辻ダンジョン掃除が趣味の底辺社畜、迷惑配信者が汚したダンジョンを掃除していたらうっかり美少女アイドルの配信に映り込み神バズりしてしまう

なっくる

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第47話 ヴァナランド観光

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「さて。こちらがヴェスタ山地とヴァナ湖になります」

 ゲートダンジョンを出て走ること1時間ほど……美しい湖のほとりで車列が止まる。
 ここが最初の目的地みたいだ。

「わあああっ、めちゃくちゃ綺麗!」

「それに空気も美味しいわね!」

 正面には真新しい2階建ての石造りの建物が。
 観光客向けに作られた宿泊施設だろうか。

「さっそく広報用の素材を撮ろうか。
 タクミ君もだんきちになってくれ」

「了解です」

 この案件のために「ヴァナランド デスティネーションキャンペーン」という特設サイトが設置され、基本的に俺たちはそこでPR動画を配信する事になっている。

「もふもふ」

 手早くドローンカメラをセットすると、だんきちの着ぐるみに入る俺。
 ……なんかすっかりだんきちの中が落ち着くようになってきたな。

「ユウナ殿、アリス殿。
 そちらの建物の1階に更衣室があるから、使ってくれ」

「は~い」
「分かったわ!」

「ねえミーニャ。
 わたしは何を着たらいいかしら?」

「……初日ですので、礼服でお願いします」

「むぅ、ミーニャはケチなんですから」

 ……なぜかワンボックスカーにはゆゆとアリスの衣装のほかに、少々サイズの大きいコスプレ衣装が(リアン様の指示で)積み込まれていた。
 どこかで着るつもりなのだろうか?

 王様の前でバニーちゃん衣装、とかは止めて頂きたい。
 俺が天に祈っていると、二人の準備ができたみたいだ。

『ゆゆとアリスの「ぶらありす。」特別編!』
『In ヴァナランド!! はっじまるよ~♪』

「よいしょっと」

 アリスを肩車するゆゆ。

「それっ!」

 アリスが両手を広げ、ぱああっと魔法の紙吹雪が散る。

「もふっ」

 俺はその映像に、「ヴァナランド デスティネーションキャンペーン」というロゴを乗せる。

 ドローンカメラはそんな二人を捉えた後大きく上昇していき、ヴァナ湖とヴェスタ山地をフレームに収める。

 掴みはバッチリ、俺たちのヴァナランド配信が始まった。


 ***  ***

「このホテル、凄いねリアン様!
 電気はつくし、いつでもお風呂に入れるし!」

「もふ(だな)!」

 正直、ファンタジーRPGのような生活を想像していた俺たちである。
 ホテルの内装は豪華で、向こうの世界とそん色ない調度品も備えられている。

「ふふ、日本から”バッテリー”の技術供与を受けたおかげですね。
 電気は電撃魔法で起こせますが、それを”溜める”ことが出来なかったですから」

 観光客に提供されるというコース料理の試食をしながら、
 白いドレスに身を包んだリアン様が嬉しそうに笑う。

「魔法を使った照明より明るく、効率的だ。
 以前は常夜照明を持つ家はある程度の上流家庭に限られていたからな」

 ミーニャさんの話によると、主要都市には日本から提供された超高性能な巨大バッテリーがいくつも設置され、街を明るく照らしているらしい。

「ヴァナランドの魔法技術と融合した逸品もありますよ」

 リアン様が食堂の窓から外を指さす。
 ホテルの敷地と湖水浴場を囲むように、淡い光を放つクリスタルが埋め込まれた街灯が立っている。

「モンスター除けの街灯です。
 もともと似たようなものは存在したのですが、魔力を直接補充する必要があり、広範囲に設置できなかったのです」

「ですが、日本の化学メーカーとヴァナランド魔法省が共同開発した”マナバッテリー”により、大気中に含まれるマナを魔力に変え、半永久的に動作可能なモンスター除けの街灯を作ることが出来ました」

「ダンジョンポータルのメンテナンス業者の方が使用される”護符”にもこの技術が生かされているんですよ」

「なるほど~」

 趣味でダンジョンお掃除をしていた時に、守衛さんから貸与されていたモンスター除けの護符。
 そこにはそんな秘密があったのだ。

「科学と魔法の融合ね! 大変興味深いわ!!」

「ほえ~、むっちゃ凄いね!」

 ぱくぱくとロック鳥の照り焼きを口に放り込みながら、適当な相槌を打つゆゆ。
 恐らく半分も理解していないだろう。

「こういうすげぇ魔法アイテムを見られるのも、ヴァナランドの魅力だぜ☆」

 カメラに向かってぱちんとウィンクをするゆゆ。

「もふもふ(はい、カット)!」

「ふひ~」

 今日の撮影はこのくらいでいいだろう。
 カメラのスイッチを切り、着ぐるみの頭を脱ぐ俺。

「みんなお疲れ様。
 動画は僕の方でアップしておくよ」

 一足先に食事を終えていたマサトさんが、カメラからメモリーカードを抜くとホテルの正面に止めたワンボックスカーに歩いていく。
 クルマには動画の編集設備などを積んできているのだ。

「広報動画を上げるのはいいけど、リアルタイムに反応を見れないのは寂しいな~」

 ウィッグとタトゥーシールを外し、オフモードに戻ったユウナがスマホを取り出して残念そうに呟く。

「いまのところ、ヴァナランドでは圧縮通信しかできないからな」

 ワンボックスカーに積まれたアクセスポイントを通じ、撮影した動画は観光庁のサーバーにアップされる。
 そこからゆゆアリ公式ちゃんねるにも配信されるのだが……。

 大気に満ちるマナの影響なのか、リアルタイムの通信が大きく制限されるヴァナランド。通信魔法を応用した圧縮通信技術により、大容量ファイルを送受信する事は可能だ。

 だが、通信魔法は発動に準備が必要なため、スマホなどでリアルタイム通信が出来るレベルにはいまだ至っていない。

 公式ちゃんねるの反応は、半日に一度くらいのペースでまとめて向こうから送ってもらっていた。

 ”ヴァナランド観光大使にゆゆアリ!”
 ”ゆゆアリタワー尊すぎない?”
 ”ヴァナランドの風景からだんきち浮いてて草”
 ”湖めちゃくちゃ綺麗!”
 ”あのホテル一泊いくらくらいするのかな?”

 たくさんのコメントは書き込まれているが、ゆゆやアリスがリアルタイムで返信する事は出来ない。

「む~」

 配信者としてつまらないのも無理はないだろう。

「ふふ、現代人はスマートフォンに依存しすぎでしょう?
 せっかくこんなに夜空が美しいんだもの。
 たまにはスマホを置いて楽しみましょう?」

 食堂の天井はクリスタルで出来ており、魔力のハレーションが舞う夜空を一望できる。オーロラもかくやというべき美しい光景だ。

「アリスちゃん、大正論!?」

 アリスの言葉に衝撃を受けた様子のユウナも、食堂に備え付けられたソファーに寝ころぶ。

「うわ~、マジできれい!」
「タクミおにいちゃんも一緒に見ようよ!」

「ああ」

 俺も二人に習って空を見上げるが、俺の感じている事はふたりとは僅かに違っていた。

(う~ん、確かに綺麗だけど……どこかで見たことがあるような?)

 煌めく夜空に、奇妙なデジャブを感じる俺なのだった。

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