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第45話 ぶらありす。Withリアン様

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「ゆゆとアリスの『ぶらありす。』!」

 いつも通り左手と右手でハートマークを作るゆゆとアリス。

「うぃ~ず、リア!!」

(ほとんど本名言ってるじゃねーか!!)

 思わずずっこける俺。
 二人の後ろで両手で丸を作っているのは、謎のヴァナランド人リアことリアン・フェルニオス三世様だった。

「今日はド定番だが、有馬温泉にやって来たぜ☆」

「本格温泉!! 楽しみだわ!!」

「日本のお風呂は何も身に着けないで入るんですよね、なれば準備をしておかなくてはいけません!」

「うわあああ!? リアっち! ちゃんと専用の脱衣所があるから!」

「……そうなのですか?」

 いきなり服を脱ごうとするリアン様に対して、ツッコミ役に回るゆゆ。
 新鮮な光景だ。

 ”え、あれって有名配信者のゆゆとアリスだよね?”
 ”あ、私見たことある! ぶらありす。の撮影だよ”
 ”アリスが移籍したって本当だったんだ”
 ”一緒にいるめちゃくちゃ美人な女性はヴァナランド人?”
 ”すげ~”

 たちまちできる人だかり。
 リアン様のオフは今日の午後だけ。
 遠出をするには時間が足らなかったので、手近な有名観光地という事で有馬温泉にやってきたのだ。

「ここが噂に聞く温泉街……!
 ヴァナランドに温泉は存在しないので、大変興味深いです!
 そもそも、定期的にお風呂に入る習慣が生まれたのも日本の皆様から技術供与を受けたここ数年のことで……」

 感動した面持ちで周囲の光景を眺めるリアン様。
 ファンタジーRPGのような世界で育ったのなら、なかなか見れない光景だろう。

「ほほう、そしたらリアっちは毎日風呂には入らない系?
 スメルはガチ香水でごまかす的な!」

「UKならともかく、ニッポンは湿気が多いから毎日入らないと汚れちゃうわよ?」

「わ、わたしは毎日お風呂に入ってます~!!」

 ”どっ!”

 目をバッテンにして抗議するリアン様の様子に盛り上がる観衆たち。

 ”すげぇ! ゆゆアリコンビに新人登場!?”
 ”超絶美人なんですが!!”
 ”なんかゆゆとアリスがヴァナランド観光大使に選ばれたらしいからその関係じゃね?”
 ”マジ!? それどこ情報よ!?”
 ”観光庁のHPに載ってたぜ?”

 同じく、盛り上がるゆゆアリ公式ちゃんねるのコメント欄。

 さすがにリアと名乗った少女がリアン様だと気づいたフォロワーはいなさそうだ。
 少し色のついたサングラスをかけているし、髪型も変えている。
 ……そもそも外国大使の顔を覚えている人間なんてほとんどいないだろう。

「くんくん……爽やかなヴァナランドの匂いがするね♪ バニラアイスみたいな!」

「さっきこっそり買い食いしてたのがバレてます!?」

「リアおねえちゃん! アリスも食べたいわ!!
 ほら、ほっぺに付いていてよ、アイスと一緒に買ってたたこ焼きの青のりさんが」

「さらにバレてますね!?」

(やるな……ゆゆ、アリス!)

 すっかり打ち解けた様子の三人だが、相手はヴァナランドの第三皇女で魔王である。
 ぐいぐい突っ込むその姿勢に感心する。

 ……まあいつもゆゆモードでやり過ぎた~、とリビングのソファーでぱたぱたとのたうち回っているユウナも可愛いんだが。

「そ、そんなに突っ込まれたらリアも……怒っちゃうぜ☆」

 ぎこちなくポーズを決めるリアン様。

(だがしかし)

 問題なのはリアン様の服装である。

 さすがに巫女服で来ることは止めたものの、リアン様の衣装はゆゆと同じギャルJKスタイル。
 頬にはタトゥーシール、指にはマニキュア。
 着崩したブレザーにへそ出しシャツ、膝上20㎝はありそうなミニスカにローファーかかと潰し。

 身長が高くてスタイル抜群なリアン様なので、ひたすら目立つ……そしてにじみ出る色気。

 いくら本人の希望とはいえさらに攻めたギャルスタイルに俺は戦々恐々である。

(ヴァナランドに入国した途端、不敬罪で捕まるんじゃ?)

 信じて送り出した第三皇女兼魔王様がイケイケギャルになって戻ってきたら……俺が王様なら防具なしでエルダードラゴンの巣に放り込むだろう。

「ほんじゃ、最初は金泉銀泉に行くぞ~!」

「おー!」

「楽しみですっ!」

「もふもふ」

 俺は日帰り入浴施設に向かう三人の後を追うのだった。


 ***  ***

「こ、これ本当に大丈夫なのですか?
 お湯がマグマのように赤いですよ!」

「へ~、ナトリウム塩化物が含有されているのね。
 ちょっとしょっぱい~!」

「へへっ、このお湯が効くんだぜ?」

 ちゃぷん!

「な、なんと心地よい!!
 魔力が全回復しました!!」

「え、そうなん!?」

 <<お風呂シーンは音声のみでお楽しみください(だんきちスマイル)>>
 ……コメント欄が炎上した。


 ***  ***

「温泉まんじゅう featuring ほうじ茶!」

「はふはふ、じゃぱにーずあんこぅ! 美味しいわ!」

「ぱくぱくぱく。
 これは手が止まりませんね!」

「……いやリアっち、少しは止めて?
 ぷにったらウチ粛正されちゃう(ミーニャさんに)」

「??」

 その後も観光地巡りは続き、大満足の一日となるのだった。


 ***  ***

「くか~っ、くか~っ」

「すぴすぴ」

 遊び疲れたのか、後部座席で爆睡するユウナとアリスは本当の姉妹のようでとても微笑ましい。

「ふふっ、ユウナさんとアリスさんは本当に可愛らしいですね」

 清楚なワンピース姿に戻ったリアン様が助手席で楽しそうに笑う。
 真っ赤な夕日が瀬戸内海に反射し、絶景を形作っている。

「今日はとても楽しかったです」

 リアン様は先ほどまでのドタバタ劇を噛みしめるかのように目を閉じ、ゆっくりと語り始めた。

「……わたしが魔王として、人間族の皆様との講和を申し出た時。
 魔族の皆様からは裏切り者だと糾弾されました。
 人間族の軍門に下り、魔王がヴァナランド皇家に養子入りするなど魔族の誇りはどこへやった、とね」

「…………」

 ただ聞いていて欲しいのかな、そう感じた俺は返事をせず、車のスピードを少し落とす。

「ふふっ」

「”魔窟”から漏れ出る闇の力はどんどん強くなっており……わたしたち魔族の身体をも蝕み始めていました。わたしは同族の未来を救うべく、裏切り者の汚名を着たのですが……正直辛かったですね」

 ちらりと横目でリアン様を見る。
 その表情はどこか儚げで、ドキリとするほど美しかった。

「その後ひょんなことからこちらの世界と繋がり、大変なご迷惑をおかけしたにもかかわらず様々な技術供与を頂き、このダンジョンポータルのお陰でヴァナランドにようやく平和な時代が訪れたのです」

 山体から突き出すダンジョンポータルの威容。
 これがお互いの世界を繋ぎ、向こうの世界を救っていたのか。

 今まで詳しく知らなかった事実に、ダンジョンポータルの姿が違って見える。

「なので、たまにでよろしいですから、このような時間を設けて頂けると幸いです」

 そういうと俺に向かってにっこりと微笑むリアン様。

「俺たちでよければ、いつでも付き合いますよ」

「むにゃ、リアっち今度は京都行こ~」
「リアおねえちゃん、いつかロンドンにも来てね~」

 狸寝入りをしていたのか、寝言に見せかけて返事をするユウナとアリス。

「ふふふっ」

「それじゃあ、わたしは宇宙に行ってみたいですね!
 この世界の技術なら行けるのでしょう?」

「いやあの、それは無茶ですって!」

「あははははははははっ!」

 屈託のないリアン様の笑い声。
 俺たちは魔王様と、少し仲良くなれたと感じるのだった。

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