16 / 34
第4章 特A科クラス、遠征します
第4-5話 特A科クラスと領主の陰謀(後編)
「あれが”半月の塔”か……一見ただの廃墟に見えるけど……僕たちの目はごまかせないね」
「はい、セシルさん……! 魔導波と魔力がビンビンです」
半月の塔の近くまで移動してきた僕たち。
近くの森に身を隠し、慎重に様子をうかがう。
塔の地上部分は5層くらいか……レンガ造りの塔が夜空に向けてそびえている。
1階部分の入り口は崩壊し、外壁も所々で崩れているなど、ぱっと見は立ち入り禁止の古代遺跡という言葉に偽りが無いように見える。
だがよく観察すると、塔の脇から地下に続く斜面の下草が剥げており、定期的に何らかの人間の移動がある事がうかがい知れる。
「セシル教官、あそこから地下に降りれそうじゃないですか?」
「ここは、クレアちゃんスペシャルフィニッシュブロゥで外壁に穴を……」
「まずは隠密行動って言ってるだろ!」
「あうっ」
盗撮犯は成敗します、と気合を入れるクレアにチョップを入れ、いったん落ち着かせる。
ちなみに”クレアちゃんスペシャルフィニッシュブロゥ”とは、彼女の魔力を込めた拳に、先日正式に習得した魔獣魔法”ドラゴンブレス”をまとわせた彼女の必殺技である。
その威力は岩をも砕く……が、威力が大きすぎるので隠密行動に向かないことは言うまでもない。
まずは気配を消す幻惑魔法で潜入するのが無難だろう。
「”バニシング・シール”!」
僕は先日習得した幻惑魔法を発動させる。
光の屈折を利用して姿を隠す、隠密行動に適した魔法である。
「それではわたしも……」
ルイのオプションビットが空中に浮かび、遮蔽フィールドを展開する。
このフィールドは魔導的な探査を遮断する効果があり、僕の幻惑魔法と組み合わせて完璧な隠密行動を約束する。
「ぶーぶー」
「まあまあクレア、オレたちの出番は最後の荒事っすから」
出番が無いことにぶーたれているクレアをなだめるカイ。
僕たちは慎重に塔の地下に歩みを進めた。
*** ***
「塔の地下に大きな広間があるな……魔導の揺らぎが大きい……まさか”上位魔獣”が巣くっているのか?」
”絶対魔導感覚”を駆使し、広間の様子を探る僕。
先日の上位魔獣退治クエストの時もそうだったが、僕のスキル”絶対魔導感覚”は、魔力の流れや魔導……魔法を発動させる術式の動きのようなものを感覚的に知覚できる。
そのため、上位魔獣のような魔法的に強力な力を持つ魔獣の動きを、離れた所から感じることができるのだ。
「わたしの遮蔽フィールドは正常に動作しています……少し覗いてみましょう」
「なっ……これはっ!?」
そっと広間の様子をうかがう。
そこに広がっている光景に思わず驚きの声が漏れる。
広場を埋め尽くしているのは100匹を超える上位魔獣。
オーガ型、ワイバーン型、魔犬型などよりどりみどりだ。
奇妙な事に、どの魔獣も地面に座り込んでおり、おとなしくしている。
それに、この広場に満ちる術式は……。
「これは、傀儡系の術式? 何のために……」
「むむっ……奇妙な魔力の流れがあります……それぞれの魔獣から強い反応を感じます」
奇妙な魔導の流れに首をかしげる僕とルイ。
「セシル教官! それぞれの魔獣の頭に、おかしな板のようなものが付いてます……なにか、赤く輝いているような……」
目の良いクレアが何かを見つけたようだ。
広間に満ちる傀儡系の術式、魔獣に取り付けられ魔導器具と思われるアイテム……まさか!
「上位魔獣を、操っている!?」
「テイマー系の魔法ですか……!」
「先ほどわたしたちを盗撮していたカエル型魔獣はともかく、あんな上位魔獣を操れるティム魔法なんで、聞いたことがありませんが……」
「僕はしばらく術式の”翻訳”に専念する……ルイ、遮蔽フィールドを……」
強化してくれ、僕がそうルイに頼もうとした瞬間……!
「そうだ、上位魔獣を操り帝都へ侵攻する……それがワシの目的なのさ!」
広間の奥から取り巻きを連れて現れた太った男……アイツは、依頼書で見た自治領主レナード!
奴の目は、幻惑魔法で姿を隠しているはずの僕たちを完全にとらえていて……。
「そんな! このレベルの幻惑魔法をただの一般人が見抜くなんて!?」
ルイの目が驚愕に見開かれている……確かにあり得ない。レナードは特にスキルを持っていなかったはず!
「くくく……帝国軍の犬どもか、この場所を見たからには生かして返さんぞ!」
レナードがそう叫んだ瞬間、奴の目が金色に輝き……!
ウオオオオオオオンンッ!
広間に控えていた、100体以上の魔獣が一斉に咆哮を上げる!
「くっ……術式の翻訳にはもう少しかかる……クレア、ルイ、カイ! 申し訳ないけど、翻訳完了まで時間稼ぎを頼める?」
「へへっ、もちろんですよセシル教官!」
「よっしゃ~、ようやく出番だっ! あのデブオヤジが盗撮犯だよね、10発殴るっ!」
「問題ありません。 わたしの”オプションビット”でかく乱すれば容易かと」
「クレア、ルイ! ヤバくなったらオレの後ろに来るっす! どんな攻撃でも止めるっすよ~」
「助かる! くれぐれも気を付けてね!」
僕の無茶なお願いに答えてくれる生徒たち。
焦らず、確実に翻訳を……僕は一度深呼吸をし、精神を集中させる。
そうすると複雑怪奇な術式の流れが網のように知覚でき……それを解きほぐす”鍵”のようなものまで見えてくる。
「くらえ、クレアちゃんスペシャルフィニッシュブロゥ!!」
「オプションビット! 魔獣の足を止めます」
「みんなの防御力を上げるっすよ、”マジック・シールド”!」
教え子たちが奮闘しているのが見える……大丈夫だ。
彼女たちは強い……集中して、正確に……次の瞬間、かちりと全てがかみ合う音がする……!
翻訳、完了!
「待たせたね、みんな!」
「後は任せてくれ!」
「発動……”魔導改変”(クラッキング)」
”翻訳”が完了した傀儡魔法の術式に干渉し、異物を紛れ込ませる……そうすれば!
グガッ!?
グオオオオン!?
ウガアアッ!
ドガッ!!
「魔獣が、同士討ちを!?」
今まで統率の取れた動きをしていた魔獣達が咆哮し、混乱したように好き勝手な動きを始める。
本来ならこれほどの密度でいるはずのない上位魔獣達は怒り狂い、同士討ちを始め……。
「えぇ……セシル教官、凄い……」
あまりの光景にポツリとクレアが漏らしたとき、広間にいた100体以上の上位魔獣はすべて動かなくなっていた。
「馬鹿な! 馬鹿なああああっ! ”商社”の魔導器具は完ぺきではなかったのか!」
「こんな、こんな意味の分からない連中にぃぃぃぃ!?」
頼みの魔獣達がすべて倒れ、絶望の声を上げる自治領主レナード。
その眼前にしゅたっと降り立ったのはクレアだ。
「こんのエロオヤジ……乙女の柔肌を盗み見た罪は海より深いのよっ!」
「ま、まて! 話せばわかる!」
「問答無用! 成敗っ!」
「ふごおうっ!?」
クレア怒りの拳が、レナードの巨体を吹っ飛ばしたのだった。
*** ***
「このこのっ……撮影したデータを出しなさい……チリにしてあげますっ(げしげしっ)」
倒れ込んだレナードをルイがブーツで踏みつけている。
「むほおおおぉぉぉ!? 銀髪ロリっ子の踏みつけ気持ちいいっっ!?」
「……超絶不愉快です」
レナードとその部下たちを捕縛した僕たち特A科クラス。
部下の話では、魔獣を操っていた”魔導器具”は、自治領主であるレナードが調達して来たらしい。
だが奇妙な事に、レナードはそのことをほとんど覚えていないようだった。
それどころか、なぜこのような野心にとらわれていたかも分からないようで。
ルイに踏まれて喜んでいるその変態性だけは生来のモノだったようだが……。
レナードが上位魔獣に付けていた魔導器具も全てが跡形もなく崩れ去っており……レナードが最後に発言した”商社”と言う言葉も含め、全てが謎に包まれた反乱未遂事件は、こうして幕を閉じたのだった。
「ふぅ、もう夜が明けるな……予定より早く解決したから、残りの日程は遊んでいくか! 飯ならおごるぞ~!」
「マジですかセシル教官! クレアちゃん、リミッター解除します!」
「なるほど……特殊部隊でスイーツ魔人と呼ばれた私の実力を見せる時が来たようですね」
「ふっふっふっ……毎食キロ単位で食うっすよ~」
「……あの、皆さん多少は遠慮して?」
不用意な一言で、僕の財布が大破することになりそうだった。
あなたにおすすめの小説
姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?
果 一@【弓使い】2巻刊行決定!!
ファンタジー
リクスには、最強の姉がいる。
王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。
類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。
『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』
何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。
そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。
「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」
その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。
英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?
これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。
※本作はカクヨム・ノベルアップ+・ネオページでも公開しています。カクヨム・ノベルアップ+でのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。
転生貴族は現代知識で領地経営して成り上がる
初
ファンタジー
アズマ王国と国境を接する帝国内のイドウィー半島のメリシア子爵家。
かつては帝国の中央からの追放者を受け入れ、イドウィー半島全域を領有していた。
しかし時が経つにつれて衰退していき、今では半島の西部と北部の一部を領有するまでに衰え、半島全体が各勢力による分裂で弱体化していた。
そんな弱体化した半島に、1331年にアズマ王国のラーディン公爵家の侵攻が始まった。半島内の各勢力は敗北を続けた。
そしてメリシア子爵家の当主になったばかりのアレスがラーディン公爵家を撃退することになったが、敵はこちらの五倍、まともに戦えば勝ち目はなかった上、アレスの前世は日本人。戦争とは無縁の生活をしていた。
しかしアレスは側近とともに立ち上がった。
果たしてアレスはラーディン公爵家に勝利し、領地と領民を守ることができるのか。
これは転生者のアレスが領地経営に試行錯誤しながら取り組み、問題や課題を解決しながら領地を発展させ、大貴族に成り上がる物語である。
※プロローグを見ないで一話から読むことをおすすめします!
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。
町島航太
ファンタジー
かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。
しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。
失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。
だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。