追放された運送屋、僕の【機械使役】は百年先の技術レベルでした ~馬車?汽船? こちら「潜水艦」です ドラゴンとか敵じゃない装甲カチカチだし~

なっくる

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第3章 初めての空

第3-5話 まだ見ぬ空へ!

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「電路接続……潤滑油の温度問題なし」

 パチン、晴嵐の操縦席に座ったセーラが、無数に配置されたスイッチの一つを押し込む。

 ぱっ、と手元の出っ張り (電灯というらしい)に光がともり、いくつかの計器が反応する。

「エンジンイナーシャ始動……フェド、魔力を頂戴」

「ん、オッケー」


 ギュイイイイインッ!


 僕が魔力を放出すると、エンジン横に差し込まれたハンドルがゆっくりと動き出す。
 セーラの話では、エンジンを起動する際に手回しで勢いをつけるための道具らしい。
 わざわざ外に出て回すのは大変なので、僕の魔力で動かしているのだ。

「いいわね……エンジントルク増大……コンタクト!」


 バスン!
 バルルルルルルルッ!


 機首に搭載されたエンジンが放つ唸り声が高まった瞬間、セーラが足元の器具を操作する。
 その瞬間、爆音が響き……巨大なプロペラが高速回転を始める。

 凄いっ! たぶんこのプロペラで風をかき分けて飛ぶんだよね!

 ボトムランドの誰も見たことのない光景に興奮する僕。


 ガコガコ……ガコン!


「昇降舵、方向舵……ダイブブレーキ (急降下時の速度を押さえるブレーキ)の動作問題なし……バッチリね!」

「イオニ! 行くわ!」
「カタパルトの準備は出来てるっ?」

 色々な機械の動作確認が終わったのか、
 頭にかぶった道具 (ヘッドセットというらしい)に叫ぶセーラ。
 操縦席に爆音が響く中でも、これで外と話ができるみたいだ。

「油圧、装薬ともに問題なし! いつでも行けるよっ!」

「風に立てっ!」

 セーラから手渡されたヘッドセットを装着する。
 すると、耳当てから元気なイオニの声が聞こえた。

 凄いなこれ……魔法通信なんかよりよっぽどクリアな音質だ。

「了解……射出タイミングはこちらで指示するわ!」

 伊402は浮上したまま、風上に向かって突っ走る。
 セーラたちが「カタパルト」と呼ぶレールに乗せられた”晴嵐”は、プロペラを高速回転させながらその時を待つ。

 ……どうやって飛び上がるんだろう?

 そこのレールを走るのかな?
 左右に伸びる翼はがっちりと固定され、鳥やドラゴンのように羽ばたくわけではなさそうだ。

「……フェド、そろそろ行くわよ」
「座席にしっかりと座って頭をクッションから離さないこと、怪我するわよ」

「う、うん……」

 ごくり……なにが起きるのか、思わず喉を鳴らす僕。

「合成風力問題なし……行くわよイオニ!」

「射出っ!!」


 ズバアアアンッ!


 セーラが手を振った瞬間、機体の下から巨大な爆発音が響く。

「うわわわっ! なんだこれっ!?」

 同時に、機体がものすごい速度で加速され、エンジンの爆音がひときわ高まる。

「ぐっ……行ったっ!」

 30メートルほどのレールは一瞬で過ぎ去り……海に落ちると思った瞬間、晴嵐の巨体はふわりと宙に浮いていた。

「凄いっ! 本当に飛んでるっ!?」

 思わず子供のように歓声を上げてしまう。

 大きな危険を冒して飛行系魔獣をティムすることでしか届かない大空……。
 ボトムランドの住人にとっては、”海”以上に憧れの場所なのだ。

 しかもしかも、スピードが速いっ!

 ちらり、と操縦席の速度計?が見えたけれど、世界最速と言われるスカイドラゴン、ヤツらの最高速度と言われる時速200キロを遥かにぶっちぎっている!?

「冷却水の温度上昇も許容範囲内……よしっ、全力でぶん回せそうね!」

「……えっ?」

 物凄い勢いで背後に流れていく景色に感心していると、セーラがとんでもないことを言いだす。
 これで、全速じゃないの?

 ぐっ!

 セーラが左手のレバーを前に押した瞬間、エンジン音が高まり……晴嵐は弾かれるように加速する。

「ええええええええ!?」

 全身が座席に押し付けられる。
 耳に入るのはエンジンの轟音と風切り音だけで……もはやどれだけのスピードが出ているか想像もつかない。

「全速260ノット (時速480キロ)……イイじゃないっ! ノッて来たッ!」

 操縦席のセーラは絶好調だけど、僕はそろそろ昼ご飯が胃から戻ってきそうだ。

 座席の背もたれを叩き、限界が近い事をセーラにアピールするが……。

「あら、情けないわねフェド」

「この子はフロート (翼の下に付いている船)を投棄すれば、300ノット (時速570キロ)までイケるわよ? 試してみる?」

 とんでもないことを言いだすセーラに僕はぶんぶんと頭を振り、拒絶の姿勢を示したのだけれど……。

「あっ、そうだ! 急降下テストもしておかないとね☆」

「フェド、口を閉じてアゴを引いて! 舌を噛んじゃうわよ!」

 セーラ、なにを……彼女は何か恐ろしいことをしようとしている、察してしまった僕が止める暇もなく……。


 くるっ


 天地が回転し、海に向かって真っ逆さまの姿勢をとった機体は、ものすごい速度で急降下し始めた。

「350……400……450ノット……フラッター (異常振動)も無し!」

「ひゃっほ~! 最高ねっ!」

「!?!?!?!?」

 その日、僕は流星になった……。


 ***  ***

「はえ~、セーラちゃん飛ばしてるな~」
「フェドくんかんちょ~、大丈夫かな?」

 くるくると舞う晴嵐を、のんびりと見上げるイオニなのだった。
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