悪役令嬢がなんでざまぁしなきゃいけないのか理解できない鈴木が転生した乙女ゲームを見守る俺

ぽいぽい

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鈴木がいる世界

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田中孝也が、鈴木壮介が交通事故で死んでしまったと聞いたのは、昨日の夜のことだった。

田中は、鈴木と一緒に乙女ゲームを作っていた。内容はとてもシンプル。健気なヒロインと王子が恋に落ち、最終的に王子の婚約者だった伯爵令嬢が断罪される物語だ。最初は、伯爵令嬢にざまぁされっぱなしになるが、パラメータを上げればヒロインと王子の絆が強まり、断罪エンドに進んでいける。
物語の大筋は田中が考えた。そのストーリーに合わせて、イラストを描いたのが鈴木だ。試行錯誤の末、無事に完成し公開した矢先、鈴木が事故で死んでしまった。


田中は、鈴木の突然の死に呆然としながらも、スマホを使ってゲームの評判を確認する。ダウンロード数は上々のようだ。思ったより良い滑り出しなだけに、鈴木にも見せたかったと思う。
とりあえず、田中は鈴木にそのことを報告するために、喪服の準備をした。

鈴木の親族は、田中と仕事をしていたことを知っていたため、田中に対し通夜や葬儀の連絡をしている。通夜が始まるまでは、まだかなり時間があった。とりあえず、必要な物だけを揃え、準備をした田中は、もう一度ゲームの評判を確認しようと、スマホを開いた。ゲーム情報に異変を感じたのは、その時だった。
「…す、鈴木?」
田中が鈴木に頼んだメイン画像は、ヒロインと王子を中心に、その後ろに悪役令嬢がいるという形のイラストだった。出来は最高だった。ストーリーのあらすじなんて読まなくても、この画像だけでダウンロードして貰えるのではないかと思えるほど、会心の出来だったと、田中は思っている。
本来なら、タイトル画面にいるのは、メインキャラの3人のみだ。それなのに、悪役令嬢となる伯爵令嬢の後ろには鈴木そっくりな男性の姿が描かれていた。服装を見る感じに、執事といったところだろう。
「いつの間に…」
田中は鈴木がいつの間にか勝手に付け加えたのだろうと思ったが、公開前に画像をチェックした時に鈴木の姿なんてなかった。そして、田中はもう一つ異変に気付いた。
「伯爵令嬢の顔も…」


田中は一体何が起きているのかと、公開したばかりのゲームを起動した。
『平民がわたくしに逆らうおつもり?』
伯爵令嬢エミリアがざまぁと笑う。ここは、田中が得に力を入れた場面だ。
悪役令嬢が悪ければ悪いほど、ヒロインの魅力は輝くことになる。ヒロインと悪役令嬢は、光と影だ。
その筈なのにゲームはあり得ない展開になった。
『お嬢様、そんな言葉遣いをしてはいけません。普通に笑っていれば、あなたは誰よりも美しいのですから』
画面には執事のスズキというキャラが登場し、伯爵令嬢を諭す。その言葉に、伯爵令嬢は顔を赤くし俯いてしまう。
「…な、なんだこれは…」
田中は鈴木がゲーム内にいること、そして自分が書いたシナリオとは全く違う展開になっていることに驚く。それと同時に、田中はゲームを作っていた時のことを思い出していた。


「なぁ、田中、なんでエミリアは悪役令嬢なんだ?」
「ライバルがいてこその乙女ゲームだろう?」
「俺は、ヒロインよりも可愛くデザインした。それなのに、お前が求めるのは『ざまぁ』と笑う顔や悔しがる顔ばかりだ。これではエミリアが余りにも可哀想だ」
「その分、ヒロインが可愛く見えるだろう?」
鈴木は、ヒロインよりも伯爵令嬢に肩入れをしていた。キャラデザは勿論、プロフィールに関してもエミリアは悪役令嬢にする必要がないと何度も田中に繰り返した。ただ、田中はそれを受け入れず、ゲームを完成させた。
エンディングは6つ。そのうち1つはエミリアが幸せになるエンドだ。物語的には、ハッピーエンドではない。


そんなやりとりを思い出しながら、田中はゲームを進めてく。
自分が書いたシナリオとは全く違う展開が続く。
執事スズキの助言により、エミリアは伯爵令嬢としての輝きを増していく。ゲームの中のエミリアは『ざまぁ』も言わない、悔しがることもしない、誰よりも美しい令嬢になっていった。その横で、執事スズキは満足気に笑っていた。
「…これは、あれか…」
田中はゲームをしながらつぶやく。
「異世界転生したのかよ、鈴木…」
スマホの画面に涙がぽたぽた落ちる。
田中は思う。これが鈴木の望んだ令嬢の姿なのだろう。
ただ、元々のストーリーは完全崩壊している。レビューを見ると『説明と違う!』『あらすじは嘘!』など、散々な言葉が並ぶ。ダウンロードした人は、鈴木が活躍している世界のストーリーを見ているようだった。
田中は、時計を見た。通夜の時間までには後3時間くらいある。
時間を確認し、田中は急いでパソコンに向かった。


通夜で田中が見た鈴木の顔は、とても穏やかだった。
事故に遭ったとは思えない程綺麗で、そして表情もどこか満足気だった。
「本当に、異世界転生したのかよ…」
田中は、その顔を見ながら執事スズキの顔を思い出していた。それと同時に、俺が殺してしまったのではないかと、自責の念にさいなまれる。もし、エミリアをもっと幸せにしていたら、鈴木は事故になんて遭わなかったのではないかと。


葬儀も全て終わった後、ゲームのレビューは、星1つが並んでいた。
田中は、このゲームが人気になって、もっと活躍できる未来を夢見ていただけにアテが外れた感じがしていた。ただ、シナリオが崩壊した原因の一つは、自分にもあると思うと、その結果を受け止めるしかなかった。
相方状態だった鈴木もいない中、これからどうやっていこうかそう考えるとため息ばかりが出た。


そんな状況が一変したのは、鈴木の葬儀から1週間後だった。
『泣けた』
『最高のゲーム』
そんな言葉がレビューに現れた。そのきっかけは、隠しエンディングの存在だった。
元々のエンディングは6つ。その中にはハッピーエンドもトゥルーエンドも含まれていた。最初はそれだけしかエンディングがなかった。
隠しエンディングは公開後に田中が付け加えたものだ。

『私はあなたのお陰で変われたわ。今の私は誰よりも幸せよ?』

エミリアが執事と結ばれるエンディングだ。
一枚絵には、鈴木が描いていた笑顔のエミリアを使った。ざまぁと言うとは思えないような、可愛らしい表情の絵だ。田中は、その絵に『ハッピーエンド』の文字を入れた。

でもその文字『THANKS to T』に変わっていた。
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みんなの感想(1件)

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2022.07.10 299

なかなか斬新な感じで、凄く良かった!
鈴木は幸せになった…次は田中お前だ(笑)

解除

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