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善人なんていやしない
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昼休みの中庭は、濡れた苔の香りに満ちていた。中央に佇むコナラの木が、雨に叩かれて歌っている。
僕は食堂横の自販機でイチゴオレを買って、屋根付きの休憩スペースに座っていた。そこは小さな舞台のようになっていて、合唱コンクールの前には、いつもどこかのクラスが練習で使っていた。
職員室前の自習スペースには何人かの生徒が座っていて、教育熱心な教師がそれに付き添っていた。
「アンタが夜霧晴冴?」
叩きつけるような声と数人分の足音が、僕の前で立ち止まる。
僕は顔を上げなかった。反応してやる義理がない。
「耳ないの? 呼んでんだけど」
高圧的な声が降って来る。
いくつもの息づかい。わずかに上げた視線に、緑色のスリッパが五足うつる。一年生だ。
「礼儀がなってないね一年生。敬語も遣えないバカが、まともに相手してもらえると思った?」
吐き捨てながら顔を上げる。囲まれていた。一年生の女子が五人。逃げ道を塞ぐようにして僕を見下ろしている。
「あっゴメンなさぁい! ウチら今年入ってきたばっかで忙しくてぇ、陰キャとかマジ覚える余裕なかったんですよぉ~」
胸焼けするような甘ったるい声が耳を障る。聞くだけ無駄だったから、イチゴオレに口をつけた。その手を緑色のスリッパが蹴り上げる。
「いや聞けよ」
先頭に立って僕を見下ろす女の声が、風の音のように低く落ちる。
ピンクの紙パックは生け垣の向こうに落ちて、淀んだ水音を立てた。
「百二十円がドブに消える音か。風流でいいね」
ふざけるようにへらりと笑う。それが癪に触ったのか、先頭に立つ女子が眉間に皺を寄せた。
「浅海麻季って知ってんだろ」
「アンタが殺した奴だよ」
「私らのオトモダチだったんだよね~」
取り巻きが口々に捲し立てる。僕はそれを、予鈴を待つ片手間にでも聞いてやろうかと考えていた。浅海麻季は、先週僕が殺した恋人の名前だったのだ。
昼休みの中庭は、濡れた苔の香りに満ちていた。中央に佇むコナラの木が、雨に叩かれて歌っている。
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「アンタが夜霧晴冴?」
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「耳ないの? 呼んでんだけど」
高圧的な声が降って来る。
いくつもの息づかい。わずかに上げた視線に、緑色のスリッパが五足うつる。一年生だ。
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「あっゴメンなさぁい! ウチら今年入ってきたばっかで忙しくてぇ、陰キャとかマジ覚える余裕なかったんですよぉ~」
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「いや聞けよ」
先頭に立って僕を見下ろす女の声が、風の音のように低く落ちる。
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「百二十円がドブに消える音か。風流でいいね」
ふざけるようにへらりと笑う。それが癪に触ったのか、先頭に立つ女子が眉間に皺を寄せた。
「浅海麻季って知ってんだろ」
「アンタが殺した奴だよ」
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