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第38話 3度目の配信対決

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「さて……今日こそ徹底的にやっつけてあげる。
 若手No1ダンジョン配信者の座はアリスのものよ」

「くっ、今日は絶対負けないし!!」

 向かい合って拳を突きつけ合うふたり。

「ふふ、あなたとアリスの使徒数の差はもうわずか……今日で逆転するから、覚悟する事ね」

「うぐぐ……あんなの変なゴシップ記事のせいじゃん!」

「実は心当たりがあるんじゃない?」

「は? ねえっての!」

 アリスが言っているのは週刊誌に掲載された
『アリスの人気に嫉妬したゆゆ、楽屋でのいじめ現場を激写!』
『ゆゆに新恋人発覚!? 既に同棲しているとの情報も!』
 という悪意マシマシの記事のことだ。

 配信の切り抜きやフェイク写真で構成された低俗な記事で、信じているフォロワーは殆どいないがアンチたちが面白がって取り上げるせいでポイッターなどSNSはカオス状態だ。

 ……二つ目の記事はまぁ、一部分だけは合っているかもしれないが。

 ”はあ、今日のアリスは一段と感じ悪いな……”
 ”あんな記事を書かれる方が悪いっしょ!”
 ”実はほんとだったりして!”
 ”ロリコンアリス厨うぜぇ”
 ”いまどきギャルwwwww”
 ”ああもう、荒れてんな! ていうかこの配信の目的って何だよ?”

 コメント欄もギスギスしている。
 野次馬含め80万人ほどの入室者はいるが、盛り上がりはいまいちだ。

「もふっ!(こくり)」

 カメラに映らない角度で二人に合図を送る俺。
 ゆゆもアリスも小さく頷いてくれた。

「も~ふ(よ~い)」
「もふっ!(ドンッ!)」

 いつも通り赤い旗を持った俺は、対決の開始を宣言した。


 ***  ***

「うしっ! 先手必勝☆」

 今日の対決ではモンスターを倒した数を競う。
 先手必勝とばかりに前に出るゆゆ。

 コボコボ
 スラスラ

 レベルの低いコボルドとスライムであるが、ダンジョンの床を埋め尽くさんばかりの群れが眼前に出現する。

「よし、これで行くし!
 ファイアLV2!」

 ズドオオンッ!

 爆炎魔法が群れのど真ん中で炸裂し、10体ほどのコボルドとスライムを吹き飛ばす。

「ここでぇ~っ!」

 しゅたっ

 ジャンプ一番、爆炎魔法が作り出したスペースに降り立つゆゆ。

「ゆゆ、スペシャルコンビネーション!!」

 両手に高分子ガラスブレードを持ち、パルクールの要領でその場で回転するゆゆ。

 バシュ、バシュッ!

 襲い来るコボルドとスライムを次々に切り捨てる。

「くっ、むおっ!?」

 だが、モンスターの数は数百体以上。
 手数が足りず、群れに飲み込まれそうになる。

「バーストレーザー」

 ヴィイイイイインッ

「!!」

 アリスの閃光魔法がゆゆの近くをかすめ、数十体のスライムを消滅させる。

 ズッドオオオオオン!!
 ガラガラガラ……

 それだけではなく、閃光魔法の直撃で崩れたダンジョンの壁がコボルドを押しつぶす。

「おっけ!」

 お陰でゆゆが脱出する隙が出来た。
 大きくジャンプすると崩れた瓦礫の上に着地する。

「ういっ(にこっ)!」

「ふふ(にこにこっ)」

 ぱちん、とウィンクを飛ばすゆゆと、にっこり笑ってそれを受けるアリス。

 ”ああ、またあぶねぇなアリスは!”
 ”ゆゆに当たってたらどうするんだよ”
 ”ゆゆの魔法ショボすぎwwwwwこりゃまたアリスの勝ちだね”

 荒れかけるコメント欄だが、今日のゆゆとアリスの間には2回目の配信対決の時のようなぎこちなさはない。
 それに気づいたフォロワーもいるようで。

 ”おい、待てよみんな。よく見たら……”
 ”え?”

「ゆゆ、遅いですわ!
 ヘルバースト!」

 ズドンオンッ!

「うおっと♪」

 爆炎魔法の爆風を利用し、コボルドの群れを飛び越えるゆゆ。

 コ、コボッ!?

 一瞬で背後を取られ、混乱するコボルドたちの只中に二振りの高分子ガラスブレードを構えたゆゆが突っ込む。

「双剣乱舞!!」

 ザザザンッ!!

 魅せ技ではないゆゆの大技だ。
 たちまち斬り伏せられ、床に倒れるコボルドたち。

「……おっと、背中ががら空きだぜ☆ アリスっぴ!」

 ドガッ

 何かに気付いたのか、コボルドの一体を大きく蹴り飛ばすゆゆ。

 ひゅ~~~
 ガスッ!

「!!」

 放物線を描いて飛んだコボルドは、今まさにアリスに襲い掛からんとしていたコブリンをなぎ倒す。

「ファイアLV3!」

 ゴオオッ

 すかさず止めを刺すアリス。

「ふん、ありがとう!」

「へへ、どういたしまして♪」

 ぱちんとハイタッチをかわすゆゆとアリス。

 ”……あれ、仲良しゆゆアリが戻って来てる?”
 ”やっぱこれだよな~”
 ”ドヤ顔アリスかわよ”
 ”これがゆゆの実力なわけよ!”

 にわかに盛り上がるコメント欄。
 その後も卓越したコンビネーションを発揮するゆゆとアリス。
 ふたりはものすごい勢いでモンスターを退治していくのだった。


 ***  ***

(さて、そろそろか……)

 俺はだんきち内部に表示されているタイマーを確認する。
 配信が始まって15分。

 レイニさんの目的が、アリスを操ってゆゆの妨害をする事ならば、そろそろ仕掛けてくるはずだ。

「もふっ」

 俺はこっそりアリスに合図を送る。

(こくり)

 小さく頷くアリス。

 かちり

 俺はひそかに、アリスの制服に埋め込んだ防御機構を解除した。


 --- 同時刻
 レイニプロモーション執務室

「アリスが何を考えているかよく分かりませんが、そろそろいいでしょう」

 前回と異なり、抜群のコンビネーションを発揮するアリスとゆゆ。
 警戒していたゆゆを油断させるための演技であるとレイニは判断していた。

「演技はいいですが、長すぎですよ」

 しょせん子供である。
 クニオに用意させストックしたモンスター共にも限りがある。
 次で終わらせようと、レイニはマジェに取り付けたティムの宝玉を起動する。


 ***  ***

「あっ……うわあああああああああっ!?」

 ヴンッ

 何かの魔法が発動したと感じた。
 マジェが彼女の足元に駆け寄った瞬間、頭を抱えて座り込んでしまうアリス。

 ボワアアアアアアアアッ!!

 どす黒い漆黒の魔力が、アリスを包み込む。

 この光景は、はっきりと
 それこそが、俺たちの狙いだった。

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