君がいない未来

Maaa

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一章〜出会い〜

同情

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1

目が覚めた。

どこかの天井が見える。

私の周りはカーテンで覆われていた。

そういえば、ベットがなんとなくいつもより固い。

…!体が動かない!?なんで?

そう、叫びたいのに体が全然動かない。

すると、周りから私の名前を呼ぶのが聞こえた。

「由美!由美!?…あなた!由美が、由美が目を覚ましたわ!」

『お母さん?…そか、また倒れたのか…』

お母さんは廊下にいるのだろう。お父さんを連れてやってきた。

「由美!大丈夫か!?由美!おい、ナースコール!ナースコール!」

『なに?そんなに大げさな。いつものだよ』

声は出ない。

「わかってるわよ!今、呼びましたよ!」

※※※

ナースコールで看護師さんを呼んだら、すぐに先生もきた。

担当の先生なのだろう。見た目がなんか、カエルみたい。

「乙倉さん?乙倉由美さん?…気がついたみたいだね」

私は大丈夫です。と言いたかったが、魚みたいに口パクしかできなかった。

先生は全て分かっているのだろう。笑顔で話しだした。

「大丈夫ですよ?無理に話そうとしないで。落ち着いたら、すぐ話せるようになりますよ。今、ICUを出たばかりだからね」

その言葉を聞いてホッとした。言葉を話せないって、すごく辛いんだね。身をもって実感し、私は天井を見て助かった事に安心した。

2

周りは暗くなり、色んな人達が帰路を急いでいた。

とある道の駅。青いインプに乗った瀬戸が思いふけっていた。その周りはトラックの運ちゃん、長い旅路で疲れたキャンピングカーの人達が止まっていた。

たまに漏れてくる。楽しそうな笑い声。

なんで、関わりたくない事に遭遇してしまったんだ。

だいたい、そいつが俺に絡んでくるから…

俺のせいか?

なんか、後味が悪い。

あの後、その人が目が覚めるくらいまで病院にいた。

高瀬は、勝子や彩、新藤に菅原、そして亜子、みんなに説明をして俺を置いて先に帰る事になった。

「みんな、どう思ったかな。バカな奴って思ってるんだろうなぁ…ほんと、ついてないや」

俺は独り言のようにぼやいてると、首元に冷たい物が当たった。

「冷たっ!」
「なに、ボーッとしてるの?考え事?」
「うん」

そこに立っていたのは亜子だった。亜子は俺のわがままに付き合ってくれたのだ。

「ごめん」
「ん?何が?」
「俺のわがままに付き合ってくれて」
「そんなの、全然大丈夫だよ」

なんか、亜子の言葉が癒しに感じる。

「でも、大変だったね…目の前で人が倒れたらビックリしちゃうよね」
「うん、本当びっくりだよ」

亜子は何か言いたそうに瀬戸を見ている。

「様子見てなくて大丈夫だったの?知ってる人だったんじゃないの?」
「え?まぁ、知ってるのは知ってるけど…」
「けど?」

亜子は俺とその倒れた女性の仲を気にしているのだろう。やけに質問してくる。

「いや、水族館でさ…子供が迷子で泣いてたんだ。でも、俺はそれを見て見ぬフリだった」
「そうなの?」
「うん、助けようとは思ってその場から立ったんだけど」
「けど?」
「その後が、動かなかった…そしたら後ろからその人が走って行って助けてた」
「それが、その人って事?」
「そう、その後凄く説教されたよ…それで、その場から離れる時に倒れたんだ。それで一緒に医務室に…って感じかな」
「そうだったんだ」

亜子は複雑そうな顔をしてうつむいた。

3

少し落ち着いた。

お母さんはベットに突っ伏して寝ているし、お父さんも安心したのか待合室の方で眠っていると看護師さんに言われた。
2人ともかなり焦ったんだろうな。

「ごめんね、私が無理なお願い頼んだせいで…」

寝ているお母さんにありがとう…と、話しかけた。

もちろん、起きるわけもないけど。

あとでお父さんにもお礼言わないとね。

そこに看護師さんが戻ってきた。

「そういえば、彼氏さんからお手紙と果物もらったから、ここに置いておくね」

と言い、手紙と果物を置いて行った。

「彼氏?…彼氏ってだれですか?」
「あれ?水族館の医務室に運んでくれた男の人、彼氏じゃなかったの?」
「運んでくれた人?お父さんじゃないんですか?」
「あら、彼氏じゃなかったのね。まぁ、でもその人も深刻そうに心配してましたよ?友達と来てたみたいだけど、貴女が目が覚めるまで残るとか言って」
「そうなんですか…誰なんだろ。その人はまだ…」
「いや、貴女が目が覚めたと伝えたら、その手紙と果物を置いて安心したように帰りましたよ」
「そうなんですか…すいません。お礼言えなかったな」
「まぁ、また縁があれば会えますよ。とりあえず、今はゆっくり体休めて下さい」
「はい。わかりました」

看護師さんは笑顔を見せると病室から出て行った。

手紙に目を落とす。急いでたのか、ここの病院の名前が印刷されているメモ用紙が綺麗に折られていた。

手紙を開いてみると…

※※※
大丈夫ですか?

いきなり倒れたのにはびっくりしました。泣いてる子供を助けてあげて、それを見て見ぬ振りをした自分に説教して…
あなたが倒れた時、何も考えず貴女に駆け寄っていました。
子供が泣いていた時も同じ行動ができれば良かったんですよね。
それで、倒れた理由が、あの時の自分が原因だったのなら、謝ります。ごめんなさい。
でも、目が覚めたと聞いてホッとしました。
駄文ですが、本当に良かったです。早く良くなって下さい。
※※※

名前は書いていなかった。

誰なのか気になる。

でも、あの時の男の人なのだろう。薄っすらと記憶にある。

あの人、助ける勇気あったんだ。

私はなぜか少し嬉しかった。

4

「そろそろ帰ろう?」
「ん?お、おう」
「落ち着いた?」
「うん」

俺と亜子は缶コーヒーを買って車へと乗り込んだ。キーを回すと、マフラーからターボ車独特の音がなり、エンジンがかかった。

缶コーヒーの口を開け、一口飲んでから道の駅をでた。

「ねぇ?」
「ん?」
「もう、忘れちゃえば?どうせ、もう会う事無いんだからさ?」
「・・・」
「なに?会いたいの?忘れられない?」
「いや、そういう事じゃなくて…」
「じゃあ、どういう事?ずーっと考え事してるけどさ。瀬戸くんは…その…私が隣にいても何も言わないんだね。私だって話聞くよ?相談だって…それにさ、私といても楽しくない?嬉しくない?今だって、隣に私がいるのにむすがしい顔してさ…」

亜子はそこまで言うと口をとじ、コーヒーを一口飲んでため息をこぼした。

亜子を怒らせた。近くにずっといてくれたのに、それを無視してるなんて最低だ。

「ごめん」
「え?」
「ごめん…亜子が俺のために一緒に待っててくれたのに、亜子の事何も考えてなかった…ごめん」
「…いいよ。仕方ないよ…瀬戸くんは困ってる人を見捨てられない人だって分かってるから」

気がついたら車は亜子の家の近くまで来ていた。

色々考えすぎてどう帰って来たのか全然覚えていない。

「ここでいいよ…」
「え?いいよ。家まで送るよ」
「いい。大丈夫だから」
「でも…」
「本当、大丈夫だから…怒ってないよ」

亜子は少し笑って車を下り、運転席側のドアまで来ると、窓をノックした。

俺は窓を開けた。

「ねぇ」
「・・・」
「・・・」

亜子は少し手招きしてきたから、顔を近づけると俺のほほに軽くて短いキスをした。

「・・・今日はありがと。水族館、一緒に見れなかったけど、また一緒に行こうね」
「うん、約束」
「約束」

二人は同時に笑顔になり、手を振って別れた。

5

亜子は瀬戸の車が遠のいて行くにつれ、笑顔が消えていった。

「なんか、嫌な予感するな…」

ため息を一つ吐いて亜子は歩き出した。

空はもう少しで朝を迎える、青紫色に染まっていた。
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