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13話 アドバイス?
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それから1週間ほどが経った。6月らしく今日は一日雨予報だった。
「ね~、瞳。最近全然アクセス数が増えないんだけどさ、どうしたら良いのかな?」
「……アクセス数? 何? 推しのYouTuberの話?」
「ち、が、う、よ! 私が書いてる小説の話だよ、この薄情者! アンタが『書けば?』って勧めたから私は昨日もウンウン悩みながら何とか書いて更新したのに。どうりで昨日は1PVも回らなかったわけだわ」
「あ、キミヒトの話? アンタまだ書いてたんだ? ごめんごめん、すっかり忘れてたわ。後で読んどくよ」
「あ、マジで忘れたんだ……あと私の書いたのはキミヒトじゃなくて『君との永遠の時間』略してキミトワね」
「ごめんって~、後で読んどくし他の子たちにも読むよう言っとくからさ! 元気出しなって。アンタのプリティフェイスが浮かない表情してるとこっちまで気が滅入るわ」
そう言うと赤城瞳は草田可南子の頬っぺたをぐにぐにした。……クソ、女同士ってのはズルいな。
「……うん。でもさ、マジで全然誰も読んでないんだよね。……時間が経てば誰かが読んでくれるもんだと思ってたからちょっとショックかも」
(なんだよ、マジでショック受けてるのかよ?)
草田可南子のトーンはいつもの陽キャ一軍女子のキャハキャハしたものとは違っていた。
俺にはその変わりっぷりが意外だった。
あれから1週間ほどが経ち、俺も彼女の作品を見返すことはなかったし、米倉とそのことについて話すこともなかった。
まあ、正直に言えば俺は少し……ほんの少し気になって思い出すこともあったが、この1週間全然更新はされていなかった。
だから筆者である可南子本人がもうそんなこと忘れたのだと思っていた。やはり陽キャの一時的気まぐれ。思い付いた遊びの一つでしかない。……そんなものだとばかり思っていた。
「まあまあ、可南子。せっかくの大学生活だよ? 青春は今しかないのだ! もっともっと楽しいことに目を向けるべきなのではないかね? おお、友よ!」
瞳はふざけてミュージカル調の声を上げた。
「うん……」
いつもならそうした茶番にはすぐに乗るのだが、それでも可南子の表情は晴れなかった。
仕方なくといった様子で瞳も可南子に向き直った。
「……え、あんたマジで作家になろうとしてるの? そんなに本読むのとか好きだったっけ?」
「うんう……別にそんなんじゃない。っていうか、そんなこと冗談でも言えなくなってきた。書けば書くほど自分のレベルの低さに気付くっていうかさ……。でも悔しいのよね! せっかくこれだけウンウン唸りながら寝不足になっても書いてさ……。だからもう少しだけでも読んでくれる人を増やしたいし、誰かから感想をもらえるまでは書きたいかも」
「ふ~ん、そうなんだ。何かアツいじゃん」
クサくなってしまいそうな話だったが、それでも正面から話を受け止めたのは赤城瞳の功績だろう。これが浅い関係性の女子だったら話を茶化したり、真剣には受け止めなかっただろう。長い関係だから瞳には可南子が真剣に話しているのが分かったのだろう。
「あらあら、大変ね。カリスマレビュワーがアドバイスを送ってあげたら? それか『slt―1000』のアカウントでレビューを書いてあげれば? キミならそれなりのレビューを書けるんじゃないの?」
……振り向くまでもなく、米倉真智が来たことはその口調で分かった。
「……冗談じゃねえよ。お前の方こそ雑誌掲載経験もあるプロ作家なんだから、アドバイスを送ってやったらどうだ? お前アイツにURL聞いたんだろ? ってことはお前が読んでることを知ってるんだろ? しかもお前はアイツの作品の中に光るものがある……って言ってたじゃねえかよ。どう考えてもお前の方が適任だろ」
こないだ話した時のことを俺は思い出していた。
「そうしてあげたいのは山々なんだけどね……私はどっちかというと純文学の方でライトノベルみたいなエンタメ作品は専門外なのよね」
「……俺だって素人投稿者の育成は専門外だ」
俺の言葉に米倉はふふん、と鼻で笑った。
……ムカつく女だ。子供の頃からいけ好かない部分はあったが、こうまで態度が鼻につくことはなかったはずだ。
「キミもプライドが高いのね……ね、でもさ、冗談じゃなくて私マジであの子のこと助けてあげたい気持ちになってきたのよね。ほらやっぱ可南子ちゃんみたいな可愛い子が浮かない表情してるのは、それはそれでゾクゾクするんだけどさ……もし私の一言でそれがパッと明るくなったら……しかもそれで私に依存するような存在になってしまったら……って想像すると、堪らないのよね……」
米倉は言葉にしながら、ここではない何処かを見つめていた。
「……え、お前、マジでアイツのことそういう目で見てるの?」
最初の時には『すぐに百合だとか考えるのはあまりにラノベ脳だよ?』とバカにしてきたが、コイツの今の反応は……
「やだねえ! 冗談よ、冗談!」
……うん。怖い。実にあっさりと手の平を返したようにカラカラと笑うコイツの本心がまるで見えない。
読書家、まして自分で文章を書くような人間は性格がねじ曲がっている、というのは経験上疑う余地のないことだが、その独特な様を目の前で見せられるのは中々怖い。
ドン引いた俺の反応を見て、米倉はコホンと一つ咳払いをした。
「……ね、でもさ、参考までに聞いておきたいんだけど、あの子の作品が少しでも読まれるように改善するとしたら、どこを直せば良いのかしらね?」
「は? イチから作り直せ。これからあの作品がどんな神展開になっても、そこまで読者は辿り着かない。ネット小説は最初の数話が特に肝心なんだよ。最初から手直しするくらいなら新しく書いた方が楽だろ? 人気の作品の傾向を真似て書いていくのが一番手っ取り早いだろうし、現実的だ」
「あら、じゃあ今の作品は消しちゃうの? それは読者に対してあまりに不誠実なのではないかしら? それに小説はどんなに短くて稚拙でも完結させることで筆力が上がるものよ。まずはきちんと完結させることが肝心だと思うけど?」
「少しでも多く読まれるために、っていう話だっただろうが? 筆力なんてものは俺は知らん。……まあどうしてもあの作品にこだわるって言うなら、前も言ったと思うがタイトルと紹介文だろうな」
「紹介文?」
「まあ呼び方はサイトごとに異なるが、タイトルをタップした次に開かれる箇所だよ。あらすじやキャラクター、世界観……何でも良いんだがとにかくそこで第1話を読ませるような魅力を伝えなけりゃならない。そこは丹念に書くべき所だろうな」
「ふ~ん。色々あるのね」
真智は感心したように首を振った。
「じゃあ私、可南子ちゃんにそういう風にアドバイスしてくるわね~」
「は? おい? マジかよ……」
俺が引き止める間もなく米倉はひらひらと手を振って行ってしまった。
「ね~、瞳。最近全然アクセス数が増えないんだけどさ、どうしたら良いのかな?」
「……アクセス数? 何? 推しのYouTuberの話?」
「ち、が、う、よ! 私が書いてる小説の話だよ、この薄情者! アンタが『書けば?』って勧めたから私は昨日もウンウン悩みながら何とか書いて更新したのに。どうりで昨日は1PVも回らなかったわけだわ」
「あ、キミヒトの話? アンタまだ書いてたんだ? ごめんごめん、すっかり忘れてたわ。後で読んどくよ」
「あ、マジで忘れたんだ……あと私の書いたのはキミヒトじゃなくて『君との永遠の時間』略してキミトワね」
「ごめんって~、後で読んどくし他の子たちにも読むよう言っとくからさ! 元気出しなって。アンタのプリティフェイスが浮かない表情してるとこっちまで気が滅入るわ」
そう言うと赤城瞳は草田可南子の頬っぺたをぐにぐにした。……クソ、女同士ってのはズルいな。
「……うん。でもさ、マジで全然誰も読んでないんだよね。……時間が経てば誰かが読んでくれるもんだと思ってたからちょっとショックかも」
(なんだよ、マジでショック受けてるのかよ?)
草田可南子のトーンはいつもの陽キャ一軍女子のキャハキャハしたものとは違っていた。
俺にはその変わりっぷりが意外だった。
あれから1週間ほどが経ち、俺も彼女の作品を見返すことはなかったし、米倉とそのことについて話すこともなかった。
まあ、正直に言えば俺は少し……ほんの少し気になって思い出すこともあったが、この1週間全然更新はされていなかった。
だから筆者である可南子本人がもうそんなこと忘れたのだと思っていた。やはり陽キャの一時的気まぐれ。思い付いた遊びの一つでしかない。……そんなものだとばかり思っていた。
「まあまあ、可南子。せっかくの大学生活だよ? 青春は今しかないのだ! もっともっと楽しいことに目を向けるべきなのではないかね? おお、友よ!」
瞳はふざけてミュージカル調の声を上げた。
「うん……」
いつもならそうした茶番にはすぐに乗るのだが、それでも可南子の表情は晴れなかった。
仕方なくといった様子で瞳も可南子に向き直った。
「……え、あんたマジで作家になろうとしてるの? そんなに本読むのとか好きだったっけ?」
「うんう……別にそんなんじゃない。っていうか、そんなこと冗談でも言えなくなってきた。書けば書くほど自分のレベルの低さに気付くっていうかさ……。でも悔しいのよね! せっかくこれだけウンウン唸りながら寝不足になっても書いてさ……。だからもう少しだけでも読んでくれる人を増やしたいし、誰かから感想をもらえるまでは書きたいかも」
「ふ~ん、そうなんだ。何かアツいじゃん」
クサくなってしまいそうな話だったが、それでも正面から話を受け止めたのは赤城瞳の功績だろう。これが浅い関係性の女子だったら話を茶化したり、真剣には受け止めなかっただろう。長い関係だから瞳には可南子が真剣に話しているのが分かったのだろう。
「あらあら、大変ね。カリスマレビュワーがアドバイスを送ってあげたら? それか『slt―1000』のアカウントでレビューを書いてあげれば? キミならそれなりのレビューを書けるんじゃないの?」
……振り向くまでもなく、米倉真智が来たことはその口調で分かった。
「……冗談じゃねえよ。お前の方こそ雑誌掲載経験もあるプロ作家なんだから、アドバイスを送ってやったらどうだ? お前アイツにURL聞いたんだろ? ってことはお前が読んでることを知ってるんだろ? しかもお前はアイツの作品の中に光るものがある……って言ってたじゃねえかよ。どう考えてもお前の方が適任だろ」
こないだ話した時のことを俺は思い出していた。
「そうしてあげたいのは山々なんだけどね……私はどっちかというと純文学の方でライトノベルみたいなエンタメ作品は専門外なのよね」
「……俺だって素人投稿者の育成は専門外だ」
俺の言葉に米倉はふふん、と鼻で笑った。
……ムカつく女だ。子供の頃からいけ好かない部分はあったが、こうまで態度が鼻につくことはなかったはずだ。
「キミもプライドが高いのね……ね、でもさ、冗談じゃなくて私マジであの子のこと助けてあげたい気持ちになってきたのよね。ほらやっぱ可南子ちゃんみたいな可愛い子が浮かない表情してるのは、それはそれでゾクゾクするんだけどさ……もし私の一言でそれがパッと明るくなったら……しかもそれで私に依存するような存在になってしまったら……って想像すると、堪らないのよね……」
米倉は言葉にしながら、ここではない何処かを見つめていた。
「……え、お前、マジでアイツのことそういう目で見てるの?」
最初の時には『すぐに百合だとか考えるのはあまりにラノベ脳だよ?』とバカにしてきたが、コイツの今の反応は……
「やだねえ! 冗談よ、冗談!」
……うん。怖い。実にあっさりと手の平を返したようにカラカラと笑うコイツの本心がまるで見えない。
読書家、まして自分で文章を書くような人間は性格がねじ曲がっている、というのは経験上疑う余地のないことだが、その独特な様を目の前で見せられるのは中々怖い。
ドン引いた俺の反応を見て、米倉はコホンと一つ咳払いをした。
「……ね、でもさ、参考までに聞いておきたいんだけど、あの子の作品が少しでも読まれるように改善するとしたら、どこを直せば良いのかしらね?」
「は? イチから作り直せ。これからあの作品がどんな神展開になっても、そこまで読者は辿り着かない。ネット小説は最初の数話が特に肝心なんだよ。最初から手直しするくらいなら新しく書いた方が楽だろ? 人気の作品の傾向を真似て書いていくのが一番手っ取り早いだろうし、現実的だ」
「あら、じゃあ今の作品は消しちゃうの? それは読者に対してあまりに不誠実なのではないかしら? それに小説はどんなに短くて稚拙でも完結させることで筆力が上がるものよ。まずはきちんと完結させることが肝心だと思うけど?」
「少しでも多く読まれるために、っていう話だっただろうが? 筆力なんてものは俺は知らん。……まあどうしてもあの作品にこだわるって言うなら、前も言ったと思うがタイトルと紹介文だろうな」
「紹介文?」
「まあ呼び方はサイトごとに異なるが、タイトルをタップした次に開かれる箇所だよ。あらすじやキャラクター、世界観……何でも良いんだがとにかくそこで第1話を読ませるような魅力を伝えなけりゃならない。そこは丹念に書くべき所だろうな」
「ふ~ん。色々あるのね」
真智は感心したように首を振った。
「じゃあ私、可南子ちゃんにそういう風にアドバイスしてくるわね~」
「は? おい? マジかよ……」
俺が引き止める間もなく米倉はひらひらと手を振って行ってしまった。
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