君を必ず

みみかき

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二つの世界

3.夢の日

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 清々しいくらい澄み渡った青空。昨日まで続いた雨が嘘のようだ。
 1週間ぶりの晴れ間を全身に受け、私は朝の支度をする。

 支度をするとはいっても、今日は休日。仕事を一切忘れて、休みを満喫する支度をするのである。

「パパ、ママ、おはよう」
 娘の梨愛が、いつも起きる時間より少し早く起きてきた。

「おはよう、顔を洗っておいで」

 私は妻と朝食の準備しつつ、まだ起きてこない息子の留稀を起こしに行った。

 子供達の部屋に行くと、留稀はまだぐっすり眠っていた。
 体を優しく揺すりながら声をかけたところ、すんなり起きた。

「パパおはよ、でも俺もう起きてたよ、偉いでしょ!」
 眠そうな目を擦りながら留稀が起きる。

「起きてたのかあ、偉いなあ。朝ごはんできてるから、顔を洗っておいで」
 そう伝えつつ頭を軽く撫で、私は妻の手伝いへと戻った。

「いただきます」
 家族四人で朝食をとる。平日は、私の出社や帰宅の時間が合わずに、一緒にご飯を食べる機会が少なくない。

 そのため、私は家族みんなでごはんを食べる時が小さな幸せとなっている。

「今日は何時にお出かけするの?」
 子供たちが、楽しみにしている気持ちが溢れ出ている笑顔で聞いてきた。

「そうね、お昼前くらいにおうちをでて、お外でお弁当たべよっか」
妻も嬉しそうな笑顔で答える。

 妻と私は、朝ごはんの支度とともに、子供たちの大好きなものを詰め込んだお弁当も一緒に作っていた。

 サンドイッチに甘い玉子焼き、そして忘れてはいけないのが、妻がカットしたタコのウインナーだ。

 子供たち、とくに留稀はタコの形や、レアモノとしてカニの形もたまに入っているウインナーが大好きだった。

「ごちそうさまでした」
 ちょこんと両手を合わせて食べ物への感謝を伝える子供たち。それを見てほほ笑む妻。

 私はなんて幸せなのだろうか。

 後片付けをしてる最中、子供たちとひそひそ話をしていた。

「梨愛、留稀、二人とも準備はできてる?」

「「うんー!」」子供たちの声が揃った。

「お姉ちゃんと一緒にね、ちゃんと準備したんだ!ね、お姉ちゃん!」
 そういって留稀は梨愛に顔を向ける。

「がんばったよ!留稀と一緒に選んだの!」
 梨愛の顔はニンマリとした笑顔であった。

「何をがんばったの~?」

 洗い物が一段落した妻が、会話に入ってきた。
 妻のにやけ具合から察するに、何の算段をしていたかすでにばれていそうだ。

「「なんでもない!!」」子供たちの声が揃った。

 二人ともそのまま自室へと戻っていき、リビングには妻と私だけになった。

「今年はどんなサプライズかな~」
 妻はにやにやしながら私を見やる。やはり、ばれている。

「毎年お伝えしておりますが、それは秘密でございます」と、ホテルマンのような毅然とした言い方で伝える。

 妻は自分を指差しながら言った。
「毎年恒例の、あれだね」

 
 時刻も正午へと近づき、家を出る準備を始める。

 そこでふと、今朝見た夢のことを思いだした。私は、酷く恐ろしく、そして悲しい夢を見た。

 私は泣いていた。今より一回りほど若い私だった。その様子を私は後ろから見ていた。

 自分の泣いてる姿を違う視点で見るとは、なんとも奇妙な夢だと思った。

 窓の外では雨が降っていた。

 誰かのお通夜だった。その空間には、どこか懐かしさを感じた。

 夢の中では、出したことのないほどの涙を流し叫びをあげる私と、棺の中の誰かしかいなかった。

 棺の蓋は閉じており、顔を見ることはできなかったが、私の泣きようからして、とても近しい者の通夜なのだろう。

 壁にかけられたカレンダーをふと見た瞬間、私はハッとした。

 そこには、妻の誕生日と同じ日に赤く丸が描かれており、見慣れた丸文字で〈わたしの誕生日!〉と大きく書かれていた。

 デジタル時計を見つけて日付を確認すると、いまこの空間は妻の誕生日当日であることを示していた。

 いまの状況を理解しようとして、次々と脳裏に考えが浮かぶ。

 いま私がいるこの場所も思い出した。妻の実家だ。
 ということは、この棺の中、この中で眠っているのは…。

 私が夢から覚めた時、目から涙が零れ落ちていた。

 隣で気持ちよさそうな顔で寝ている妻を見て、安心からさらに涙が出た。そっと頭を撫で、良かったと私はつぶやいた。

 なぜあんな夢を見たのかはわからない。しかも、夢の日付も現実と同じ日だった。

 今日は妻の誕生日である。


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