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LOVE/木曜の恋人
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しおりを挟む卒業式は、始まってしまえば呆気ないほど型通りに進んだ。中学の頃のように泣きじゃくる女子もいなければ、浮かれてはしゃぎまわる者もない。
その息詰まるような空気の中で、遼は何の感情もなく、起立、礼、着席の号令に合わせ、ただ機械的に体を動かしていた。
さすがに、卒業証書授与の際、恭臣の名が呼ばれたときは動揺し、思わずその姿を目で追ってしまうのを止められなかった。潔い仕草で階段を昇り、校長の手渡す証書を受け取る。その姿を、遼は眩しいような思いで見つめた。
あの人の頭の中ではもう、きっと自分の存在なんて拭い去られている。それなのに、自分はまだ、諦め難くその姿を見つめている。
「翔太……ごめん。気分悪いから……出る」
出席番号がすぐ次の翔太にそう囁いて、遼は目立たないように席を立った。これ以上は、耐えられそうにない。
心配そうについて来ようとする翔太を押し止どめて、遼は一人、体育館を出た。
体育館の出入り口で柱に寄りかかり、深い呼吸を繰り返す。しばらくそうしていると、やがて、校歌の斉唱が始まった。
誰が弾いているのか、綺麗にアレンジされた前奏が流れ出す。校歌なんて覚えてられないと皆言っていたはずなのに、思いのほか大きな声が、遼のいる場所まで届いた。
……こんなに、綺麗な曲だったっけ。こんなに、寂しい旋律だったっけ。
そんなふうに思いながら、遼は溢れて来た涙を拭った。踵を返し、体育館の前を離れ、校舎の中へと歩いていく。胸にしみる歌声とピアノの音が、次第に遠ざかる。
遼は人気のない廊下をふらふらと歩いて、第三応接室に向かった。いま一人になれる場所を、ここしか思いつけなかったのだ。
ドアを開け、誰もいない室内の、そのソファにドサッと体を沈ませる。この数カ月、何度も見つめた天井を仰いで、はあっと深いため息をついた。
『先輩……俺……』
あのとき、言えなかった言葉。言ってはいけない、気持ち。
たぶん……あなたが、好きでした……。
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