【完結】堅物司書と溺愛魔術師様

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番外編:later life

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「先生!早く早く!!」
「ナディア!そんなに先生を引っ張っちゃダメよ。あっ、ベン!何してるの!?まさか、それも持ってくつもり!?ちょっと兄様も帰って来たなら手伝ってよ!!」

 妹達の騒がしい声が耳に響く。
 廊下で大きな荷物を持て余す弟をヒョイっと担ぎ上げた。

「ほら、ベン。姉様がお怒りだ。おもちゃは置いてけ」

 投げかけられた言葉に怒りを表しながら末弟のベンジャミンが言う。

「おもちゃではありません!これは母上が書いた調書と家庭用魔術具です!兄様!理解してらっしゃるのですか?今日は大事な日なのですよ!?もし母上が困っていらっしゃったらお役に立てるかもしれないというのに!!」

 五歳児とは思えない熱弁を聞かせられるが担がれた姿は滑稽だ。まだ何かを語っているがはいはいと聞き流しホールへと降りた。
 ポーティコを見やるとメイド長のテレサや執事長のロンが妹達を誘導している。
 コツコツと大理石を鳴らし歩み寄る。

「ほら、お前も乗れ」

 弟を下ろし衣服を整えると馬車から好々爺が顔を出す。

「ほほほ、何をしておる。リアムも乗りなさい」
「いや、俺は……」
「せっかく帰って来たんじゃ、しかも今日は大事な日だぞ。いいものが見られるはずじゃ、ほれ、乗った乗った」
「そうですよ兄様!」

 物心が付く頃から変わらない好々爺のベンジャミンに言われ馬車に乗り込んだ。

 ガタリと馬車が止まる。

 降り立つとそこには何千年も時を生きた荘厳に佇む大樹があり、門にはこう記されていた。
『魔術先進国モルガコックス王国魔術図書館』
 妹達をエスコートしながら大樹を仰ぎ見る。

「いつ見ても心奪われる、じゃな」

 声をかけられて振り返ると好々爺で前魔術師長のセス・ベイリーが囁く。

「……そうですね」

 瑞々しい葉が風でさわさわと揺れる。
 木漏れ日が少し眩しく目を細めた。
「さぁ」と背中を押され大講堂へと向かう。

 年に一度の魔術発表会。
 参加は自由で身分も関係なく傍聴することができる。
 国随一の収容人数を誇る大講堂には老若男女人々がひしめき合い、立ち見客もいるのが見て取れた。

「兄様!先生!こっちこっち!」

 階段を降りていると声がかかる。
 関係者席でオリヴィアが手を振っていた。

「恥ずかしいからやめろ」

 そうぼやきながらセスと共に腰を下ろす。

「まぁ!兄様、学園に入られてから性格が悪くなったわね」
「お前なぁ……十二歳になって学園一のレディになる!って言ってた奴が大声出して恥ずかしくないのか?」
「あ!ひどい!ちゃんとリリーお祖母様に見習ってレディになってるわよ」
「お兄様、ナディアもレディ?」

 はいはいと妹達を相手していると照明が落とされる。

「始まるぞ――今回も観客も多いようじゃのう、楽しみじゃ」

 セスの声に耳を傾けて、壇上に目を見やる。
 スポットライトの元に一人の女性が訪れ声を上げる。

「皆様、ごきげんよう。魔術図書館室長のロゼッタ・グランヴェルです――」

 背筋を伸ばしはつらつと挨拶をする我らが母を皆で見守った。

 ――――

 母の研究発表が終わると共に傍聴していた人々も動き出す。

「殆どの者がロゼの話を聞きに来てたみたいじゃの。生活魔術具をロゼが次々と開発するからか国民の関心も高まっておるんじゃろうな」

 と笑いながらセスが言う。
 俺たちもその人波に合わせてセスの後に付いて行く。
 先ほどの喧騒が消え馴染みのある図書館の静けさが訪れた。
 ある扉に近づくと中では騒がしい人達の声が聞こえ漏れていた。
 セスがその扉を開けると部屋の中では母を囲む体格の良い男達が睨み合っていた。
 俺たちの入室に気付いた母と目が合う。
 少女のような好奇心旺盛で不思議な色を宿した瞳が俺を見据えた。

「あぁ!来てくれたのね!」
「お母様!」

 弟妹たちが母に駆け寄るのを見つめ、その後を静かに追う。

「お疲れ様です。母上。とても勉強になりました」
「リアム!お帰りなさい!忙しい中ありがとうね。疲れてるでしょうに、今回はゆっくりいられるの?」
「はい。少し長めに休暇を頂きました――」
「そうなの!?嬉しい!ノア!!聞いた!?ゆっくりできるって!!」

 母に声をかけられ歩み寄って来た男は自分と瓜二つだという。
 俺自身はここまでギラギラしてると思わないが。

「父上、ただいま戻りました」
「やっと帰って来たか。息災か?あまりロゼを寂しがらせるなよ」
「何言ってんのノア!?」

 この夫婦は十五年の時を経ても周りが呆れるぐらい変わらないらしい。
 子供がいようがいまいが父の母への執着は子供ながらに異様だと思う。

 ――言えねぇけどな。

 ただこの二人の血を受け継ぐ俺たちも少なからず異様なのだろう。
 俺たちも魔力量は高く、七属性を持っている。
 下の二人に関しては母の血が濃いのか、魔術書の虫だ。
 ナディアは年頃になり祖母のリリーの影響か少し落ち着いてきたが根本は変わらない。

「おぉ!!リアムも来ていたか!!どれ!顔を見せてくれ」

 そう声をかけてきたのは前王弟、退役したものの総督として国の軍の上に立つマテオである。
 そして後ろにはリンドバーグ家の男性陣が雁首揃えて見守っていた。
 親族とは言え現在自分も学園に通いながら軍での修練を受けている身としては背筋が伸びる。

「は!リアム・グランヴェル、休暇を頂き帰省しました」
「硬い!ほれ!!」

 成長期で背は伸びたとは言え、まだ自分より二回りほど大きな体で腕を広げさぁ!来い!!と腕を広げられ戸惑う。
 祖父や叔父達を見ても口を手で押さえ蹲っている。

 ――勘弁してくれ

 と思いながら、おずおずとマテオの腕の中に入るとガシっと抱きしめられた。

「うっ――」
「おーおー大きくなった!!筋肉も付いてきた!!良い良い!!」

 バシバシと叩かれる背中が痛い。
 涙目になりながらもお礼を言い離れる。
 祖父達も笑いを堪えながら挨拶を交わした。
 祖父のウィリアムも退役し指南役としていまだに現役だ。
 長子のディランが現在の海軍元帥閣下、二男のオーウェンが宰相についている。
 末弟のワイアットは陸軍を退役し現王の右腕、近衛騎士団団長をしている。
 冷静に考えると親族が国の要職に就いていて冷や汗が出る。

 ――まぁ、親が親だからな……

 と少し諦めの境地だ。
 相変わらずの皆を見ていると父が隣に立つ。
 最近、急激に背が伸び始めたがまだ目線を越すことはできない。
 周りの魔術師より遥かに逞しい体躯。
 時折見える剣だこのできた掌を知れば如何に自身を律してきたのか、今の俺には少しだけ想像することができた。
 偉大な両親と親族に幼少期の頃から囲まれて育ち、両親にも師事してもらっていたが思春期の頃には劣等感が加速した。
 それに気付いた父が学園への入学を勧めてくれた。
 親元を離れ世間を知り多くを学ぶにつれて自分を見直すことができた。
 そして改めて彼らの凄さを痛感した。

「まだ俺の方がデカくて安心した。もう少し威張らせてくれ」

 そう悪戯に笑う父は少し皺が増えたが、その佇まいは昔も今も変わらない。
 まだ体躯も実力も父を越してないことに少しの意趣返しで
「父上は少し皺が増えましたね」と言うと不敵な笑顔で「ロゼといると笑いが絶えないからな」と盛大に惚気られた。
 発した言葉を後悔していると父の横顔が目に入った。
 彼らの中心にいる最愛の女性を見る瞳は慈愛に満ちていた。

「相変わらず仲が良く安心しました」
「あぁ、この歳になっても想いが深くなるばかりだな」
「――独占欲は見苦しいですよ」
「お前も恋を知ればわかる事だ。――その辺は俺に似ているからな、早くいい人見つけろ」
「今はそんなに暇でもないので結構です」
「一人も?」

 父の言葉で一瞬頭を横切った影を消す。

「いませんよ、まだ」
「ははん。まぁ、遊びはほどほどにな。――……直感は大事にしろよ」

 そう言い捨て母の元へ行く。
 腰を抱き母の頸にマーキングする父を呆れながら見つめた。

「リアム!」

 少女のように笑う母に誘われて輪の中へと足を動かす。
 一歩一歩新たな決意を胸に。

 ――いつかこの偉大な両親を超えてみせる――と。




 ――fin――

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