毒妻探偵〜サレ公爵夫人、夫の愛人を調べていたら殺人事件に巻き込まれました〜

地野千塩

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第三部

面白い女編-1

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 マリオンが自殺した。

 その事実が頭の中をぐるぐるとし、なかなか眠れずに朝になってしまった。もはや夫の濡れ衣が晴れた事はどうでも良くなってしまう。

 フローラは一人、書斎で朝刊を読む。窓の外からは朝日が差し込み、呑気な小鳥の鳴き声も聞こえてくるが、フローラの表情は険しい。眉間に皺を寄せつつ、朝刊を捲ると、マリオンの自殺について報道されていた。

 マリオンは尿検査の結果、薬物を使用していた事が判明。白警団のコンラッドは薬物事件も調査していた為、マリオンが入院していた病院に向かうが一方遅かった。ナイフで喉を刺したマリオンと遺書が残されているだけだったそう。

 遺書には薬物を学生時代が常用していた事も書かれていた。友達のセシリーと容姿を比較される事が多く、痩せると噂の薬物に手を出したという。以来、マリオンはメイクアップアーティストの仕事をしつつも薬物が辞められなかったそう。マリオンなりにカウンリング等にも行ったそうだが、効果はなかった。依存症だったらしい。

 事件についても書かれていた。マリオンは自分で自分を自殺する為に殴った。公爵のブラッドリー・アガターの名前を出したのも薬で頭がおかしくなっていたからというが。

「納得できない。いくら薬をやっていたからって、自分で自分を殴ったり、誰かへ罪をなすりつける?」

 それにマリオンが倒れた現場を見ていた。あの状況は自分で自分を殴りつけた感じは全くしない。マリオンは遺書でも嘘をついている。まるで誰かを庇っているみたい。

「マリオンの薬物中毒をネタに誰かが脅していた方が納得できる」

 フローラは書斎の本棚から愛人ノートを取り出して開く。愛人ノートはパティの事件の時に押収されたまなかえってこないので、このノートは厳密には二代目だが。そこにモラーナ、マリオン、ダリアの名前も書いてある。この三人はまだ愛人ではないが、要注意人物として記録していた。

 残念ながらマリオンは自殺した。フローラは愛人ノートのマリオンのところに自殺と書く。そう書くが、「?」も追記した。マリオンが自殺したのは本当だが、もし背景に脅しがあったのなら、これも一種の殺人かもしれない。

「マリオンの薬をネタにモラーナが脅していた事も十分に考えられるわね。それでマリオンと揉め、モラーナがカッとなって殴った」

 筋は通るが証拠はない。

「長年、モラーナに脅されていたマリオンは、咄嗟に夫の名前を出して庇った。でも尿検査をして薬物依存もバレて自殺した……」

 フローラが頭の中でこねくり出した推理だ。何の証拠もない。モラーナの脅しが強烈だった事は、略奪宣言をしてきた様子から想像がつく。セシリーもマフィアのアドルフとの関係で脅されていたかもしれない。ダリアも万引きで脅されていた可能性があるが。

「ダメだ、証拠がない。全部私の憶測じゃない」

 白警団はマリオンの遺書の内容を優先するだろう。もうこの事件を捜査しない可能性もある。朝刊には白警団の調査方法も叩かれてはいたが、今は「コンラッドざまぁ」という気分に全くなれない。まさか事件の関係者が自殺するなんて。想像もしていなかっただろう。

 まるで試合中、突然ルールが変更され、敵チームとも同点になってしまった気分だ。確かに今はコンラッドに負けてはいないが、勝ってもいない。フローラの気分は複雑でさらに眉間に皺が寄ってしまう。

 朝刊も愛人ノートも閉じた。最終手段としてモラーナに直接会い、脅しについて自白するように言うべきか。しかしあの極悪恋愛小説家のモラーナが素直に吐くとも思えない。むしろ、まだ夫を略奪する気でいそうだ。

 希望があるとしたら、モラーナが脅しで得ていた金品だ。それを突き止めれば脅しの証拠が得られるが。

「ダメだ。また迷路に入った気分。何の手がかりも見出せない」

 珍しく弱音も溢れた。いつもは背筋を伸ばしていたが、今は猫背になりそう。下を向いてしまいそう。想像以上にマリオンの自殺がショックだったらしい。考えようとしても、その事を思い出すと掻き乱されてしまう。

「せっかくマリオン助かったのに……」

 もし犯人をもっと早くに見つけておけばと思ってしまう。後悔しかない。

「うーん……」

 朝刊を閉じ、愛人ノートも閉じた。次は学園から持ってきた文芸誌を捲る。これはマリオン達が学生時代に書いたものだったが。

 確かにモラーナは作家になっただけあり、二次創作やポエムなども上手だった。セシリーやマリオンは素人臭いというか、素朴な出来ではある。

「ダリアも結構文章上手いわね。まあ、学生にしてはだけど」

 何かが引っかかった。これも何かの手がかりかもしれない。一応愛人ノートにも記録した時、フィリスが書斎にすっ飛んで来た。足音がうるさく、フィリスがやって来る事は予想でき、フローラが扉を開いておいた。

「何よ、フィリス。ドタバタとうるさいわね」
「奥さん! 公爵さまが帰ってきましたよ! さあ、みんなで出迎えましょ」

 フィリスの笑顔を見ながら、ホッとしたのも事実だった。今は事件捜査は暗闇。でも夫の濡れ衣が晴れた事は、悪い事では無いはず。
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