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2話 最強高校生-2
しおりを挟む「お願いします!」
「絶対に嫌だと言っているじゃないか!」
「本当に、一生のお願いです!」
私は萩君の前に出ると深々と土下座をした。流石にそれには驚いたみたいで目を丸くしている、やり過ぎたかと思いつつもとりあえず土下座を続けた。
実際恥ずかしさもあって顔を上げられない。
「まぁまぁ、萩良いんじゃないかな?」
「お前まで…」
「私からもお願いします」
と、ちーちゃんは少し目を逸らし言った。こんな事言うのも恥ずかしいと目を合わせにくいのだろう。ちなみに、嫁騒動の後ちーちゃんの記憶は戻してもらったのだ…そして、そんな私達を見た萩は諦めたのかため息を着いた。
「や、やってくれるのですか?!」
「少しだけだからな…あまり妖力を消耗したくは無いんだよ」
そう言うと萩はその場に立ってボフンッという音を立て変化した。私たちの前に現れたのは背の高いイケメンな妖。額からは日本の長い角が出ている。一言で言って"神"。
「…もう死んでも構わない」
「あ、おい!」
萩君?…酒呑童子様は倒れる私を支えてくれた。あ、もう無理。
「…その子はほっといても大丈夫よ。酒呑童子大好き人間だから萌え死んだのね」
「もえし?えっと…」
「気にしないで、こっち側の人間だからわかる事よ。それで少し質問いいかしら?」
「はい、答えられるものならば」
楚君はニコッと笑いお茶を啜った。その際萩君は元の姿に戻った。
「…いいわよ。で、あんた達はあの酒呑童子と茨木童子なのよね?」
酒呑童子、茨木童子と言えば平安最強と言われた程の鬼のコンビ。元々人間という接点で仲良くなったとか色々な説がある。
「そうですよ。ちゃんとした平安時代の妖です…こちらからも質問いいでしょうか?」
「いいわよ」
「貴方達は妖が好きなのですよね」
「…そうよ。実際馨恵とは妖好きっていう接点で話すようになったの」
「そうなのですか…本当に仲がいいみたいですね」
「勿論。そうだ、なんであそこに貴方達が居たの?自分たちが妖なのにあやコミなんかに…」
「そうですね…」
ちーちゃんと楚君の話でつまらなくなってしまったのか萩君はボケーと楚君の家の大きな庭を眺め始めた。
私はムクリと立ち上がると萩君の隣に座った。質問などはちーちゃんに任せればいいやと、それより今は酒呑童子優先。
「目が覚めたのか?」
「あ、うん…ごめんね。過激派オタクだから何かあるとすぐ倒れちゃうんだ」
「…なんでお前は妖が好きなんだ」
「何でかな…酒呑童子が好きになったのは話を聞いてからだよ」
「話?」
「うん、昔話かな…酒呑童子が生まれてから退治…そう!なんで生きてるの?!」
私が突然大きな声を出したからか萩君は驚き耳を塞いだ。本当に申し訳ない、私は小さな頃から声の大きさだけが取り柄でみんなからうるさいと言われてるんだよな…
「…それは…実際死んだと言うより封印されたんだよ」
「封印?」
「嗚呼、陰陽術の一つ、札を使った封印。呆気ないよな…人に恐れられた大妖怪が札一つで封じられて今じゃ人の姿で生きてるんだ」
「そうだね…呆気ないのかもね。毒の入った酒を飲まされて寝てる間に首をスパンでしょ」
「おい、普通やられた本人にそこまで詳しく言うか?」
萩君は顔を顰め私の顔を覗いてきた。あ、イケメン…
「…ごめんごめん。私空気読むの得意じゃなくて…」
「でも、お前が初めてなのかもな」
「へ?」
「俺の事を怖がらず見てくれるのは」
「そりゃ、大好きな人を目の前にしたら誰だってそうだよ」
「いや、そんな事は無い。好きだとしても妖の姿を目の前にするとみんな逃げていくんだ。それが人間だよ」
「そっか…」
人に嫌われた鬼…これが鬼の運命なのかな…と思っているとちーちゃんは帰るよと私の元へ来た。
萩君はそれから一言も話すことは無かった。
あの二人に会ってから一週間が経った日。今日はちーちゃんとファミレスに来ていた。
「鬼って大変そうだね」
「物凄く分かったような口調ね」
「そりゃ、分からないことは沢山あるよ。でも、誰も自分を受け入れてくれないのは本当に辛いことだと思うの」
「ならさ、酒呑童子の一生はネットとかでも載ってたりするからそれを見れば良いじゃない」
ちーちゃんは空っぽになったコップを持つと飲み物を入れに行った。
確かに今ではネットがあれば何でも分かる。でも、それが真実とは限らないじゃんと思いつつも私はスマホに手を伸ばし調べ始めた。
「酒呑童子…」
私は一番上にあったサイトを出した。そこにはちゃんと酒呑童子の生きてきた一生が書かれていた。
ヤマタノオロチの子説、石瀬俊綱の子説。色々と説はあるみたい…ふと、外道丸という名前を見つけた。
「酒呑童子って外道丸って言うんだ」
「お、調べてるね」
「うん…でも、やっぱり説が多すぎて何が本当なのか分からないよ」
「まぁそうだよね。少しずつ分かっていけば良いんじゃないかな?だってあの大妖怪は馨恵の未来の夫でしょ」
ちーちゃんは夫を強調するように言った。
「…夫」
私は今にも爆発しそうな頬を両手で抑えた。夫だなんて…あの酒呑童子様と、それにオタクの私に夫なんて出来ると思っていなかった。
人生は悲しい事ばかりではない!
「ほらほら、今にも叫びだしそうなその口を抑えて早く出るわよ」
「え、出る?」
「今何時だと思ってるの?六時には帰らないと彩が帰ってくるのよ」
「そっか、今日彩ちゃんのお迎えの日か」
彩ちゃんはちーちゃんの娘。なんと、ちーちゃんはもう既に結婚しているのだ…同士の私を差し置いて。
ちーちゃんの結婚が決定した時はボロ泣きしたのを覚えている。置いていかれたショックとちーちゃんがついに結婚という嬉しい真実が交差し曖昧な気持ちで泣いたのを…
「ほら、ボケーとしてないで支度して」
「あ、ごめん。そうだ、帰りにスーパー寄っていかないと」
「まだスーパーの弁当を当てにしてるの?そろそろ自炊しなさいよ」
「大丈夫だよ。まだ未婚…未婚だけど近い現実」
「ほら、どうせあんたは働けないんだから家事は出来るようになりなさいよ」
「家事…私は働くから萩君に」
「それだけはやめときなさい」
そうして私が家事から逃げるための事は全て却下された。空気が読めない、好きな事しか集中が出来ないという事で私がやってきたバイトや仕事は全てクビだ。私が居ると金が無くなるとか…萩君本当に私で良かったのかな…
「…年を経て、鬼の岩屋に春の来て、風や誘いて花を散らさん」
私はブツブツとこの言葉を繰り返していた。この言葉は酒呑童子を倒したうちの一人渡辺綱が舞を披露する際に歌ったもの。意味は"嵐に散る桜のように、鬼どもの命を散らす"。
この時点で舞を踊りながらこの歌を歌った渡辺綱は鬼を馬鹿にしているように聞こえなくもない。だって、この歌が分からないだろうと思って言ったのだもの。
「あ、レタスが安い」
安いレタスを漁って買い物カゴの中に入れると突然目の前に違うレタスを渡された。
「こっちの方が良いですよ」
「あ、楚君」
「その、楚で良いですよ。君付けはちょっと恥ずかしくて」
「なら、そう呼ばせてもらうね」
その言葉を聞き楚はニコッと笑みを見せた。
「そうだ。萩が馨恵さんがあれから来てくれないって不貞腐れてましたよ」
「え、萩君が?」
ちょっぴりクールめな萩君が不貞腐れてると聞き少しニヤけが…と口元を抑えているとそれを察したのか楚はクスクスと笑った。
「私、萩君の家知らないし、知っていたとしても突然訪ねるのは失礼かなって思って行けなかったんだよね」
「あ、それでしたら萩は僕の家で住んでますよ。それとこれは萩の電話番号です」
そう言ってポケットから一切れの紙を取り出した。中には確かに電話番号が書かれている。
「これ、わざわざ持ち歩いてたの?」
「まさか、妖術ですよ」
「こんなことも出来るの?!」
「はい。ここには夜ご飯を?」
「うん」
すると楚は私のカゴの中を見て顔を顰めた。あれ、なんか駄目なもの入ってたっけ…とカゴを確認するも別にこれと言って…
「今日の夜ご飯はそのスーパーのお惣菜弁当とか言いませんよね?」
「えっと…Yes…」
私は思わず楚の迫力に押され英語で答えてしまった。それを聞くと楚は私のカゴを奪い取った。
「え、どうしたの?」
「今夜は僕の家に来てください。流石にお惣菜弁当は見過ごせません」
「え、でもいいの?」
「勿論です。それに…貴方なら萩の心を開いてくれるように思えるのですよ」
「萩君の…」
「あいつ、封印されて以来迫力が落ちたと言いますか…精神的に弱くなってしまったのですよ。前の萩は本当にかっこよかったです」
楚は過去の事を思い返すように淡々と語りだした。確か茨木童子は酒呑童子の魅力に惚れたと言われている事もあった。それは間違っていないのかもしれない…だって、こんな表情をする楚初めて見たし何だか嬉しそう。
「楚は萩の事が大好きなんだね」
「そうですね。あ、でもその腐女子に人気な感じでは無いですよ」
「大丈夫、そこら辺は分かってるつもり」
案外楚にはオタクや腐女子の世界の事を知ってはいるみたい。知らないのは萩君だけなのか…
「そうだ。萩にはサプライズとして馨恵さんに会ってもらうので少しの間空気みたいな存在になってもらいますね」
「え、サプライズ?面白そう!」
「あ、そこなんですね。てっきり空気と言ってしまったあたり、存在自体が消えてなくなるの?とか聞いてくると思ってました」
「あ、そっか…そういう考えがあるのか」
何故か楚の視線が痛く感じる…これはまさか私が馬鹿だとか思っているんじゃ…。
などと考えている内に買い物が終わったみたいで会計を済ましていた。
「あ、お金払うよ!」
「大丈夫ですよ。僕の家はそれなりにお金がありますし」
「確かにあの豪邸はすごいと思う…いやいや、それとこれとは違うから払うよ!」
「良いですって。萩と仲良くしてくれている僕からのお礼でもありますし…」
と、譲ってくれる気はなさそうなので私は諦める事にした。こんな会話絶対キリがないやつだ…
そして私達はたわいもない話をして歩いているといつの間にか楚の屋敷の前に着いていた。やっぱりいつ見ても大きな門に綺麗な屋敷…そして中庭がやばい。
「今帰ったよ萩」
「楚!どういう事だ!馨恵が来るって聞いてないぞ!」
萩君は突然玄関に飛び込んできた。こんなに早くバレるとは分かっても居なかった私はあっけらかんとしていた。
「あれ、もうバレちゃったの?」
「嗚呼、こんな妖術ならすぐ見抜ける」
そう言うと萩君は私の手を掴んだ。その時。少し体に違和感を感じた。重荷が取れたような…術が解けたって事なのかな…
「とりあえず飯だ」
「分かったよ。準備してくるから馨恵さんと客間で待ってて」
楚は私に微笑むとどこかへ消えていった。この屋敷、夜になると廊下が暗くて少し怖いな…
「…怖いのか?」
「え、いや…怖くないよ。全く」
「…そうか。客間に行こう」
萩君は私の手を掴むと暗い廊下へ向かって行った。少し怖いと感じていたが、すぐにそれは温かさに変わった。私が通る道を浮遊する火が照らしてくれている。
これはもしかして…鬼火なのかな…私はクスッと笑った。
「どうした?」
「…隠し事は通じないのかなって」
「馨恵の事ならすぐ分かる」
「何それ、私達一週間前に会ったばかりだよ」
「…そうだな」
萩君はニカッと笑みを見せた。そう言えば、萩君の笑顔は初めて見たかも。
ちょっと子供ぽい笑い方がまるで平安の街を支配していた鬼のようには見えなかった。
私達が客間に着くと鬼火は消えまた元の暗く静かな空間を作り出し、私は萩君の後に続いてすぐに客間の中に入った。
「そう言えば、なんで楚と居たんだ?」
「あ~…スーパーでたまたま会って、私の食生活を知った楚が家に食べに来ないかって誘われて断りきれず」
「…楚…」
突然萩君は仏頂面になった。私、また悪いこと言っちゃったかなと思っていると突然萩君はボフンッという音を立て鬼の姿に変化した。
「俺の事も萩って呼べよ」
「は、え…」
私は萩君に迫られ部屋の角まで下がったが、しかし萩君は私の元まで近づいてきた。そ、その顔で近づかれると心臓がやばいです。と声に出そうとしたが色々とありすぎて今にもパンクしそうだった。
「早く呼べ」
「しゅ…しゅ…」
言われた通り呼ぼうとしたが、パンク寸前の私がなかなか呼べずにいた。と、突然襖が開かれ見覚えるある美男が現れた。
あ、後は頼む。
「あ!馨恵さん?!」
「おい、馨恵!」
「ちょっと萩、気が早すぎだって!」
「おい待て、勘違いしてないか?俺はただ名前を呼ばせようと…」
その美貌や姿に耐えきれなかった私は目を回し萩君へ倒れ込むようにして倒れた。私を受け止める筋肉質な胸板ナイス…
応援ありがとうございます!
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