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しおりを挟む十二月二十四日、クリスマス・イブ。
午前中に終業式を終え、午後三時から、コンサートは始まる。
大ホールの入りは予想以上に盛況だった。演奏を控えた面々が舞台袖から客席をのぞき込んで騒いでいる横で、悠哉はピアノの前に座り、気分を落ち着けていた。
もともと、それほど緊張するタイプではない。幕が上がってしまえば、たぶんあっと言う間だろう。最終リハが終わって、幕が上がるまでのこの待ち時間が、実はいちばんきつかった。
悠哉の隣では、やはり客席をのぞいていたオーケストラ部の元部長が、なぜか苛々と地団駄を踏んでいたが、そのわけを悠哉は知らない。
「五分前です」
誰かの声が響き、浮ついた空気が一瞬にして真剣な色に変わる。全員が、定位置についた。
緞帳の向こうで、開演を知らせるアナウンスが響いている。それが桂の声だと、悠哉はしばらくしてから気づいた。
『……会場内でのお煙草、ご飲食はご遠慮願います。また、演奏の妨げとなりますので、携帯電話等の電源は、あらかじめお切りくださいますよう、お願い申し上げます』
耳触りのいい、甘い声。会場内に不思議と、落ち着いた空気が流れる。
この声は、きっと嫌いにはなれないと悠哉は思った。すっと息を吸って、膝の上に置いていた手を、軽く鍵盤に乗せた。
指揮棒が、振られる。軽快な前奏が、抑えた音量で流れ出す。
一曲目は、All I want For Christmas Is You。
清鳳のクリスマスコンサートでは昔から定番になっている、マライア・キャリーのヒットナンバーだ。
渦巻くような拍手と共に、やがて、幕が上がった。
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