追放された運送屋、僕の【機械使役】は百年先の技術レベルでした ~馬車?汽船? こちら「潜水艦」です ドラゴンとか敵じゃない装甲カチカチだし~

なっくる

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第7章 変わりゆく世界

第7-7話 女王とイレーネの秘策(後編)

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「って、フィル? 一体どうしたのよ!?」

 屋根裏部屋に上がってきたセーラは、フィルの姿を見て驚きの声を上げる。

「”封魔の脚輪”……魔法的に相手を拘束するマジックアイテムだね」

「まじっくあいてむ?」

 僕の言葉にセーラが首をかしげている。

「そーなんデスっ! このアンクルのせいで外に出れないノっ!」

 じたばたと手足をばたつかせるフィルの足元はいつものブーツではなく、粗末なスリッパ。
 彼女の足首に付けられているのは魔法文字が彫られた白い脚輪だ。
 対象者の力を削ぎ、特定の場所に縛り付ける効果がある。

「Fuu……キユーサンが急に外に出るなと言ってきて。
 納得いかなかったので、夜にこっそり抜け出そうとしたらバレちゃって、これを着けられマシタ」

 いつも陽気なフィルがしゅんと落ち込んでいる。
 屋根裏部屋には簡易なベッドとトイレだけが設置されており、食事は一応与えられているみたいだけど……。

 駆逐艦フレッチャーの精霊であるフィルは帝国の切り札だったはず。
 いくらたくさんの新型ギフトを手に入れたとはいえ、この待遇の急変はおかしい。
 まるで、彼女を決戦の場に連れて行きたくないかのような……。

 おっとそれより、まずはフィルを助けてあげないと。

「酷いわね……フェド、何とかならない?」

「任せて、セーラ」

 ここはまたまた僕の出番である。

「本来は魔法トラップを無効化するときに使うヤツなんだけど……”ニュートラ”!」

 僕は両手を広げると、手のひらを向かい合わせに近づけ、特殊な術式に魔力を込める。

 ぱああああっ

 僕の両掌が緑色に輝く。

「フェド、何をするんデスか?」

「この魔法は、アイテムに掛けられた魔法効果を”中和”するんだ」

 僕はそう言いながら、両掌をフィルを拘束している脚輪に近づける。

 パキンッ!

「わわっ!?」

 ”ニュートラ”の光が脚輪を包んだとたん、脚輪は2つに割れ、フィルのほっそりとした足首があらわになる。
 次いでもう片方も。

「よしっ! 身体の調子はどうかな、フィル?」

 難易度の高い魔法だけど、成功してよかった。
 僕は汗をぬぐいながら立ち上がる。

「んん~~~~っ!! フィル、大復活デ~ス!!」
「Thanks!! フェドっ!」

 脚輪に抑えつけられていた力が蘇ったのだろう。
 フィルは嬉しそうに大きくジャンプすると、その勢いのまま僕に抱きついてきた。

 だきっ!!

「わぷっ!?」

 どさっ……むにっ!

 そのまま押し倒されるような格好で床に転がった僕の顔に、フィルの豊かなバストが押し付けられる。
 あふっ……極上の感触だけど息が出来ないかもっ!

「むむむむっ~! いちいち格差を見せつけてくれるわね!」
「それにしてもますますフェドの過去が気になって来たわ…………ってフィル!」

「そのままじゃフェドが窒息するでしょ、離れなさい!」

 べりっ!

「Oh! ソーリー、フェド」
「むふ~っ、セーラもThanksねっ!」

 だきっ!

「ぬわっ!? やめなさいフィル!」
「感触は最高だけど、悲しくなるじゃないの!!」

「ヤメませ~ん!!」

「……ふぅ」

 窒息の危機は去ったけれど、もっとあの感触を味わいたかったかも。
 相反する思いを抱きながら体を起こす。
 フィルはすっかり調子を取り戻したようだ。

 そうだ、フィルに確認したいことがあった僕は、彼女に話しかける。

「ねえフィル、ここに帝国軍の魔法使いが残ってない?」

 基本的にギフトのエンジンは燃料を燃やして動くのだけれど、定期的に魔力を補充しないと止まってしまうことがある。
 そのため、魔力タンク役の魔法使いがこの建物に残っている可能性が高い。
 魔法使いがいるなら、僕が”ニュートラ”の魔法を使ったことを検知されたかもしれない。

 だけど、フィルから返された答えは想定外のモノで。

「いえ……出撃前にハイネスとキユーサンがここに来たのデスが……いつもフィルに乗っているマホーツカイ達もゼンブSistersに乗っていきまシタよ?」

「!? そうなの? これは……」

「どうしたのよ、フェド?」

「うん。 セーラ、前に言ってたよね?」
「どうやってフィルは兵装を動かしているのかって」

「僕はフィルの艦体から魔力反応を感じるから、エンジンルームに直接魔法使いが乗ってるんじゃないかと言ったけど……」

 ちらり。
 僕は屋根裏部屋の窓から隣のドックを見る。

 ドックに浮かぶフレッチャーからは、変わらず
 帝国の魔法使いが全員出払っているにもかかわらず。

 警備が手薄な今なら、艦内に侵入できるだろう。

「フィル、君のエンジンルームを見せてくれる?」

「Why? Dockには工場の一番奥から行けるケド……」

 イレーネ殿下から聞いた”懸念”と、最近皇都周辺で頻発する神隠し事件。
 まさかという思いとともに、僕たちはフィルの艦体に向かうのだった。


 ***  ***

「これは……」

「新型発動機の部品じゃ……ないわよね?」

「What’s!? こんなParts、フィル知りまセンよ!」

 工場に隣接したドックに浮かぶ駆逐艦フレッチャーの艦体。
 警備の目を盗んで乗り移り、艦体後部にあるエンジンルームに入った僕たちの目に入った謎の物体。
 伊402のエンジン出力を大きく上回るというフレッチャーのエンジンは巨大で、無数の配管が複雑に絡み合っている。

 だが僕らの目を奪ったのは、それら機械類のど真ん中に鎮座し淡く青色に光っている一抱えほどの金属製のカプセル。

(魔力の伝導効率に優れたミスリル銀製だな……それに感じるこの魔力は)

「ふぅ……」

 推測が当たっていることを確信した僕は、小さくため息をつく。

「それじゃあ、二人とも……コイツを

「……え?」

「……Why?」

 戸惑いの表情を浮かべるセーラとフィル。
 僕はそんな二人にかまわず、もう一度”ニュートラ”の魔法を発動させる。


 ぱきん!


 カプセルに掛かっていたが解除され、カプセルの蓋がゆっくりと開く。

「な、何よこれっ!!」

「ウソでしょっ!?」

 二人の悲鳴が、エンジンルームいっぱいに響いたのだった。
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