41 / 71
41話
しおりを挟む
(ここだ!)
右サイドのDFを担っていた俺は、状況を打開するためにドリブルで相手陣地への侵入を図った。
こちらのチームの攻撃は逃げのパスを繰り返すばかりで、ドリブルを試みる場面は全くなかった。当然2年チームもそのリズムに慣れ切っていた。ボールを持っている人間に対しても、パスが出てくることが前提の守備になっていた。
ハーフウェイラインよりも若干自陣右サイドでボールを受けた俺に対する敵の守備も、パスコースを切るばかりで直接のプレッシャーは掛かっていない状況だった。しかも後方の守備陣も自陣に張り付いているようなポジショニングで、俺の前にはぽっかりと大きなスペースが空いていた。
ここしかなかった。勝負に出るには何かを変えなければならないのだ。
俺が右サイドをドリブルで上がれば、敵も必ず誰かがチェックに来なければならない。そうすればこちらのチームの誰かが必ずフリーになるということだ。安東も高島も当然そのタイミングを狙っているはずだ。そこにパスを出せば必ず決定的なチャンスになる。もし敵がマークを中々捨てずチェックが遅くなれば、俺がそのままシュートを狙えば良いだけだ。
もう一つボールをつつき相手の反応を窺う。……まだチェックには出て来ない。
もう一つ。……敵DFは俺のことをしっかりと見てはいるが、誰も出ては来ない。自分のマークを捨てることへのリスクを考えてもいるだろうが、先輩たちはこの2週間ロクに練習もしていないのだ。自分ではない誰かが行くだろう……という無責任さが根底にあるのだろう。そういう人たちだ。
もう一つドリブルを進める。……まだチェックは来ない。このままシュートを打とう。俺は得意の右足を振りかぶりシュートモーションに入った。
「吉川、後ろ来てる!」
声を掛けたのは逆サイドにいた竹下だっただろうか。
「……バーカ、ザコがあんま調子乗るんじゃねえぞ」
後ろから戻ってきたのは中野先輩だった。
(しまった!)
シュートモーションに入っていた俺に対して中野先輩は、突いて俺からボールを外すのではなく、後ろから足裏でそのままボールを掠め取って反転した。こんな奪い方が出来るということは相当余裕があったということだ。本来ならもう一つ前あたりでボールを奪うことも出来たのだろう。だが、自陣の方にボールを戻して奪うような守備の仕方では手ぬるい……ということで一気にカウンターを仕掛けるためのボールの奪い方を中野先輩は選んだのだ。
そしてこんなボールの奪われ方をするということは……相当舐められていたということだ。もし俺がもう一つ前のタイミングでパスやシュートを選択していたら、中野先輩のディフェンスはボールを奪える時に奪わなかった……ということになる。セオリーとして守備はなるべくリスクを負うべきではない。ピンチの芽は一刻も早く潰しておくべきなのだ。
右サイドのDFを担っていた俺は、状況を打開するためにドリブルで相手陣地への侵入を図った。
こちらのチームの攻撃は逃げのパスを繰り返すばかりで、ドリブルを試みる場面は全くなかった。当然2年チームもそのリズムに慣れ切っていた。ボールを持っている人間に対しても、パスが出てくることが前提の守備になっていた。
ハーフウェイラインよりも若干自陣右サイドでボールを受けた俺に対する敵の守備も、パスコースを切るばかりで直接のプレッシャーは掛かっていない状況だった。しかも後方の守備陣も自陣に張り付いているようなポジショニングで、俺の前にはぽっかりと大きなスペースが空いていた。
ここしかなかった。勝負に出るには何かを変えなければならないのだ。
俺が右サイドをドリブルで上がれば、敵も必ず誰かがチェックに来なければならない。そうすればこちらのチームの誰かが必ずフリーになるということだ。安東も高島も当然そのタイミングを狙っているはずだ。そこにパスを出せば必ず決定的なチャンスになる。もし敵がマークを中々捨てずチェックが遅くなれば、俺がそのままシュートを狙えば良いだけだ。
もう一つボールをつつき相手の反応を窺う。……まだチェックには出て来ない。
もう一つ。……敵DFは俺のことをしっかりと見てはいるが、誰も出ては来ない。自分のマークを捨てることへのリスクを考えてもいるだろうが、先輩たちはこの2週間ロクに練習もしていないのだ。自分ではない誰かが行くだろう……という無責任さが根底にあるのだろう。そういう人たちだ。
もう一つドリブルを進める。……まだチェックは来ない。このままシュートを打とう。俺は得意の右足を振りかぶりシュートモーションに入った。
「吉川、後ろ来てる!」
声を掛けたのは逆サイドにいた竹下だっただろうか。
「……バーカ、ザコがあんま調子乗るんじゃねえぞ」
後ろから戻ってきたのは中野先輩だった。
(しまった!)
シュートモーションに入っていた俺に対して中野先輩は、突いて俺からボールを外すのではなく、後ろから足裏でそのままボールを掠め取って反転した。こんな奪い方が出来るということは相当余裕があったということだ。本来ならもう一つ前あたりでボールを奪うことも出来たのだろう。だが、自陣の方にボールを戻して奪うような守備の仕方では手ぬるい……ということで一気にカウンターを仕掛けるためのボールの奪い方を中野先輩は選んだのだ。
そしてこんなボールの奪われ方をするということは……相当舐められていたということだ。もし俺がもう一つ前のタイミングでパスやシュートを選択していたら、中野先輩のディフェンスはボールを奪える時に奪わなかった……ということになる。セオリーとして守備はなるべくリスクを負うべきではない。ピンチの芽は一刻も早く潰しておくべきなのだ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~
黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
さよなら、私の愛した世界
東 里胡
ライト文芸
十六歳と三ヶ月、それは私・栗原夏月が生きてきた時間。
気づけば私は死んでいて、双子の姉・真柴春陽と共に自分の死の真相を探求することに。
というか私は失くしたスマホを探し出して、とっとと破棄してほしいだけ!
だって乙女のスマホには見られたくないものが入ってる。
それはまるでパンドラの箱のようなものだから――。
最期の夏休み、離ればなれだった姉妹。
娘を一人失い、情緒不安定になった母を支える元家族の織り成す新しいカタチ。
そして親友と好きだった人。
一番大好きで、だけどずっと羨ましかった姉への想い。
絡まった糸を解きながら、後悔をしないように駆け抜けていく最期の夏休み。
笑って泣ける、あたたかい物語です。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる