可能性もある。朝刊には白警団の調査方法も叩かれてはいたが、今は「コンラッドざまぁ」という気分に全くなれない。まさか事件の関係者が自殺するなんて。想像もしていなかっただろう。
まるで試合中、突然ルールが変更され、敵チームとも同点になってしまった気分だ。確かに今はコンラッドに負けてはいないが、勝ってもいない。フローラの気分は複雑でさらに眉間に皺が寄ってしまう。
朝刊も愛人ノートも閉じた。最終手段としてモラーナに直接会い、脅しについて自白するように言うべきか。しかしあの極悪恋愛小説家のモラーナが素直に吐くとも思えない。むしろ、まだ夫を略奪する気でいそうだ。
希望があるとしたら、モラーナが脅しで得ていた金品だ。それを突き止めれば脅しの証拠が得られるが。
「ダメだ。また迷路に入った気分。何の手がかりも見出せない」
珍しく弱音も溢れた。いつもは背筋を伸ばしていたが、今は猫背になりそう。下を向いてしまいそう。想像以上にマリオンの自殺がショックだったらしい。考えようとしても、その事を思い出すと掻き乱されてしまう。
「せっかくマリオン助かったのに……」
もし犯人をもっと早くに見つけておけばと思ってしまう。後悔しかない。
「うーん……」
朝刊を閉じ、愛人ノートも閉じた。次は学園から持ってきた文芸誌を捲る。これはマリオン達が学生時代に書いたものだったが。
確かにモラーナは作家になっただけあり、二次創作やポエムなども上手だった。セシリーやマリオンは素人臭いというか、素朴な出来ではある。
「ダリアも結構文章上手いわね。まあ、学生にしてはだけど」
何かが引っかかった。これも何かの手がかりかもしれない。一応愛人ノートにも記録した時、フィリスが書斎にすっ飛んで来た。足音がうるさく、フィリスがやって来る事は予想でき、フローラが扉を開いておいた。
「何よ、フィリス。ドタバタとうるさいわね」
「奥さん! 公爵さまが帰ってきましたよ! さあ、みんなで出迎えましょ」
フィリスの笑顔を見ながら、ホッとしたのも事実だった。今は事件捜査は暗闇。でも夫の濡れ衣が晴れた事は、悪い事では無いはず。
その事実が頭の中をぐるぐるとし、なかなか眠れずに朝になってしまった。もはや夫の濡れ衣が晴れた事はどうでも良くなってしまう。
フローラは一人、書斎で朝刊を読む。窓の外からは朝日が差し込み、呑気な小鳥の鳴き声も聞こえてくるが、フローラの表情は険しい。眉間に皺を寄せつつ、朝刊を捲ると、マリオンの自殺について報道されていた。
マリオンは尿検査の結果、薬物を使用していた事が判明。白警団のコンラッドは薬物事件も調査していた為、マリオンが入院していた病院に向かうが一方遅かった。ナイフで喉を刺したマリオンと遺書が残されているだけだったそう。
遺書には薬物を学生時代が常用していた事も書かれていた。友達のセシリーと容姿を比較される事が多く、痩せると噂の薬物に手を出したという。以来、マリオンはメイクアップアーティストの仕事をしつつも薬物が辞められなかったそう。マリオンなりにカウンリング等にも行ったそうだが、効果はなかった。依存症だったらしい。
事件についても書かれていた。マリオンは自分で自分を自殺する為に殴った。公爵のブラッドリー・アガターの名前を出したのも薬で頭がおかしくなっていたからというが。
「納得できない。いくら薬をやっていたからって、自分で自分を殴ったり、誰かへ罪をなすりつける?」
それにマリオンが倒れた現場を見ていた。あの状況は自分で自分を殴りつけた感じは全くしない。マリオンは遺書でも嘘をついている。まるで誰かを庇っているみたい。
「マリオンの薬物中毒をネタに誰かが脅していた方が納得できる」
フローラは書斎の本棚から愛人ノートを取り出して開く。愛人ノートはパティの事件の時に押収されたまなかえってこないので、このノートは厳密には二代目だが。そこにモラーナ、マリオン、ダリアの名前も書いてある。この三人はまだ愛人ではないが、要注意人物として記録していた。
残念ながらマリオンは自殺した。フローラは愛人ノートのマリオンのところに自殺と書く。そう書くが、「?」も追記した。マリオンが自殺したのは本当だが、もし背景に脅しがあったのなら、これも一種の殺人かもしれない。
「マリオンの薬をネタにモラーナが脅していた事も十分に考えられるわね。それでマリオンと揉め、モラーナがカッとなって殴った」
筋は通るが証拠はない。
「長年、モラーナに脅されていたマリオンは、咄嗟に夫の名前を出して庇った。でも尿検査をして薬物依存もバレて自殺した……」
フローラが頭の中でこねくり出した推理だ。何の証拠もない。モラーナの脅しが強烈だった事は、略奪宣言をしてきた様子から想像がつく。セシリーもマフィアのアドルフとの関係で脅されていたかもしれない。ダリアも万引きで脅されていた可能性があるが。
「ダメだ、証拠がない。全部私の憶測じゃない」
白警団はマリオンの遺書の内容を優先するだろう。もうこの事件を捜査しない可能性もある。朝刊には白警団の調査方法も叩かれてはいたが、今は「コンラッドざまぁ」という気分に全くなれない。まさか事件の関係者が自殺するなんて。想像もしていなかっただろう。
まるで試合中、突然ルールが変更され、敵チームとも同点になってしまった気分だ。確かに今はコンラッドに負けてはいないが、勝ってもいない。フローラの気分は複雑でさらに眉間に皺が寄ってしまう。
朝刊も愛人ノートも閉じた。最終手段としてモラーナに直接会い、脅しについて自白するように言うべきか。しかしあの極悪恋愛小説家のモラーナが素直に吐くとも思えない。むしろ、まだ夫を略奪する気でいそうだ。
希望があるとしたら、モラーナが脅しで得ていた金品だ。それを突き止めれば脅しの証拠が得られるが。
「ダメだ。また迷路に入った気分。何の手がかりも見出せない」
珍しく弱音も溢れた。いつもは背筋を伸ばしていたが、今は猫背になりそう。下を向いてしまいそう。想像以上にマリオンの自殺がショックだったらしい。考えようとしても、その事を思い出すと掻き乱されてしまう。
「せっかくマリオン助かったのに……」
もし犯人をもっと早くに見つけておけばと思ってしまう。後悔しかない。
「うーん……」
朝刊を閉じ、愛人ノートも閉じた。次は学園から持ってきた文芸誌を捲る。これはマリオン達が学生時代に書いたものだったが。
確かにモラーナは作家になっただけあり、二次創作やポエムなども上手だった。セシリーやマリオンは素人臭いというか、素朴な出来ではある。
「ダリアも結構文章上手いわね。まあ、学生にしてはだけど」
何かが引っかかった。これも何かの手がかりかもしれない。一応愛人ノートにも記録した時、フィリスが書斎にすっ飛んで来た。足音がうるさく、フィリスがやって来る事は予想でき、フローラが扉を開いておいた。
「何よ、フィリス。ドタバタとうるさいわね」
「奥さん! 公爵さまが帰ってきましたよ! さあ、みんなで出迎えましょ」
フィリスの笑顔を見ながら、ホッとしたのも事実だった。今は事件捜査は暗闇。でも夫の濡れ衣が晴れた事は、悪い事では無いはず。
0
あなたにおすすめの小説
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる