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第12章 究極のアイテム娘さんと決戦準備

第12-3話 女神の使い、エナの憂鬱

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 女神バレスタインからグラスのもとに派遣された、エナジーオーブの精霊ことエナは、最近偏頭痛を感じるようになっていた。
 原因は、エナと同じアイテム精霊たちの日々のふるまいにあったのだが……。


 ***  ***

「グラス~! 今日のおやつはなにかなぁ?」

「おおっ!? 最強ティラミス生クリーム和え!! このカロリー爆弾こそがグランポーションになるんだよっ!」

「じゃあ、私の分5キロ~!
 ……あっ、グラスぅ……唇にクリームが付いてるよ?」

 んっ……むちゅう……

 まだ昼下がりなのに、はしたなく大量のスイーツを食べるポゥ(私も食べたい)……しっ、しかも明るいうちから深い接吻なんて……すぽぽぽん、と顔を真っ赤にするエナ。


 ***  ***

「にしし、アタシたちの飯、毎日ありがとな、グラス!
 おっと、腰と肩が結構凝ってるんでないかい? うりうり、にひひ……!」

「ああっ、エル……いきなりそんな!」

 朝ごはんを食べ終え、お店の開店まで小休止の時間、エルがグラスをリビングの床にうつぶせにさせ、足でマッサージをしている。
 足先の動きがやけになまめかしい。

「んん~~? 腰の部分のコリが激しいな……にっしし~、グラス、ちゃんと抜いて(意味深)んのかぁ!?」

「よし、エルちゃんが手伝ってあげよう! だいじょうぶ! これはNTRじゃなくて、マッサージだから」

 ぐりん!

 エルは脚の動きだけで器用にグラスを仰向けにすると、”マッサージ”を続けようとする。

「ちょっ、待ってエル! 今デリケートゾーンは…………アーーーーッ!!」

 グランエーテルを作るのはいいですけど、なんで毎日グラスは朝からお風呂に入る羽目になるのですか!
 思わず天を仰ぐエナ。


 ***  ***

「あら、奥様……いらっしゃいませ。 お気に入りの席、あいてますよ~」

 天気の良い午後、ヴァンが運営するカフェレストラン「プレジール」に、妙齢の女性が来店する。
 ヴァンの接客から推測して、常連客のようだ。

「ヴァンちゃん、いつものヤツを頂けますかしら……はぁ」

「……どうされました、奥様?」

 オーダーするなり、ため息をつく女性に、ヴァンが優しく問いかける。

「どうもこうもありませんわ……うちの主人、最近王都の空気が暗いでしょう?」

「”こういう時こそ、街を元気に!” などどぬかして、毎夜遊び歩いてるのですわ……最近お相手もしてくれませんし、ストレスが溜まってしまって……」

 まったく、男どもはすぐこうです……憤る女性に、なにかを思いついたのか、意味深な笑みを浮かべるヴァン。

「なるほど……それでは、奥様もをされるべきです……当店では、おひとりのお客様同士で楽しくおしゃべり頂ける特別個室をご用意しております」

「本日はたまたま、大商人のかたが……」

「……ごくり」

 言葉巧みに、女性を”特別個室”とやらにいざなうヴァン。

 ……アレは大丈夫なのでしょうか? 特に風営法的に。


 ***  ***

「ほ~っほっほっほっ! 出来た、出来ましたわぁ!
 超天才ラブリー大貴族(風)アロマショップオーナーであるこのわたくしの新作アロマオイル!」

「まずは、こちらの緑のオイル!!」

「これは、集中力を極限まで高め……むしろあちらの世界を垣間見ることが出来ます……これで、大事な試験もプレゼンも一点突破ですわ!!」

「「うおおおおおおっ!!」」

 ずびしっ! とドヤ顔で新作アロマオイルを紹介するリーゼ。

「さらに、こちらの紫色のオイル……これは、感覚を刃のように研ぎ澄まし……あなたをヤバイゾーンの向こうへ……これでに気なるあの人のハートも、カジノのスロットもあなたの思い通りですわ!!」

「「「うおおおおおおおおおおおっ!!」」」

 リーゼのファンらしき少女たちに混じって、明らかにカタギじゃなさそうなおっさん達もこぞってリーゼのアロマオイル(仮)を買い求めているが……。

 ……アレはもっと大丈夫なのでしょうか? 特に薬事法的に。


 ***  ***


「ここ数日、貴方たちの生活ぶりを見させていただきましたが、世俗に染まりすぎです!!」

「そもそも、アイテム精霊とは女神バレスタインの……」


 リビングの方がやけに騒がしいと思ったら、エナがポゥたちアイテム精霊ズを正座させ、何やら説教大会をしているのが見える。

 うんうん、風紀粛正に動いてくれるのはいいことだ。

 それにしても、いまは決戦に向けてアイテムを作り溜めるばかりで、エナには特に仕事が無いから、彼女のパワーも有り余っているようだ……。

 何か考えてあげないと……このままでは彼女はクソニート学級委員長になってしまう……僕はまたまた家の近くの物件を探すのでした。
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